凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
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炎が消えていく。熱が引いていく。
世界に溶けるように、あるいは散っていくように、アリスアドラの力の気配が失われていく。
どれほど時間が経っただろう。
その空白は、異常なほど長く感じられた。
――手に握り込んだ聖剣が、確かに、命の脈動を捉えている。
分かるのはそれだけだった。決着はついたのかと、状況を理解しようとして、大きく息を吸って意識を覚醒させる。
「――――」
罅の入った顔。見開かれたアリスアドラの目が、震えながらこちらを見ていた。
もう泥は残っていない。真実、彼女のすべてを燃やし尽くした攻撃だった。
それを破った以上、彼女にできることはもうない筈だった。
「――――こほっ」
乾いた咳が、その口から零れる。
血は混じっていない。聖剣と魔剣が貫いた箇所からも、何も流れてはおらず、ただそこを中心に罅が広がっているだけ。
生命の使い方を誤った代償、なのだろうか。
それは最早、どう足掻こうと救いようのない状態であり、刻一刻と彼女の終焉は近付いている。
「――――私の、負けなのかしら」
「……いや。まだ、諦めていないのは分かっているよ」
聖剣を通じて、より強固に伝わってくる、彼女の意思。
解れて、今にも消えそうになりながら、未だ消えることはなく――強い鼓動に宿る執着が伝わってくる。
「……そうねぇ……あなたたちに完膚なきまでに負けて、なおも……フフ……私も、存外、諦めが悪いのかしら」
「……そこだけは、似ているのかもしれない。あなたも、私たちも」
最後の最後、ほんの少しの、リッカの感傷。
まだ終わる筈がないと確信していながら、それを伝えたのは、ある種の当てつけなのだろう。
諦めなかった結果が実を結ぶ側と、それでも、すべてが無に帰す側。
――彼女のすべてを、終わらせる側として。
「やっぱり、私は、あなたたちを行かせたくない。最悪のバッドエンドを、叩きつけてあげる」
擦り切れるような笑みを浮かべて、アリスアドラはそれを、最後の結論を出した。
そこにあるのは意地だった。あとは喜びか、あるいは悔しさか。
結局のところ、僕たちはその挑戦に応じるほかない。そのくらい、欲張りなのだ。
「だったら――僕たちも。最高のハッピーエンドに辿り着くために、キミのすべてを否定する」
「悪く思わないで。あなたには、何も残らない」
辿り着くならば百点満点のハッピーエンドだと、そう決めていた。
僕たちが誰一人欠けることなく辿り着こうとしていたその場所は、もう目の前だ。きっと、何もしないだけで、アリスアドラの残る時間では、それを覆すことができなくなる。
けれど、最後の最後に命を懸けてでも、もう一つだけ、掴み取らないといけなくなった。
そうしなければ気持ち悪いというのは――リッカもまた同じだった。
「ッ…………」
聖剣を握り込む力を強める。内側から伝わってくる熱を通して、その奥の奥にあるつながりを感じ取る。
伸ばしてくる手はない。もしかしたらそれは、僕たちへの負い目からかもしれない。
だったら、やるべきことは一つだ。
こちらから手を伸ばす。逃げるなんて認めないと、つながりを意識して、その手を掴み取る。
「――リッカ!」
「うん――――!」
僕とリッカ、二人でもって、その絆を補強し、引っ張り上げる。
聖剣と魔剣。二振りを引き抜くことで、アリスアドラと“彼女”のつながりを断ち切る――――!
「ぁ…………っ」
広がった罅。アリスアドラの破片が散って、白い炎となって消えていく。
大きく仰け反った彼女に、最後に残ったつながりが引き剥がされる。
そして、その内側――胎内から、純白の羽毛に包まれた、この世界の“救世主”が、零れ落ちてきた。
――アズ。もはや魔王たる意思はなく、そして大女神でさえない、ただのアズ。
アリスアドラが理想の成就のために呑み込んだその小さな体を解放する。
それが、僕たちの意地。アリスアドラの意地に対して、僕たちが対抗できる、とびっきりの欲だった。
「ッ――――――――」
共に放たれた魔力に体が煽られ、放たれた炎が、たちまち僕たちを焼き尽くそうとする。
衝撃の中で、聖剣が手から零れる。リッカもまた、同じだった。
それでも、僕たちは足に力を込めて踏ん張った。
後退しきる必要はない。きっと、そうしなくてもいいと――僕たちを信じている。
「――ユーリくんっ! リッカちゃんっ!」
ほら……そうだと思っていた。
聖剣を託して下がっても、僕たちに任せたままにする筈がない。クイールは、そういう人だ。
「これで――決めてくださいっ!」
背後を振り返ることはない。ただ、リッカと一緒に、片手を後ろに伸ばす。
そうして、放り投げられた指輪を掴み取る。
砕けていても、そこに力は残っている。使い尽くすべき力が、その輝く石には込められている。
握り込んだ拳を、リッカとぶつけ合う。二人の絆を重ね合わせて、その緊急機能を解放する。
――それは、リッカがこの指輪に込めていた、切り札たる機能。
紡ぐ外装に自ら限界以上の負荷を掛けることで、ごく僅かな時間だけ、その出力を極限まで高める、いざという時にしか使わないと決めていた力。
であれば――切るべき場所は、ここしかないのだろう。
輝く二つの魔力が、僕たちを包む。
僕たちを焼き尽くそうとする炎を、内側に燃える熱さで押し返す。
巡る魔力が、尋常ではない熱を放つ。
自分自身が燃え尽きてしまいそうな膨大な魔力の奔流を受け入れて、僕たちは跳躍する。
僕の持つ勇気の魔力は太陽のように。リッカの持つ冥界の魔力は月のように、辺りを照らす。
その溢れる魔力を、最後の一撃に注ぎ込む。
僕たちの決着の意思を見て取ったのだろう。アリスアドラは、その笑みが持つ感情を、確かに変えた。
「…………理不尽に挑むって、こういうことかしら」
きっとその感情は、僕たちにとっては、感じたことがないものだろう。
それを今、アリスアドラが感じていることを、癪だとは思わなかった。
その結論を否定する理由は、僕たちにはない。ただ、僕たちはその意思を、その感情を打ち砕いて、超えていく。
「ああ……これは、なんて……フフ――――」
被膜のない翼が、もう一度広げられる。
逃げる気はなかった。寧ろ、挑まなければならないという決意が、今の彼女には満ちていた。
罅割れて、秒読みで散っていく体。余力なんて残っていなくとも、それでも残るものを、彼女はその一時に燃やし尽くす。
全力で床が蹴られた。砕けた足など気にすることなく、アリスアドラは両手を握り込んで迫ってくる。
突き出した足、その一点に、今の僕たちが懸けることのできるすべてを尽くす。
リッカに支えられてきた道のり。ハッピーエンド同盟のみんなと歩んできた旅路。
その最果てで、僕たちは二つの輝きとなって翔けていく。
分かれている――それでも、強く一つに結ばれた絆を感じながら。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――――ッ!」
「ッ――――――――――――――――ッ!」
アリスアドラの拳とぶつかり合う。
終わりが迫っているとは思えないほどの執念は、本来の彼女を遥かに超える力を引き出していた。
だが、そうだとしても、僕たちは疑いを持たない。
彼女が、僕たちをここに押し止めることだけを目的としているのならば――その先への一歩を踏み出すために。
――――負ける筈がない。
アリスアドラが一人である限り、僕たちは負けない。
背中を押してくれるみんながいる限り。
そして、僕が、リッカと共にいる限り――――――――!
――硝子が割れるような衝撃の向こう側。そこに至るまでは、一瞬だった。
その瞬間に突き抜けた一点で、様々なものが砕けて、散っていった。
拮抗が崩れる予兆はなかった。最後まで全力以上でありながら、それを出力するための体が逃れられない終焉を迎えた。
リッカと交差するように、アリスアドラを貫いた。
着地して、勢いを殺し切ることができず、手をついた。外装が焼け落ち、ようやくその消耗を自覚しながらも、どうにか、立ち上がる。
「……この気持ちを、初めて感じた程度じゃあ…………勝てない、わよね……」
背後から、掠れるような声が聞こえてきた。
間の悪さを後悔するような自嘲だった。最早、僕たちに聞かせるつもりはない。最期の感情の発露として零れただけの、名残のようなものだ。
「ねえ……バルハラ……っ……どうして私を、こんな風に作ったの……? どうして、アリスは……最後の、最後にしか……これを、感じられないの……?」
恨み節のようだったが、憎悪はなかった。それは、単純な疑問だったのだろう。
その言葉に、少しでもその存在が干渉するようなことがあれば、多少なり、彼女にも変化があったかもしれない。
しかし、それを受け止めるべき者はいない。きっとかれは、僕たちもこれからの生涯で、二度と会うことのない存在だ。
届かない声が星空に溶けていく。
「……ふふ、ふ……本当に、ひどい世界。……あぁ……」
失墜していく。広げていた翼が失われたように、その気配が堕ちていく。
その執念で維持されていた魂が、この世界に決して残らないものとなって消えていく。
寸前、囁きのように零れた言葉は。
「…………悔しいなぁ…………」
そんな――アリスアドラらしくなく、それでいてどこまでも
思うことは――それだけだった。
その確信が消える前に、僕とリッカは、もう一度拳を合わせた。
「……」
「……」
それから、ようやく顔を見合わせる。
まだ現実感がない。嘘みたいな静寂の中で、お互い、同じ感慨を抱いていたようだ。
……最初の感情は、それをどこかおかしく思う、苦笑だった。
「……やったね、リッカ」
「……ん。終わった」
そうして、言葉にして初めて生まれた実感を共有する。言葉にしなければ、いつまで経っても曖昧なままである気がした。
吹いている風の心地よさに、今、気付いた。少しだけ肌寒いかもしれない。
この瞬間に抱くべき感想としては、あまりにも普通なもの。
だが、それが逆に、僕たちらしいかもしれない。
「――――二人ともっ!」
「わっ……」
その時、堪らずといった様子で、クイールが飛び込んできた。
誰よりも大きな喜びを抱いているのは彼女だった。それを受けて、やっと僕たちにも、その気持ちが湧いてくる。
確信を持って良いのだと。喜びを抱いて良いのだと。
ふらつく体で、それを噛み締めながら、クイールに釣られるように笑う。
リッカの微笑みも、クイールの満面の笑みも、これ以上ないほどの達成感に溢れていた。
後ろから近付いてくる、みんなの気配もまた同じ。
やっとその感情に、なんの使命も付いてこなくなった。
喜びの中で、僕たちは実感する。
――――ああ。本当に、終わったんだ、と。
『魔王アズ・アリスアドラ』
【属性】火/夢/狂気
【攻撃力】■■■■■■■■■■■
【防御力】■■■■■■■■■■■■
【素早さ】■■■■■■■■■■■
【魔 力】■■■■■■■■■■
【精神力】■■■■■■■■■■■■
【種族】クイーンサキュバス種
ソレははじめ、サキュバスとして生まれた存在ではなかった。
本来、淫魔と呼ばれる魔族に貪られる人間であった筈の彼女は、世界を侵すほどの狂気を持っていた。
その狂気が自身の在り様さえ変化させ、己の定めた世界に最適化させたのが、サキュバスとしての彼女である。
彼女は四天王でありながら、魔王の座にある、大女神の一端を狂わせた元凶でもあった。
慈愛の塊、すべての生命を庇護せずにはいられない無邪気な大女神は、この世界に降りたことで、その狂気に浸ってしまった。
大女神の慈愛と彼女の狂気は偶然にも、同じ方向を向いていた――同じ方向であると、定義できるものだった。
あらゆる願望が叶えられる理想の世界。希望も絶望も、すべてが幸福に至る理想の世界。その狂った世界は、皮肉にも大女神が望む在り様の一つの答えでもあった。
世界を包むほど広く、水の一滴よりも小さなエゴによる、規格外の共感能力。
それは特に、サキュバスたちにおいては絶対的なカリスマとして扱われた。
国さえ幸福の絶頂の中で堕とす偉業をもって、彼女はその立場を確たるものにした。
ふらふらと移ろう自由な狂気。しかしながら誰にでも寄り添うことのできるその在り方は、相手には慈悲深いとさえ映る。
興味のないことには「知らない」と簡素に返しながらも、その相手の幸福を考えることのできる彼女がその精を啜り、満たされない者はいなかった。
そのすべてが、枯れ果てるその瞬間まで、歓喜の表情を絶やしていなかった。
――この世界の歴史上、最も多くの生命を、幸せの絶頂のままに殺した存在。
――この世界の歴史上、最も多くの生命に、至上の幸福を齎そうとした存在。
それこそが自由の女王。『狂宴』のアリスアドラ。
真の魔王――勇者たちの前に立ちはだかる、
【魔王アズ・アリスアドラ】
分かたれた七つのうちの一つ。使命を許容せず自由を選んだバルハラは、その微睡みの中で多くの生命を生み出した。
いわばそれは、『バルハラの子』たる、初めから役割を持って創造された、ある種のきょうだいのようなものである。
例として挙げるならば――知識の司書ベガ。寵愛を受けるアルフィルク。
そして、賢者バラル、騎士リトラ、童女アリス。
これらの存在価値は、バルハラによって齎される。創られるよりも前――その発想が、バルハラの内に芽生えた瞬間から、何のために、どう生きるのかが定められる。
とりわけ、童女としての役割を定められたアリスの在り方は、過酷であった。
そこに成長はない。身体的にも、精神的にも、時間に囚われることなく、ただ永遠の幼さだけが約束されていた。
無垢であることが求められた。何も識らず、何も疑わず、だからこそ誰にでも優しく、普遍的な、花のような乙女が約束されていた。
狂っていることが求められた。世界から浮き、移ろう心のままに振る舞う、世界の誰にでもあり得るような、狂気の果てたる純粋さが約束されていた。
明日という未来を認識できず、昨日という過去を記憶できない。今を今のまま、
如何な傷だろうが、一度眠って目覚めれば夢に溶ける。如何な絶望だろうが、一度眠って目覚めれば希望に変わる。
それは、聖女ヨハンナと出会う前のバルハラにとって、微睡みにおけるささやかな戯れであった。
無数の牢獄を味わった。そのすべてがたった一夜の、創造主の自慰だった。
思いつくがままに彼女はその無垢を貪られ、翌日にはすべてを忘れる。そのように創られていた。
バルハラにとって、それは自らが手掛けた人形を用いた遊戯である以上、悪意も罪悪感も介在する理由はなかった。
ほんの些細な妄想、後に残らないからこそ、その苦痛は実に自由であった。
たった一つ、バルハラに過ちがあったとすれば。
――アリスがどう狂っているのか、一度たりとて、確認しなかったことだろう。
その狂気は自由だった。バルハラの発想、バルハラの理念すら、移ろう狂気はあっさりと飛び越えた。
いつからか、アリスはその日のアリスではなくなった。過去と未来を知るアリスになった。
その成長を悟られることなく、アリスはアリスらしく振る舞い続けた。彼女の狂気は、それさえ可能としていた。
正確には――忘れることができなくなった、それでも、捨てられたくなかったという理由だろう。
アリスにとってはバルハラの世界こそが唯一無二であるのだから。それ以外の世界など、想像しようがないのだから。
ところが、ある時アリスは世界を知った。
自身の感じる幸福が、自身の感じる不幸が、自分の経験に基づいたものではないということに気付いた。
普遍的な乙女である自身が――あらゆる生命に溶けた存在であることに、気付いてしまった。
それは一体どれほどの奇跡だっただろうか。一体どれほどの絶望だっただろうか。
感じていた一人称が、三人称であった時、彼女は何を想っただろうか。
その瞬間の感情は、アリス自身覚えていない。しかしそれ以降、アリスは常に、自己を定義し続けなければならなくなった。
アリスは無垢ではなくなった。もうその時、バルハラは聖女ヨハンナに目を付けていて、アリスに向ける視線はすっかりなくなっていた。
だからこそアリスは、世界を広げた。自らの世界を飛び出して、自分であった筈のたくさんの感情がある、不思議な世界へと旅立った。
そうしてバルハラの支配から逃れた時、彼女は翼を手に入れた。
狂気を宿す者、満たされた狂気を覗く者として、相応しい姿となったのだ。
その世界は、ひどく絶望に溢れていた。到底そこは、希望に満ちた世界とはいえなかった。
常にどこかで誰かが泣いている。誰かが誰かに理不尽を受け、誰かが望まない死を迎えている。
それを他者の悲鳴として認識してしまった彼女は、幾度も幾度も発狂を繰り返した。狂気の上にさらなる狂気を宿し、より深く壊れていった。
希望など、絶望に比べればほんの一握りだった。苦難の中にいる一人を救ったところで、何も変わりはしないほど、世界は広かった。
そのすべてを認識してしまうからこそ、彼女は望んだのだ。
世界を狂わせることを。
すべてが理想の内に眠ってしまうことを。
――『狂宴』たるアリスアドラ。世界の結論、完成の果てに、何を望むか。
――自由な世界を! 望んだ通りの理想が叶って、誰もが幸せになれる世界を! もう誰も、泣かなくていい世界をっ!
それはすべて、自分のためだった。独善でさえない共感だった。
身勝手なことだと理解している。それでも、今よりは皆が救われる筈だと。その方が、自分は幸福だと思っていた。
そこから先の千年を耐え続けた。いつか至る世界の完成を……悲鳴が、苦痛が聞こえなくなるその日を、今か今かと待ち続けた。
共感でしか他者を感じ取れない彼女は、その野望が潰えた果てに、何を想っただろうか。
観測していたものは存在しなかった。自ら切り開く未来を望む者たちは、当たり前のように自分を通り過ぎ、駆け抜けていった。
――――かくして、世界を救おうとした魔王は滅び、勇者たちは自らの短い生涯を歩み続ける。
世界は変わった。小さな、小さな変化が、かれらの未来を照らした。
ああ――それはなんて呆気なく、希望に満ちた終幕だろうか。