凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「しかし……アズの村、ねえ」
「あーね。ワイもなんかすっげえ嫌な予感するんだけど」
「転生者の嫌な予感ってのは当たるもんだよな」
「……はぁ」
「……はぁ」
そんな話をしたのが、数時間前のこと。俺たちが、
いや、まあ……ちょっとだけ訂正。他人事って言えるほど、その世界の諸々を笑っていられないな。
イッチとユーリたちが
さてさて、何が待っているのやらと、いくらか考えられるパターンとそれに対するアドバイスの用意を整えながらも、配信を眺めていたのだが。
「……こんなオチが待ってるとはなぁ」
「【悲報】ワイがイッチたちを助けるための備えが九割消し飛んだ件について」
「なんで一割残ってんだよ」
かれらの世界の秘密も、かれらの最後の戦いを見届ける上で“こういう状況”になることも、今の状況何もかもが、俺の想定外だった。
強いて想定内だったことを挙げるならば、ユーリたちが誰一人欠けることなくここまで至ったという点だけ。そこに疑いは持っていなかった。
だからこそ、万全の気概でこれを迎えることができたが……キャパオーバーで頭がぶっ壊れなかったのは我ながら大した胆力だと思う。
スレを見ずとも、こうした軽口で思考を整理できる。
こればかりは、この馬鹿げた状況もある程度ありがたいと思える。
「ちなみに、乗り込む準備整えてた?」
「……それなりには。前みたいなことはあるかもしれねえからな」
「ほんとワイら気が合うね。結婚しない?」
「そのゲーミングアバターやめて出直せ」
目の前にはバカみたいにでかいディスプレイに映る、イッチたちの世界の様子。
普段の配信の視聴方法とはまた違う。動画か何かを見ているかのような状況は、俺たちが用意したものではない。
視界に広がっているのは別世界。隣でピカピカと鬱陶しい死ぬほど邪魔な光を放っているアホの本拠地も別世界。そしてそれ以外は無限の白しかないこの領域は世界の外。
俺の世界の色が何ひとつ存在しないではないか。どうしてこうなった。
「まあそりゃあ、イッチの世界に関わり過ぎたってことっしょ。今から処罰でもされるんじゃね」
「地の文認識してるの、転生特典かなにか?」
「いや、なんかこう雰囲気で。この状況が異常なのは誰が見ても分かるでしょ。ワイらの組み合わせで前例あるのが恐ろしいところだけど」
――転生領域の一角。今、俺たちはそこからイッチたちの戦いを眺めていた。
ほんの少し前は自分の世界にいたというのに、気付けばアバター状態で、普通は人生と人生の間のインターバルでしか訪れない場所にいた。
“前例”みたく、ゲーミング馬鹿に連れられて飛び込んだ訳ではない。寧ろ、こいつとしても想定外らしい。
そして、ユーリに引っ張られた訳でもない。気付いたらここにいた状態。
目の前にこの光景が広がっていたことで、ある程度理由は察することができたから、大して騒いだりもしないが……俺たちが揃って呼ばれたということは、つまり何か弁明があるということだと解釈する。
「――んで。今この瞬間まで、自分の領域で起きた
「あとで側近ちゃんにチクろうぜ」
「…………」
割と本気の軽口に言葉を返すこともできないほど、この事態に追い込まれている白塗りの落書きアバター。
ユーリたちが理不尽に抗っている一方で、理不尽に膝を屈した、我らが転生領域の管理人。
実際、こいつが何をしようとどうにもならない事態だったのだろうが、この領域で起きた出来事である以上こいつの責任である。
こいつがイッチのスレ……を通して、イッチの世界を気にかけていることは知っていた。
この最後の戦いが始まるというタイミングでも、なんだかんだと配信を見ていたのだろう。
そんな中で、ついに魔王の正体と、その目的が判明した。
転生領域でも大女神の姿を知る者は、割合としてそこまで多くない。しかし、配信の中でイッチが自ら行き着いたことで、スレは
少なくとも、今回の出来事が転生領域に長く語られる歴史の一ページになることは間違いあるまい。
「これってさ、もうワイらが飛び込んでも良くない? クロスオーバー案件じゃない?」
「お前、今あの世界に干渉できるか?」
「いや無理。なんか“最初からそんな世界なかった”みたいな感じで弾かれるんだけど」
なんでそれさえなければ普通に他世界に干渉できるのかはさておき、絶対的に世界の上位にある転生領域からの干渉無効を、世界の側から用意することは、普通はできない。
そんなことが出来れば、転生者と転生領域との繋がりを断つことさえ可能になってしまう。
人生に疲れた手練れの転生者がいなくなれば、今やそうした社畜で回っている転生領域の危機である。
イッチの配信は続いている。ということは、転生領域からのアクセスだけを無効化する片方向の概念。
非常に高度なファイアウォール……いや、あれは。
「――大女神の性質を防御的に解釈した結界だな」
「復活したのか
「現実逃避するより見ていた方が建設的だからな」
冷静に情けないことを宣う管理人が口にした通り。これは大女神の力を結界にしたものか。
――転生領域を創造したはじまりのヒト。彼女には、世界を救う力も、滅ぼす力もなかった。それどころか、一つの世界に在るべき命としてすら、成立していなかったという。
許されていたのは、あらゆる世界を傍観することだけ。
触れられず、声を届けることもできず、ただ観ているだけしかできない。それなのに――彼女は慈愛を持って生まれてしまった。
映画や本の中の出来事と認識できればまだ良かった。けれど、手の届かない世界の悲劇を、隣人の悲劇と受け取る心を持ってしまった。
どんな世界も救えない彼女が、すべての世界を救おうとして創造したシステム……それが転生領域。
言ってしまえば、俺たち全転生者のトップであり、究極の厄ネタである。
「大女神は自分の性質をあの世界全体のルールとして成立させている。今のままだと、こっちから干渉するのは不可能だ」
「権限ってこっちのが大きくないの? あれって大女神ちゃんの末端の末端みたいなもんでしょ? 世界一つに収まってんなら、この領域の管理者権限でどうにでもできない?」
「さっきまで……あいつらが魔王を大女神だと知るまでだったらどうにかなったかもしれない。けど、もう無理だ。転生領域が“相手が大女神だ”と認識した時点で、こっちからのアクセスは受け付けなくなる」
「なんなんそのクソセキュリティ。悪用され放題じゃん。よく今まで問題起きてなかったな」
「不正アクセスの常習犯にセキュリティの穴を指摘されてる……」
あらゆる世界に拒絶される――されなければならない、大女神という存在。
しかしそれに、イッチたちの世界から手を伸ばした。世界の近くを舞っていた羽根に、どういう奇跡か、触れることが実現した。
その瞬間、羽根に宿っていた大女神の人格は、イッチの世界に対するアクセス権を獲得した。
たった一つの世界から望まれたのだ。大女神はさぞ喜んだだろう。
結果として、彼女はあの世界において最も叶えてはいけなかった願いを叶えるに至ってしまったのだ。
「しっかし、
「大女神にとっては願いに貴賤はないんだろ。どんな願いも等しいし、どんな欲望だって好ましい。だから、問題は“どうしてそんなことが望まれたのか”って話だな」
「あー。記録派だっけ。配信で情報聞く限りだと真面目な感じに見えたんだけどね。そういう趣味だったとか?」
「お前全部趣味で片付けようとしてないか?」
「しゃーないでしょ。関わった誰かの頭がおかしくて、趣味もおかしかったっていうのが、一番腑に落ちる展開なんだもん」
まあ……謎ではある。イッチの問いに、大女神は“そう願われたから”と答えた。
端的で単純、大女神の回答としてこれ以上のないものではあるが、ならば何故、そのような願いが大女神に求められたのか。
突拍子もない願いだ。イッチの世界にそんな思想があるという様子はなかった。
個人単位でのそういう望みは……まあ、ないとは言い切れないだろう。だが、そんなことを求めるような者が、記録派に招かれるとは思えない。
この局面にあっても残っている疑問点。果たしてこれは、解消されるべき謎なのか。
探偵の真似事なんてするつもりはないが。あの世界の成立における大きな要因、それを果たして、大女神の一言で片付けてしまって良いものか。
……駄目だな。碌な可能性が思いつかない。そういうのは隣のゲーミング馬鹿の専売特許だ。
それよりも、気にするべきこと。
今の俺が、気になって仕方ないことを優先した方がいい。
「おい、管理人」
「ん?」
「……あいつら、勝てるのか」
別にイッチやユーリのことを信じていない訳ではない。
ここまでの道程をずっと見てきたのだ。かれらの力を、正当に評価している自負はある。
だが、相手は大女神だ。魔王という
あの存在が、一つの世界でどのような力を振るえるのか、その知識は俺にはない。
今、イッチに助言を求められても、返せる情報は何もない。
「……分からん。あの大女神が、どれだけ本気なのか。どの程度の魔王として己を定義したのか。そんなの、分かる筈もない」
「……」
大女神の匙加減次第。ここに来て、そんなどうしようもない展開が待っているとは。
つくづく、かれらの旅路は、まともなものにはならないらしい。
いくつもの試練に見舞われ、絶望に向き合って、それでも膝を屈することなく、ここまでやってきた。かれらのハッピーエンドは、すぐそこにある。
見ている分には飽きない、などと気楽に考えていた頃とは違う。
安定しきった自分の世界よりも、よほど俺はかれらの世界に入れ込んでしまっている。
勝ってもらわないと困る。そう思えるくらいには。
「……信じるしかねえか。あいつらなら勝てるって」
「辞書がヒロインみたいなこと言い出した。やっぱり勇者くんに惹かれてるクチだな?」
ユーリの教育に悪い転生者堂々の第一位が何か言っているのを聞き流しつつ、異なる世界の知己に信頼を送る。
相手が大女神である以上、神頼みをすることもできない。
かれらの決意、かれらの不屈が、転生領域の常識を乗り越えられると信じること。
どうしようもなく無力な俺たちができることは、それだけだった。
「……それでお前、何してんだ」
「ん? テレパシー送ってるだけだが? イッチと勇者くんがワイを求めてきたとき、真っ先に力を貸せるようにって」
「……」
――ピカピカと明滅する光で具体的にどんな格好をしているのかは知らないが、とにかく妙なポーズでテレパシーとやらを送る狂人。
それと同じ気持ちでこの場にいるのがどうにも癪だった。
Q.
クロスオーバーは?
A.
駄目です。なぜならば、我を受け入れる世界は他にないからです。