凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「俺はフミナだ。ユーリからはそう呼ばれてる。お前もそう呼んでくれ」
「フミナさん、ですか……僕はクイールです。もしかすると、知っているかもしれないですけど」
名乗った覚えはないけれど、リッカちゃんやユーリくんの知り合いだというのなら、僕のことも聞いているのかもしれない。
なんてったって、初対面の筈だった僕の悪夢を、あんな簡単に取り払ってしまったのだから。
ウサギさん改めフミナさんは、その大きな頭を揺らして頷いた。重そうだなあ、あれ。
「……まあ、そうだな。名前は知っちゃいるよ、先代勇者。イッチ――ああ、“リッカ”越しだがな」
「イッチ……?」
「気にすんな。クセになってるんだよ。こう……俺たちの習わしみたいな呼称だ」
「はぁ――」
そういえば――あの時も、そんな呼び方でリッカちゃんを呼んでいたような気もする。
もう一人の、なんだかピカピカとした女の人もそうだった。リッカちゃんのあだ名みたいなものだろうか。
何がどうなって、そんな呼ばれ方をしているのかは、想像がつかないけれど。
まあ、それはいいか。リッカちゃんは、僕の中ではリッカちゃんなのだし。
それよりもと、気を取り直す。二度と会えないと思っていたこの人とまた会えたのだ。言っておきたいことがある。
「ともかく――ありがとうございました、フミナさん。あの時、僕を助けてくれて」
「俺は力をユーリに与えただけだ。それ以上のことはしてねえよ。礼ならあいつに言え」
「なら、きっかけをユーリくんにくれてありがとう、です。フミナさんがなんと言っても、僕は感謝したかったんです――あれから、悪い夢も、ほとんど見なくなりました」
「――そうか。経過が良いなら何よりだ。良すぎる、とも言うがな。お前が勇者としてそこまで立ち直り強くなるとは、正直俺は思っていなかった」
その言い分からして、フミナさんはどうやら、随分と長く僕のことを見てくれていたらしい。
リッカちゃんと会ってからだとすれば……まあ、確かに長いか。それに、僕も段違いに成長できた自負がある。
あの頃は、使命を果たせるとは思っていても、こんなに強くなれるなんて想像は、できていなかったと思う。
「色んなことを経験しましたから。みんなとの旅の中で――最後の最後で、また躓いちゃったみたいですけど」
辺りを見渡す。フミナさんという変化は生まれたけれど、やっぱりそれ以外の変化はない。
どこまで行っても真っ白な景色に肩を竦めていると、フミナさんは喉を鳴らすように笑った。
「そういう割には、落胆してないみたいだが。まだ諦めちゃいないみたいだな」
「はい、諦めてないですよ。それは、やれることを全部やってからで良いかなって思ってます」
だってまだ、この景色を知って、歩こうとし始めた段階だ。やれることの一パーセントだって終えていない。
諦めるとしたら、ここがどこなのか、今の自分に何ができるのか、そういうことを知れるだけ知ってからでも遅くない。
……いや、そうだとしても、今更僕が諦められるとは思えないが。
「……ユーリもユーリだが、お前もお前だな。どうにも、折れるってことを知らない」
「勇者ですから」
そう、誇らしく宣言することができる。
諦めないことが一番の武器だった。だから、今もこうして、何か方法をと考えていられるのだ。
「ところで……フミナさんはどうしてここに? ここがどこか知ってますか?」
先ほど、彼は自分からここにやってきたような発言をしていた。
であれば、この場所がなんなのか知っているのではないだろうかと、手掛かりを求めて尋ねる。
フミナさんもまた、答える前に、辺りをゆっくりと見渡した。
「ここは――お前たちの世界における、一つの“最果て”だ。お前は死んだ訳じゃないが、限りなくそれに近い状態にある」
「えっと……冥界とかではなく?」
「冥界はあくまで、お前たちの世界に定義された“死後の世界”。ここは世界とその外との境界だよ。ここから一歩外に出れば、お前という個人は意味を失って、誰でもない何かになるって訳だ」
「とんでもなく危ない場所じゃないですか!?」
とりあえずどこかを目指してみよう、と歩き出そうとしていた判断は、下手したら取り返しがつかない事態になりかけていたのか。
そう考えると、途端に足が重くなる。
気軽に踏み出した足が、もしかしたら最後の一歩になるのかもしれないと。
「ここで留まった以上、お前は大丈夫だろうよ。あくまでここは概念的な空間だ。どれだけ走り回ったところで、景色は変わらないし、外にも出なければ内にも戻れない」
「……戻れないってことは、大丈夫じゃないのでは……?」
「勘が良いな」
からかっているのだろうか、この人。
目を細めて睨みつけるが、フミナさんは何でもないように流してしまう。
やっぱり、リッカちゃんの知り合いなだけあって、只者ではないようだが……こちとら必死な状況なのである。
そもそも、こうして呑気に話していて良い状況なのだろうか。今、どうなっているのだろう。
「本来な、ここは一方通行で、かつ長く留まるような場所でもない。ここに至り、そして超えられるような魂を持ったやつは、そのまま転生領域に到達して、別の世界で使命を与えられるんだ」
「転生領域って……あれ? それを知ってるってことは……フミナさんって、転生者なんですか?」
「むしろ他の何だと思ってたんだよ……」
そんなこと言われたって、転生者という存在そのものを最近知ったのだからしょうがないと思う。
ナイトラクサでの戦いが終わった夜に、初めて僕たちはその概念を知った。
それから、昨晩……楽しい夕食の中でリッカちゃんから色々と聞いて、ようやくどんなものなのかを掴めたような、掴めていないような。
まだ可能性があるのに死んでしまった人が、別の世界での役割を求められて、新たに生まれ直す……そんな存在。
彼もまたそうだったと知れば、納得もできた。
転生者だからこそ、僕の悪夢をあっという間に醒ますみたいな、不条理だってやってのけたのだ。
……そうなのだとしたら。ここが、どういう場所なのか知っているのだとしたら。
「フミナさん。今、どういう状況なんですか。みんなは、どうなっているんですか」
「……お前とユーリは現状、あの世界から“消えた”状態だ。人の身では耐えられない攻撃を受けてな。……リッカのやつは、自分の冥界を使うことでどうにか難を逃れたが、今はあいつが凌いでいる状態――まあ、このままじゃ遠からず全滅だな」
……確かに、アリスアドラから受けたあの攻撃はどうしようもなく、絶対的だった。
外装の防御なんて意味をなさなかったのだろう。そうして、守りの手段のなかった僕やユーリくんは……。
「……僕はここにいますけど、ユーリくんは?」
「あいつは、俺にもお前にもどうにもできない。戻れるかどうかは、すべてあいつ次第だ」
……助けられる状態ではない。
そのことが、少し悔しいとは思ったけれど――同時に、安堵が浮かぶ。
「――なら問題ないですね。どんな状態かは分からなくっても、ユーリくん自身に委ねられた状態なら、きっと大丈夫な筈です」
「……勇者だから、か?」
「勇者である以前に、ユーリくんですから」
危機的状況であることは確かだけれど、一つ、大きな心配は軽減された。
多分、ユーリくんだってどうにもできないことくらいある。それでも……ユーリくんが頑張ればどうにかなるものなら、心配する必要はないって、僕は信じている。
そんな風に、不安を押し込める。胸の痛みは、ひとまずなかったことにする。
ハッピーエンドに向けて、どれだけだって頑張れる。
僕が惹かれたユーリくんは、そういう人だから。
「だったら僕は――リッカちゃんたちのもとに戻りたい。そうなった以上、僕の役目はただ一つ。ユーリくんが戻ってくるまで、みんなを守って戦うことです」
「……よくもまぁ、そこまで早く割り切れるもんだ。普通はもっと悩んだりするもんだが」
「難しく考えるのは苦手なんです。それに、いま一番重視すべきは、そこでしょう?」
ユーリくんのことは信じるしかないのなら、僕はいち早く、あの場に戻るまで。
きっと、それではアリスアドラを倒しきることができない。ユーリくんが戻ってきて、それからまた、死力を尽くす必要があると思う。
だからそこまでの時間を稼ぐのだ。僕たちが望む、ハッピーエンドのために。
「戻り方を教えてください、フミナさん」
「……ちなみに、なんで俺が知ってる前提なんだ?」
「そうじゃないとフミナさんは、わざわざここに顔を見せない人だって思ったからです」
「…………分かったようなクチ利きやがって」
表情は見えないけれど、なんだか複雑そうに唸っている。
仕方ないだろう。フミナさん、とても分かりやすいのだから。
僕はユーリくんみたく他者と深くつながれる力は持っていないものの、それでも、フミナさんのお人好しっぷりはよく伝わってくる。
転生者というのは、基本的に優しい人なのかもしれない。
「はぁ……強い意志で、ひたすらに帰還を願え。ただ、ここにいることを否定し続けろ。自分はまだこの世界から放逐される存在ではないと、信念を持って走れ。そうすれば――お前の生はまだ否定されない」
大きく溜息をついたフミナさんは、やっぱり、分からないと零すことはなかった。
明かされた答えは、すなわち意志の力。どうやら、どこへ向かって走れば良いとかではないらしい。
ただ闇雲に走るだけではいけない。絶対に死んでやるもんかと、確かな心持ちでいることこそが重要というわけだ。
「いけるな?」
「いけます。みんなが諦めていないのに、僕だけこんなところで立ち止まってはいられませんから」
だから――きっと来てくれる。
手を振り上げて、僕は求めた。ここまで一緒に戦ってくれた、相棒の名を。
「来て――ブレダリオン!」
彼方が輝く。熱が近付いてくる。
眩しいとは思わない。だって、それはいつだって僕と共にある輝きなのだから。
そのあたたかさを掴み取る。聖剣は、当たり前のように手の内にあった。
「僕は、僕たちは――ハッピーエンドに辿り着く。あとほんの一歩先へ踏み出すために――その力を貸してくださいっ!」
『オーバーアップ! Q-クエスター!
限界を超える勇気が、外装を形作る。
広げた翼が
「――ちょっと待て」
「っと、どうしました? フミナさん」
思うがままに空を往こうとして、その一秒前、フミナさんが呼び止めてくる。
彼は僅かな躊躇いの後……こちらに片手を差し出してきた。
その手の平には、なにか、小さな輝きが灯っている。
小さいけれど、強く、大きい。フミナさん自身の輝きではなくて、それでも常に彼とともにあったような、同じ色の光。
「持っていけ。お前の速度なら、こいつがお前たちの世界に馴染む前に、あの場所に帰れる」
「……なんですか? これって」
「転生特典――要は、転生者が世界を救うにおいて、一つだけ持たされる理不尽だ。世界の法則にさえ喧嘩を売る、とびっきりの
……リッカちゃんの冥界。自分の空間を作る力のような。あれと同じく、フミナさんも強大な理不尽を持っていたのか。
でも、どうしてそれを渡してくるのだろうと首を傾げる僕に、彼は喉を鳴らして笑った。
「俺にはもう必要ないものだ。それに、この世界にあったところで力は発揮しない。精々、ちょっとだけ気が紛れるお守りになるくらいだろうよ」
「お守り……」
「そっちには、俺らのトップがいるんだろ? 俺の代わりに返しといてくれ」
……ああ、なるほど。
その行為の意味は分からないけれど、何をしてほしいかは分かった。
きっとそれは、イリスのする悪巧みの様子と、似ていたからなのだと思う。
なんだかんだいつも上手い結果を持ち込んでくれるその悪巧みは、確かに“お守り”だ。
僕がそれを持っていられるのは、ほんの少しの間だろうけどとこちらも苦笑を返して、その輝きを受け取った。
勇気とは決して馴染まない光だ。けれど、これを持ち帰るくらいなら、僕でもできそうだ。
「確かに受け取りました。僕からしっかり、返しておきますね」
「頼んだ――そら、さっさと行け。向こうが手遅れになる前にな」
「はいっ! 色々ありがとうございました、フミナさん! またどこかで会いましょう!」
そう言い残して、僕はその場を強く蹴った。
瞬きの前に、風になる。フミナさんの気配は、息を吐く前に遥か遠くへと消えていった。
そして――戻れる感覚を掴み取る。自分を引っ張るような“未練”に従って、風を超え、光へと近付いていく。
同じように、ユーリくんもきっと、どこかで戻る手段を掴んでいるだろう。
それよりも一足早く、僕は――あるべき世界へと。
手に入れるべき未来の一歩前へと、帰ってきた。
【転生特典】
転生領域から遣わされる転生者がそれぞれ一つ持たされる、常人を逸脱した異能。
能力の選考基準は、各領域の管理人によって異なる。希望したものを持たせてくれる管理人もいれば、完全ランダムだったり、その時の気分だったり。
リッカたちの属する第十二転生領域においては、各世界に配当できるリソースを重視した効率主義の特典選定となっている。
負荷の小さな能力であれば、次の転生の際に同じ能力を持たせてくれることもあるが、基本的にここの管理人にその手に融通は利きづらい。
そのため、掲示板に屯する周回系転生者からはもっぱら「今回の縛りプレイ内容」くらいに扱われている傾向にある。
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万が一、クロスオーバーが発生し、他の世界観に転生者が出現した場合、個々が持つ能力は対象の世界観にローカライズされた形となる。
しかし、世界の法則から逸脱し易い傾向にある転生特典は、このローカライズに不具合が生じ、正常に効果を発揮しないことも多い。
本来の持ち主が手放し、他者に委譲した場合はなおのこと、その世界における異物以上の価値は生じないだろう。