凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
互いに意地と意地。譲れない想いをぶつけ合う。
これで最後なのだと、自身が持つすべてを出し切る。
ハッピーエンドに至りたいという想い。こんなところで立ち止まっていたくないという想い。
きっとそれは、アリスアドラも同じなのだろう。だからこそ、互いにその願いを奪い合う。
そうでなければ――百点満点のハッピーエンドなんて、決して手に入らないのだと。
「はあ――!」
「ッ、負けないっ……負けない負けない負けないッ!」
泥を振りまきながら、駄々っ子のように喚くアリスアドラ。
けれど、それでも身に染み込んだ技術が消えることはない。
自然体からも即座に攻撃に移れるような、独特の攻撃技術――彼女はそれを意識せずとも出力する。
さながらそれは瞬間移動。クイールの速度にさえ渡り合える、格闘における一つの極みのかたちなのだ。
「ハッピーエンド……ハッピーエンド……私だってそれが欲しい……あなたたちのそれを、私にも分けてよ!」
「分けられませんよっ! だって、僕たちの幸せの形と、あなたのそれは違うんですから!」
「キミも、誰かに影響されない願いを持てば良かったんだ――誰かを巻き込まない、自分だけの幸せを!」
「それが出来たら苦しくなんてなかったのよ! はじめからそれは、私には許されていなかったのっ!」
盾に変形したバルハリオンで、クイールは真正面からの乱打を受け止める。
しかし、それが隙になるかと思えば、また違う。
牽制とは思えない、触手のように伸びた泥が、怒涛のように僕たちに押し寄せてくる。
いや――事実、牽制ではないのだろう。そんな戦略なんて、今のアリスアドラには存在しない。
すべてが全力。その攻撃一つ一つが、意地を持って必殺を期したものなのだ。
「リッカ!」
「わかってる――!」
『オズマリンク! イグニッション!』
空いた左腕を前に突き出し、変質する感覚に身を委ねる。
押し寄せてくるそれに負けないほどの勢いの、触手の奔流を顕現させる。
せめぎ合う二つの力。押し負けないための魔力を注ぎ込めば、絡み合った触手は巻き込まれるように爆散していく。
元の形に戻った腕を引き戻し、魔剣を構えて接近。
アリスアドラの片腕を切り落とすのと、脇腹から伸びてきた触手が突き刺さるのは同時だった。
「くっ……!」
「それ以上は――させません!」
けれど、そこで生まれた隙を、的確にクイールは突いてくれる。
突き出された聖剣がアリスアドラに突き刺さり、その輝きが彼女を焼き払おうと強まっていく。
「ッ、このくらいでぇ――――!」
「わっ、わわ……っ!?」
「クイール!」
熱に耐えながら、アリスアドラの体から伸びて、聖剣の刃を這うように浸食していく黒い泥。
僕たちもまた咄嗟に踏み込んで、魔剣を振り上げる。聖剣をかち上げてアリスアドラから引き抜いてから、銃砲形態に変えてそのまま突き付ける。
放たれる魔弾は、泥塗れの体を吹き飛ばし、瓦礫の山へと叩きつけた。
しかし、その反動が体から抜けるよりも前に、アリスアドラは再度瓦礫を蹴って迫ってきていた。
「づ……ぅ……!」
技術ではない。アリスアドラらしからぬ、勢いをつけただけの、力任せの殴打。
胸の中心に叩きこまれたそれが、全身に衝撃を響かせる。
それに怯んだ一瞬、既にアリスアドラは翼を手のように広げ、魔力の塊を形成していた。
クイールの神速がその攻撃を妨害にかかるが――それよりも速く塊が握り潰され、膨大な魔力の嵐が周囲に吹き荒れた。
外装を切り裂き、蝕み、押し潰そうとする無数の暴虐。それに誰よりも曝されているのは、他ならないアリスアドラ自身だった。
それでも構わないと。僕たちさえ倒すことができればどうとでもなると、嵐の中心でアリスアドラは嗤う。
「痛いわよね、苦しいわよねぇ……! わかるわぁ――だって共感してしまうんだもの! そんな苦痛に曝されて、これ以上歩きたくないでしょう!?」
叫びとは正反対の本心が、伝わってくる。
痛い、苦しい。今ここにある苦痛が、ずっと続いてきた。耐え難いほどに、当たり前だった。
その異常に共感してほしい。その絶望に寄り添ってほしい。そんな切実な想いが、アリスアドラとのつながりを通して僕の内に響く。
立ち止まってほしい。せめてこの苦痛の中で、一緒にいてほしい。その縋るような訴えは、彼女がどこかで、ずっと抱いていたものなのだろう。
――――そうだとしても。
「……二人とも、耐えられる?」
「ん……大丈夫。この程度に屈していたら、私はこんなところにいない」
「はいっ! 僕も平気です! っ……だから、一緒に!」
僕たちが進むべき道は変わらない。僕たちが前に進むという意思は変わらない。
アリスアドラが必死に伸ばしてくるその手は、取ってはいけないものだ。
「せえ、の……っ!」
嵐の中で、クイールと共に、大きく一歩を踏み出す。
僕たちの魔剣と、クイールの聖剣を交差させて、同時にアリスアドラを斬り上げる。
「っあ――――ッ、なんで、なんで諦められないの!? こんなにもひどい苦痛に、どうして耐えられるの!?」
「決まっている――僕たちは、つながっているからだ!」
「お互いに支え合っているからこそ、このくらいで負けてられないんですっ!」
思い悩んだ時に、手を引いてくれる。
行き詰まった時に、背中を押してくれる。
たとえ誰かがどうしようもない絶望に対面したとしても、全員でその問題に臨むことができる。
僕たちは、そういう絆で結ばれている。
それならば、ここで諦めることがどうしてできようか。
諦めることがあるとすれば、僕たち全員がそれしかないという結論を出してからだ。
そうでない限り、僕たちには止まる理由なんて生まれない――!
「また、それ……っ!? 仲間、絆――やめてよっ! 私が知らないもの……私が持っていないもので、これ以上私を責めないでよ!」
そう――絆。アリスアドラがそういう性質を持って生まれてしまった以上、決して持ち得ないもの。
きっとそれが、彼女とリッカを明確に隔てたもの。
リッカは僕たちのために止まることなく歩き続けてくれた。最後の最後で、それとも異なる絆を育むことができた。
「今更、何を……そういうものでしょ。誰かが持っているものは、常に誰かには理不尽に映る。それとも、そんなことさえ知らなかったの?」
諦観の混じった声色だった。それは、リッカが何度も何度も噛み締めてきたことだった。
けれど、リッカはそれを受け入れてここにいる。
たくさんのものが足りなかったからこそ、今持っているものを誇り、それをもって最後の敵を倒すのだと。
「ユーリくんがいなければ、諦めないことさえできなかったくせに……っ!」
「……? そうだよ。私は、ユーリがいたから諦めなかった。急に私が誇れることを褒めだして、どうしたの?」
僕だってそうだ。リッカがいなければ、きっとこの、諦めの悪さだって芽生えなかった。
お互いの、どうしようもない依存心に苦笑する。こんな時でさえ、お互いを厄介に思う感情が優先する。
「ああ……そういうこと。……ねえ、アリスアドラ」
「なによ――」
リッカが至った結論に、身を任せる。
それがアリスアドラとリッカの差であるならば、リッカ自身が、リッカの言葉で告げるべきことなのだから。
「私の隣には、ずっとユーリがいた――いいでしょ」
「っ――――が、ふ――――ッ!」
その言葉で生まれた空白に、アリスアドラに拳を叩き込む。
吹き飛んだその先に、クイールと共に跳ぶ。
撒き散らされた泥によって形成される障壁を打ち砕き、なおもアリスアドラを守る鎧として広がるそれを剥がしていく。
際限のない泥は彼女の否定の象徴だとしても、攻撃の一切を受け付けないわけではない。
クイールの剣閃を縫うように、魔剣を振るう。リッカがせき止めた時間の流れによって、その神速に追いついて攻撃を重ねる。
剥がれた泥を気にすることはない。周囲を舞うように奔る斬撃と魔法――冥界の支援を信頼しているから。
見開かれたアリスアドラの目には、今や明確な恐怖が映っている。
湧き出る泥が擦り減るたびに――肌を覆う鎧が剥がれるたびに、それは、色濃いものになっていく。
「理解、できない……っ、そんな、あたたかい感情、私は、知らないッ!」
「ぐっ……!」
衝動的な拒絶だった。攻撃をした瞬間に泥が爆ぜたかと思えば、その中をアリスアドラが踏み込んできていた。
その両腕に宿っている害意は、尋常なものではない。
黒い泥が燃え上がる。彼女の体を焼きながら、それでも燃え尽きることなく、僕たちへと放たれる。
「っあ――!」
外装が許容できる衝撃を超えた、痛みがあった。
焼いて刻まれるかのような感覚は、きっとクイールも同じだと思う。
僕たちを包むその熱から感じられるのは、やはり純粋な拒絶でしかなかった。
認められない、認めたくないという、アリスアドラの羨望。それは“手に入れたい”という想いさえ、手放さざるを得ないものになった。
「燃えて、燃えて、なくなってしまいなさい! 灰になって混ざってしまえば、ほら――もっと一緒になれるでしょう!? そうなりたいんでしょうっ!?」
命を――自分のすべてを力に変えて、アリスアドラは僕たちに抗っている。
その自覚などアリスアドラにはないのだろう。僕たちを倒して、そこから先で生まれる後悔など、考えていない。
これで僕たちを倒した後、彼女には何が残るのか。理想をもう叶えられる力が、果たして残っているのか。
外装が軋む。僕たちを守る魔法に、罅が入っていく。
それは衝動の……彼女の駄々の、極致であった。
「思い通りにしてあげるわ――いま、ここでッ――――!」
全身の泥を燃やし、白くなった炎に包まれるアリスアドラ。
その狂喜が、炎の向こうに消えていく。胸の内で燃える輝きが、すべてを解放しようとしている。
一秒後に踏み込んでいる余裕はなかった――できることは、大盾となったバルハリオンを、僕たちとアリスアドラの間に展開させることだけだった。
「――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」
――絶叫と共に、視界一杯を拒絶の白が埋め尽くす。
バルハラから出でた生命が、そのすべてを燃やし尽くして放つ輝き。
自爆にも等しいそれが、感じられる熱の限界を超えて、僕たちを消し去ろうとする。
この世のものとは思えない熱は、逆に冷たく感じるほどだった。
――先ほどの、私欲に満ちていようとも、僕たちを理想の向こうへと昇華させようとしたあたたかさとは、正反対だ。
「ぁ……ッ――――!」
バルハリオンが白に呑まれて消えていく。衝撃は、熱に遅れて襲ってきた。
外装が限界を超えて解れていく。そのダメージがフィードバックしたのか、砕けて指から離れていく指輪を、気にしている暇はなかった。
分かたれて、背後に吹き飛ばされようとするリッカの手を、咄嗟に掴む。
――炎に曝された体が、燃えて消えることはない。
ごく僅かな間の加護なのだろう。僕たちを、銀色の膜が覆っていた。
次第に罅割れていくそれを展開している、僕たちの幼馴染――その信頼が、進めと背中を押す。
リッカを引っ張り上げて、二人で前を向く。
「――ユーリくん! 使ってください――――っ!」
その叫びには、絶対的な自信があった。
もしかすると、吹き飛ばされる前のほんの一瞬で、クイールはたった一つの好機を見出したのかもしれない。
背後から聞こえてきた声に促されるように、目を開く。
――――床に深く突き立てられた聖剣。そして、その傍で白い炎に纏わりつかれながらも、佇み続ける魔剣。
「ッ」
リッカと視線を交わすことはなかった。頷き合う時間も、惜しかった。
ただその一瞬、僕たちがやるべきことは、通じ合っていた。
冥界の加護が消える前に駆け出す。
どうせどこにいても、これが消えれば一瞬だ――ならば走れと、本能が体に命じる。
駆け抜けるその勢いのままに、聖剣を引き抜いた。リッカもまた、咄嗟の魔法で膂力を確保しながら、魔剣を手に取った。
――聖剣から、なにかが流れ込んでくる。
僕とは決定的に違うもの。けれど、根本は同じ、人が持つ可能性をその手に掴むための力。
はじめに認識したのは、クイールの勇気だった。それを確信すれば、残る輝きも理解できた。
それは勇気だ。クイールが、その聖剣に預かっていた、過去の勇者たちが持っていた可能性の輝きだ。
理想の世界という計画のためにその存在を造られた勇者たち。
目覚めている力もあった。未だ眠る力もあった。共通して――そのすべてが、決着を望んでいる。
ならば――共に行こう。
その勇気のすべてをつなげて、束ねる。僕という存在を中心にして、聖剣の刃から出力する。
これがすべての希望の清算だとすれば――もう一振り。ずっと僕たちを支えてくれた剣は、すべての絶望の清算。
「リッカ――――――――!」
「ユーリ――――――――!」
だからこそ、どちらもこの場で果たさなければならないと。
――僕たちは同時に、その刃をアリスアドラに突き刺した。