凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
一個の生命ではなく、超常の観測者としての視点から、我はその戦いとも言えない決戦を目にしていた。
相手にならないことなど、分かっていた。
我を喰らい、我の力をそのまま運用するアリスアドラに対し、戦いという選択をした時点で、かれらの命運は決したも同然だったのだ。
我は本来、世界に在るべき身ではない。
あらゆる世界の上に在り、それらを観測することを存在意義とする以上、世界観という強い修正力に流されないようにできている。
どのような流れでさえ否定してしまうことができる我が、単一の世界に生きることを選んだ場合、どうなるか。
我は――その世界におけるすべての法則を、思うがままに調整できてしまうということだ。
敵対する者あらば、その上に立つ。抗うことさえ無意味な力を、望まずとも獲得する。
ゆえに、アリスアドラにその力の悪用を許したならば、抗ってはならない――それが唯一の道だった。
……なのに、何故、我はそれを止められなかったのだろうか。
知っている筈だった。予知の力を行使せずとも、こういう結末になると断言できた。
かれら、勇気ある輝かしき者たちは……決して諦めない。
アリスアドラがかつて望み、今も思い描く理想の世界を、必ずや否定する。自分たちの道程をもって、その理想に否を唱えられる――かれらは、そういう人間だった。
……そこに、希望を見たのだ。我は、理不尽を否定し続けたかれらが奇跡を起こし、不条理さえ覆して見せると、そう信じてしまったのだ。
そう信じざるを得ないほどに、かれらは眩しかった。かれらの可能性は、どこまでも輝いていた。
もしかすると、我の力さえ及ばないほどの可能性を秘めているのではと、我は期待してしまったのだ。
その結果が、これだ。
我の有していた全能性を、サキュバスとして行使した。である以上、人間が耐えられる道理はない。
この世界の記録から抽出した、快楽の記憶。生命が発展するために必要不可欠であった“欲”を、アリスアドラはかれらに流し込んだ。
人間が生きたまま――絶頂として許容できる快楽が一滴の雫なのだとすれば、アリスアドラが行ったことは、その小さな器に大河を叩きつけたようなもの。
器が耐えるか否かという問題ではない。
そのような小さな器、あっという間に流れに負けて、どこかへと消え去ってしまう。
勇者ユーリは、消滅した。
勇者クイールは、消滅した。
名誉のために断言しておくならば、あの二人は、快楽というものに屈した訳ではない。
その情報量は二人の存在を昇天させて余りあるものだったのだ。
アリスアドラは、かれらの
かれらがかれらである限り、かれらには何の
ただいるだけ――アリスアドラが思い描く理想の世界を一足早く享受する、誰でもない一人へと落ち果てた。
あの二人は、これから先、何の不安もない平穏な幸福を生き続けるだろう。いいや――たとえ死しても、その幸福は続く。
かれらは、そのハッピーエンドに違和感を抱けない。だって、既にかれらの内から、勇気は消えているのだから。
――そして、あと一人。
転生者たるリッカは、その膨大な情報の奔流から、たった一人逃れることに成功していた。
その自覚はないだろう。彼女が、意識して能力を行使した訳ではない。そのような自我は、あの時の彼女にはなかった。
命の危機――否、存在の危機を察知し、能力の側が、彼女の生存を優先させた。
彼女が転生領域からこの世界に送られた時、援けとなるべく与えられた力は、彼女の内側で一つの世界となっている。
冥界……彼女の絶望と希望の象徴。
その銀色の領域は、第八の冥界として根付いた。彼女の冥界は、自らの主を守るため、その体を引き込んだのである。
「っあ……!」
彼女にとっては、まったくの不意であっただろう。
何もかもが無へと流れていく感覚が突然に途切れたと思えば、自身の内側の領域に投げ出されていたのだから。
無意識の中で、この領域の最も安全である場所を定義していたのか。
彼女が落ちてきたのは、最後の戦いから仲間たちを守るために避難させていた区域であった。
「リッカ……? ――リッカ! 大丈夫ですか!?」
「ッ、ナディア……?」
四天王たちとの戦いを生き延び、代わりに力を出力する手段を失った仲間たち。
ナディアとイリスティーラがすぐさま駆けつける。混沌の力により、治癒がひどく遅れているものの――イリスティーラも最低限、走ることが出来る程度の体力を取り戻していた。
「一体何が……クイールは? ユーリくんはどうした?」
「ユーリ……? ッ、ここは――!」
ぼんやりとしていた思考が、鮮明になってきたようだ。
起き上がり、周囲を見渡す。そうしてようやく、ここが自身の領域であること――共にいた筈の二人が傍にいないことに気付く。
表情がたちまち焦燥へと変わり、すぐさま外へと飛び出そうとした彼女を制したのは、ラフィーナだった。
「待ちなさいっ! リッカ、冷静になって。教えて――何があったの」
ラフィーナは、かれらの武器である魔剣を通して、決戦を支援していた。
ところが、アリスアドラによって魔剣が“眠った”ことで、外との接続を断ち切られ、状況が把握できなくなったのだ。
そこからここにいる面々に、起きたことを伝えていたラフィーナだったが、リッカだけがこの領域に飛び込んでくるような状況など、察しがつかない。
リッカにとって、何か想定外の――恐らくは都合の悪い、あまり想像したくない事態が発生したという確信があるのみだった。
「……わからない……! 気付いたらここに――けど、ユーリも、クイールも……!」
僅かに冷静さを取り戻したのか、リッカは領域のスキャンを始める。
しかし、二人の存在が、冥界の内部にある筈もない。
そして――その時、気付いた。
リッカが手に握っていた、純白の指輪。リッカ自身が左手の中指に嵌めているものと対になる、中心に小さな黄金のきらめくそれは、紛れもなく、ほんの少し前までユーリが右手の中指に嵌めていたものだった。
「……っ」
「――無事であると信じましょう。あの二人が今更、あっさりと足を止めるということはあり得ません」
「そうだね……それよりもだ。想定外の事態なんだろう? 何か、手立てを考えないと」
ナディアとイリスティーラは、その不安を一度、見て見ぬふりをすることを選んだ。
不安を確信してしまえば。朧気な絶望を肯定してしまえば、リッカは立ち直ることができない――そう直感していた。
リッカもまた、二人の気遣いを受け入れる。
もしかしたらという最悪の予感を、信じたくないがために。
「……アリスアドラか」
完治には遠いものの、イリスティーラと同じく動ける程度には回復しているリーテリヴィアが目を細めながら呟く。
イリスティーラの尽力によって記憶は完全に修復され、我に仕える四天王という枷はもうない。
ゆえに、他の面々は当然のように、彼に手掛かりを求める。
「リーテ、知っていたのかい? あの女が、こんな企みを持っていたこと」
「彼女がどのような世界を望んでいるかは聞いていた。だが……すべての発端であったことは俺も初耳だ」
しかし、リーテリヴィアは首を横に振る。
……すべてを。何もかもを狂わせて、魔王たる我の背後で、世界の方向性を定義していたと知る者は、果たしてどれほどいただろうか。
バラルバラーズは悟っていた。
詳細を認識していた訳ではない。だが、幼い頃よりアリスアドラの狂気を知っていたあの男は、世界の変化に敏感だった。
己が使命に憑りつかれた賢者――彼はその実、誰よりも事態を把握していたのかもしれない。
オドマオズマは狂気に浸っていた。
人であったころからその狂気に繋がれていた彼には、アリスアドラの深淵を理解することは不可能だっただろう。
そして、リーテリヴィアもまた同じ。彼は、知るすべを持たなかった。
「……あるいは、父なら知り得たかもしれない。旅立たれる前に話が出来れば良かったのだが……あの時は俺もまだ若造だった。たとえ最期に立ち会えたとしても、大きくは変わらなかっただろうな」
「……あの方が生きていれば、とは言っても仕方ないか。今も健在であれば、キミも私も……いや、ここまで来た全員、今とはまったく異なる運命にあっただろうしね」
リトラリヴィア――先代たる水の四天王。魔王が世界に君臨してから、唯一その座を次代へと受け継いだもの。
彼から望みがあった訳ではない。むしろ彼は、子が同じ使命を背負うことをよしとしていなかった。
偉大な男であったと……我も思う。バルハラから出でた正当なる眷属である筈の存在が、聖都で長となるほどに絶対的な支持を集めるに至った偉業は、人もエルフもその他の魔族も分け隔てなく接する彼の人格による業だろう。
最期は、子に何も伝えることのできない、急死だった。
その結果として、選ばれた後継者が、リーテリヴィア。
記憶を取り戻した彼が、かれらとの敵対を選ばなかったのは必然だ。あそこには、彼にとって誰よりも大切な者がいるのだから。
だが、今この場で、彼に力になれることはない。アリスアドラの底を、彼は知らなかった。
「ともかく……わたくしたちで、出来ることを探すべきです。リッカ、まだ“時間”は残っていますか? まずはわたくしたちが、再び戦えるようにならなければ」
ナディアの提案は、今残った面々がこれ以上抗うにおいて、最善策といえた。
傷を癒し、外装構築のためのデバイスを修復する。そうすることで、抵抗の手段を確立する。
リッカには、そのために必要な時間を、過去から捻出する手段がある。
我が齎した繰り返しによる副作用。一年ずつ積み重なった時間というリソース。
一秒を引き延ばす使い方はあまり効率の良いものではないが、とにかく、今のリッカたちに必要なのは時間だった。
リッカは取り乱しそうな感情をどうにか抑え、その提案に頷く。
彼女の内に広がる冥界。この世界のどこでもない領域。そこは、時間を捻出するにおいて邪魔をされない、都合の良い場所であった。
「――駄目じゃない、リッカちゃん。こんなところに隠れちゃ」
だからこそ――アリスアドラは、その絶対性さえも否定する。
バリ、バリ、と空間を裂き、無貌の魔王がその領域に姿を現す。
リッカの対策は万全だった。アリスアドラがこの領域から外に出たことから――この内部に逃げ込んだ時に、無意識のまま領域を完全に閉じていた。
これは、転生領域が齎した異能。完全に外界と隔絶された自己領域を形成する力。本来の使い方により、リッカは己の在り方を守り通せる筈だった。
「……なん、で」
「その
だが、アリスアドラが取り込んだのは、かつて転生領域の主として
転生領域がどんなものかを、知識として知り得ている。リッカが手にした力の正体……己が少し前まで取り込まれていた世界の真髄を知り得ている。
であれば、侵入など容易いことだった。
「安心なさい。ユーリくんにはすぐに会えるわ。あなたは、何も気にならない」
遠慮もなく、リッカの領域に踏み入ったアリスアドラは、そのままリッカに対して歩み寄る。
そして手が伸ばされて――ナディアが間に割って入る。
「……ユーリとクイールは、どうしたのです」
「もう、消えちゃったわぁ。ここまで頑張ってきたんだもの。一番最初に、幸せになる権利をあげたの」
領域が絶望で満ちても仕方がないほどの現実。
しかし――それを、リッカも、ナディアも……他の者たちも、不思議なほど静かに受け止めた。
あの指輪をもって、それを予期していたからか。
いや、そういうレベルの落ち着きではない。誰も、それを虚偽だとは思っていないのに……希望を失ってはいない。
「……悲しんだりしないのね。リッカちゃん、あなたは本当に、絶望を忘れてしまったみたい」
「別に……そのくらい、絶望するほどのことでもないだけ」
アリスアドラに抗う手立ては残っていない。それでも、彼女は絶望していなかった。
この場において、その虚勢になんの意味があるだろう。
ここで終わりだ。誰よりも、彼女が理解している筈なのに……。
彼女に、恐怖はない。勇者でなくとも、力が足りずとも、抗う気概が――世界を変える気概がある。
「ユーリもクイールも、あなたが用意した“幸せ”なんかで満足する訳がない。二人のことを大して知りもしないのに、思い上がらないで」
――――ああ。
そうか。かれらは、つながっている。たとえリッカにそれを感じる力がなくとも、確かにつながっている。
共感などよりもよほど強い、双方向の絆。
我の内に、熱いものが灯らざるを得ないその宣言を、この局面で――まさか、彼女が言い切ってみせるなんて。
「――――――――本当、言うようになったわねぇ」
ぴくりと、僅かにアリスアドラの指が動いた。その瞬間の感情を、彼女は理解していただろうか。
それは、アリスアドラでは決して掴むことのできないもの。
共感というつながりに特化しているからこそ、得られないものだ。
「やっぱり、体感してもらうしかないのよ。苦痛の中にいたからこそ、幸せの意味が理解できない。いいわ――私の世界が、あなたたちに至上を教えてあげましょう」
そして、その拒絶を、やはりアリスアドラは受け入れない。
彼女の内には確かな共感がある。誰がどれだけ否定しようとも、その在り方は変わらない。
共感によって成立する、幸せに満ちた世界。
その価値は誰しもにとって尊いものであると、彼女自身が信じているのだから。
「――待て、アリスアドラ」
……しかし、その世界の成立は、まだ少しだけ早い。
成立すべき世界は決まっていないと、もう一人、権利を持つ彼が、待ったをかけた。
「……何かしら、リーテリヴィア。もちろん、あなたや、そこの彼女の幸せだって、私は理解しているわ。どっちも、等しく、叶えてあげる」
「不要だ。ここからの幸福は、お前が何をせずとも俺と彼女で手にできる。それよりも――俺がいる以上、まだお前は理想の世界を叶える権利は持たない筈だ」
僅か、不安げな様子を見せたイリスティーラの肩に手を置いてから、リーテリヴィアは前に出る。
アリスアドラと向き合う彼は、まだ全快には程遠い。
しかし、その歩みは確かなもの。敗北を知らない、絶対的な騎士たる『王剣』のものだった。
「既に結末を分ける楔はなく、なれば受け入れられる世界を、一人の一存で決める訳にもいくまい」
「……今まで大して主張もしていなかったのに、今更? 心配しなくても、あなたの世界も叶うわ。私の世界は、そういうものだから」
「いいや。お前が望む世界そのものが、俺が受け入れられない世界だ。秩序あれと、俺は望んだ。自由な夢にも、程度があるだろう」
――固い願いだと、想ったことを覚えている。
それが、彼にとって好ましい世界だという訳でもない。その世界が実現したとしても、彼が特別喜ぶ訳でもない。
ただ、記憶を失くし、空っぽになった彼が抱いた願いとは、そのような盤石な世界であった。
今もその願いが強くなってはいないのだろう。それを、口実にしただけだ。
ここにある希望を――そして、自分がこれから手に入れるのかもしれない“幸せ”を守る戦いに、己も僅かに手を貸すための、口実に。
『リーテリヴィア』
【属性】水/光
【攻撃力】■■■■■■■■■■■
【防御力】■■■■■■■■■
【素早さ】■■■■■■■■■■
【魔 力】■■■■■■■■■■
【精神力】■■■■■■■■■■■■
【種族】ロードエルフ種
森を出たエルフは他の種族との交流のため、現代に至るまで多くの変化を経た。
旧き魔法を捨て、現代的な魔法を学び、そして新たな戦い方として木や石以外でできた武具を扱うすべを身に付けた。
そもそも、エルフという種族は潔癖な種だ。自然の息吹を、魔力の流動をより深く感じるために肌は敏感であり、そして鉄や硝子を受け付けられない。
だが、それでは外で生きる種としては相応しくない。かれらはそう考えて、より外の種族――人に近いかたちに適応した。
特に聖都で生きるエルフは、生まれつき祝福に浸り、強い精神力を身に付ける。
聖都を守る使命を背負う騎士には、身に帯びた祝福を、戦闘における手札として操る者さえいるという。
そして――騎士たちの
これは世界が魔王の支配下にある前からの聖都の仕来りでもある。
先代であるリトラリヴィアと、その息子たるリーテリヴィアは二代続いているが、この素養に血筋は関係ないとされている。
【『王剣』リーテリヴィア】
魔王が世界を支配したその時、「四天王の次代」という存在は定められていなかった。
いずれかの勇者の旅路の中で席が空くことがあれば、その次の勇者の代までにその席は埋められていただろう。
だが、そのような偉業を成し遂げる勇者など、一向に現れなかった。
当然だ。人間の身で、魔族の頂点たちを手にかけられる者がいる筈もない。
ゆえに、水の四天王たるリトラリヴィアに生まれた息子が光の属性を帯びていようとも――次代の聖都の長とは定められていても、四天王の座につく存在とはみなされていなかった。
四天王とは死なないもの。殺せないもの。そういう認識は、彼が生まれた時代、既に絶対的なものになっていた。
リーテと名付けられたエルフの少年は、聖都の長として、多くを学びながら育った。
そんな中で、一人の少女に出会った。同じ年、同じ日に生まれたエルフ。騎士と研究者――分野は違えど聖都に貢献する家であり、かれらの両親は親しい間柄だった。
ひどく内向的であった少女の心の氷を、彼は少しずつ溶かしていった。
他者を導く才は、その時は芽生えていなかった。少女が彼を受け入れたのは、ひとえに彼の努力の賜物であった。
二人はかけがえのない親友同士となったが、かれらは何をするにも一緒……という訳ではなかった。
少年は聖都の長をいずれ継ぐもの。学ぶべきことは多い。剣の腕だけでなく、束ねる力や心の強さ、弱所など決して見せない存在となることを求められた。
そして少年には、それを成し遂げる才覚もあった。
リトラリヴィアは喜んでいた。自分ほど堅物ではなく、他者に寄り添い、それでいて大きく深い器を持った優しい子であることを。
人と魔族の共存世界、聖都を導いていくのはこういう者でなければならないと、リトラリヴィアは己の未熟を理解していたのだ。
ある時、リトラリヴィアの訃報が聖都に届いた。
死因は今も分かっていない。少年はその謎に憤り、そして父の死に深い悲しみを抱きながらも、表に出すことはなかった。
正式な継承はなされなかった。しかし、これからは自分こそが聖都を導いていくのだと、己の在り方を強く定めた。
決して容易い道ではないだろう。未熟な彼を支持する騎士は多かろうが、民が納得するかは別なのだ。
そんな彼の険しき道のりを、少女は支えることを選んだ。精一杯の勇気を振り絞り、少年と共に歩むことを選んだ。
かれらのすべてが変わったのは、その直後である。
――『王剣』たるリーテリヴィア。世界の結論、完成の果てに、何を望むか。
――秩序を。人が損なわれず、魔族が疎まれぬ真なる共存を。支配、混沌、自由……それが許されるのであれば、一つくらいそのような世界があっても良い筈だ。
『黒翼商』アデラキテラにより、魔王のもとへと連れ去られた少年。
彼はその日、新たな水の四天王に相応しき存在へと昇華された。過去は不要と記憶を洗われ、『王剣』となった。
たちまち彼は聖都の支持を得て、長として認められた。その一方で、少女を傷つけたことを、自覚していた。
彼にとっては初対面でしかなかったその少女の絶望の顔が忘れられなかった。
しかし、どうして少女がそれほどまでに己に執着するのかが理解できなかった。
少女の献身は、実を結ばなかった。何を見せられても、少年は思い出すことはなかった。
そうして――やがて壊れていく少女を、彼は複雑そうに見ていた。
やがて年月が経ち、かれらの関係は確立していった。
自己の崩壊を厭わない者と、その自傷行為を咎める者。聖都の禁忌と、聖都の象徴。
かつて二人をつないでいたものは永遠に失われ、取り戻されることはなく、やがてその関係も解れていくのが当然の帰結だった。
――ゆえに、その結末が覆ったのだとすれば、奇跡以外の何物でもないのだろう。
【イリスティーラの評価】
「どうやら、私たちはもう少しだけ、欲張っても良いらしいね。ハッピーエンドのその先か……参ったな。やりたいことを思いつくのは、難しそうだよ」
【リッカの評価】
「……その。あの時の不意打ちは……悪かったとは思ってる。いや……うん、水の試練は、全般的に」
【バルハラの評価】
「まさかリトラから……ぼくの眷属から、こんなにもまともな子が生まれるなんてねぇ。母体も普通みたいだし……奇跡ってあるものだよ、ほんと」
【オドマオズマの評価】
「聖都という大舞台に構えていながら、試練の内容を一切変えないというのはいただけないな。彼にはドラマ性というものが決定的に欠けている。ネシュアに来てくれれば、みっちり舞台指導をしてやるんだけど」
【バラルバラーズの評価】
「……あの小僧も憐れなものよ。その根源がバルハラに在るというだけで、運命までもを狂わされるなどと。生まれた時から狂気の囚われであれば、まだ救いもあったものを。リトラが小娘の狂気を止められなかった時点で、決まり切った悲劇よな」
【アリスアドラの評価】
「やったことって、自分に返ってくるものねぇ。本当……因果ってやつも、恩知らずなんだから」