凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
その宣言を、アリスアドラは呆然と聞いていた。
受け入れるというよりは、ただ、耳に入れることしかできていないようだった。
「…………壊した、ですって? 世界の完成のための、数多の結末を?」
「そうだ。確かにその果ての結果はここにある。でも――この千年間で蓄積された記録は、もう存在しない」
「……そう……無駄死ににしたのね。数多の後悔、そのすべてを。なんて、自己中心的な……」
「キミがいなきゃ、そんな結末だって存在しなかった。キミの感傷だって、勝手な解釈じゃないか」
アリスアドラの解釈は、都合の良いものだったが、間違ったことでもない。
僕は否定した。過去の勇者たちの足掻き、リッカの失敗、そういったものを――世界の完成に必要なものとしての役割から脱却させた。
その計画は、何にもなれなかったものに価値を創っていたのかもしれない。それでも、僕は躊躇わなかった。
「数えきれないほどの苦しみがあった。“未来”につながるよりも、“
ここに至るまでの多くの結末が変わった訳じゃない。
僕がやったことは、ここにつながる無数の“もしも”を断っただけ。
あるいは、かれらはその後も勇者として旅を続け、どこか道半ばで折れたのかもしれない。
それでも――僅かに生き永らえて、集積されるべき結末だけは免れた。自分の終わりが、元凶たる存在に利用されることはなくなった。
「僕が信じるのは、そっちの方だ。だから否定した――生きるために。自分たちの、正しい未来を掴むために」
「――――」
これでもう、アリスアドラが理想の世界を完成させることはなくなった。
そのための材料は存在しない。積み上げた記録はゼロに戻った。
あとは僕たちの番――僕たちがあと一歩先へ踏み出すための、最後の障害として、彼女を完全に倒すだけ。
「…………ご馳走を目の前で引っ繰り返されるって、こういうことかしら。さすがに少し……イラっときたわねぇ」
首をゆっくりと傾げながら、その翼が、軋むように震えた。
その動きは不自然で、苛立ちという感情に慣れていないかのようだった。
「信頼、絆、誰かとのつながり……そういうもので、何度も何度も私を否定する。……嫌気がさしてくるわ。ユーリくん――今知ったのだけど……私、あなたが嫌いみたい。だって、あなたのこと、少しも理解できないんだもの」
「――僕もだよ。僕には、キミの共感が一生かかっても理解できそうにない」
「ああ……それなら、理解できないもの同士、未来のために……お互いを排除しないといけないわよねぇ――!」
そして、その感情が一気にぶつけられる。
苛立ちが殺意へと変わり、それから遅れて強烈な害意が満ちる。
踏み込んできたアリスアドラを受け止めたのは、クイールだった。
「ユーリくんを排除されたら困るんですよ――僕たちのハッピーエンドは、みんな揃ってあなたを倒した先にあるんですから!」
「それしか幸せを思い描けないのが、あなたたちの限界よ――もっとあなたたちは、欲張っていいの!」
放射された魔力でクイールを吹き飛ばし、突き出された拳を魔剣で受け止める。
素早く体勢を整えたクイールは背後から迫るが――砕けた跡から伸びる黒い翼が手のように広がり、聖剣に組み付いた。
「なんでも手に入る! なんでも叶う! どんな恋もどんな幸福も思いのまま! 思い描く未来があるのなら、私の世界でそれを望めばいいだけなのに!」
「だから――それを押し付けられるのが嫌なんだ! 僕たちは十分……我儘に、欲張っているつもりだよ!」
「そもそも……あなたの理想は途絶えたはず。もう、ユーリが壊した記録は戻らない。大人しく諦めて、私たちに倒されてっ」
「――――フフ」
何がおかしいのか、リッカの言葉に対して零された笑い。
無貌の面の奥から狂気が漏れた。それは断じて、自暴自棄になったというものではない。
まだ――彼女は諦めていない。潰えた筈の理想の世界は、彼女の中では終わったものになってはいない――!
「――やり直せばいいでしょう!? もう一度、一から集め直すのっ!」
「ッ……!?」
「勇者のシステムはこれからも続く! 代わりなんて、いくらでも造り直せる! 魔王が齎した力は、私の中にあるのだから!」
完全に機構の仕組みそのものが消え去った訳ではない。
目の前にまで完成が迫っていたその進捗率を、ゼロに戻しただけ。
器は空っぽになったけれど、その器をまた満たすことは――途方もない年月をかければ不可能ではない。
アリスアドラはその判断を躊躇わなかった。遥か遠くに離れてしまった理想の成就を、今のなお、確かに見据えている。
「ああ、でも……また繰り返してもらおうにも、リッカちゃんがもう使い物にならないわねぇ! だったら、また別の人間を使うしかないかしら! 次の勇者の傍にいる人間なら、誰でもいいわぁ!」
「……正気で言ってるんですか!?」
「いいえ――正気なんて私にはないわ! 最初から、狂ってるんだものッ!」
もう、共感できる“いつか”のリッカがいないならと、アリスアドラは孤立を選んだ。
どこまでも独善的な結末を、貫き通すことを選んだ。
彼女の纏う淫気が歪み、澱んでいく。そして、その手に灯っているのは、無数の属性が綯い交ぜになった魔力塊。
アリスアドラ自身が本来放っていたものとはまた違う、芯まで冷たくなるような気配――あれは、バルハラのものだ。
「さあ、役目の終わった勇者たちには、そろそろご退場願いましょう!」
その圧は、これまでとは違う。
僕たちに対する共感を捨て去り、完全に自己を閉ざしたアリスアドラは、僕たちの排除へと舵を切った。
きっと、自覚した力ではあったのだろう。だが、それを使うべきではないという自覚も、ここまでのアリスアドラには存在していたのだ。
理想の世界を目指す以上邪魔にしかならない――僕たちを大敵として見なしたアリスアドラの害意の象徴は、辺りを混沌に塗り潰して余りある力を持っていた。
「二人ともっ!」
「大丈夫――防ぐ手段はあるよね、ユーリ」
「うん――きっと」
他人任せを卑下などしない。向こうから伸ばしてくれる手があるのなら、僕はそれを握り返す。
この世界における反則の極致。おぞましい混沌は理解し得るものではないけれど、そこに理解を持つ知己なら存在する。
解放されようとする力に向けて、突き出した手の指輪を輝かせる。
事態を打開し得ると主張する絆への、心からの信頼を抱きながら――――!
『ノースコード! アクセプション!』
彼方とつながる。極彩色の混じった、黒い翼が広げられる。
硝子の導師――導く翼。バルハラに近しき未明の魔族が、決戦の舞台に顕現する。
「力を貸して、ベガっ!」
「――ええ、かしこまりました」
岩のような肌と、星空の翼。
バルハラの従者たる彼女は、既にその翼に、寒気のするような混沌を纏わせている。
彼女のみの力ではない――それは、彼女たちの根本から、預けられている力のように感じた。
「主を危機から救ってくださった恩義、ここに返します。そして、あなたたちを理想の先へ、導きましょう――!」
アリスアドラが放とうとした魔力塊に、ベガの羽ばたきによって巻き起こされた風が叩きつけられる。
罅が入り、砂のように散っていく混沌の欠片。
相殺された二つの力は、この場にそれ以上の影響を与えることなく、霧散していった。
「ベガ、あなた……!」
「久しいですね、“可愛いアリス”。相変わらず、狂気の赴くままに狂っているようで何よりです」
「誰のせいだと――バルハラが私を、そう造ったんじゃないのっ!」
空へと羽ばたくベガを追い、翼を広げようとするアリスアドラ。
その、隙だらけの背中へと――クイールが聖剣を突き立てる。
「ッ、鬱陶しいわねぇ……!」
「勇者ですから! 当然ですっ!」
迎撃に備えて素早く離れ、僕たちの後方に下がったクイールを援護する。
そうしている間にも、ベガの体は透き通り、夜に溶けるように消えていった。
「ああ、そう――勇者の力、絆の力……ッ! なら、そのご立派な力で、防いでみなさいっ!」
苛立ち交じりの叫びとともに、アリスアドラが手を掲げたと思えば、次の瞬間満天の星空に嵐が吹いた。
全能にほど近いからこそ叶う、直上への魔力の瞬間充填。
周囲一帯の魔力を根こそぎ集めた、純粋な暴力が顕現した。
この辺りのすべてを吹き飛ばして余りある力。だとしても――恐れることはない。
ほんの少し不安だが――任せろと主張してくる、一つの絆があるのだから。
『クラウンコード! アクセプション!』
カンッ、と過剰に響く、杖の音が始まりだった。
何が起きたかと思えば変化は明瞭。魔力の嵐を囲むように現れていた、ピンク色の巨大な檻。
嵐によって起きていた轟音さえ封じた魔法の主は、自身が主役となったその一瞬を噛み締めるように、悠々と歩いてその場に姿を現した。
「ハハハハハハ――――ッ! 世界の趨勢を決める大一番、そこにボクを呼ぶなんて! やはり――やはりボクが必要ということだね! “魅せる”舞台というものを分かってきたじゃないか、勇者ユーリ!」
「……キミ、こんな力があったんだね」
「確信して呼んだんじゃないのかいっ!? とっておきの触媒を使った大魔法だが!?」
思わずといった様子で突っ込みつつも、魔法の維持は万全にこなすエヴァネス。
自身の主たるアリスアドラにその杖を向けることになると分かっていたにも関わらず、彼女は力を貸してくれた。
「……こほん。まあ冗談と受け取ろうじゃないか。キミたちの最後の戦いにあれやこれやと口を出すほど野暮じゃないさ」
「……エヴァネス。あなたもなの……?」
「ええ――お久しぶりです、アリスアドラ様。生きていたようで何より……とはいえ、今回はいささか巡り合わせが悪かったようです。よもやあなたに杖を向けねばならないとは」
すべてのサキュバスにとって絶対的存在であるアリスアドラ。
しかし、彼女に対してもエヴァネスが、一度決めた立場を改めることはない。
エヴァネス特有の、アリスアドラにさえ勝る絶対的な美意識――それはどんな場にあっても揺らがず、立場を明確に定義する。
だからこそ信頼できるのだ。エヴァネスは力を貸すと決めてくれれば、何があっても裏切ることはないと。
「本当はここに来るつもりもなかったのですが、主演に呼ばれたのなら是非もなし。大いに――大いに目立つとしましょう!」
「っ、邪魔をしないでくれるかしら……! あなたはいつも、私のためにならないんだから――!」
「おや、それは当然ではないですか。ボクはいつだって、ボクの想う美のために生きているのですから!」
檻の外側にさらなる魔力の渦を生み、エヴァネスの魔法を圧壊させようとするアリスアドラ。
魔王としての権限がもたらす、莫大な魔力行使の権限。
それは僕たちのいずれも及ばないほど大きかったが――エヴァネスは恐れない。
任せろと得意げに笑い、さらにその上から何重もの檻を形成して見せた。
「刮目したまえ! 喝采したまえ! 魔王の千年、何するものぞ! ボクとて身命を賭せば、あなたに多少は縋れるのさ!」
振り上げた手を握り込む。吹き荒れていた魔力のすべてが檻に囚われ収縮していく。
そして、手のひらに収まるまでに小さくなったそれを、エヴァネスはお菓子のような気軽さで、口に放り込んだ。
「……んふ。辺りの魔力は、これにて枯れた。二度、同じことはできないでしょう?」
その攻撃でアリスアドラが利用した、周囲一帯の魔力はこれで枯渇した。
今のような魔力量の暴力はこれで最後――エヴァネスは飲み込んだ魔力の浸透を感じるように、下腹部を撫でながら、得意げに笑った。
「どいつも、こいつも……どうして私の齎す理想を理解できないの!? どうしてそんなにも、苦しい現実を肯定して、最良の未来を否定できるのよ――!?」
「愚問でしょう、アリスアドラ様――皆、未来は欲しいのです。得たものを捨てたくないだけなのですよ」
当たり前のことを気付けないことが、どうしようもなく悲しい。
エヴァネスがアリスアドラに向けていた最後の感情は、そういうものだった。
「――それじゃあ。これだけ投資したんだ。勝ってくれ、諸君。――ああ、祝勝会には是非、呼んでくれたまえよ」
こちらに振り返って、彼女らしい言葉を残して――エヴァネスもまた消えていく。
そうだ――宴。この使命が終わったら、また盛大にやろうと決めていたんだ。
そんなささやかな楽しみのためにも――僕たちは、負けるわけにはいかないだろう。
【インフィニティユニゾンリング】
ユーリの、そしてビー・ウィズ・U-リッカの右手中指に装着された指輪型デバイス。
共鳴による絆の理解と出力を超効率で行い、ユーリの脳にかかる負担を極限まで減らす。
これを媒介として所有する絆を出力し、一種のアストラル体を形成。通常では実現できない攻撃を行うことができる。