凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
はじまりからあいつを見てきて、過去の記憶を共有された身として。
私は多分、他の連中とはちょっとだけ違う感慨を、その時のリッカに感じていた。
懐かしきはあいつとの因縁のはじまり。
初戦試験官に任命されて、緊張と共にあいつらの前に降り立ったあのとき。
臆病ながら逃げることはしないユーリと、田舎の村で育ったとは思えない化け物染みた感情を抱くリッカを初めて見たときを思い出す。
リッカの状態に怯えて、私の方が逃げかけたんだっけ。
当たり前だ。あんなのをまともに感じてしまって、怯えない方がどうかしている。
そうして、ほとんど見せ場もなしに、私はイカれたあいつらに、イカれた方法であっさりと倒されてしまった。
本当に、懐かしいな。覚えているとも。
あいつらが私の前で初めて纏った外装、そのおぞましさ。
触手を纏うなどという正気の沙汰とは思えない戦い方こそ、あいつらが――リッカが選んだ戦い方だった。
そこから多くの外装を紡いで、ハッピーエンドを目指していく二人の最初の武器。
あの時はどろどろに澱んでいたあいつの、復讐の象徴。
それが、今――この状況を変えんとする最後の切り札になっていた。
「……まともな状態には見えないけれど。まさか、リッカちゃんだけで戦うって? それが、あなたの奥の手?」
「“私だけ”だと思っているのなら、それこそ見る目がない。やっぱり――あなたの共感なんかに騙されないで正解だった」
ユーリも傍にいないのに、恐れることなくアリスアドラ様の前に立つ、リッカが纏うあの外装。
そこに感じるおぞましさは、かつてのものとは方向性が異なる。
まるで、真夜中に見上げる星空のさらに向こうを映している、あるいは内にそれを秘めているかのような、きらめきを内包した無数の触手。
もちろんそれは、あの二人が至った力の方が、外装として完成されていたからに他ならない。
今のあいつの姿は、それとは正反対。
この世界に受け入れられるべき完成とは――真逆の、受け入れられざるもの。
「それは、この世界に在ってはならない力……管理者の機能を受け継いだ身としては、そう、あなたを窘めるのが正解かしら」
「好きにすればいい。それで私が、素直に止まると思うのなら」
「……そうねぇ。意地でも止まらないはずよ。あなたが――リッカちゃんである限り」
――直後。瞬時に踏み込み、振るわれるアリスアドラ様の拳。
それを受け止めたのは、リッカの手でも触手でもなかった。
「……なんですって?」
ざらざらと、砂のようなノイズの走る、黒い空間。
現在進行形でリッカを中心に広がっているものが、あいつを守るためにひとりでにその場に現れたように、アリスアドラ様の拳を受け止めている。
かたちは違えど、あれはかつてリッカの中にあったもの。何のルールも方向性も定められていない未定義領域。
それは、多分……本来私たちのような、命ある者が認識してはいけないものなのだと思う。
こうして見ているだけで、鳥肌とはまた違う、体が芯までざわつくような感覚に襲われる。
「……っ」
アリスアドラ様の動きが止まったところを見計らい、リッカが動く。
時の力を使うでもない。ただ単純に、アリスアドラ様の懐に踏み込んで、同じように拳を振るう。
そこに、術理なんてものはない。ユーリのように培った経験もない。理想的な動きを実現できるような体力もない。
しかし――その破れかぶれにさえ見える攻撃がノイズを纏い、アリスアドラ様の外装に突き刺さった。
「ッ、この外装の防御を……」
きっとあの外装からすれば、大したダメージではない。
けれど、それは想定外の反撃だったのだろう。ほとんど無意識のまま、アリスアドラ様はたじろいで、リッカから距離を離そうとした。
そしてそれを、リッカは捕える。這うように伸ばした触手が、その足元に組み付いた。
「確かに、ユーリと一緒じゃないと、私はちゃんと戦えないかもしれない。それでも――」
アリスアドラ様が晒した隙を、動揺に付け込んだリッカが容赦なく突く。
そうでもしなければ喰らい付くことさえできないというその執念は、ある意味でリッカらしいと思えた。
「意地を通すことくらいは――できる!」
「くっ……」
もっと賢い戦い方なんていくらでも思いつくだろうに。
もしかするとそれも、あんな意味の分からない外装の制限で上手く使えないのかもしれないが、ともかくリッカは、そういう戦い方を選んだ。
拳を振るうたびに辺りにノイズが撒き散らされ、かたちを失っていく。
きっとそれは、“世界観”とやらの乱れ……このまま進めば、きっと取り返しのつかない状況になるのだろう。
「これは……大丈夫なのかい――!?」
「大丈夫に決まっています! だって――ユーリだけではなくリッカも、想定外を味方につける天才なのですから!」
いつの間にか私たちの傍にまで滲んでいたノイズに、思わず足を引こうとして――歯を食いしばってそれを堪える。
流石に……こいつらが少しも逃げようとしていないのに、私が真っ先に身を引く訳にもいかない。
私は、逃げずに最後まで見届けるのだ。
それが――合意があったかはともかくとして――最初からここまでずっとあいつの“やり方”に付き合ってきた、私なりの意地というものだ。
「ただの意地で……手を出すようなモノじゃ、ないわねぇ……っ」
「意地で何でもできたから、ここまで来られた――そのくらいあなたも、理解しているはず……!」
何度も何度も、失敗があった。取り返しのつかない失敗を迎えて、それでも膝を折ることは許されなかった。
きっと私だったら……どこかで放り出すと思う。やり直すことになると分かっていても、自暴自棄になってしまっていたと思う。
けれど、リッカはそれをしなかった。
復讐のために、ハッピーエンドのために、意地を貫き通した。
意地があったから、あいつにはそれしか選択肢がなくなっていたのだ。
「逃がさない――あなたはここで倒す。私たちの、ハッピーエンドのために!」
「ッ」
その意地はようやく、理想に手を届かせようとしている。
ユーリとクイールがここにいないという現実を、あいつは考えない。考える必要はないと、眼前の敵だけを見据える。
鏡のような翼を広げ、飛翔しようとしたアリスアドラ様を、それを予期していたように伸ばした触手で絡め捕る。
そうして引き寄せたアリスアドラ様に、リッカは渾身の拳を叩き込んだ。
「……仕方ないわね。あなたに集中したかったのだけど……!」
八本の尾から炎のような魔力を放ち、拘束する触手を焼き払ったアリスアドラ様は、瓦礫の転がる床に下り立つと、翼を手のような形に広げて周囲に光を放つ。
悪いものではない……むしろ、感覚としては心地良い、日光のようなあたたかさ。
正常化、そう理解するまでは早かった。世界を正す輝き――この場に広がる
「世界を壊す者と、直す者……まったく……どっちが魔王か、分かったものじゃないわね?」
「どっちだっていい。私にとってあなたが、最後に倒すべき相手。それがはっきりしていれば」
リッカを中心に広げられる
どちらが世界にとって正しいかなど明白だった。きっと、正義とかいうものはアリスアドラ様にあるのだろう。
その上で、だからどうしたと言い切れるほどの――あいつに肩入れできるほどの意思があることに、我ながら呆れて苦笑が浮かんでくる。
正しさなんて、どうだっていい。
私は、私の立ち位置を定めたのだ。
「残念ね――あなたじゃあ、この世界の完成は止められないわ――!」
「最後まで、やってみなくちゃ分からない……っ!」
本当に……本当に最悪の出会いだったとしても。最悪の仕打ちを受けて、半ば強制的に協力を押し付けられたのだとしても。
今の私は、あいつらの――まあ、私自身も含めての――ハッピーエンドとやらを望んでいる。
ここまで付き合ってきて、途方もない繰り返しの中でも一緒に旅してきて、今更何もかもが茶番になるなんて、私だって認めたくない。
だから、アリスアドラ様と対立することを選んだ。だから、イルミナ様とだって戦った。
だから私は――今だって、何かあいつの力になれる道を探している。
「ッ!」
「ラフィーナ、何を……!?」
ナディアの驚愕に言葉は返さず、私はリッカとアリスアドラ様の戦いから目を離して、落ちていた魔剣に駆けていく。
さすがにあの戦いには、超常の域の力がない私では介入しようがない。
そして、ここが“外”である以上、魔剣の方に意識を移すこともできない。
けれど――それは状況が尋常であればの話。
今ここには、リッカから生じた不具合が広がっている。
未定義領域とやらが具体的にどんなものなのかは知らないが、そこはリッカの冥界との曖昧な境界部分であるはずだ。
魔剣を持って、瓦礫の隙間に広がっていた星空のような陥穽に飛び込み――その冷たさが私の内に満ちる前に、体を解れさせて魔剣に憑依する。
……肉体もろとも魔剣に宿るなんて、これまでだってやったことはない。
ぶっつけ本番、だからどうした。
この程度できなくて――何がハッピーエンド同盟の一員だっ!
『ッ、――――リッカ――――!』
「――――っ!?」
私が普段ユーリに振られながらもやっていた、斬撃への補正。
それを、肉体ごと飛び込んだことで自由度を引き上げ、無理やり魔剣を動かす。
リッカはすぐに反応した。勢いそのまま突っ込んでアリスアドラ様の拳を弾いた直後、リッカが魔剣を握り込み、思い切り振り下ろす。
「くっ、ラフィーナ、ちゃん……!」
『やるわよ、リッカ!』
「うん――――!」
この魔剣は、リッカがユーリのために構築した武装だ。
常にユーリにとって最適な武器で在り続けるという特性は実に我儘で、他者が振るおうとしても特別強力な武器にはならない。
だが……ここにユーリはいなくとも、リッカが纏っている外装は
だったら、万全に使えないはずがない。
使えないのであれば――私が全力で支援して、使いこなさせてやればいい――!
「なるほど……ラフィーナちゃんは、共感したのね。リッカちゃんの意地に」
『いえ、そういうのじゃないです』
「え……?」
突き出された魔剣を受け止めたアリスアドラ様は再び、この武装の性質を停止させようとしたが、それをリッカが素早く魔剣の形態を変えて引き金を引くことで防ぐ。
さらに、尾から放たれる魔力の閃光を周囲の触手が迎撃し、巻き起こった爆発の中にリッカは飛び込んだ。
『共感じゃなくて――私は、自分の意思で選んだんです。こいつらと一緒に戦うこと、ハッピーエンドに辿り着くことを』
「……ラフィーナ」
――思った以上に、その言葉はするりと出てきた。
いざ口にするとなると、もっと躊躇いが強くなると思っていたけれど……何故だか自信を持って、私はアリスアドラ様に告げることができた。
たとえそれが、アリスアドラ様に対する“地雷”であったとしても、今この場で、私が立場を明確にしない訳にもいかなかった。
そうだ、私はここでアリスアドラ様を倒す。ハッピーエンドのために、サキュバスの歴史だって変えてみせる。
「……ずいぶんと、美しい夢を見ているのね。いいわ、それなら……」
魔剣による斬撃、砲撃は、リッカが攻勢に移れる要因となっていた。
とはいえ、何度かの不意打ち以外は有効打にはなっておらず――さらに積極的になる必要があるかと思った矢先。
アリスアドラ様は翼を大きく広げて、周囲の触手たちを切り裂きながら飛翔した。
尾の数々が、ゆらりと揺れる。その双角に魔力が溜まり、ほの暗く輝く。
「その夢に溺れなさい――あなたたちが望む、絵空事の夢に」
その翼に、鏡のように私たちが映し出されたことで――アリスアドラ様がやろうとしていることを理解した。
『眠りの強要……っ、正気ですか、アリスアドラ様!?』
「あら、ラフィーナちゃんにしては愚問ねぇ……私、はじめから狂っているのよ?」
それは、サキュバスが等しく有する、他者を夢へと誘う手段。
誰もが持っているとはいえ、有無を言わさず微睡みに落とすなど、如何に無法なサキュバスでもナンセンスとされる。
夢を見せる手段など、サキュバスはごまんと持っている。ゆえにこんな手立てに頼るなど愚かしいと、それが共通認識のはずだ。
あの状態のアリスアドラ様がそれを使う以上、私の想像できない威力を発揮することは確実。
この場の誰もが眠りに落ちてしまえば、今度こそ終わりだ。
『ッ、リッカ! 防がないとまずいわ――今のあなたの力で、どうにかできる!?』
「……多分、私だと無理。だから――」
アリスアドラ様は手元に夢の属性を束ねた魔力を形成する。
あれが解放されれば、多分、私とて耐えられない。
そして、リッカもまた、防ぐ手段はないらしいけれど――ああ、知っていたとも。何か、奥の手があることくらい。
「……私にできる……? ううん――できるはず、絶対できる」
自分に言い聞かせるように、リッカは言葉を繰り返す。
確証のない手段なのだろう。アリスアドラ様の行為の性質を読み取って、即興で思いついた、不安の多い手段なのかもしれない。
だが、それでなければ防げないのだとすれば、やるしかない。
支えとなるべきユーリがいない以上、私が支えになってやる。
『やりなさい、リッカ!』
「ん――――今は、あなたしか頼れない。だから、力を貸して――!」
僅かな不安を呑み込んで、強く決心したリッカが、右手の指輪に手を添える。
本来、ユーリが嵌めていた指輪。あいつが他者とのつながりを、より強く自覚するための指輪。
勇者ではない以上、リッカでは、その能力を十全には扱えない。ユーリ以上に強く自覚できる絆は、リッカにはない――
『フィーチャリンク! ――アクセプション!』
『――――――――イッチィィィィイイイイイイイイ――――――――――――――――ッ!』
――そう、思っていたのだが。
まあ……無理か。
こいつや、こいつの同類っぽいナニカの行動や可能性を、予想することなんて。