凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
その後は完結まで走り切りたいところですね。
白い空間に、僕はいた。
今度はその場所はどこだろうと疑問は持たなかった。
ここに来るのは、これで三度目だ。
どこまで続くか分からない。しかし、永遠に続くのではないかと錯覚させる、景色の変わらない無限の白。
――転生領域。
リッカが僕たちの世界に来る理由となった場所。
しかし、疑問はなくとも違和感はあった。
これまでと違って、この空間にいることによる僕自身の異物感がない。
たとえるならばそれは――この空間に、僕が受け入れられたような。
「――ようこそ。数奇なる運命によって迷い出た、勇気ある者」
そして、その感覚とともに、もう一つ無視せずにはいられないもの。
目の前に立つ、金の髪を伸ばす全能者。
先ほど目にした姿と異なるのは、背中から伸びる翼が周囲の白に溶けて、まるで空間全域に広がっているように思えること。
慈愛に満ちた笑みはそのまま。しかしそこには、僅かな申し訳なさが滲み出ている。
「……魔王……じゃなくて、大女神、アズ――?」
「はい――我はアズ。すべての世界の狭間たる、この転生領域を統べている者です」
僕たちの世界に下りた一端ではなく、本体そのもの。
敵対するという考えさえ浮かばない絶対的な存在。小さな体躯ながら、秘めた存在感は計り知れないものだった。
「まずは、謝罪を。あなたの世界に起きたことは、報告を受けています。単一の世界を庇護することを選んだ我が、よもや魔王に堕ちるとは……本当に、ごめんなさい」
「いいよ。正直、何があったのはよく理解できなかったけど、キミが悪くないのは知ってる」
「…………ふふ。キミ、ですか。なんとも新鮮で、純粋な心根です。最頻文化からではない賓客とは、こういうものでしたね」
「……?」
僕の態度に何かを思ったのか、大女神アズは心地良さそうに微笑んだ。
悪く思っていないことには安堵するが……なんだろう。
その反応だけで、その存在感とは不相応の儚さを感じた気がする。
「なんでもありません。さて……あなたは今、何が起きているかを自覚していますか? あなたがどうして、この場にいるのか」
「うん――僕はリッカたちと、戦っていた筈なんだ。なのに、どうしてここに……」
その笑みを仕舞って、大女神アズは僕の疑問に答えてくる。
「あなたは、あの世界からの存在否定を受けたのです。結果、肉体ごと世界から弾き出されて、魂の輝きの強さから、ここに招かれた――いわば、転生者としての素質があなたをここに連れてきました」
「転生者としての……ッ――? つまり僕は、死んだってこと?」
「事実上、そうなります」
目を伏せる彼女の肯定は、静かなゲームオーバーの宣言だった。
そんなことは認められないと、僕は大女神アズに詰め寄る。
「待ってよ、僕は死ぬわけにはいかないんだ! みんなとハッピーエンドを迎えるって約束したんだ! ――まさか、リッカも……!」
「転生者ですね。彼女は無事です。あなたの世界で、今も戦っています。あなたの帰還を信じて」
その言葉にひとまず安堵するも、僕の置かれた状況は変わらない。
リッカが待っているというのなら、僕がいつまでもここにいる訳にはいかないのだ。
「本来ならば、あなたには、この領域に定められた法則に則る選択肢が与えられます。すなわち、他の世界への転生か、元の世界での永遠なる眠りか」
「……どっちも嫌だ。他の世界には行けない。それに、死ぬのだって、今じゃない」
「……そう言いますよね。はぁ……リーンにまた怒られるなぁ」
「え……?」
「なんでもありません。独り言です。気にしないでください」
何かを憂いていたかと思えば、たちまち彼女は空間が軋むような笑みを浮かべてきた。
幸い、僕自身にその圧は降りかかってきていないが……辺りに罅が入っているような気がする。大丈夫なのだろうか。
……いや、それはともかく、提示された選択肢、そのどちらも僕は受け入れることはできない。
そんな意思をもって――目を細める彼女に、この決意は譲らないと向き合う。
「……あなたのいる世界に、我は多大な迷惑をかけてしまいました。そのお詫びに、たった一度だけ、特例を許可します」
「……それって」
「ええ――望むなら、このままあなたを元の世界、元の時間軸へと戻しましょう」
もしかすると彼女も、僕たちの世界に落ちた彼女のように、融通の利かない一面があるのかもしれないと警戒して。
しかし、あっさりと大女神アズは僕の帰還を許可した。
本体であるらしい彼女には、僕のつながりの力さえ及ばないものの、その態度が何よりも、虚偽ではないと物語っている。
「無論、あなたに負担は掛けません。あなたを許容するための空白は、我が開きます」
ひとまず、あの場所に戻ることは叶うかもしれないと安堵して、その直後、彼女の言葉に引っかかりを覚えた。
まるで、現状では帰還の条件が整っていないと言っているかのようだった。
「空白……?」
「あなたの世界は完成に限りなく近付き、今まさに閉じられようとしているのです。そうなれば、もはや対応不可能な災厄は存在しなくなり、転生領域から干渉不可能な世界となります」
「……世界が完成すると、そんなことも起きるんだね」
「きっと、あの世界に下りた我はそれも見越して今に至るまで世界を導いたのでしょう。そして、記録は十分なまでに集められ、以降転生者にさえ邪魔されない“理想の世界”が生まれるのです」
報告を受けたと言っていたが――どうやらそれ以上に、彼女は僕たちの世界のことを理解しているらしい。
世界の完成が成立していまえば、もうリッカのような転生者さえやってこない。
永遠に、アリスアドラが至上とする世界は終わらないということだ。
「あの世界はもう、放逐したあなたさえ許容しようとしません。ゆえに、完成の要因を削除することで、あなたのいた時間軸におけるあなたの存在を許容できるほどの空白を保障します」
「完成の、要因……そうか。“それ”を削除すれば、元のあの場所に戻れるんだね?」
大女神アズが何をしようとしているのかは、少しだけ分かった。
きっとそれは、僕にとって――そして、ある意味ではリッカにとっても、望外の所業なのだろう。
彼女からすれば、僕たちの世界で起きた出来事とは、それほどまでに“容易い”出来事だということだ。
……そんな、僅かな不満。そして同時に自覚する、小さな責任感。
一度知ってしまえば、それを無視することなんて出来なかった。
「……ねえ、大女神アズ」
「なんでしょうか」
「……キミがやろうとしていたこと……それを――――」
それは、無限を錯覚するほどの夢だった。
決して無限ではなくとも、その限りがどこにあるのかを測り知ることさえできない、延々と続く真っ暗な旅路。
ほんの数分前までそこにいたことを――こうして戻ってきてから回想すると、冗談のように感じてしまう。
けれど、それは現実。僕はこうして、今ここに、リッカとともにいる。
「……ユーリ、くん……あなたまで……! 一体、どうやって戻ってきたの……?」
「戻るために必要なことを全部終わらせた。それだけだよ」
リッカと一つになっているという実感。
ほんの少し前だったような、遥か懐かしいような、その感覚を噛み締めながら答える。
外装の片翼を失ったアリスアドラ。彼女は、今でもきっと、総合力で僕たちに勝る最大の敵だ。
そう――最大の敵。そうでなければならない、すべての元凶だ。
「キミの理想の世界は、僕たちの未来にはいらない。そして、キミを放置していれば、キミはきっと諦めない」
「……そうね。なら、分かっているでしょう? 私は私の理想のために、あなたたちに受け入れてもらうの」
「その時は来ないよ。僕たちは僕たちのために、キミのすべてを否定する」
ざわり、とアリスアドラの殺気が広がっていく。
これは互いの意地を通す戦いだ。これは互いを否定する戦いだ。これは互いの未来を奪う戦いだ。
これ以上、彼女に良いようにはさせない。
僕たちが笑っていられる、穏やかな明日を手に入れるために。
「さあ、最後の戦いだ。リッカ、クイール――ハッピーエンドを勝ち取ろう!」
魔剣を手に取る。相当に無理をしたのだろう、もうラフィーナもこの中で僕たちを支援することは難しい。
だからといって、三人での戦いという訳ではない。
意識するまでもないほどの、絶大な信頼が、後ろから僕たちの背中を押してくれているのだから。
「ん――行こう、二人とも……!」
「はい! ここからの僕たちは――無限大ですっ!」
足に力を込める。魔力の高まりをそのまま爆発させて、加速を実現させる。
「いいえ――あなたたちは勝てない。あなたたちのハッピーエンドは、私によって齎されるのっ!」
突き出した拳が、アリスアドラの拳とぶつかり合う。
周囲に弾ける魔力の奔流を、リッカが冥界の力を利用した結界で抑え込み、後方のみんなが巻き込まれることを防ぐ。
僕たちが次の動きへと移行する間隙。
アリスアドラは瞬時に次の構えへと移行していて――
「なっ……!?」
それよりも
衝撃を逃がすための後退が完了するまでに、さらに四度。聖剣はアリスアドラの外装を斬りつけた。
そして、五度目の寸前、放たれた反撃の魔力をリッカがクイールの前に展開した障壁で防ぎ切り、僕たちは目の前に踏み込んで――その障壁から飛び出す。
不意打ちに、アリスアドラは対処できない。
振るった魔剣の刃は聖剣の傷を真っ直ぐと駆け抜けて、その周囲までもを削り取った。
「ッ、調子に乗って……!」
だが、アリスアドラにも諦めはない。
砕けた翼の根本から、どす黒く蠢く泥のような魔力を噴き出したかと思えば、それを束ねて異形の翼へと仕立て上げていく。
その翼が爆ぜたと思えば、飛沫の一粒一粒が触手の如く広がった。
「……ユーリ、全部躱すよ」
「わかった――!」
時が引き延ばされる。一秒が十倍に、それ以上になっていく。
先を行くクイールと同じ道は駆けられない。外装が素早く導き出した、針の穴を通るような経路に、最短経路で突っ込んでいく。
クイールは振り返らない。
言うまでもなく、この程度、僕たちが乗り越えられない訳がないと信じているから。
百、二百、三百と乱撃を抜けて、さらにもう一歩前へ、聖剣を引いて構えるクイールは、すぐ隣にいた。
「今だっ!」
「やああああああああ――――!」
「ぐ、ぅう……!」
同時に突き出された二つの剣が、外装を軋ませる。
後退る彼女は、無貌の仮面でさえ隠せないほどの動揺に満ちていた。
「何が、起きているの……私の世界の上で、私が劣る筈がないのに……っ!」
それが当然の認識だ。
魔王となったアズの力を取り込んだあの外装は、世界の完成をそのまま力へと変換する。
世界が完成へと近付くほど、その力は万能なものとなる。事実、反則を駆使しなければ抗うことができなかった。
リッカもクイールも、ここに至るまでに“何か”を使ったのだろう。この世界における、なんらかの想定外を。
そして、それは僕もまた同じ。
――僕がやらなければならないことが、あったから。
「気付いていないの? ――もうここは、キミの世界じゃない」
「なん、ですって……? ――――――――ッ!?」
僕の言葉でようやく、彼女は自身の力の由来を参照したようだ。
彼女は完成に近付く世界を過信しすぎた。当然だ、起きたことなど、本来否定できないのだから。
そんなことができるとすれば、まさに奇跡。理不尽としか言いようがない。
「完成の証明……記録が、ない……!? どうしてっ!? 積み上げてきた記録は、どこに行ったの……ッ!?」
「……キミがやろうとしていたこと……それを、僕にやらせてほしい」
「……、……何を言っているのか、理解しているのですか?」
「わかってるよ。リッカが……他の勇者が、積み上げていった結末、その瞬間を全部否定するってことでしょ?」
「言葉にするだけならば簡単でしょう。ですがそれは、およそ独りの人間に託せるものではありません――良いですか? 世界の完全性の否定など、転生者でさえ不足する事業なのです」
「それでも、僕がすべきことなんだ。最後の勇者である僕が――リッカのための勇者である僕が。僕が……僕たちの未来のために、世界の完成を否定しないといけないんだ」
「お願いです。我に託してください。数多の絶望を目にする必要などないのです。あなたはあなたの戦いを終えて、明るい未来に歩み出せば、それで良い」
「駄目だよ――僕たちの世界のことは、僕たちに任せて。確かに、あの世界に戻るためにはキミの力を借りないといけないみたいだけど……あの世界を正すことは、僕たちの役目だ」
「……」
「……」
「…………本当に、限りある命の輝きというものは……そうであれば、我にできるのは、その旅路への称賛だけです。あなたが動けなくなってしまった時、その魂に安らぎを与えることだけです」
「そうならないから、安心してよ。今までだって、諦めたくなることなんて一度もなかった。……僕は諦められない――きっと、そういう性格なんだろうね」
「……ふふ……では、それを最後まで、応援させてください。すべての理不尽を否定して、あなたたちの最後の敵に、理不尽を叩きつけてやるのです」
――――ああ、これだけ。行く前に、伝えさせてください。
――――行ってらっしゃい。がんばれ、勇者――ユーリ。
――記録は全部、否定しきった。
いつかの勇者の結末。
リッカのいつかの結末。
それはもう、ここに残る“記憶”でしかない。
未来に生きていく上で、ずっと残り続けるもの。あるいは、いつか幸せの内に薄れていくもの。
それ以上でも、それ以下でもない。
「キミが望む世界を作るための材料は、一つ残らず“記録”じゃなくなった」
いったいどれほど続けてきたかわからない、意識を断つことの許されなかった、世界を正すための旅。
名前も知らない勇者の結末を否定した。その先がどうなるかもわからないまま、“次”へと旅立った。
リッカの絶望を断った。呆然とするリッカや、いつかの僕を残して、“次”へと旅立った。
“次”へと旅立った。“次”へと旅立った。“次”へと旅立った。“次”へと旅立った。
“次”へと旅立った。“次”へと旅立った。“次”へと旅立った。“次”へと旅立った。
そんな旅路の中で、いつしか思いついて、戻ってきたら伝えてやろうと決めていた言葉を。
呆然と立つアリスアドラに、僕は告げる。
「――――キミが共感していたリッカの残響は、僕が全部救った。だからもう、リッカに付き纏わないでいいよ、アリスアドラ」