凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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セカイノ、ハジマリ

 

 

「……なんか、思ったよりも緊張とか、しないですね。いつも通りの旅の延長というか、そんな感じ」

「うん――不思議なくらい落ち着いてる」

 

 階段を上りながら、そんな会話をしていた。

 決戦の場に赴くとは思えない、ふわふわとした気持ち。

 当たり前の日常を取り戻すための、最後の道程――案外、感慨はないものなのだろうか。

 あるいは、“大きななにか”が待ち構えていると分かっているからこそ、逆に落ち着いていられるのかもしれない。

 

「この前倒したやつとか、カルラちゃんの冥界で倒したあれとか……ああいうのとは別の、本物の魔王がいるんですよね。一体、どんな姿なんでしょう」

「ん……私も、見たことはない。けど……見るも悍ましい姿に決まってる。なんかこう、邪悪で、角とか、真っ黒な翼が生えていて。人間を見下した感じの、偉そうなやつ」

「なんでそんな具体的なイメージがあるんですか……?」

「リッカの前世じゃ、魔王もたくさんいたみたいだから」

「あまり悪く言いたくないですけど最悪な世界過ぎませんか!?」

「語弊がある……」

 

 かつて何度もリッカが口にしていた、勇者や魔王のイメージ。

 前世で固められたそれは、かつてリッカの憧れでもあった。その夢物語を、リッカは信じて疑わなかった。

 今のリッカは、それが幻想であることを知っている。

 だが、ここまでの繰り返しの旅路で、魔王のイメージは、より強固になったようだ。

 

「まあ、いいか……認識を改めてもらうのは、また今度で。とりあえず、そんな物騒な世界じゃないから」

「すごく気になるんですけど……昨晩の話はほんの入り口だったってことですね……」

 

 リッカの内で見た、前世の光景は、あれだけではどんな世界なのか、ほんの僅かにしか把握できなかった。

 とにかく人が入り乱れ、行き交う世界。あれを理解するのには時間がかかりそうだ。

 

「聖都に帰ったら、また昨日みたいなことしましょう。その時に、リッカちゃんにはもっと、色々な話をしてもらうんです」

「そうだね。リッカのイメージの大本とかも、聞いてみたいかも」

「……疲れるから昨日みたいなのは、たまにでいい」

 

 とはいえ、今はその“気になる”という気持ちだけで十分なのだろう。

 今日を超えたその先で、知りたいことがある。そんなことでも、僕たちの意欲に繋がるのだから。

 僕たちの好奇心で、早くも億劫な表情になってしまったリッカに苦笑しつつも、歩みを進めて――あっという間に、階段の一番上にまで辿り着く。

 

「……いよいよだね」

「ん……」

「はい。覚悟は大丈夫ですか――って、今更聞くまでもないですよね」

 

 その通りだ。僕たちに、もう迷いなんてない。

 階段の先にあった、僕たちの倍の高さはある、大きな扉。この先に――魔王が待っている。

 

「――行こう」

 

 クイールと視線を交わして、左右それぞれの扉に手をかける。

 その重厚感とは裏腹に、軽く力を込めただけで、扉は開いていく。

 奥から零れてきた、奇妙に落ち着く光に目を細めながらも――僕たちは揃って足を踏み出した。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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> マイナス63年 1月1日

> 新たな一年が始まった。

> 今年から私は活動記録の入力係に任命された。

> 光栄なことだ。私の所感の一つ一つが、この大いなる記録機関に生きた証を残すのだから。

> 記録派において私は新参だが、この使命に対する情熱は先生たちにも劣らないと自負している。

> 偉大な先達が築いた礎。それを私たちは、きっと完成にまで至らしめる。

> そしてネシュアに、この世界に、永遠の平和を齎すのだ。

 

 

> マイナス61年 6月12日

> 私事ではあるが、近く結婚することになった。

> 相手の女性とは元々、王城で出会った。

> 深海派の希望とされ、私と違って才能に溢れている。

> はっきり言って、私には勿体ないほどの女性だ。

> それでも……それぞれが目指す場所は異なるが、日常を支え合える。私はそう感じた。

> ……先生たちは構わないと言っていたが、こんなことまで記録して本当に良いのだろうか。

> 未来でこの記録に触れた者が、困惑してしまうと思うのだが。

 

 

> マイナス57年 2月15日

> この仕事を任命されてもう長いこと経つ。今更ではあるが……この記録機関は実に不思議だ。

> もちろん、記録に携わっている私に未知があることは、本来望ましくない。しかし、こうした不相応な感情も、記録するに足るものだろう。

> 今は現在と過去、そして単なる妄想を記録するだけに過ぎないただの書庫。

> しかし、やがてこれは予言書となり、世界を平和にする。災いも事故もない、世界を創る。

> その使命に迷いはない。これを完成させ、実行することが私の終生の使命だ。

> 生命を懸けるからこそ、不思議に思う。

> これを齎した天上の救世主とは、一体何者なのかと。

> ああ……不敬だろうか。こんな疑問を、救世主が齎した記録機関に入力するのは不遜だろうか。

> だが、だからこそその未熟も記録しておかねばなるまい。

> 迷いの必要なくなった世界で、かつて愚かな存在がいたことの証明として。

 

 

> マイナス51年 1月7日

> 初めて、私にも弟子と呼ばれる存在ができた。

> 記録派は憧れとする先達を先生と呼び、構築・管理・記録を学ぶ風習がある。

> 先生と呼ばれることを夢見ていた訳ではない。むしろ、彼が私を先生と呼んできた時、困惑してしまったほどだ。

> そういえば、私が先生たちに弟子入りを志願した時も、同じ表情をされた気がする。

> なるほど……こういう気持ちだったのだろう。

> 意外、という感情は実に面白い。新参の同志たちを若者と思うようになってしまったこの年齢で、そんなことを理解するとは。

> そう先生たちに話したら、「お前もまだまだ若いだろうが」と言われてしまった。

 

 

> マイナス51年 1月8日

> 少し反省だ。昨日の記録は、良くなかったかもしれない。

> 昔の未熟だった頃ならともかく、弟子ができた私が、こんなことを考えてしまうなど。

> ……いいや。反省も兼ねて、記録に残しておこう。

> 意外とは確かに面白い感情だ。だが、いずれ廃さなければならないものでもある。

> 意外とは想定外だ。想定外とは不具合だ。身勝手に変動する値は、バグを生むものだ。

> 記録派に所属している以上は、こうした変数も計算に含めなければ。

 

 

> マイナス50年 12月31日

> また一年が過ぎる。今年も随分と忙しかった。

> 記録機関の規模が増えるほど、記録する内容も増える。嬉しい悲鳴というやつだ。

> まだ私たちの技術は、この機関の深奥には至らない。有限という世界からは抜け出せない。

> それでも、進歩は等速ではない。来年の終わりには、どのくらい前に進んでいるだろうか。

 

 

> マイナス37年 3月20日

> 息子は幼年派に所属することを決めたようだ。

> どうやら、十五年も前に私たちが買い与えた玩具を彼は今も大切にしており、作る側に回りたいとずっと思っていたそうだ。

> 幼年派は決して大きな派閥ではない。これから先も、かれらがネシュアに技術革命を齎すことはないだろう。

> 才能ある息子があの派閥に所属することに、私たちは難色を示したが……結局、認めざるを得なかった。

> 期待に満ち溢れ、子供たちに夢を齎すことを心から願う、あの笑顔。

> 息子のそんな表情を見て、駄目だ、などと言える親などいる筈もないだろう。

> である以上、私たちが願うことは一つだけ。どうか息子が、多くの子供たちの夢を創れる人とならんことを。

 

 

> マイナス33年 10月4日

> 本当であれば、この出来事自体を記録したくはなかったが、それでは良くないだろう。

> だが、まだ私自身、状況を受け止め切れていない。だから、今の感情だけを記す。

> 悲しいことがあった。この世界は、どこまでも残酷だ。

 

 

> マイナス33年 10月26日

> 悲劇というものは、常に唐突に訪れる。昨日まで当たり前だと思っていた日常が、ある日突然壊される。

> 人間に限った話でもない。魔族たちも、こうした不幸とどこかで折り合いをつけて生きているのだろう。

> ……記録派は、そこに疑問を持った者たちの集まりだ。

> 始まりは全知を求める者たちの巣窟だったのかもしれない。だが、今のこの場所には願いがある。

> 安寧のための全知を。平和のための全能を。

> 私たちは派閥内で悲願を独占したりはしない。すべての人々が、すべての魔族がを救わなければ意味がない。

> 何があっても、止まる訳にはいかないのだ。

> その先に、きっと誰もが笑える世界がある筈だから。

 

 

> マイナス29年 5月15日

> 過去の記録を見返していてふと気付いたが、随分と私の弟子も増えたものだ。

> こういう感慨を抱くのも今更な話ではあるものの、若者たちを導いているという実感に悪い気はしない。

> 皆、目を輝かせて記録派に入ってくる。決戦派や追想派には及ぶまいが、私たちもどうやら、評価される存在になりつつあるらしい。

> 私たちは必ずや、その期待に応えねばなるまい。

 

 

> マイナス21年 6月9日

> 大変めでたい話だ。陛下にご子息がお生まれになった。

> 私たちの研鑽に大きな期待を抱いてくれていることは光栄なものの、陛下は私事さえ疎かにしている節があった。

> 国が続かなければ、私たちの研鑽も無意味なものになってしまうと危惧していた者は少なくない。

> 何にせよ、陛下がご自身の幸福を僅かなりとも考えるようになったのであれば喜ばしい。

> 明日は国を挙げての祭りだ。たまには家族で楽しむことを優先すべきだろう。

 

 

> マイナス16年 3月3日

> この春から、私は記録派の長を託された。

> 先生たちから教えを受けるのはここまで……そう思うと、寂しくはある。

> だが、ここからは派閥の皆の先頭に立ち、私が導いていかなければならないのだ。

> 先達の悲願を成就させるのも、記録派を腐らせるのも、すべては私次第。

> いいや、後者はあり得ない。必ずや、この記録機関を完成に至らしめよう。

 

 

> マイナス8年 11月22日

> 最近、王城に行くと、ゼニス殿下とナディア殿下が遊んでいるのをよく目にする。

> お二人は実に仲睦まじい。遠巻きにも、理想的な兄妹であることが伝わってくる。

> 次の王であるゼニス殿下はもちろん、ナディア殿下も、病を患うことなく健やかに育ってほしいものだ。

> まあ……少しだけ王家としての淑やかさは身に付けてほしいとも思うが、まだ年相応というものだろう。

 

 

> マイナス2年 7月4日

> 果たして、私たちが行っていることは正しいことなのかと、最近考えるようになった。

> もちろん、そう信じて疑わず、記録を紡ぎ、積み上げることは大切だ。疑いを持ったまま理想的なシナリオなどできる訳がない。

> だが、その先で皆が感じる幸せとは、本物の幸せであるのか。気付けばそればかり考えている。

> ……既にもう冥界に旅立ってしまった先生たちも、思えば記録派を出る前は、暗い何かに思いを馳せていることが多かった。

> こういうことなのかと、私は久しぶりに、先生たちから気付きを得た。

> いいや……それでも。たとえ紛い物であろうとも、苦痛や災いよりは遥かにマシな筈だ。

> それに、これを享受する者たちは、紛い物とは気付かない。本物の平和、本物の幸福だと体感し、信じ続ける。それだけで私たちは良いのだ。

> 今や、決戦派も追想派も落ちぶれた。ネシュアと世界の未来を見据えているのは私たちだけだ。

> バルハラなどという化け物に魅入られ、もはやネシュアの未来さえ、もののついでになった決戦派の愚物。

> 過去どころか、一夜の前に縋り、言い訳を並べ立ててナディア殿下を食い物にするしか能のない追想派の蒙昧。

> あのような連中に託す未来など存在しない。正しき未来を創るのは、私たちだ。

 

 

> マイナス1年 ■■■■

> ああ、ようやく理解できた。

> 私たちの理想は、こんなにも簡単なことだったのだ。

> 僅かな犠牲、その裏側で、他のすべての生命は平和を享受し、幸福に過ごすことができる。

> 舞台に上がる者は、すなわちキャラクター。仮初の生命だ。であれば、数に含める必要もあるまい。

> こんな、絵本でも読めば分かるようなことに気付かなかった愚かな私に、救世主は天啓をくださった。

> ありがたい。本当にありがたい。どうやらギリギリ、私が生きている内に、この機構の完成は間に合いそうだ。

> この記録を読み、真実に触れた者よ、どうか追記してほしい。完成された世界の感想を。

> ……すまない。最後の最後で抗えなかった私たちを、どうか許してくれ。

 

 

 

 


 

 

 

 ――異様に長く感じる雑踏に、浸っていた気がした。

 靄を掻き分けて進んでいたようにも、勝手に体が動いていたようにも思える。

 

「今のは……?」

「なんだったんでしょう……文字を読んでいたような、誰かの独白を聞いていたような……どっちにも感じられたんですけど」

 

 頭の中にぼんやりと残っている、誰かの期待、喜び、迷い、失望、怒り、幸福……。

 その感覚はまるで夢から覚めた後のようで、それが誰の記録だったのかも、はっきりとしない。

 けれど……多分これは、晩年のネシュアを生きた技術者のもの。

 今のこの世界が確立したきっかけを作った一人である、記録派の重鎮。自分たちの行いが、世界の平和につながると信じていた何者か。

 

「……いい迷惑。何を血迷ったか知らないけど……結果としてこんなことに付き合わされているとか」

「僕たちからすれば、その通りですよねぇ。何をしたのか知りませんけど、今の原因であるのは、間違いないみたいですし」

 

 リッカが苛立ち交じりに吐き捨て、クイールも肩を竦めながら同調する。

 最初は真っ白な希望に満ちていたというのに、どこかで道を誤った。そうとも取れる独白から、今の世界に至った決定的な理由は掴めない。

 ……結局のところ、それを知っているのは一人だけか。

 

「その人たちが何をしたのかは、これから分かる。――そうなんだよね?」

 

 思いのほか、落ち着いた気持ちで、光の向こうに視線を向けることができた。

 荘厳な城の最上層としては相応しく、勇者に選ばれた者たちに絶望と諦観を与えてきた千年間の最果てとは到底思えない、輝きに満ちた空間。

 照明や魔石がそれを演出している訳ではない。

 

 ――その存在自体が、光を帯びているのだ。

 

「無論――お前たちにはそのすべてを知る権利がある。そして、この場に立つに相応しい者のみが集ったのであれば、もはや如何なる虚飾で物語を彩る必要もない」

 

 穏やかな声色だった。あの、魔王の形代たる躯体の、言葉ばかりの感情しか存在しなかった、無感動な声とはまるで違う。

 幸福があった。称賛があった。歓喜があった。慈愛があった。

 あまりにもあたたかく、この場においては不相応で、むしろ僕たちからすれば寒気すら感じるほどの――絶対的な感動が、そこにあった。

 そして――淡々とした、厳かな口調であることで保たれていた違和感が、次の瞬間消失する。

 

「ええ……よくぞ、よくぞ来ました、勇者たち。我は嬉しく思います。あなたたちが諦めず、可能性を示したこと……そして、ついにこの世界が、完成に至ることを」

 

 輝く玉座さえ霞むほどの眩しさを放っているのは、空間の端まで伸びる、背丈の何倍もあろうかという、一対の大翼。

 その羽根の一枚一枚が透き通り、内に秘めた無数の輝きがそれを照らすことで、純白の翼を成り立たせている。

 そして、頭の上に浮いた、星の輝きの如き光球を複雑に囲む、何重もの光の円環。

 

 ――星。そう、星だ。

 

 旅に出てから夜に見上げた星空。あれと同じ、無数の小さな輝きを束ねて構成された一つの紋様。

 翼も、円環も、そう創られている。言うなればその存在は、極小で、間近な、星空だった。

 

「……あなたが、魔王、なんですか……?」

 

 クイールが戸惑いとともに、問いを投げる。僕も、リッカも、まったく同じ疑問があった。

 すなわち――目の前にいる存在と、魔王のイメージが、どうにも結びつかないと。

 しかし、その存在は嘲りも欺瞞もなく、“慈愛”の笑みを浮かべて頷いた。

 

「――――()()。この千年を、あなたたちの使命を、数多の希望と絶望を……我が赦し、我が描きました」

 

 白い布を幾重にも束ねた装束。緩やかに波打つ、先端に行くにつれ白へと変わっていく黄金の髪。

 そのどちらもが、幼子のような小さな体躯には釣り合わない長さで、先端は床に垂れ落ちていた。

 まるでこの場から離れることを想定していない、人形のようなかたち。

 しかし同時に、ほんの少しの無機質さも感じられない。その存在は、生命というものに満ちている。

 

「百代目勇者ユーリ、九十九代目勇者クイール。そして、転生者リッカ。我はあなたたちの旅路を称え、なればこそ我もまた、己が名をこの世界に刻みましょう」

 

 それまでこの世界において、無名であったかのような物言い。

 こことは別の世界が存在していることを知る、いや――まるでこの世界の外からやってきたような言葉。

 理解が追い付かない僕たちに、仕方なきことだと微笑みかけて。

 すべてを祝福するように手を広げて、その存在は自らを謳い上げる。

 

「永劫の観測者。原初の母。阿僧祇の希望と那由多の絶望を見たもの――すべての破滅を厭い、すべての救いを望んだもの。ああ、いけない……相変わらず見栄っ張りなこの口は、この世界において意味のない名を延々と語ってしまう。神が神と呼ばれなくなった世界において、女神としての名など必要ありません。あなたたちが求める我の在り方、それは――」

 

 

 

 ――――黎明を言祝ぎ、終局を謳うもの。

 

 

 

 ――――全能仕掛けの全知。

 

 

 

 ――――ゆえに。

 

 

 

「我は――魔王アズ(AZ)。この世界の未来を憂う賢者の声を聞き、物語(いみ)を紡ぐすべを与えた、あなたたちの運命の果てなる存在です」

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