凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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サキュバスたちのセレナーデ/6

 

 

 放たれた魔弾が直撃し、弾ける様子を見届けてから、ラフィーナは力が抜けたように魔剣を落とし、崩れ落ちた。

 それを支えようとするが、今にも腕が肩から離れてしまいそうで、慌てて背中に手を回して抱きかかえる。

 

 僕がもっと積極的に攻勢に出ていれば、こうはならなかっただろうかと後悔する。

 イルミナが背中を爆ぜさせることで射出した剣の群れは、無防備だったラフィーナをずたずたに引き裂いた。

 もはや、無事である箇所などほとんどない。

 目を閉じたラフィーナはどこか満足気だった。

 

「ッ、ラフィーナ! ラフィーナ、しっかりしてっ!」

「……ああ、もう。うっさいわね……聞こえてるっての……」

 

 そのままにしていれば、ずっと目を覚まさないような気がして。

 そんな結末許容できないと体をゆすれば、ラフィーナは鬱陶しそうに、眉間に皺を寄せながら目を開いた。

 

「心配しなくても、死にはしないわよ……知ってるでしょ。私、あいつの使い魔状態なんだから……あいつが望まない限り、どうにでもなるわ」

 

 ……そうか。ラフィーナの命は、今はリッカが握っている状態。

 これだけの致命傷を負っても、リッカの冥界にさえ戻れば……どうにかなるということだ。

 

「……今、死ぬほど苦しいってことじゃないの?」

「……言うんじゃないわよ。空気読めないわね」

 

 やはり、傷んでいない訳ではないようだが――いつもの通りの悪態に安堵する。

 ラフィーナがイルミナに気付かれないように、ひっそりと魔剣から出てきたときは驚いたが……本当に良かった。

 ナディアを助けて、勝ちを拾えたとして、ラフィーナが犠牲になってしまっては意味がないのだから。

 じっとりとした抗議の視線から逃れるため、ナディアに目を向ける。……何故だかこちらも、呆れたような視線を向けてきていた。

 

「えっと……ナディアも、怪我はない?」

「ええ。だいぶ振り回されましたが、ユーリたちのおかげで。ありがとうございます――助かりましたわ」

「ナディアも無事なら……行くわよ。私たちには、こんなところで、時間無駄にしてる暇なんて、ないんだから」

 

 息も絶え絶えな状態のラフィーナは、それでも僕たちの背中を押そうとする。

 命だけは保障されている状態で、ほんの少しずつ再生は始まっているようだが……このまま無理に移動させる訳にもいかない。

 ――と、その時、僕たちが戻ってきた、先へと進むための扉が開かれた。

 警戒して振り返れば、そこにいたのは黄金の翼を輝かせるクイールだった。

 

「ユーリくん! ナディアちゃん!」

「クイールッ!」

「良かった、無事ですか――――良くないです!? ら、ラフィーナちゃんっ!?」

「うっさいのが増えたわね……」

 

 どうやら、一足早くあの騎士……エコーとの決着をつけたようだ。

 部屋を見渡し、僕たちに安堵して、一歩遅れてラフィーナの壮絶な状態を把握したらしく、狼狽しながら駆け寄ってきて――僕たちの様子から最悪の状況ではないと理解した。

 

「な、何をどうしたらこんなことになるんですか……?」

「何って、そりゃあ……ねえ?」

「僕たちに振られても……」

 

 とにかく、ナディアもラフィーナもやり遂げた。イルミナに関しては、僕が動揺しなければ、ラフィーナに引き金を引かせることもなかったが……。

 しかし、ラフィーナに後悔の様子はない。

 むしろその表情はどこか清々しく、誇らしげなもののように思えた。

 

「……えっと……とりあえず、やったってことで良いんですよね?」

「はい。兄様は……オドマオズマの最期は、わたくしがこの目で見届けました」

「イルミナ様も、私が……ッ、げほっ……やってやったわ」

 

 オドマオズマの姿はどこにもない。ナディアの言葉にも、偽りはなかった。

 結局、イルミナがここに来た詳細な理由は分からなかったが……僕たちとの戦いで見せたのが、彼女の本性だったのだろうか。

 ちらりと、その亡骸に目を向ける。魔弾の直撃で、ただでさえボロボロだった体の上半分を失い、残った部分も朽ち果てたように崩れ、周囲の瓦礫と大差ない状態になっているイルミナの成れの果て。

 体が変換されて、リッカの冥界へと送られる様子はなかった。当然命はなく、魂さえ残っていまい――あれが、イルミナという魔族がこの世界に残したすべて。

 その体が弾ける寸前……彼女は、僕か、ラフィーナか……あるいはその両方に向けて、手を伸ばしていたような気がした。

 

「それなら……あとは、上のイリスとリッカちゃんですね。リーテさんとの戦いがどうなったかわかりませんけど……無事でしょうか」

「少なくとも……リッカのやつは生きてるわよ。ユーリの外装や、私自身がどうにもなってないんだし」

「い、イリスも生きてないと困りますっ! 早くいかないと……っ、あ、でもでも、ラフィーナちゃんが……」

「ここまで来ても騒がしいわね、あんた……」

 

 イリスティーラとリーテリヴィアの戦い――イリスティーラにとっては、自身の悲願を叶えるための決戦。

 そちらの方に想定外が起きていると予測して向かったリッカは無事であるようだが、一刻も早く合流した方が良いことには変わりない。

 イリスティーラたちとのつながりも断たれていないことは分かるものの、危機に陥っている可能性もあるのだから。

 

「ラフィーナ、魔剣に戻ることは……」

「無理……体を引っ張り上げると、リッカを介さないと戻れないのよ。あの魔剣もイカレちゃってるし、置いてった方がいいわね。どうせ代えは利くんだし」

 

 魔剣はリッカが外装と同じように、魔法によって形成している武装だ。

 リッカが魔力の供給を断てばかたちは保っていられないし、リッカが術式を記憶している限り、再度の出力は可能となる。

 イルミナに要所が喰われた状態で砲撃を行ったことで、あの魔剣も限界だろうとラフィーナは判断した。

 それを聞いて――ナディアがその場をまとめるように手を叩いた。

 

「ともかく、この場に長居する必要はありません。急ぎ、リッカたちに合流しましょう。ユーリ、ラフィーナを抱えなさい。わたくしはクイールで我慢しますので」

「我慢ってなんですか!?」

「いえ、なんかこう、勢い余って潰されてしまうような予感がして……」

「そんなことしませんよぅ……!」

 

 否定しつつも、微妙に語気を弱めるクイール。やりかねない、という自覚はあるらしい。

 とはいえ……そんな風にテンションを上げるような状況でもない。一刻も早く上に上がるため、足が必要だというだけだ。

 立つこともままならないラフィーナを抱え上げる。

 体の何割かを喪失した状態なのだから当たり前だが……異様な軽さだった。

 

「っ……ちょっとは躊躇うとかしなさいよ」

「……? ラフィーナ、走れないでしょ……?」

「そうだけど――ああもう、本当に……!」

 

 戦いの後とは思えない、妙な不満や苛立ちに解せない気持ちを覚えつつも、ナディアを抱えたクイールと頷き合う。

 最後にイルミナの残骸を一瞥して……僕たちは戻ってきた道を再度駆け出した。

 

「……イルミナ様が」

「ん?」

 

 長い廊下を駆ける中で、ラフィーナがぽつりと零す。

 

「イルミナ様が狂気を“不味い”と思ったのなら、たとえあんたを手籠めにしたところで、イルミナ様の思う至高の美味は味わえなかったのでしょうね」

「それって、褒めてる……?」

「まあ、ギリギリ褒めてるかも」

 

 暗にバカにしているようにしか思えないラフィーナの軽口は微妙に釈然としないが……不満を口にしたところで、その数倍の文句が返ってくるだろう。

 信頼ゆえの言葉という点は伝わってくる以上、何も言うまい。

 

「ところでクイール、エコーは……?」

「やっつけました――というより、引き継いだっていう方が正しいかもしれませんけど」

 

 引き継いだ――そういうことなのか。クイールの雰囲気は、どこか変わっているようにも思えた。

 あの騎士は過去の勇者たちの思念の結晶。その想いを背負うことを決めたのであれば、その重さは、きっと尋常ではない。

 だって、僕たちは誰かの想いを負ってここまで走ってきたのではなく、自分たちのハッピーエンドのために駆け抜けてきたのだから。

 クイールがそれを選んだことは、きっと不憫に感じたからではない。“共に行くべき”だと判断したからだ。

 であれば――僕がそれを、理解していながら放置する訳にもいかないだろう。

 

「無理はしないで。僕にも預けてくれて、大丈夫だから」

「……えへへ。やっぱり気付かれちゃいますよね……いざって時は、お願いするかもです。――あっ、もちろん、この先でどうにかなるつもりなんてないですからね!」

 

 僕としても、もしもクイールが、その重荷がきっかけで不都合なことになれば、僕が取り上げてでも手放させるつもりだが。

 ここまで、どうにか誰一人欠けずに来ることができた。なのに、今更……だなんて考えたくもない。

 あと不安なのは、リッカとイリスティーラだが……死んではいない。大丈夫な筈だ。

 自然と気が急いて、足が速まる。クイールも、僕に合わせて速度を上げてくれた。

 そうして、あっという間に大広間に辿り着く。

 並んでいた長テーブルや椅子はほとんどがぐしゃぐしゃになっていて、食堂としての原型はほぼ残っていなかった。

 

「何があったかは知りませんが……こちらもこちらで、大層な戦いがあったようですね」

「ええ、まあ……ちょっと張り切っちゃいました」

「クイール、あの二人は……」

「キリカくんとイヴちゃんなら無事ですよ。コッペさんに安全な場所に連れていってもらっています。全部が終わったら、迎えに行きましょう」

 

 よかった――クイールならば大丈夫だという信頼はあったが、やはりあの二人も守り切ったようだ。

 コッペリアに託した点は少しだけ不安を覚えるものの……元々、彼女が僕たちにあの二人を託そうとしていたのだ。

 きっと、この城でどんな戦いが起きようとも、最後まで守り切れる算段はあるのだろう。

 

「……? キリカに……イヴ……? どなたですか?」

「ん……後で話すよ。結構複雑で、長い話になりそうなんだ。“これから”にも関わってくる話だし……」

「そうですか。なら――ハッピーエンドのその先で、話を聞くのを楽しみにしていますわ」

 

 今すぐに話す必要なんてない。何故ならば、僕たち全員、生きて帰るのだから。

 大広間を通り抜け、先の扉の向こうの通路へと辿り着けば、そこには点々と小さな使い魔たちが配置されている。

 疑問に思うまでもなく、リッカが残していったものだ。

 

「……寒気を感じるべきものの筈なんですけど……いつの間にか違和感がなくなってきてる自分がちょっと怖いです」

「まあ……うん」

 

 僕としては、旅の始まりからずっと助けられてきた以上、何も言えないのだが……確かに、本来それほど目にしているべきではないものなのかもしれない。

 ほのかに輝く荘厳な城の壁に張り付く触手たち。

 それに対して否定を唱える者はいなかった。

 

「……使命が終わったら、リッカはこの使い魔たちをどうするのでしょう」

「……」

 

 その答えは、僕も分かっていない。

 何やら苦い顔をしているラフィーナは何か知っているのかもしれないが……やはりそれも、すべてが終わってから聞けば良いだけの話。

 積もる話は後で構わない。だって僕たちは、一人も欠けずに、ハッピーエンドに辿り着くのだから。

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