凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
それは、我をしてまったく想定外の事態であった。
絆の強い自覚による、他者の疑似精神体の出力。勇者ユーリが手に入れた、己が勇気の在り様の極致。
いつかその奇跡は、彼方のつながりさえ呼び出した。勇者ユーリだからこそ実行できた、一種の反則だった。
まさか彼女が、リッカが成し遂げるなどと。
リッカには勇者としての勇気は存在しない。勇気が齎したつながりの力も持ってない。
だが、勇者ユーリの力を込めた
同転生領域内の、別の転生者とのつながりの出力。彼方から助言を送るだけではなく、精神体によるこの世界への干渉。
■■■■・■■■――単一の世界に適応した我にはもう、詳細に認識することさえできないその転生者は、マイペースにこの戦場を荒らして去っていった。
『催眠』への
その影響は、本人が消えたにも関わらず継続している。時間制限の付いたものではあるが、到底数分で消えるものではない。
これによって、強制的な旅の終わりは、ひとまず回避された。
「悪足掻きは、ここまでかしら。必死な様子は少し面白かったけれど」
……だが、だからといって、戦況が劇的に変化するかといえば話は別だった。
外装の特異性は、我の力と拮抗する。短時間であれば、渡り合うことは出来ていた。
そこに明確なタイムリミットを設けたのは、リッカ自身の体の限界。
彼女の体は弱かった。勇者ユーリが共にいる状況であれば外装の負担も抑えられようが、今はそうではない。
体力はとうに尽きていた。それでも、執念で体を動かし続け……その無理にさえ、ついに限界が訪れた。
「まだ、まだ……!」
「その意気込みに体が追い付いていないわね。転生というのも酷なものだわぁ。健全な体さえ担保してくれないなんて」
膝をつき、全身で息を整えるリッカ。
それに向けたアリスアドラの感情は、僅かな苛立ちと憐れみだった。
満足に体が動かないリッカに対する共感と、転生領域という機構に対する怒り。その二つとがせめぎ合い、外装が軋む。
アリスアドラはリッカの外装を掴み上げると、抵抗しようのない状態の彼女に向けて、無造作に魔力を放った。
「ッあ――!」
『くっ……!?』
死に至るほどの威力ではない。しかし、戦うための力を維持するには、それは過剰だった。
凄まじい気力だったと、手放しに称賛できる。何も恥ずべき結果ではない。
それでも、行き止まりはあまりにも無情。限界を迎えた外装は、ぱらぱらと粒子になって解れていった。
「リッカ! ラフィーナ!」
同時に、リッカの手から離れた魔剣が投げ出され、ラフィーナが外へと飛び出てくる。
リッカを起こそうとするナディア。イリスティーラは駆け出そうとして自身のダメージに阻害され、リーテリヴィアに支えられる。
「でもね、次の目標を見つけてしまった以上、私はもう暇ではないの。そろそろ諦めてくれると、私としても都合が良いのだけど」
「はぁ……はぁ……ッ、断る。絶対に――諦めないっ」
その不屈は、胸を打つ。意味のない感動が、我を揺らがせる。
そう――無意味なのだ。どれだけ例外的でも、どれだけ諦めずとも、
この世界の成り立ちそのものが理不尽だった。我が降りたこと自体が過ちだった。
完成へとひた走る世界を危機と見なす機構に彼女が選ばれた時から、定まり切った結末だった。
「……どうして? 受け入れれば何もかもが叶うのよ? その苦しみを忘れられる。その痛みを忘れられる。たった一歩、踏み出すことを諦めるだけで、理想の世界が手に入るの――そろそろ気付いた方がいいわ。意地で叶うことにも、限界はあるって」
アリスアドラが疑問に思うことも、理解できる。
この抵抗は、そもそもが支離滅裂であると、冷たい我の理性は訴えている。
魔王を下して、踏み出そうとしている一歩の先。そこで手に入る幸福は、きっと実に細やかだ。どれだけ努力しても、手に入らないものだってある。
一方で、妥協を受け入れれば、すべてが叶う。どんな不条理だって覆す理想の世界が、誰しもに提供される。
個々が自分の中に抱く幸福を数値で見るならば、受け入れない道理はない。この世界の完成形は、すべてにとって最高の世界に違いない。
「つながりに意味がなくなる? ――初めから、つながりに意味なんてないのよ。だって、あらゆる生命は自分の中で生きているんだから」
「ッ……」
「けど、これからは違うの。建前という仮面はいらないわ。すべてが思い通りになるんですもの」
個々に完結した世界では、本人が望まない事象は発生しない。
他者は自身が認識し、想像した通りに動く。望まなければ、すれ違いさえ起きることはない。
誰かとの関係性において、それ以上都合の良い話はいだろう。
「ねえ……ハッピーエンドを目指しながら、何よりも尊い完全無欠のハッピーエンドを、どうして拒めるのかしら」
だが――それでも。
「――拒むに決まっているでしょうっ!」
その疑問、その絶望に心を動かされる者など、一人もいなかった。
誰よりも速く、リッカを支えるナディアが、断固として声を張る。
「わたくしたちは、理不尽に抗ってきたからこそ、今の望みを持っている! 与えられた『最高』などでは到底満足できないほどに、尊い過程を歩んできたのです!」
「でも、ナディアちゃんだって理想はあるでしょう? これから先にどう足掻こうとも、あなたの未来には、お兄さんがいないのよ?」
「ええ、いませんとも。だって兄様はしっかりと己が舞台の幕を下ろし、わたくしはその兄様に見送られたのですから。なればこそ、わたくしの未来に兄様は必要ありません――つまらない理想とやらを掲げて兄様を侮辱するな、アリスアドラッ!」
無貌の奥で、僅かに目が見開かれる。
『天骸』のオドマオズマは――いいや、ゼニス・オッドマギア・ディアネシュアは、最後は四天王ではなくナディアの兄として、その背中を押すことで……閉幕を完了した。
彼が初めから望んでいたことではないだろう。最後の戦いの始まりでさえ、そのような結末など、予期していなかったに違いない。
だが、だからこそ彼らしい、誰にも想像できない結末へと至った。彼との絆は、確かにナディアの内に在る。
――視線はイリスティーラへと向く。瞳の方向など見えていないだろうに、アリスアドラが何を言う前に、イリスティーラはすぐさま口を開いた。
「見ての通り、私も悲願を果たしたんだよ。そろそろゆっくりと、幸せを噛み締めても罰は当たらないと思うんだ――だから、早く道を開けてくれないかい?」
その手は、リーテリヴィアに重ねられている。
これもまた、諦めなかったからこそ掴み取ることができた成果だ。
過ちだらけの道のりだっただろう。決して、輝かしいといえるものではなかっただろう。
だが、この結果だけは、どこまでも輝いていた。
「……百点満点なんて、無い方が良いんですよ」
「……ラフィーナちゃん?」
そして――ラフィーナがゆっくりと起き上がりながら零した。
呆れの感情は間違いなくあるというのに、それが実に嬉しそうな、そんな苦笑を浮かべながら。
「何もかもが上手くいった、完全無欠のハッピーエンドじゃ、その先で何を感じれば良いのかきっと分からなくなるんです」
「……幸せを、感じ続けていれば良いじゃない。不満なんて何も生まれない、夢のような世界なのだから」
「…………現実にならないから、夢なんですよ。苦しい毒を少しの間、忘れられて……時の流れで、いつか覚める。
ああ――――生命とは、“生きる”というのは、そういうことだ。
完全無欠などない。力いっぱい歩んで、死に物狂いで掴み取ったからこそ、その者たちの中に、かけがえのないものとして刻まれる。
伏線もなにもない機械仕掛けの幸福は、決して無価値ではない。だが、それは一夜の夢――ふとした空想であるからこそ価値があるのだ。
「……それを……他のすべての命に押し付けるの? そう思っているのはごく一握りよ。理想のためなら、あなたたちを躊躇いなく差し出す者なんて、山のようにいるわ。そう、あなたの足を引っ張る、過去のあなたのように――!」
理解できないと、アリスアドラの声が僅かに震えた。共感の限界に、ゆっくりと首を傾げた。
そしてその、一つの“降参”を――リッカは嘲るように小さく笑った。
「共感できないなら、言葉にしてあげる。ここまで死ぬほど――ううん、死んでも頑張ってきた。知りもしない誰かのことなんて気にせずに、私たちだけが、自分たちなりのハッピーエンドを迎える権利くらいある」
その、あまりにも自分勝手な言葉に、アリスアドラは反応できなかった。
自己中心的な世界を完成させようとしながら、自己中心的な悲願への理解が及ばなかった。
我はそれを――らしくないとは思わない。
正義には映るまい。地上の人間たちに届けば非難もあろう。
けれど、その望みに誰が待ったを掛けられよう。それほどの苦難を超えて、それほどの努力を重ねてきたのだから。
「――――」
暫し言葉を失っていたアリスアドラが、何かを返そうとした次の瞬間だった。
「――――――――そ――――の――――と――――お――――り――――で――――す――――――――ッ!」
風を超える、あるいは光に近付く速度が、強い輝きを伴って彼方より飛来する。
あれは……まさか、そんなことが。
ただ戻ってきただけではない。不可能を超え、理不尽を携えて、光の矢がここに迫る――――!
「ッ、ア……!?」
パリィン、と。
何重もの硝子を砕くような快音を響かせて、アリスアドラが纏った外装が広げる左の大翼が砕け散った。
全能を叶えるもの、絶対なる世界観を象徴する、我を模した白翼。
たとえ世界が崩壊しようとも、最後の最後まで残っている筈の、不変の輝き。
そこに拳を叩きつけて粉々に破壊したきらめく勇者が、リッカたちの前に帰還した。
「クイール……!」
「ただいまです、みんな! ちょっと遠くまで飛ばされていましたが、無事帰ってきましたっ!」
本来、あり得ない事象だった。
彼女の存在は、完全にこの世界から消滅した筈だ。最早、代替となる肉体を再構築したところで、ここに舞い戻ることなど叶わないというのが道理だった。
――その結末を覆すことができるのだとすれば、たった一つ。
何が手を貸したのかなど、今起きた状況を見れば明らかだった。
「どうやって……どう、して……!? あなたまでも、得難い理想を否定したというの……!?」
衝撃から後退るアリスアドラ。その一撃は、極めて大きな一手だった。
世界観を保障するからこそ、すべてに対する優位性の証明となる翼。それを破壊するには、世界観に対し“致命的な不具合”を起こすほかない。
リッカの広げる未定義領域では不足していた。不具合ではないが、決定的に世界を終わらせ得るほどの理不尽さが足りなかった。
……なんともお人好しで、投資を躊躇わない転生者がいたものだ。
よもや、この世界における最大の
「そうですね――手に入らない夢を見ていたことは事実です。けど、僕が何より望んでいるのは、そんな未来じゃありませんから」
今なお、戦況はアリスアドラの優位にある。
片翼を奪っても、外装の能力は健在。僅かに付け入る隙が増えたというだけ。
しかし、これまでにないほど、アリスアドラは焦燥していた。理解できないとばかりに、己の頭を鷲掴み、狼狽していた。
この場の誰もが、己が共感して思い描いた理想を否定し、欠陥だらけの未来を想う。
根源が狂気に在るからこそ、彼女は、未来ある輝かしい魂たちの狂気を、理解できない。
「ッ……、ッ――――! あなたたちは……あなたたちは、なんなの!? どこまでも世界の完成を否定して、一体何を望むというの!?」
そうして――共感の怪物は。理想の世界を望んだ魔王は、己の共感を否定した。
理解できない理想の問いに、迷いを見せる者など、ここにはいなかった。
「九十九代目勇者、クイール! 大好きなみんなが誰一人欠けることなく、幸せな未来へ歩いていけることを望みます!」
一度、その旅は終わったものだと見なされた、才に溢れた少女。
しかし彼女は聖剣を携え、ここにいる。外装の仮面の向こう、その誇り高い笑みは、我にも見えた。
彼女には家族がいる。そして、この旅の中で出会った仲間がいる。
幾度もの悲劇を超えてきたからこそ、何一つ失うことは認められなかった。彼女にとってはこの先にあるものこそが、万全盤石たる理想の未来なのだ。
そうして――クイールはイリスティーラへと目を向ける。微笑み支えるリーテリヴィアに促され、仕方なしとばかりに苦笑した。
「――私はイリスティーラ。勇者たちの後見人……とでも名乗ろうかな。混沌の渦中にいるのはもう疲れたからね。ここからは、そうだな……“家庭”というものを重視してみようか」
大切なものを失い、絶望の中で禁忌に染まることを選んだエルフ。
彼女の結末は、幸福とは程遠いものになる筈だった。しかし、仲間たちはそれを許さなかった。
過去を取り戻した以上、彼女はもはや、過去を中心とした理想に興味などない。
長い混沌は晴れた。ようやく彼女は、未来に光を見ることができたのだろう。
「わたくしはナディア――ただのナディア。望むのは、友と生きる明日。もう一度生きることを許されたこの時代で、輝かしい物語を紡いでいこうと思っています」
この世界が完成へと進み始めた時、兄により命を終えた姫。
そんな彼女は、この時代で“生きる”ことを選んだ。彼女を肯定する友を得て、ようやく彼女の生は、本当の意味で始まった。
在りし日のネシュアに未練はなく、その理想は未来にしか向いていない。
きっと、彼女が紡いでいく物語は見応えあるものになるだろう。自らの生き方を選んだ者の生涯とは、輝くものなのだから。
「えっ、私も……? ――ああもう……ラフィーナ――今回の初戦試験官で、こいつらの腐れ縁です。私は別に、この先で明確な未来を望んでいる訳ではありません。ですが……こいつらだけだと何を仕出かすか心配ですからね。少なくとも暫くの間は、見守ってやらないと」
やり辛そうに、しかしそれでも、今この場で名乗るべき仲間であることは否定しなかった、若きサキュバス。
腐れ縁……ああ、そう称するのが適切だ。自身の経験していない過去を押し付けられたことが、その始まりだった。
幾度もの戦いを支えてきたことで、そこには明確な絆が生まれている。
その居心地の良さというものを、彼女もまた、手放したくないのだろう。
ふらつきながらも、彼女はナディアに支えられたリッカのもとまで歩くと、強気に笑って背中を押す。
リッカは何も言わず――小さく頷いた。
「……転生者、リッカ。あなたを倒せば、やっと私も気を抜ける。やるべきことも、やりたいことも、ゆっくりと探す。そういう時間は、たっぷりとある筈だから」
そうして、アリスアドラにそれ以上啖呵を切ることもなく、リッカは口を閉じた。
彼女らしくないとアリスアドラは、その様子を怪訝に思う。
言うまでもない――リッカも、そして代わって口を開かない皆も、信じているのだ。
言葉を結ぶべき仲間は、他にいるということを。
「――――――――――――――――ッ!」
突如として、アリスアドラが崩れ落ちる。
ダメージを受けた訳ではない。しかし確かにその瞬間、絶対的な力が喪失した。
きっとこの場で何が起きたのか理解できたのは、行った当事者と、我だけ。
それは我にはいささか信じ難い偉業で――それでいて、どこかで納得のできる蛮行だった。
そうか――そこまでか。彼はそこまでできたのか。
外装を纏わず、変わらない姿のまま。力強く握っていた右手の“魔剣”を模した半透明な剣は、ここに来て役割を終えたように崩れ去っていく。
クイールとは異なるかたち。遥かに険しく、苦難に満ちた、絶望さえ温い道を超えて、彼はその場に帰ってきた。
目を開く。リッカと視線を交わして、闇の中にあった瞳に再び光が灯る。
誰も何も聞くことはしなかった。
語ることがあるならば、明日で構わない。これから先、いくらでも時間がある。
リッカは目を細めて微笑むと、ナディアから離れて歩いていった。
「――百代目勇者、ユーリ。魔王を倒し、使命を終わらせたその先で、希望に満ちた理想の世界を紡いでいく――」
剣を構えるクイールの隣で、リッカはユーリに右の指輪を返す。
そして、二人はその拳を合わせた。
「それが僕たち――――ハッピーエンド同盟だ!」
『インフィニティリンク!』
『エタニティリンク!』
『トランスコード! イグニッション!』
指輪の輝きが交わされる。今、この場に何よりも相応しい、未来を照らす輝きだった。
『オールリンク!』
かれらの名は、ハッピーエンド同盟。
誰に用意されたものでもない、自分たちだからこそ至ることのできる理想に向けて、長い道のりを歩んできた者たち。
その運命の集大成。未知の先へと踏み出すための――今度こそ、最後の戦いへ。
『パーフェクトユニゾン! ビー・ウィズ・U-リッカ!』
そうだ――あと少しだ。
我にそのような権利がないのだとしても、どうかこの想いを抱かせてほしい。
――頑張れ、と。
――負けるな、と。
――自由な世界に反逆し、真の自由を掴み取るんだ、と!