凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「ユーリっ」
「お待たせ、リッカ――、ッ……こっちも、大変だったみたいだね」
死んでいないという確信は、つながりを根拠に持っていたものの、その壮絶な姿を見て、顔を引きつらせずにはいられなかった。
「イリス!? イリスッ! 大丈夫ですか!?」
「……ああ、大丈夫ではないが……どうにか命を拾ったよ。リッカくんのおかげでね」
イリスティーラは一見すれば、もう助からないと思ってしまうほどに重傷だった。
片腕は途中からばっさりと切り落とされており、それ以外にも数えきれないほどに刻まれた切り傷。
腹に空いた大穴や心臓を突いた痕。一体いくつが致命傷なのか分からない。
そんな状態でありながら――同じように、死に瀕した状態のリーテリヴィアに体を預けつつ、イリスティーラはクイールに脱力しきった笑みを向けた。
一方で、リッカはこちらに駆け寄ってきて、ラフィーナに治癒魔法をかけ始める。
「ラフィーナっ……一体何が……」
「あー……なんかこう、色々あったのよ……心配するほどのことでもないわ。死なないんでしょ?」
「っ……死なない。死なせない」
「呪い染みた宣言ね……」
ラフィーナを預けると、リッカは時と冥界、二つの魔力を含んだ粒子をラフィーナに浴びせた。
冥界は死者を管轄する属性……それに加えて、命の消耗を抑えるための時の属性。そうか――これらは、瀕死の者を死に拒絶させるために、実に有効な属性なのだ。
イリスティーラやリーテリヴィアがあの状態で生きていられるのも、この影響なのだろう。
ともかくこれで、三人は助かった。最悪の状況は避けられたようだ。
安堵したと同時――纏っていた外装が解ける。リッカも同様に素顔を晒していた。どうやら、一度魔法を解除したようだ。
「リッカ、解いていいの?」
「……そいつの言うことが正しいなら」
リッカが視線を投げれば、リーテリヴィアは神妙に頷いた。
「魔王はキミたちの不意を打つことはない。この先の玉座の間で、俺たちを突破して辿り着くことを待っている――オドマオズマやイルミナ、エコーを討ったならば、ここにキミたちの敵はいない。暫し心身を休めるがいい」
それは、リーテリヴィアがもう、僕たちに敵対しないという宣言にも等しかった。
その言葉には偽りはない。僕たちを油断させ、陥れようという思考さえ、持っていなかった。
「……この時間で、少しでも外装をメンテナンスしておく。ユーリは休んでて。……本番は、これからだから」
「……分かった。クイール、キミも……」
「そうですね……休める時に休まないと、っと……」
聖剣からゼクセリオンを取り外せば、途端に力が抜けたようにクイールはその場に座り込む。
それぞれが大きな戦いを終えたが、まだ最後の決戦が残っている。万全の状態で臨むためにも、休んだ方が良いだろう。
「えっと……リーテさんとは、もう戦わなくていいんですかね? なんかもう、ボロボロですけど……」
「流石に、この状態でキミたちと戦って勝ち目がある気はしないな。ここを守る使命を負った者としては、冗談でも口にしてはならないことだろうが」
恐る恐ると尋ねたクイールに、リーテリヴィアは苦笑交じりに返す。
彼も……一体何があったのだろうか。その胸から腹にかけて、巨大な獣の爪牙で抉られたかのような傷が走っている。
リッカの加護でどうにか耐えられているようだが、あれも十分に致命傷だろう。
そんな傷を負ってなお――彼は穏やかな表情で、イリスティーラを受け止めている。
「安心してくれ。俺はもう、魔王の配下としてキミたちと敵対することはない。無論、望むならば手合わせは引き受けるが……それはすべてが終わって、俺の傷も癒えてからにしてほしいな。その方が、互いに悔いも生まれないだろう」
「やるとしても程々にしたまえよ。キミらはどっちも……ムキになってやり過ぎる気配がある」
「いや、別に無理に戦いたいって訳でもないんですけど……まあでも、良かったです。その様子だと、リーテさんはやっと、全部思い出せたみたいですね」
「ああ。随分と、イリスにはどうにも、遠い道を歩かせてしまったがな。ようやく、俺が取り戻すべきものを、取り戻すことができた」
その苦笑を穏やかなものに変えて、リーテリヴィアはイリスティーラの残った手に、己の手を重ねる。
彼の雰囲気は、これまでと同じようにも、決定的に違うようにも思えた。具体的に何があったかは分からないが……イリスティーラの手は、とうとう悲願に届いたのだろう。
「でも、二人とも……その傷は治るの?」
「今すぐに、とはいかないかもしれない。少々無茶をし過ぎたのもあってか……治りが遅くてね」
「彼女の力がなければ、イリスも俺も間に合わなかっただろう。……すまない。キミたちに敵対はしないが、力になることも出来なさそうだ」
そこまで求めていた訳ではないものの、可能であったならば、ここに来ての共闘さえ受け入れたらしいリーテリヴィア。
もしも実現していれば頼りになっただろうが、今の彼はそれを可能とするほどの余裕がない状態だ。
イリスティーラ共々、少しでも安静にして、治癒を優先してくれなければ困るほどに。
「……どうやら、わたくしたちに許されたのは露払いまで、みたいですわね。ユーリにリッカ、クイール。この先に進めそうなのは、三人だけですか」
ナディアが言う通り……それぞれの戦いは熾烈を極め、そして全力を尽くさなければならないものだった。
体の再生に十分な時間の必要なイリスティーラとラフィーナ。ナディアは目立った傷は少ないものの、外装を構築するためのデバイスは砕け、義手にも罅が入ってしまっている。
それぞれ、生き残ることは出来たものの――戦闘は到底不可能だろう。
「っ……別に私は、問題ないわ。いつも通りのあれなら、体の状態なんて関係ないし……」
「……駄目。今にも意識を手放しそうだってのに、無理をさせる訳にはいかない」
ナディアの言葉を否定しようとしたラフィーナだったが、応急処置を終えたらしいリッカがそれを遮る。
ラフィーナは僕たちの戦闘の要だった。魔剣に意識を表出させ、僕の攻撃の一つ一つが確実なものとなるように補正をかけてくれていた。
だが、かなりの集中が必要な行為であろうことなど、考えるまでもない。
瀕死の状態であっても、それを任せようとすれば、彼女はきっと無茶をする。僕とリッカの共通の認識だったのだが――ラフィーナは、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「最後まで付き合わせなさいよ。こんな無茶苦茶な旅に、最初から付き合わされてる私には……その権利がある筈でしょ」
「っ……」
呼吸を整えてから、途切れそうになる意識を繋ぎとめて、ラフィーナは言う。
……『初戦試験官』。ラフィーナはこの旅において、最初に戦った相手だった。
リッカにとっては“今回”に限った話ではない。五千回を超える旅、そのほぼすべてで、最初の相手として戦ってきた。
奇妙な因縁の果てに、パーティの仲間になってくれたこともあった。
今回は、そんな“いつか”のどれとも異なるかたちでの協力を得て……そこからは、ずっとラフィーナは僕たちを支えてくれた。
そんな自分が、最後の戦いにいないのはおかしいと――その不満は、当然のものだった。
「……ラフィーナ」
「これは……私の意地なのよ。ナディアとイリスティーラに、抜け駆けするみたいだけど……見届けたいの」
それが、ラフィーナの決意。
僕も、リッカも、言葉を失った。この決意を前にして、これ以上、否を挟める筈もなかった。
「……お願い、ラフィーナ。最後まで僕たちを支えてほしい」
「――お安い御用よ」
ラフィーナの意思を曲げられないことは明らかだった。
それならば……僕にできることは、ラフィーナを信じることだ。
リッカはまだ渋っている様子だったが、やがて苦々しい表情で頷いた。
「……わかった。それが、この状況で一番確実な方法だっていうのは、理解してる……ごめん、ラフィーナ」
「最初から素直に頷いていればいいのよ――任せなさい、リッカ」
最後まで頼りっ放しなのは、少し情けなくもあるが……今更、それを卑下はすまい。
僕はそういう勇者だ。その“つながり”は、僕が誇りに思うべきものなのだ。
「まあ、確かに……ラフィーナがいてくれた方が、安心はできますわね。ユーリたちをお願いします、ラフィーナ」
「ええ――それから、ナディアたちは……」
「今のわたくしたちはついていってもお荷物になるだけです。ここに残った方が良いでしょう」
ナディア、イリスティーラ、そしてリーテリヴィア。三人はこの先に同行しても危険しかあるまい。
ただ、懸念はここに、僕たちが認識していない魔族が来る可能性。
そうなった時、少しでも戦えるのは手負いのリーテリヴィアだけだ。
そんな心配はリッカも持っていたようで――肩を竦めたナディアに対して、リッカは首を横に振った。
「ナディア。それから、イリスティーラたちにも……戦いが終わるまで、一番安全な場所にいてもらう」
「――リッカ、それは……」
ここに残して先に進むよりも、安全な場所。
リッカの知るそれを考えて――すぐに思いついた。リッカの敵ではない限り、絶対的に安全であろう世界を。
「この城の中からだと、聖都に転移させることもできなさそう。それなら、“私の中”にいた方がいい。私が死なない限り……危険のない領域に」
「……! そっか、リッカちゃんの……!」
「……なるほどね。しかし、そこは……私たちのように、死人でも使い魔でもない者が気軽に入れる場所なのかい?」
「大丈夫。むしろ、今の状態よりも、ずっと死から遠ざかるはず」
リーテリヴィアは首を傾げているが、他の面々は、すぐに合点がいったようだった。
リッカの冥界――苗床と認識していない者であれば、外敵から守るための何よりも強固な結界となる。
かつて、旅に出るまで僕たちを守ってくれた、あの村のように。
「ふふ……それなら、お邪魔しましょうか。少し楽しみですわね。今まで、話しか聞いていませんでしたから」
「療養に適した場所では、断じてなさそうだがね……まあ、確かに、ここにいるよりは安全そうだ」
「……話が掴めないが、キミたちが言うのであれば、間違いはないのだろう。キミたちの荷物になるのは心苦しいが……」
リッカは軽く杖を振るい、ナディアたち三人を銀色の魔力で包み始める。
その性質を悟ったのか、リーテリヴィアは目を丸くするが、すぐに受け入れたように目を閉じる。
ラフィーナは一足早く銀色に呑まれて消えていき――最後に、イリスティーラとナディアが、こちらに笑みを向けてきた。
「三人とも。もはや言うまでもないが……勝ちたまえよ。ここから笑って出られる時を待っているからね」
「本当に……あと一歩です。ユーリ、リッカ、クイール――頑張ってください。すべてを終わらせて……お茶でもしながら、話を聞かせてくださいね」
精一杯の笑みで、二人を見送る。その激励を受けて……醜態を晒すなんてことはできまい。
「……負けられませんね」
「うん――行こう。リッカ、クイール」
「……ん」
長い階段の先の、大きな扉。あの先に、僕たちの使命の果てがある。
もう、躊躇いなんてない。何が待っていようとも、やるべきことは変わらない――最後の敵を倒し、すべてを終わらせよう。