凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
聖都に辿り着いた翌日。イリスティーラの工房の場所を特定するのに時間は掛からなかった。
何をしたかといえば、街を回りつつ、昨日出会った子供たちに聞いてみただけ。
結局、ルークの忠告は聞かず昨日も工房を訪れていたらしい。
そこは、高い柵に囲まれた敷地であった。
不自然なまでに周囲の建物は距離が離れており、聖都の中でそこだけ、異質な雰囲気を醸し出している。
どうにも不気味に感じる。確かに、肝試しの舞台と言われれば納得できる。
柵の中には建物はない。草木が伸び放題になっているだけだ。
外からはそう見えるだけ――正しい入り口から内部に侵入することで、初めてそれは姿を現す、のだったか。
「これ、だよね」
「……変な仕掛け」
そうリッカが吐き捨てるのも仕方ない。
これ見よがしな門ではなく、反対側の柵に開いている穴。
絶妙に目立たない位置にある、大人が入るとなれば少し苦労するようなそれが、正しい入り口。
門はそもそも開くように出来ていないという辺り、性質の悪さが感じられる。
子供たちもいつも、ここから入っているらしい。罠を疑い、いつでも魔法を発動できる状態で――慎重にそこをくぐる。
次の瞬間景色が切り替わり、外の建物よりやや古さが目立つ、大きな館が現れた。
「……柵の術式はダミー……? 中の敷地が騙すようになってるってこと……陰湿」
魔法を使う身としての興味なのか、僕に続いて中に入ってきたリッカは柵と地面とを見比べつつ、ぶつぶつ呟いている。
悪口も零れているが、少しだけ昔らしいリッカになんとなく嬉しくなる。
敵意も恐れもなく、目の前のことに打ち込む、僕やカルラを驚かせる直前のリッカを僅かにそこに見た。
とはいえ、それはあくまで魔族が用意した術式。すぐに見るのをやめてしまったが。
「いいの?」
「いい。旅に役立つ構築じゃない」
ひとまず結論は出したようで、リッカの視線もまた館に向く。
この館そのものの扉は……普通に信じて良いものだろうか。それを聞いていなかった。
窓という窓はカーテンで閉め切られており、中を窺うことはできない――たった一つを除いて。
「……?」
二階の隅、ほんの少しだけ開かれたカーテンの向こう。
古びた館の外観からひどく目立つ、丸い黄金が目に入った。
その誰かと目が合うとすぐさまカーテンがぴしゃりと閉められる。
イリスティーラと似た色の目であった。本人か、そうでなければ客人か同居人か。
どちらにせよ、リッカと話してまずは扉を叩いてみようかという結論に至り近付いた時、扉は向こうから開いた。
「――やあやあやあ。訪ねてくれてもとは言ったが、本当に来るとは。ようこそ勇者一行、イリスティーラの工房へ」
顔を出した少女を見てみれば、やはり他のエルフとは違う銀灰の髪に黒い肌。
当然ながら家の中であの分厚い作業服もゴーグルも身につけていないようで、代わりに白衣に黒縁の眼鏡を着け、より“医者の真似事”らしくなっていた。
「どんな用事で……ってのは中で聞こうか。立ち話もなんだしね。入っておいで――解析が攻撃的すぎないかリッカくん」
「名前を呼ばないで」
「っと、そうだった。防衛魔法を山ほど仕込んであるからね、叩き起こさないように注意したまえよ」
罠がないか徹底的に調べているらしいリッカにイリスティーラは苦笑した。実際罠はあるらしい。
警戒からか、リッカがよりくっついてきた状態で、館の中へと入る。
現在進行形でカルラの杖はほのかな光を放ち、何らかの魔法を行使している。
それにチラチラと目を向けつつ先導するイリスティーラ。
……もしかして、彼女の方がリッカの不意打ちの可能性で危険ではないかと、ふと思った。
館の内部は外観とはまったく違った。
飾り気はなく、大小さまざまな木箱が雑多に積まれ、それでいて埃は見られない妙な小綺麗さ。
イリスティーラの性質を体現したような内装を見渡しながら付いていけば、応接間らしき部屋に案内される。
先んじてソファに腰掛け、イリスティーラは反対側を指した。
「さて、適当に座るといい。お茶は」
「いらない」
「――仲良くなれそうなんだがなぁ、キミと私」
今のところのイリスティーラの印象が“何をするか分からない者”であるという点から、僕もそう思うところがあるが口にしないでおく。
二年ほど前のリッカであれば、もしかしたらがあったかもしれないのだが。
「まずはお疲れ様。ようこそ聖都へ。どうだい? 魔族が人間の生存圏で当たり前に過ごしている光景は」
とりあえず彼女に従ってソファに座る。
その歪んだ輝きの瞳には、聖都を好ましいものだと思う感情は見られない。
もしも、素晴らしいものだと感じているのならば――彼女はそれを問わないだろう。
かといって、僕が彼女の望む答えを返すという訳ではないのだが。
「……ここまで大きい街で共存しているのは、驚いたよ。僕たちの村には、魔族は一人しかいなかったから」
魔族との共存について、今ある以上のものを思い描くことは、今の僕には出来ない。
勇者としての使命を果たせた時、その先で課題となってくるであろうことは想像できる。
何をされてもおかしくない存在であるという知識をイリスティーラから教えられた一方で、僕が最も知る魔族というのはリッカと同等に信頼している幼馴染なのだ。
「……村に魔族がいるのかい?」
「うん。旅に連れてくることは出来なかったけど」
「まあ、それは正解だが……ふむ……いや、いいか。試練については、聞いてきたかい?」
怪訝な表情をリッカに向けていたイリスティーラだが、言うべきでないと判断したようで疑問を呑み込む。
変えた話題は、僕たちの尋ねたかった事柄だった。
「聞いてきた。その上で、キミに聞きたかった。先代の勇者が、どうやって試練を突破したか、知っていたら教えてほしい」
「なるほど。リーテリヴィアや騎士たちは口を割るまいさ。情報を得るなら私だと判断した訳だ。もちろん、知っているとも」
うんうんと頷くイリスティーラ。
その様子に感じた手ごたえは、すぐに霧散する。
「……だが、教えても多分、参考にはならないよ」
「え?」
「言っただろう。才能の怪物だって。彼女はリーテリヴィアが最も望み、最もあり得ないと考えていた方法で試練を突破した――即ち、真っ向勝負だよ」
「――――っ」
「叩きのめされては起き上がり、その剣術を吸収すること五十分。無理やりリーテリヴィアの懐に飛び込んで、剣の腹で彼の鎧をぶっ叩いて見せた。当然傷なんて付きやしないが、一撃は一撃だ。彼女はたった一人で、人間の可能性をリーテリヴィアに見せつけたのさ」
……参考にならないとは言っていたが、ここまでだとは思っていなかった。
リッカと顔を見合わせる。珍しく不機嫌以上に、困惑があった。
まるで役に立たないという感情よりも、意味が分からないという感情の方が勝っている、そんな顔だ。
「……本当に人間?」
「人間なんだよね、生意気なことに。キミらはそういうタイプでもないだろう……例の魔法ならもしかしたらがあるかもしれないが」
リッカの魔法ならば、或いは。
既にリーテリヴィアにはオリヴィエからあの魔法のことが伝わっているだろう。
彼も、あの魔法を使って戦うことは恐らく想定している。正面から挑んだとして、通用するだろうか。
「……ま、無理かな。思うに、スペックはともかく、コンセプトが真正面から戦うものじゃないし」
相手の本領で戦う必要はない。リーテリヴィアの本領とは即ち、決闘という方式なのだろう。
真正面からどのように挑んでも、攻撃が届くビジョンが浮かばない。
「あの二つだけかい? スーツの形態は」
「その筈だけど……そうだよね、リッカ」
「……」
「秘密主義だね、キミ」
リッカは今後も多くの相手に対応できるよう、形態を増やしていきたいとは言っていた。
それらを状況に応じて使い分けるのが、僕たちのスタイルだといえる。
とはいえ、一口に“新しい形態”とはいっても、それを簡単に作れるわけではないだろう。
リッカを急かすことは出来ない。今の選択肢を使いこなすことが、僕の最大のリッカへの礼になる。
「ともかく、キミたちらしく、なんだろう? 先代の真似事なんてするものでも――」
ガチャリ、と。その時部屋の扉が三分の一ほど開く。
イリスティーラが言葉を止める。扉に呼び掛けるのは、リッカに視線を向けてからだった。
「入っておいで、ホープ」
「……」
その言葉で扉の向こうから顔を覗かせ、こちらを警戒するようにじっと見ながら、部屋に入ってくる、まだ十歳前後に見える少女。
イリスティーラのソファに駆けていき、隣にくっついて座る少女は、見た目からして“人ではない”と分かる。
だが、それと同時に、雰囲気には“人らしさ”があった。
肩までの金の髪以上に目立つ、額から生えた二本の“触角”。
黄金色の光沢を持った触角は足下まで伸びており、ぴくぴくと動いてはイリスティーラの足を撫でている。
“魔族らしさ”は触角のみではない。
触角と同じく光沢を持つ、節の分かれた右腕と両足。左腕のみが人間なのが、魔族とも違う異質さを感じさせる。
そして、背中には翅。皺が付かないようにか、イリスティーラが座るときに伸ばしていた。
黄金の目はじっと、こちらを見つめている。この目は――さっき、窓の中から覗いていた目だ。髪よりも深いその色は、目を合わせていれば沈んでしまいそうなほどだった。
「……イリス。この人、勇者」
「そうだね、勇者だ。世界を変えてしまうかもしれない人間だよ」
「……勇者……わたしの、パパ?」
「――――!?」
その発言よりも物凄い勢いで此方に振り返ってきたリッカの方に驚いた。
あまりに鬼気迫る表情に、とりあえず“何も知らない”“覚えがない”と全力で首を横に振っておく。
「違うよ。もしそうだったらあらゆる劇毒で歓迎……こほん、なんでもない。ともかく、この人間はキミのパパじゃあないさ」
物凄いことを口走っているが、そんなことを思わせない慈愛の表情。
二人は似ても似つかない。
しかし、まるでそれは、母と娘のようだった。
「じゃあ……ママ」
「女性に見えるかい? ……まあ、うん……うん。彼は正真正銘、男性だよ。キミのママならもっと大人になっているだろうしね」
……なんだろう。彼女たちのまったく意図していないところで、傷付いた気がする。
迷いを見せることなく、即座に否定してほしかった。
「……“それ”、何?」
僕に代わって、リッカの不機嫌な問い。
人ではない。だが、魔族でもない。
その不思議な少女に向けた感情を決めかねているリッカを一瞥したイリスティーラは、少女の頭を撫でながら答える。
「……それと呼ぶのはやめてくれたまえ。うちで預かっている娘でね。名前をホープ。私の……そう、腐れ縁の忘れ形見さ」
――まったく、いつ顔を出しに戻ってくるんだか。
そう零すイリスティーラの表情はどうしようもなく寂しげで。
ホープという名の、“少なくとも半分は人間”である少女がどういう存在なのか、それだけで伝わってきた。
今のイリスティーラにとっては、この世界の誰よりも、大切な子なのだろう。