凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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過去(ユメ)未来(ユメ)

 

 

『良い啖呵だったわ――丸め込まれたらどうしようかと思ってた!』

 

 駆け出すと同時、魔剣を手に握り込めば、ラフィーナは重傷を思わせない強気な声を上げた。

 今の状況は、リッカがみんなに共有していたらしい。

 それだけでも――なおさら、膝を屈さずに良かったと安堵する。そんなことをしていれば、彼女たちからの非難は物凄いものだっただろうから。

 ここまでの旅を予定調和(ゲーム)だと告げられるよりも、そちらの方がずっと恐ろしかったと、苦笑が零れた。

 

「僕たちなら、大丈夫。ラフィーナは?」

『さっきの話のことなら、まともに受け取ったヤツは私たちの中には一人もいないわ。怪我のことを言ってるなら、集中できる程度には治ってるから安心なさい!』

 

 リッカの集中治療は功を奏したらしい。無理をしている様子のないラフィーナに、思わず安堵した。

 クイールと息を合わせて跳び上がり、共に聖剣と魔剣を振り下ろす。

 本気の一撃ではあったけれど、最初からこれで決着がつくなどと考えてはいなかった。

 魔王アズの手前の空間に阻まれて、振り下ろした力とまったく同じ衝撃が、自分に返ってくる――まるで、これでは破れない壁を思い切り叩いたかのように。

 

「信念のある一撃です。胸の鼓動が再開するような、あたたかい攻撃です。これが、あなたたちの全力――」

「まだまだ――!」

「こんなものじゃ、ありませんっ!」

 

 クイールが飛翔する。壁を蹴って駆ける軌跡が閃光となる。

 背後からの斬撃。それに合わせて、真正面から魔剣を突き出す。

 ――次の瞬間、僕たちとクイールの位置関係が反転していた。互いの攻撃が、魔王アズとその玉座をすり抜けたように。

 

「逃がさない……!」

 

 魔王アズとのつながりが薄れたことで、彼女は回避のため自身の存在を、リッカの冥界のような異なる空間に寄らせたのだと直感的に理解する。

 ならば、対策もすぐに思いつく。既にこうしてつながりが結ばれているのならば、それを引き寄せる。

 細い糸を断ち切らず、手繰るように、魔王アズを元の場所に帰還させる。

 

「――なんと」

 

 声にしただけのような、ささやかな驚愕。もう一度、今度は左右から挟撃する。

 僕の力の詳細を、感覚としては掴めていなくとも、クイールは“僕が何をするか”を理解してくれている。

 ゆえに、一切タイミングが乱れることはない。

 三度目の攻撃は、ようやく彼女に届いた。

 

「芯に響く。なんと素晴らしい想いでしょう。己の可能性の真髄を理解し、そのすべてを今という時に尽くすことができる。あなたたちが勇者であったこと、実に喜ばしく思います」

 

 ――届いたが、それは僕たちの希望になるとは限らない。

 左右に伸ばされた小さな手のひらは、綿でも慈しむかのように、二つの剣を受け止めていた。

 その態度が、こちらを馬鹿にしているとか、侮っているとか、そういうものであるならば理解が出来た。

 しかし、魔王アズの本心は言葉と同じだった。彼女は心底から、今の僕たちの攻撃を“素晴らしいもの”だと評価し、喜んでいるのだ。

 目の前で人間が死力を尽くせば、喜ばずにはいられないと設計されているかのように。

 

「褒めながらそうやって余裕ぶってるの、なんか腹立ちます!」

「それは仕方なきこと。我の精神構造は、生命の躍動に心を震わせ、その希望に喜ぶようにできている。あなたたちが希望を捨てずに強く在ること――それを、何より我は嬉しく思うのです」

「だったら! 僕たちの希望を否定しないで!」

 

 そのまま魔剣を銃砲形態に変えて、引き金を引き、その衝撃で一度距離を置く。

 攻撃が効かないというよりは、同じ領域に立てていないような違和感。

 格の違いだとでもいうのか――魔王アズの言動はともかくとして、そもそも僕たちの攻撃は、攻撃として認識されていないように思えた。

 そうだとしても、諦める選択肢なんてない。

 僕たちが彼女にとってなんの脅威でもないのであれば、その域にまで這い上がるだけだ。

 

「僕たちのことを評価していても、それは結局、記録派の望みを叶えるためだ。僕たちはそんなことのために強くなったんじゃない!」

「この希望は、ハッピーエンドのその先に辿り着くために抱いたものなんですっ!」

 

 魔剣を振り抜き、拳を突き出す。そうした攻撃の悉くを、魔王アズは受け止めていく。

 その穏やかながらも澱みない動きが鈍ったのは、ほんの一瞬。

 隙になるものではなかった。僕たちの言葉を聞いての、僅かな思考の停止に過ぎなかった。

 

「……素晴らしい気概です。ですが、閉じようとする世界において、それは花開くものでもありません」

「だったら、閉じさせない。たとえばそれが世界全部の願いだったのだとしても、ここまで来たんだ――僕たちは、僕たちの願いを優先する」

「明日を掴むために――千年前の願いには、退いてもらわないといけないんです!」

「……なんと、生命力に満ち溢れた願い。どこまでも傲慢で、だからこそ眩しい願い……」

 

 だが、それでも僕たちは、自分の意思をぶつけるだけだ。

 これは僕たちの明日を掴む戦い。

 千年前の誰かが描いた悪夢(ねがい)と、僕たちの希望(ねがい)のぶつけ合いなのだから。

 

『ああもう、全然効いてないっていうか、ほとんど相手にされてないじゃない!』

「だったら――」

 

 こちらの様子を見ているラフィーナも焦れる状況。

 もちろん、魔王アズに意識は向けられている。だが、到底“戦闘”とはいえなかった。

 攻撃は届かず、そして彼女にはそもそも戦意がない。これでは、いつまで経っても進展する様子がない。

 ならば、別の可能性を探る。ここまで来て、何も手立てがないなどとは考えない。僕たちが手にしてきた力に、有効な手段はある筈だ。

 そう考えて、はじめに思いついたものを、空いた左手に握り込む。

 

「これで――どうだっ!」

 

 握り込んだ、混沌の力の結晶。

 それは、かつて魔王の躯体が未知と判断したものの一つ。この世界が成立する上で、かれは最初に封じられたと聞く。

 ならばその力は、この世界において考慮されていない筈だと、出現させた冥斧を力の限り振るう――!

 

「っ」

 

 避けられた。そう、回避を選択された。

 決して危機感を抱いたうえでの、咄嗟の動きではない。そうなることがあらかじめ分かっていたかのような、ゆったりとした動作の回避だった。

 想定されていた危機にして、対策のされていない危機。

 そして、冥斧が巻き起こした、魔力を伴う風が彼女の頬を小さく斬って――その推測が確信へと変わる。

 

「そう――それを持っているのでしたね。本来あり得ざる力の結晶、世界観の頂点たる混沌の一かけら……我を傷つけるに足る領域の武装。いつ以来でしょう、体が脅威に怯え動いてしまったのは」

 

 浅い傷だった。到底、戦況を有利に持っていくほどのものではなく、その傷はたちまち癒えていく。

 しかし、それは僕たちにとってはこれ以上のない“手掛かり”だった。

 

「見えた――」

「見えました!」

 

 リッカとクイールが同時に、その手掛かりを掴み取る。

 今、この場で何をする必要もない。冥斧の力が魔王アズに通用したという情報だけがあれば十分だった。

 冥斧を手放す。床に落ちることはない。生成した副腕(マニピュレーター)がそれを掴み、僕はもう一方の武器に集中する。

 それまで通じていなかった魔剣。だが、ここからは違う。

 僕の振るった魔剣と、クイールの聖剣は、手ではなく最初の一撃のように障壁で受け止められ、しかし弾かれることなく拮抗する。

 破れる――その確信と共に、魔剣に魔力を込め、威力を引き上げた。

 

「……転生者リッカが構築した魔剣はともかく、我の鋳造した聖剣に、そのような力はない筈ですが」

「ブレダリオンも僕と一緒に成長してきたんです! あなたを倒せるほどの力を、ブレダリオンが手に入れられない筈がありません!」

「なるほど。勇者クイール、あなたの勇気のかたちは限界を超えること。その性質が、聖剣にまで共鳴し、変質させるに至ったのですね」

「詳しいことは分かりませんっ!」

 

 魔剣ラフィーナ――リッカが僕に用意してくれたこの武器は、常に僕に“最適”の武器となる。

 どれだけ成長しようとも、これ以上の武器はないというほどに。最大の敵に有効な力を見つけたのならば、それさえ自動的に獲得するほどに。

 僕たちが冥斧が魔王アズに有効であると認識したことで、魔剣には同一の性質が付与されたのだ。

 聖剣が即座に同じような適応をした原因は謎だが……恐らく、クイールの言葉が正しいのだろう。

 ずっとその一振りを相棒としてきたクイールこそが、鋳造した魔王アズよりも聖剣に詳しいに決まっているのだから。

 

「ユーリくん、一緒に!」

「せえ――のっ!」

 

 さらに魔力を込めた斬撃で、魔王アズの障壁を切り裂く。

 パラパラと、その破片が羽根になって散っていく中で、弓の形態へと形を変えた冥斧が矢を番える。

 追撃をそちらに任せ、僕たちは飛び退く。

 放たれた銀の矢が魔王アズに迫り――彼女は躱すでも受け止めるでもなく、片手を軽く上げた。

 

 瞬間、矢が狙う標的が変わってしまったかのように、軌道が捻じ曲がる。

 上方へと伸びていく軌跡。その威力は、天井に激突した程度では収まるものではない。

 天井をぶち破り、瓦礫も屋根も吹き飛ばしていく。見上げた先にあるのは、先ほど外から見た満天の星空。

 そして、天に描かれる巨大な黄金の円環の中心は、紛れもなくこの場所――魔王アズがいただく円環そのものだと、ここにきて二つがつながった。

 

「――美しい、と思いませんか」

 

 自分の居城を破壊したことに対する感情は、浮かんでいなかった。

 僕たちに倣ったかのように空を見上げた魔王アズは、己の円環と星々の輝く光景に、目を細めながらも微笑んだ。

 ――どこか、寂しげな笑みだった。

 

「我がこの世界に連れてきてしまった、可能性の輝き。かつて他の世界の闇を照らした希望の輝き。役目を終え、眠りを選んだ眩き魂たちが残したもの……それだけではなく、この世界で命を終えた、輝ける者たち」

「転生者に……勇者たちの魂」

「我からすれば、どちらも尊き魂。なれば、我も変えたいのです。我を受け入れてくれた者たちの偉業のように。我に願ってくれた者の描いた世界を、我が願われたように」

 

 そこにもう、意思はないのだろう。

 命を終えた者たちが、それでも世界に残した輝き。

 “かれらと同じように”、“かれらに恥じないように”――そんな想いを、魔王アズからは感じられた。

 それだけならば、僕たちだって、だからなんだと戦い続けられた。

 ……だが。

 

「……その割には、迷っているんだね」

「……我は……ええ。迷っている、のでしょうね。世界を変えること、多くの転生者たちが、あまりにも当然に行っていることが、こんなにも難しいことだとは思いませんでした」

 

 

 戦いを始めるまでは、彼女は己が創ろうとしていた世界に迷いなど抱いていなかった。

 だが、今は違うと分かる。

 

 どれだけ超常的な存在であろうとも、彼女はかつて戦った魔王の躯体とは違う。

 僕がつながりを感じることができる。

 

 ――である以上、僕が、戦い始めてからの彼女の迷いに気付けない訳もない。

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