凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「――帰ってきた!」
誰が言ってくれたのかも分からない言葉が、歓声のはじまりだった。
「クイールだ! 俺たちの勇者が帰ってきたぞ!」
「魔王を倒して、闇を払った、私たちの希望がっ!」
「あんなにちっちゃかったクイールが……強くなったなぁ……!」
「何目線だよおっさん……」
気付かれてしまえば、たちまち騒ぎは大きくなっていく。
聖都の門にこんなに人が集まるなんて、今までなかったのではないだろうか。これでは、こちらもさすがに委縮してしまうぞ。
……いけない、いけない。みんな、僕を祝うために集まってくれたのだ。
この場で物怖じして、情けない姿を見せるなんていけない。せっかく僕は、みんなの希望として、やるべきことを成し遂げたのだから。
胸を張って、みんなの声に応える。聖剣を掲げて、旅の終わりを宣言する。
「――みんな! 勇者クイール、魔王を討ち、戻ってきました!」
歓声が爆発する。それだけで、苦しい旅の報酬としては十分だった。
別に、そのために頑張ってきたわけではない。
勇者としてやるべき使命を背負い、その自覚をもって、その役割を全うした。魔王が世界を覆った闇を、晴らして見せた。
何が欲しいからというよりも、その使命が自分の在り方であると思ったのだ。だから、そこから先を望んではいない。
でもまあ……みんなの笑顔を見て嬉しくなる分には、構わないだろう。
そのまま揉みくちゃにされてしまうのは、聖剣がそのままだったので、勘弁してほしかったけれど。
みんなにされるがままになっていると――やがて、門の陰から、誰よりもこの成果を報告したかった親友が顔を出した。
「……まあ……なんだ。お帰り、クイール」
「はい――ただいまです! イリス!」
僕の順風満帆な旅路を誰よりも信じ、それでいてきっと苦しい旅なのだろうとも心配してくれていた親友。
その、不器用な態度が、何よりも嬉しかった。
旅を終えて、今日からはずっと、平穏な日常が続く。もう、魔王の支配に苦しむ人はいなくなる。
さて……明日からは、何をしようか。
やりたいことなんて一つも決まってない。けれど、きっといくらでも見つかるだろう。
旅を通して、僕だって、たくさん成長した。見識を深められた自覚もある。
山積みになった経験から、やりたいことを掘り出していこう。
――――
旅を終えた僕に訪れた変化は、ある意味劇的なものだった。
イリスとはこれまで通り親友のままだし、よくあの屋敷に遊びに行っているけれど、だからこその変化。
きっとこれが、長い旅の……果たした使命の報酬なのだろう。そう思うと、やり遂げた甲斐があったと実感する。
「む、むむ……」
本に向かい、暗号のような文字の羅列に唸る。それは楽しい時間ではないけれど、必要なことだった。
聖都におけるたくさんの制度。種族ごとに定まった、細かな決まり事。
普通に聖都で生きていく分には、こんなにしっかりと覚えなくても困らない。
だけど、“聖都のために”働くには、これを全部覚える必要があるのだという。
凄いなぁ……と今更ながらの感心を覚える。リーテさんやオリヴィエさんはもちろんのこと、フェンちゃんやルークくんも、これを覚えたのか。
そう――旅を終えて、ちょっとばかりの休息を済ませて、僕は新しい生き方を定めた。
だって、僕にも家族がいるのだ。勇者という大任を終えたからといって、食べて寝るだけの生活ではよくない。
結果として志したのは、聖都を守る騎士の仕事。
僕らしいとリーテさんは笑ってくれたし、イリスも複雑そうに認めてくれた。
だが、入団のためには覚えなければならないことが山ほどある。剣の腕に覚えがあるだけでは、騎士は務まらないのだ。
今日も勉強、明日も勉強。将来のために、勉強、勉強。
げんなりとはするけれど、苦痛とは感じない。
大切な日常を想えば、いくらでも頑張ることができるのだから。
「お姉ちゃんっ」
「ッ!? っと、ヒマワリですか」
この項目は覚えた。覚えた……と自分に暗示をかけながら、次のページに行こうとした時だった。
部屋の扉が開いて、まだ慣れない呼び方で僕を呼んでくる彼女。
僕が旅をしている間――ちょっとした“寄り道”で行方不明になっている間に生まれた妹であるヒマワリだ。
「ごめんね、邪魔しちゃった?」
「ううん、大丈夫です。もうなんか、難しくって頭が痛くなってたところなので……」
「大丈夫じゃなさそう……」
僕とは違って勇気の力は持たず、ちゃんと正しい属性を持っていた子。
そんなヒマワリの存在には驚いたものだ。最初、少しだけ複雑ではあったけれど、冷静になってしまえば当たり前のことだった。
だって僕はもう、この家の子ではないと諦めていたのだから。
それが、まさかこんなことになるなんて、思ってもいなかった。
「あのね、おやつができたって。ちょっと休憩しよ?」
「あー……もうそんな時間なんですね」
お昼からぶっ通しか。こういう勉強に慣れた人なら普通なのだろうけど、僕からすれば大変に堪える。
疲れを自覚して、苦笑を浮かべた。うん……甘いものが欲しい頃合いだ。
「ありがとう、ヒマワリ。行きましょう」
「うん!」
本を閉じて、立ち上がる。ヒマワリに手を引かれて、部屋を出る。
……本当に、嘘みたいな出来事だ。
旅が終わって、イリスと一緒に暮らそうとしていた時、パパとママがやってきて、僕に頭を下げて謝った。
どんな心変わりかなと思ったけれど、僕は嬉しかったのだ。どんな理由があれ、やっと……本当の家族になれたみたいで――。
――――
穏やかで、嘘みたいな時間だった。
おかしなこと、苦しいことの連続だった旅路。振り返って、楽しい旅だったとは間違っても言い切れない。
だからこそ今という時間が、どうしようもなく幸せに感じられる。
あまり動けない体にはなってしまったけれど、二度目のそれはひどく穏やかだった。
もうすぐ“お姉ちゃん”になるホープがいる。
そして、隣には静かに笑う■■■くんの姿が――――
――――
違う。違う。違う。どれもこれも違う。
否を突き付けるたびに次から次へと切り替わっていく“理想”に、いよいよ嫌気がさした。
得難いものではあるのだろう。その“もしも”は、きっと浸ろうと思えば浸っていられる、一つの幸福のかたちではあるのだと思う。
けれど、今の僕が……ここまで歩んできた僕がそれに浸れるかと言われれば、絶対に無理だった。
「……この結末には、ホープがいない。この結末には、ユーリくんがいない。この結末には、イリスがいない」
添削をするように、その一つ一つに、僕にとっての当たり前を突き付けていく。
僕の幸せってなんなのだろうと考えれば、確かに迷ってしまうところではあるけれど、前提はもちろんある。
みんなと一緒にいたい。どういう形であっても、みんなで笑っていたい。
みんなというのは、僕の周りにいるみんなだ。ホープとイリスはもちろんだし、旅の中で出会ったみんなだってそうだ。
リッカちゃんもナディアちゃんもラフィーナちゃんも、いないなんて考えられない。
リヒトくんとトーカちゃん……あの二人だって、旅を終えたらもう一度会いたい。
それに、カルラちゃんとだって話してみたい。できることなら、友達になりたい。
漠然とした未来しかなくても、そこには絶対にいてほしいみんなという理想はあるのだ。
……ここまで見てきたいくつもの未来の中に、その全部が揃った未来があっただろうか。
どうして、その程度も用意できないのかは分からない。理想の世界だというのなら、それが一番だというのに。
いや……きっと、その全部が揃った未来だったとしても、誰かに与えられたものだというのなら、きっと僕は違和感を覚えてしまったと思う。
自分で歩いて、自分で感じて、自分で手に入れた未来じゃないときっと納得しないし、そうして得られた未来なら、どんなものであっても納得できる。
“こんな未来はどう?”といくつ提案されたとしても、僕は首を縦に振れないのだ。
「いやはや……我儘になったものですね、僕も。色んなものに感化されちゃったみたいです」
こうして理想の数々を押し付けられると、痛感してしまう。
この中には、今から僕がどれだけ頑張っても、きっと手に入れられないものはたくさんあった。もったいないという気持ちも、当然あった。
けれどやっぱり、今と、今から得られる未来よりも大きなものはない。
きっとこの価値観は、“共感”だけでは測れないものなのだろう。それが何だか、誇らしかった。
「さて……それで、ここはどこなのでしょう」
まともに視界が働いているのかも定かではない、真っ白な空間。
自分の体は見えているし、目を閉じている訳ではないと思う。
最後の戦いの中で、あたたかい光に包まれて、意識が遠のいたと思ったら、立っていたのはこの場所だ。
さすがに、冥界だとは考えたくない。確かに冥界のように、生命の気配は感じられないけれど……あの乾ききった空気もない。
まるで、なんの意味もない場所に自分だけがいるみたいな、そんな感覚。
もしかして、ずっとここで独りだろうかなんて、縁起でもない想像をしてしまう。
「…………」
だったら、どうしよう。
独りであるならば仕方ないと、ここで膝を抱えて震えている? その内誰かが助けに来てくれると信じて?
それはちょっと、情けないな。本当に誰かが来た時、そんな弱い姿を見せたくはない。
ならば……歩いてみようか。どこまで行っても何もないかもしれないけれど、何もしないよりはマシだろうし。
何より、その方が僕らしい。
そういう楽天的なところは結局直せなかったけれど、今はそれがありがたい。
不安がないといえば嘘になる。それも、少し歩いていれば気が紛れるだろう。
そう信じて、たくさんの理想に目を背け、足を踏み出そうとして――
「……すげえな。あの誘惑を、自分で振り切ったのか」
「わああぁっ!?」
突如として目の前に現れた“異形”に、思い切り情けない悲鳴を上げながら腰を抜かしてしまった。
なんなんだ、一体。人が決意を込めて歩き始めようとした矢先に。
「悪い。座標の調整に手間取ってな。時間制限も厳しいから強行したが、驚かせたか」
「っつつ……いえ、大丈夫です……あれ?」
いきなり目にするにはいささか奇抜な姿に面食らってしまったが……その声には、聞き覚えがあった。
頭の中で記憶を掘り起こしながら見上げたその顔。頭に被っているものは見覚えないけれど。
風船のように膨らんだウサギの被り物。目の部分には、穴でも開けられたようなデザインが施されている。
顔を隠すための仮面としては、ちょっと趣味が悪いと言わざるを得ない……はっきり言って変な姿。
「その声って……」
「そういや、このアバターを見せるのは初めてだったか。つっても、本来お前が見るべきものでもないんだが……」
ああ――やっぱりそうだ。
その、ガサツに見えて何となく繊細そうな雰囲気の優しい人は、紛れもなく僕の恩人だった。
かつて聖都で、悪夢に呑まれてしまった僕を、ユーリくんたちと一緒に助けてくれた、確か……リッカちゃんの知り合い。
「――お久しぶりです。また会っちゃいましたね、ウサギさん」
「そんな覚えられ方してんのかよ俺」
だって、結局名前も教えてもらっていないんだもの。
そう呼ぶしかなかった恩人は、複雑そうに頭を掻いていた。……被り物を掻いても意味ないんじゃないかな。
【インフィニティユニゾンリング】
ユーリが右手に嵌めている指輪型デバイス。
自身の持つ絆により、対象の疑似アストラル体を出力することができる。
そうして出力された他者の意思は、喚起された際の状況をある程度インプットされるが、何をするかは本人に委ねられる。
出力の際は、
【フィーチャリンク】
転生領域の向こう、別の世界との絆を示す識別信号。
奇妙な円で結ばれた二人を対象とした信号であり、ユーリのように絆への高い感受性を持っていなければ、片方を対象にして呼び出すような制御は難しい。
リッカはひとまずネキだけを対象にしていたらしい。
【ネキ】
戻ってきたら辞書はいねえし管理人は配信も観ないでなんか宇宙と交信してるみたいな表情になってる。なんなん。
【辞書】
ユーリのやつがああなったのは、俺やネキでもどうしようもない。あいつの選択と勇気、それから気力を信じるしかねえ。
だったら、俺がすべきは
アフターケアってやつだ。押しかけ往診も転生者の性ってな。