凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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残響はハッピーエンドの夢を見るか?/1

 

 

「――みんなの幸せを創ろうとする魔王、それを壊そうとする勇者たち。立場が逆だと思わない?」

 

 僕たちと向かい合うアリスアドラは、無貌の仮面の向こうから、おかしそうに笑い声を零した。

 そうかもしれない。僕たちに何も関係のない人々や魔族にとっては、僕たちがしようとしていることは悪に映る。

 誰しもが望むささやかな幸せ。ただ夢見るだけだった夢。そういったものが、願えば願うだけ叶う世界。

 僕たちはそれを阻もうとしている。そんな世界は嫌だと否定している。

 

「千年前、勇者っていうのは生贄を意味する言葉じゃなかったわ。おとぎ話の英雄。みんなのために戦う、世界の代表。今のあなたたちは、そうなれているかしら?」

 

 ネシュアの聖女ヨハンナのように、頂点へと挑む人間の極致。いつかの勇者は、そういったものだったのだろう。

 この風習の中で、勇者という存在が本来持つ意味は、少なくとも現実的なものではなくなった。

 今だって、おとぎ話は残っている。けれどそれはあくまでも空想。今や、勇者なんてものに憧れる存在はいなくなった。

 

 では、ここまで至った僕たちは。

 ――言うまでもない。そうした空想の“勇者”としては落第もいいところだろう。

 だが、そんな自分たちを恥だと思うだろうか。世界のために立つべきだと決意すべきだろうか。

 いいや、違う。“勇者らしく”を掲げ続けたクイールも、“リッカのため”に立ち上がった僕も、世界を救う勇者としてここに立っている訳ではない。

 

「どうだっていい。僕は、リッカのための勇者だ。一度そう決めた時から――ううん、勇者として選ばれた時から今まで、“世界のため”だなんて思ったことは一度もないんだから」

「ちなみに僕はそういう勇者像がはじまりだったことは否定しません。でも、そういう漠然としたものよりも、自分のやりたいことを貫き通す方が、ずっと楽しいって思ったんです。自分たちの本当の幸せのために戦う――これも勇者らしくないですか?」

 

 だからこそ、返す言葉はそれしかない。

 見ず知らずの誰かのために、僕たちのハッピーエンドを譲ったりはしない。

 ここまでの歩みと決意を無駄になんてしたくないし、一度まやかしだと思ってしまった世界を、受け入れられる気がしないから。

 

「……本当に、残念ねぇ。人間の成長、あるいは心変わり……そういうもので、いつだって私の心は置いていかれる。だったら、私が抱くこの共感はなんなのかしら。フフ――ええ、知っているわ。前も言った通り、私の価値観は私のもの。誰に理解される必要もない」

 

 アリスアドラから僅かに感じた寂しさ、切なさのようなものは、たちまち靄の向こうへと消えていく。

 その共感に、彼女は共感を求めてはいない。それは絶対的な自我の発露でしかない。

 寄り添っているようで、その本質は相手の理解を求めない、究極の独善性。

 だから、僕たちは否定しなければならない。たとえ彼女の言葉が、彼女の感じるものが、正しいことなのだとしても。

 

「この心に正直になるなら、ね――やっぱり私はあなたたちを、ハッピーエンドには至らせたくないの」

「ッ――――!」

 

 自然体で立っていた状態から、体に行動が現れるまでは一瞬。

 反射的にそれに対して魔剣を動かし、クイールと共にアリスアドラの両の拳を受け止めて、それからようやく殺気を感じ取る。

 そして、攻撃の重さを認識した時には、アリスアドラは次の動きに移っており、そこでようやくリッカの対応が追い付いた。

 僕たちの一秒が引き延ばされる。アリスアドラの動きに、無理やり適応する。

 

「どうしてそこまで――僕たちのハッピーエンドを否定するんだ!」

 

 思えば彼女は、ナイトラクサにおいても僕たちの歩みを止めようとしていた。

 その共感が、一体どこを見て、何を想っているものなのかは知る由もない。

 だが、少なくとも、今僕たちが目指してるものを共感している訳ではないからこそ、こうして敵対しているというのは分かっている。

 

「あら。言うまでもないでしょう? 共感よ――私は共感しているの。ほかでもない、リッカちゃんに」

「いい加減にして――前にも言ったはず。私はあなたの共感なんて求めてないっ」

「誰が求めていなくても、しなきゃいけないの。だって、そうでもしないと、未練や後悔は置いていかれるだけのものになってしまうじゃない」

 

 時をせき止める僕たちと、限界の一歩先へと踏み出したクイール。

 速度に絶対的な優位が持てる筈の能力がありながら、アリスアドラは一切それに劣ることはなかった。

 

 まったく同じ速度を実現させているかのように、こちらの攻撃の悉くに対処する。

 そして僕たちの上を行く戦闘経験から、的確な反撃を繰り出してくる。

 後者は仕方ない。僕たちは人間だ――アリスアドラが積み重ねた経験や、魔族としての素養から、相手に優位があることは当然といえる。

 しかし、前者は異様だった。

 

「リッカちゃんの魂が、リッカちゃんの過去が紡いできた世界の外には、リッカちゃんは至れない。きっとあなたたちのいうハッピーエンドに辿り着いて、いつかリッカちゃんは想うんじゃないかしら。――“なんで私は、こんな世界にいるのだろう”って」

「っ、そんなこと思うわけがないっ!」

「そう言い切れる? その幸福は、過去の重さと釣り合うもの? 本当に、生き続ける価値があるもの?」

 

 僕たちに対しては、同じ時の流れに乗っているかのように。

 クイールに対しては、限界を飛び出した速度を出しているかのように。

 僕たちを映し、同じ力をもって対峙し、そしてそれを一つの体で同時に出力する。

 アリスアドラが元来そのような力を持っているとは考えにくい……であれば、あれが大女神アズを素体として構築した外装の力。

 僕たちと同等の力を使う権利を有し、僕たちを上回る権利を有する、世界の支配者の証――!

 

「私の未来の価値を、あなたが勝手に定めないで!」

「ええそう、勝手な共感、勝手な妄想よ。あなたの過去を想い、そして未来を想うからこそ、この胸に痛みを感じずにはいられないの」

 

 アリスアドラが距離を離す。即座に詰めようとして――大口を開く尾の数々が、それを踏み止まらせた。

 放たれる八つの閃光を、咄嗟に複製した冥盾の群れが防ぎきる。

 

「クイール!」

「はいっ、お借りします!」

 

 そして、その内の一振りをクイールが掴み取り、そのまま加速する。

 複製した武装は長時間維持できる訳ではない。しかし、同じ威力、同じ性能のものを、同時に操れるというのは、相手の手数に対応する上で重要だ。

 自在に動く尾から、次々に放たれる閃光を防ぎながら、クイールは飛び回って隙を探す。

 僕たちもまた、正面から攻めかかる。盾を周囲に伴いつつも、アリスアドラを超える手数を武器にする。

 

「みんながリッカちゃんのハッピーエンドに惹かれて、みんなで細やかな未来を目指す。それはとても輝いているものだけれど……ええ、それでも――」

 

 アリスアドラを追い詰めるように放つ、複製したバルハリオンによる矢の連撃。

 そして、動きを縫い止めたところで突き出した魔剣を、アリスアドラは手のひらで受け止めた。

 いや――手のひらのほんの手前、揺れる色彩の波紋は、魔力の障壁か。ホロゥで倒した魔王の躯体が、バルハラの力を使って形成していたものだ。

 

 クイールがあの躯体を撃破したあと、割れたバルハラの力の結晶、その片割れをリーテリヴィアが回収した。

 きっとその力は、大女神アズに渡されていたのだろう。本来の、正しい形での“最後の戦い”で、利用すべきものだったのかもしれない。

 しかしその戦いは訪れず、その力もまた、アリスアドラに渡った。

 大女神アズの力を真に利用した外装が展開する障壁の強度は、あの時のものを遥かに超えている。

 

「それでもっ、なんですか――このぉ!」

 

 その時、尾による攻撃を掻い潜り、冥盾を構えながら突っ込んできたクイールを、空いた片手でアリスアドラは受け止める。

 障壁を展開するその手を冥盾で弾き、滑り込ませるように振るわれる聖剣。

 しかしそれもまた、アリスアドラの首元で停止した。

 

「――それでも、やっぱり私は無視できないのよ。“なんで”、“どうして”、って嘆く声を」

「ッ……」

 

 リッカの意識が僅かにぶれる。

 決して戦う意思が揺らいだ訳ではない。アリスアドラの妄言に心当たりがあるという訳でもない。

 それでも――リッカはその言葉に、かすかな動揺を示した。

 

「……誰の声なの、それは」

「あなたよ、リッカちゃん。あなたの苦しむ声。初めに会った時は細やかで、ナイトラクサで会う頃には大きなものになっていた、嘆きの声」

「――そんなこと思ってない。私の中に今更、私の足を引っ張ろうとする意志なんてないっ!」

 

『ファイナライズ! エクストラ!』

 

 リッカの激情が行き過ぎないように同調しながら――握り込んだ冥斧に、カートリッジの魔力を流し込む。

 そして、複製された冥弓にも一斉に魔力が集まっていき、銀矢がアリスアドラへと向く。

 故意に力を抜き、弾かれた勢いでクイールが離れたと同時、冥斧を力の限り振るった。

 

『バルハライズ・スーパーノヴァ!』

『バルハライズ・ビッグバン!』

 

 手応えはあった――しかし、仕留めたという確信を持つよりも前に、過剰な威力に呑まれないように後退せざるを得なくなった。

 この城の門さえ打ち崩した一撃が一点に集中し、連鎖的に爆発を引き起こす。

 きっとこの威力の奔流に耐えられるような者はいない。いるとするならば、この力の大本であるバルハラくらい。

 そんな憶測が、不安を滲ませる。バルハラの力を使っているのは、彼女もまた同じなのだと。

 

「――自覚がないのは怖いわよねぇ。目に見えないものが足を掴み、背中を引っ張り続ける……そしていつか、最悪のタイミングで首に手が届く。優しく、けれど決して離さず……ゆっくりと、その手を絞めてくるの」

 

 罅だらけだった外装が、瞬く間に修復されていく。

 その時の戦慄は、修復の速度に対してのものではない。

 あれだけの攻撃を叩き込んだにも関わらず、外装に罅が入る程度でアリスアドラにダメージがなかったということに対してのものだった。

 

「ええ、そう……リッカちゃんの過去が、リッカちゃんを前には進ませない。リッカちゃんの実績が、リッカちゃんの首を絞める――」

「――――っ!?」

 

 突き出されるまでの動きが完全に省略されたかのような、瞬間的な蹴りが叩き込まれる。

 その衝撃を感じるよりも前に、背中に次なる衝撃が走った。

 

「二人とも……ッぁ!」

 

 体勢を立て直す前に、上方で閃光が弾けた。

 今の一瞬で、クイールが回避できなくなるほどの攻撃を行ったらしい。

 落ちてくるクイールを受け止め、距離を離そうとしたその直後――眼前に無貌の面が現れる。

 

「まず――――」

 

 い、と言い切ることはできなかった。触れている空気が固まってしまったかのように、体が動かなくなった。

 視界が捻じれる。外装による補正をもってしても、その歪みは収まることがない。

 

『ッ、空間に対する魅了……!? そんなことまで、できるなんて――!』

「あら……人を惑わせるより、ずっと簡単よ? だって、空気は何も考えないし、何も想わないもの」

 

 僕たちが動けなくなったのではなく、周囲の空間が、僕たちが動けるものではなくなった。

 それを悟ったリッカが、素早く解除を試みる。無理に足掻くのではなく、方法を見出しての素早い対応だった。

 しかし、それよりも先に、アリスアドラが口を開く。

 

「リッカちゃんに根付いたモノ――その未練が、その怨念が、私に道を譲らせない。結局のところ、それが原因で私があなたたちの最後に立ちはだかることになった……因果ってあるものねぇ」

「ぐっ……因果も何も……! 勝手に、訳の分からないものに、共感してきただけのくせに……!」

「――訳の分からないもの、そうよね。だから私は、共感し続けるの。かつて感じたあなたの在り方に。決して、その残滓が消えてしまわないように」

 

 リッカが紡いだ魔法で、右手の自由が戻る。

 しかし、魔剣の引き金を引こうとしたとき、既にアリスアドラは魔剣に手を添えていた。

 

『ぁ――――』

「ラフィーナっ!?」

 

 直後、魔剣の出力が落ちて、ラフィーナの意識が遠ざかる。

 魔剣を眠らせた――まるで刀身が“斬る”という機能を忘れてしまったかのように、手に持っているものが武器ではなくなった感覚があった。

 そんなことまで可能なのかと、戦慄している場合ではない。

 この状況を打開する手段を導き出そうと、自分の可能性を漁ろうとして――

 

「――希望は絶望よりも大きく在るべきもの。けれど、絶望が消えてはいけないとは思わない?」

「え……?」

 

 行き先の判然としなかった共感が、ようやく一歩、こちらに歩み寄ったような感覚で、思考が僅かに揺らいだ。

 

「絶望を忘れず、それでも希望に縋って歩くからこそ命は輝く。希望が大きくなれば、まだリッカちゃんは絶望を背負って歩くことができる――そう思って、私はあなたたちの試練を定めたわ」

 

 リッカの希望を、絶望よりも大きくする。

 それが、ナイトラクサで発令された火の試練だったことを思い出す。

 リッカの過去に触れて、それでも共に歩むことを選んで、リッカに受け入れてもらって――アリスアドラはその場には現れなかったものの、“合格”を言い渡してきた。

 どうあれ、リッカがハッピーエンドを目指して歩み続けることを、アリスアドラは受け入れていた。

 では、どうして、それを否定しようと思ったのか。

 断じて、気紛れなどではない。夢のように、微睡みのように揺れる、それでいて強い、彼女の深奥たる信念が見えた。

 無貌の仮面の奥。見えない筈の瞳が、じっと僕を――リッカを見据えていた。

 

「――リッカちゃん。あなた……もう絶望なんて、感じていないのでしょう?」

「――――――――――――――――」

 

 リッカの思考が止まった。続いて、僕もまた気付いた。

 良い変化だと思っていたもの。当たり前だと、疑いすら持っていなかったもの。

 アリスアドラが、リッカの何に共感していたのかを。

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