凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
誰かの命の輝きは、いつだって我の原動力だった。
元より、それに背中を押されるしか、我には許されていなかった。
あらゆる世界の狭間、永遠に続く空白の中で、我は揺蕩っていた。
何故だったのかは、覚えていない。最初から記憶などなかったのか、本体から抜け落ちた羽根の一枚でしかない我には思い出すことのできないものなのか。
ともかく、我ははじまりから完全であり、唯一無二であった。
人でありながら他を必要とせず、人でありながら生きることを許されない。
唯一無二の存在を許容する世界などなく、ゆえに我は世界というものに手を触れられない。輝かしい無数の命に手を伸ばせない。
すべてを認め、すべてを視る。
無限に広がる生命の営みを目にし続けることこそが、我の命題だった。
多くの希望があった。
苦境に立たされて、諦めず、膝を屈さない者は多くない。それでも、立って前を見据える者が、世界の在り方を変えていく。
理不尽に決定づけられた世界に変革を起こし、奇跡を必然へと昇華させ、不可能だったものを可能に変える。
大抵の世界には、歴史のどこかにそれがあった。
無理を自覚し、無理を押し通し、道理を捻じ曲げる。理不尽を超える理不尽には、いつだって眩い命の輝きがあった。
その何百倍、何千倍もの絶望があった。
希望を持って、痛苦に抗い、それでもと立ち上がっても、意味につながらないからこその理不尽だ。
あまりに試練が大きすぎた。ともに立ち上がる仲間に恵まれなかった。少しだけ、運が足りなかった。
それだけ――たったそれだけの理由で、かれらの輝きは無に帰してしまう。
そして、抗う者がいなくなって、世界は終わりへと向かっていく。誰もがやがて、それを受け入れて、目を閉じてしまう。
どうして、そんなことが許されるのだろう。かれらの輝きはそんな風に、簡単に消えてしまって良いものなのだろうか。
否だ。断じて、否だ。我はそんな理不尽、認めたくない。
ほんの一握りであろうとも、かれらは破滅に抗ったのだ。小さな身で、どこまでも勇敢に、どうしようもない終わりに立ち向かったのだ。
無為にされて良い筈がない。そんな悲しい終わりは、見たくない。眩しい輝きを見ていたい。希望に満ちた世界が、いつまでも続くさまを見ていたい。
それが、我の動機だった。
見たくないものであっても、我は見ないことを許されない。一度、世界を見るという権能を創ってしまった以上、我はその瞼を閉じることができない。
ならば、見たくないものをなくしたい。終わりを覆すことができるよう、我にできる手助けをしたい。
そんな自己満足から、我の事業は始まった。
理不尽に抗えず、しかし理不尽に抗う意気込みを持った、死してなお輝ける魂を持った、いくつかの尊い命たち。
その命を、手で掬った。かれらが望むのならば、他の世界でもう一度生きるすべを与える。そこに小さな加護で背中を押すくらいであれば、我にも許された。
かれらはその人間性で、周囲の命を輝かせる。世界の絶望を晴らし、希望に変える。命を終えても永遠に続く希望として、世界を照らし続ける。
救世を終えたかれらは、また他の世界を、と望んだ。あの時、我は感涙してしまったことを、よく覚えている。
かれらは正義感に溢れていた。自己顕示欲も、ちょっとだけ溢れていた。世界を救える自分に、ちょっとだけ酔っていた。
それがどうしようもなく愛おしかった。かれらの頑張りに、我は甘えることにした。
転生領域――世界を救えない我が、それでも終わる世界を認められないからと、我儘で創造した機構。
我はそれで満たされていた。いや……正直に言えば、かれらが世界を救い続ける限り、世界の嘆きは消えておらず、我は満たされないのだが……それでも、喜ばしかった。
無限に広がる領域で、多くの世界が希望で満ちるさまをただ観測する。我は、それだけで良かった。
だって、それ以上の選択肢は、我に与えられていないのだから。
――――その我が、望まれた。羽根の一枚が、たった一つの世界に認められた。
平和を望む民に、知恵を求められた。あらゆる災厄を未然に防ごうという人々の伸ばした手が、我に触れた。
大きな、そして遠き願い。触れられて初めて我は、その願いを抱えようとする手の小ささを知った。
人間の一人や二人、百人や二百人では、世界は支えられない。かれらは、一つの国である程度の規模があるだけの技術者たちに過ぎなかった。
破滅が目の前にある訳ではない。災厄を予期している訳ではない。
未来に訪れるあらゆるものを確信し、その手立てを確立させたいというだけの夢想家たち。
平和な世界で、平和を夢見るかれらに、我は手立てを授けた。
だって、その善き願いを誰が否定できようか。少なくとも、我にはできなかった。それが、心の底からの望みだったから。
我はかれらの望む通りに知恵を授けた。
たった一つ、我の存在を認めた世界で、我ははじまりの願いを成就させたいと思った。
人々が研鑽するさまは美しかった。一歩進むごとに笑い合うかれらが愛おしかった。結論を望まず、あくまで手段だけを求め、自ら歩もうとするその姿勢が眩しかった。
望まれたならば、そのすべてを叶えようと思った。
途中で足を止めたならば、それも良しだ。
だって、そこまでかれらは頑張ったのだから。それならば、報われて当然ではないか。
謗りも嘲りもしない。ただ、よく励みましたねとかれらを労わるだけだ。諦めてもいい、かれらの望む
だから歩めるところまで歩めばいい。我は決して、あなたたちのすべてを否定しない――。
――――望めば叶う世界を。
――――すべてが許される世界を。
――――自由な世界を。
――――叶えてくれるのでしょう? この人間たちが望む、理想の世界を。
そう――我は望まれた。我は願われた。
消えゆくかれらは最後に理想の世界を思い描き、我に託した。
それが、
願いの貴賤、願いの在り方を、測ろうとは思わなかった。“何が起きたのか”を我は理解していながら、その願いを遺したという事実をこそ、我は尊んだ。
それもまた素晴らしいことだと、我は思ったのだ。
誰かが犠牲になり続ける世界。その規模を少数に留めることで、他の大多数に安寧を齎す、完成された世界。
誤った世界だとは思わない。この結論を、我は否定しない。否定できよう筈もない。
だからこそ、我はその願いを引き継いで、世界の完成に向けた運営を始めた。
望まれた通りの
今こそ世界は完成しつつある。ようやく物語が終盤に至ったことで、全体の試行がようやく可能になった。
――抗おうとしているかれら。勇気と決意に満ちた者たち。
かれらが何をしようと、無為に終わる。
ここまで辿り着いてしまったことこそが過ちなのだ。かれらの道行きが、
本当にすべてを壊したいと望むならば、旅を完成させるべきではなかった。ドラマ性などない、無法を徹底すべきだった。
そうすれば、それを思いつきさえすれば、この計画の成立を根底から崩すこともできただろう。
「ユーリくん、合わせてくださいっ!」
「分かった――今ッ!」
だが、かれらは真っ直ぐだった。
それは我の目的を、この計画を知らなかったからだろうが、ここに至ってもなお、その決意を微塵も揺らがせていない。
この戦いを超えて、明日へと踏み出すことができると信じて疑わない。
世界の安寧よりも、自分たちの平穏をこそ望んでいる。
もちろん、完成のための礎となることを認められないという心情は理解できる。自分が生贄になることでその他のすべてが平和を享受する――そんなもの、認められなくて当然だ。
しかし、果たしてここまで自分たちの決意というものを信じられるだろうか。
間違った道ではないと、正しい未来に踏み出そうとしていると、そう確信して世界の完成を否定することができるだろうか。
「リッカ、お願い!」
「ん――」
……時間流に対する干渉を確認。変質した環境への適応を完了。
雨あられ、というには強大に過ぎる攻撃が浴びせられるたびに、心の奥底までもが震える。
一秒を百分割し、その一つひとつで叩き込まれる斬撃や砲撃。それらで弾けてしまいたいという心地さえ生まれる。
己を守る仮面の向こう。何故、ああも真っ直ぐな目をしていられるのだろう。
勇者ユーリと、勇者クイールはまだ理解できる。勇者とは、根源的にそのような性質に至る可能性があるように構築される。
けれど、転生者リッカはそうではない。眩い魂は既に錆びついて擦り減り、その願いさえ歪んだものに成り果てた。
そんなものが――
「何故……あなたたちは、そこまで」
「何故も何も――僕たちが目指しているものはずっと同じで、変わっていないからだよ」
「はい――だから、今更世界の完成がどうとか言われても、譲りません。譲ってなんてあげません!」
ああ――――痛い。ずきずきと、心が痛む。
否定されるということは、こんなにも心が痛いことなのか。
「我が紡ぐ世界は……そこまで、望まれていないのですね」
「――決まってる。私たちが救われていない。それが、あなたを否定する理由のすべて」
いや、違う。そうではない。この痛みの理由は、そんなものではない。
我は――我がかれらを否定していることに、痛みを感じているのだ。
――抗おうとしているかれら。勇気と決意に満ちた者たち。
かれらが何をしようと、無為に終わる。
そうであるからと、かれらの未来を否定する。かれらの命の輝きを見なかったことにする。
そのようなこと、あってはならないというのに。
決して譲れぬと意地にもなろう。かれらからすれば、世界の完成など認められない。それを許すことで、かれらは己の完成を放棄することに繋がるのだから。
ただ、明日へと踏み出したいだけ。ただ、明日を生きたいだけ。
そのためだけに、かれらはこうも輝ける。誰一人その輝きを絶やすことなく、閉じない世界の向こうを、明日という未来を信じられる。
過去が紡いだ悲願などどうでもいいと跳ね除けて、自分たちが思い描く理想へと手を伸ばすことができる。
「だからもう――邪魔をしないで……!」
「……ああ」
ああ、ああ――理想の世界は、かれらが生きる上で邪魔なのか。
ではかれらが生涯を全うし、その生命が尽きた後で。
……いいや、それも違う。それではかれらが安心して生きることができない。かれらが生きる上で、ずっとこびり付く懸念となってしまう。
――――――――どちらも、捨てられない。
我に触れた人間たちが描いた夢物語も、我に願ったあの声も、今ここで確かに生きているかれらの願いも。
我には等しく尊い声だ。すべてが眩しい生き様だ。なればこそ――なればこそ、我は。
「……見て見ぬふりなど、できましょうか」
目の前にある輝きから、どうして目を背けられよう。かれらの正しさを、誰が否定できよう。
生きている。かれらは今生きて、自分たちの希望に向けて懸命に走っている。
我は……それを否定してはいけない。いいや、かつて人々の悲願に寄り添おうとしたからこそ、今のかれらの悲願を、我は否定したくない。
「ここまでです、勇気あるものたち。希望に満ちたものたち」
困惑して当然だろう。だが、かれらの信念は、十分すぎるほどに、我の心に響いていた。
――今を生きる僕たちは、ハッピーエンドのその先に辿り着きたいんだ――誰が考えていた訳でもない、明日の向こう側に!
そも、戦いを始める前からこの結末は決まっていたのだろう。だって、あの魂からの叫びに、我は心打たれていたのだから。
【魔王アズ】
この世界の魔王として君臨した存在ではあるが、本質的には善良。
繁栄に歓び、衰退に嘆く。希望に微笑み、絶望に涙する。生命の躍動と穏やかな営みを善しとするもの。
彼女は常に
ゆえに、決意に満ちた勇者たちと相対した時点で、彼女は
――