凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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自由(きぼう)を求めた物語

 

 

 ふらつく体に喝を入れて、みんなのもとへと歩く。

 当たり前と言うべきか、最初に近付いてきたのはカルラだった。

 気が付けば彼女の母やナルラト、ノゥムはその場にいなかった――カルラ一人、ここに残っていたらしい。

 彼女は何も言わず、真顔のまま、両手で拳を作って突き出してくる。

 もちろん満身創痍の僕たちを殴るためではない。そう理解していたからこそ、僕もリッカも、拳を作ってそれぞれ合わせた。

 

「――――大勝利、ですね」

 

 そうしてカルラは、満面の笑みを浮かべた。

 三人で笑い合う。今は多分、それだけ。

 この実感が大きなものに……もっともっと喜べるようになるのは、多分、少し先だと思う。

 

「……まさか、本当にやるなんて、とは……ハッピーエンド同盟の一員として、間違っても言ってはいけないのでしょうけど」

 

 冷静に努めようとするナディアの声色は震えていた。確信の中で、それでも半信半疑であったのは、みんな同じかもしれない。

 

「これでおしまい、なんですよね。もう、ユーリも、クイールも、自由なのですよね?」

「……そうみたいだよ。リーテ、キミも分かるだろう?」

 

 ナディアの言葉を保障したのは、イリスティーラだった。

 そうか――彼女には見えている筈だ。僕たちの内にある勇者の証が、どんな状態であるのかを。

 

「そうだな。四つの灯はそのままに、枷としての性質のみが消えている。勇気の性質は残っているが、最早キミたちを縛るものはない」

「――ああっ!」

 

 リーテリヴィアの確約を受けて、誰よりも嬉しそうに、涙を浮かべたナディアが僕とクイールに抱き着いてくる。

 自由……自由か。

 一年前は当たり前のものだった。何も知らずに、あの村で生きていた。

 さて、そう考えると、どうするべきなのだろう。自由の意味を考えるのにも、それなりの時間が掛かりそうだった。

 ……不思議なものだ。奇妙なほどに、僕は自分が置かれたこの状況に、落ち着きを持っていた。

 嬉しいことには間違いないのだけれど、なんというか……みんながこれだけ喜んでくれていることを意外に思ってしまうほどに。

 

「……ナディア。そろそろユーリから離れて」

「今日は嫌ですっ!」

「今日は嫌です……っ!?」

 

 ……いや。それだけ、必死だったのだ

 これから先のことは何も決まっていなかったのだ。ふわふわした気持ちになるのは、当然のことだ。

 だから、ようやく選べるこれから先の道を、ゆっくりと歩いていくのだろう。

 

「……っ」

「……? ラフィーナ、どうしたの?」

 

 その時、何もない方向を不自然に見ているラフィーナに気付いた。

 こちらに意識を向けていながら、顔を決して向けることなく、翼を忙しなく動かしている。

 彼女もまた、喜んでいることは確実なのだが、一体どうしたというのだろうか。

 

「……なんでもないわよ。ちょっとこっち見ないで」

「……泣いてる?」

「あんたほんと空気読めないわよねっ!」

 

 思わずといった様子でこちらに振り向いたラフィーナの目が潤んでいることを、誰もが認識する。

 というか声色だけでも十分なほど。つまるところ……それがラフィーナなりの喜び方だったということだ。

 

「私はこう、アリスアドラ様を悼んでいたのよ! あんたたちのことで喜ぶのはその後なの!」

「喜びはしてくれるんですね」

「相変わらず律儀だね、キミは……」

「ああもう! ああもう!」

 

 ……多分、こうなることを分かっていたから、感極まった自身を隠そうとしていたのだろう。

 そう考えると指摘してしまったことは不躾だったかと反省する。

 目尻を擦って否定しようとしているラフィーナだが――彼女に、リッカが近付く。

 ふらつく足取りで、リッカはラフィーナにも、控えめに拳を向けた。

 

「……ありがとう、ラフィーナ」

「…………お疲れ」

 

 やり辛そうに、しかしながら、万感を込めて。

 ラフィーナはリッカのそれに拳を合わせた。

 

「なんか、妙に呆けてますわね、ユーリ」

「嬉しいことは間違いないよ。実感を噛み締めるのに、少し時間がかかってるみたいだけど」

「あ、わかりますっ。なんかこう、これで終わるのかな、みたいな。多分ですけど、明日とかになったらもっと、死ぬほど嬉しくなるんじゃないでしょうか」

「死んだら困りますから、ほどほどに喜んでくださいね……」

 

 とはいえ……確かに。喜ぶべき僕たちがこんな風に呆けていては、みんなも白けてしまうだろう。

 早くこの実感が体に現れてくれることを望んでいると――視界の端で、純白が動いているのが見えた。

 

「……何をしているの?」

「あっ」

 

 その場の誰かが気付くよりも前に、この場から離れようとしていたのだろう。

 白く大きな翼を引き摺っていた、少女の姿の全能者は、小さく声を零すと、こちらに視線を向けてくる。

 ……なんという、気まずそうな表情だろうか。

 

「いえ、その……我がいたら、和を乱してしまうと思って」

「……もしかして、こ(・)れ(・)が魔王なのかい?」

「間違いない。俺たちが従っていた魔王、アズだ。俺から紹介するのも、いささか不思議な感慨だが」

 

 彼女――アズの今の姿は、魔王としてこの世界に千年間君臨していた存在だとは、とても思えないだろう。

 もう彼女には狂気に動かされている様子もなければ、アリスアドラの理想の世界のために動こうとしている様子もない。

 大女神から分かたれた一端としての、純粋すぎる善性を持った迷い人だ。

 

「……ですが、あなたたちが気付いた以上、それも不誠実ですね。それでは、あなたたちも納得できないでしょう」

 

 その、直前まで隠れようとしていた事実さえ罪悪感を覚えてしまっているように、身を小さくする。

 本当に彼女が魔王なのかと怪訝な表情を浮かべるイリスティーラとナディア。

 全員の視線を受けながらも、アズはそれに向き合った。

 

「我はアズ。転生領域より、この世界の救いの求めに応じて降りた……その、しがない女神の一端です」

「しがない女神……?」

 

 ……どうも、素の彼女の語彙は中々に独特であるらしい。

 はっきり言って、大女神という彼女の称号が何を意味するものなのか、理解できていないのだが……少なくとも、ありふれた存在ではないと思う。

 アズほど強大な力を持つ者が山ほどいるとしたら、この世界の外は混沌と呼ぶことさえ生温い場所になってしまう。

 リッカに視線を向けるが、首を横に振られた。

 

「……キミも転生者なのかい?」

「いいえ。その話をするには、理解の必要な前提が多いのですが……結論を言うと、我は転生者ではありません。かれらの中心となる場所……そこを管理する存在の一側面、と認識いただければ」

 

 転生領域の存在を知る以上、リッカと同等の存在だと考えるのは当然のことだろう。

 イリスティーラの問いを否定すると、アズは不安げな表情のまま、頭を下げた。

 

「どうあれ……ここに謝罪を。あなたたちの運命を変えてしまったのは、他でもない我です」

「……キミはアリスアドラに――」

「狂気に浮かされていたことを免罪の理由とするのならば、彼女にも罪はないでしょう。彼女の望む理想に、我が救いを見出したことに変わりはありません」

 

 別に罪悪感を抱いてほしくて、そういう選択をした訳でもないのだが、アズは生半可には受け入れてくれないらしい。

 転生者でないとしても、やはり、頑固なのは同じであるようだ。

 

「あなたたちの功績は、掛け値なしの偉業です。だからこそ、瑕疵があってはいけません。我を罰さないということは、そういうことです」

「……それ、脅し?」

「そう捉えていただいても構いません。我の心は、常に新しきに移ろうもの……今、愛しく思うあなたたちにさえ、何かをしないと断言できないのです」

 

 彼女の望みは、アリスアドラに捕えられる前から変わらない。

 後顧の憂いとならないよう、僕たちが彼女を討つこと。

 そうすれば、僕たちはこれからの人生を、穏やかに過ごすことができる――そうしなければ、僕たちは安心することもできないと。

 アズの物言いに引いている様子のイリスティーラとナディア。

 一方で、その脅迫を苛立ち混じりに受け取ったリッカは、何も分かっていない彼女に告げる。

 

「……私たちが何のために、あなたをアリスアドラから助け出したと思ってるの」

「それは……我に手ずから復讐をするためでしょう?」

 

 ……まあ、そう受け取るだろう。

 アズの認識では、自身もリッカの復讐の対象だ。アリスアドラと同じ、もう一つの元凶として、裁かれるべきだと感じている。

 リッカとて、何も思っていない訳ではない。ただ――そこに、リッカ以外の誰かが口出しをするのは、野暮というものだ。

 

「全然違う。やり直し」

「え……? で、では、我を苗床の繁殖実験体にしようとしているとか……」

「私をなんだと思ってるの……? やり直し」

「ええっ!?」

 

 ……リッカ、楽しそうだなあと、明らかに的外れな感慨を抱く。

 否定はしきれない実績こそあるとは思うが、とはいえこれ以降、リッカが必要以上に“それ”をすることはないだろう。

 憮然とした表情のリッカは、狼狽えるアズに答え合わせをした。

 

「……あなたをあのままにしておいたら、後味が悪いと思った」

「へ……それだけ、ですか……?」

「そういうものでしょ。後腐れのない結末より、後味の悪くない結末を取ったって、それだけ」

 

 あの時の僕たちは必死だった。ただ、それは共通の想いだった。

 そのままアリスアドラと共に倒すことは出来た。だが、それではきっと、この先でもやもやとした気持ちは残り続ける。

 どちらにしても一緒なのだ。

 だったら、この方がよほど僕たちらしいだろう。

 

「ちょっと驚きましたけど、僕は二人ならそうするって納得できましたよ。アズちゃんが僕たちのハッピーエンドを望んでくれていたってのは分かりましたし」

「アズちゃん……!?」

 

 ほとんど僕たちの身勝手な行動ではあったが、クイールはあっという間に順応してしまった。

 訳が分からないと困惑するアズを、リーテリヴィアがフォローする。

 

「魔王。俺はかれらのことを多く知る仲間ではなかったが、かれらの善性は本物だ。ゆえに、心から望んでいるのだろう。あなたがこれから先、新たな道を歩まれることを」

「リーテリヴィア……あなたは、良いのですか……? 我は、あなたとその娘を引き剥がして……」

「俺が未熟だっただけの話だ。それを恨む道理は俺にはない。無論これからは、イリスと聖都のために生きることを選ばせてもらうが」

「……むぅ」

 

 リーテリヴィアの言葉で、不満げだったイリスティーラは黙り込んでしまう。

 もちろんアズに言いたいことはあるようだが……今は、彼に免じてか……一旦、あらゆる恨み言を飲み込むことを選んだようだ。

 

「……無論。最早、何者もあなたたちを縛らないでしょう。ですが、だからといって……」

 

 アズはその言葉を受けても、まだ納得をしようとしない。

 やはり自罰的というか、自分が救われてはいけないと思っているような頑固さ。

 ……とはいえ、だ。

 それを易々と受け入れてしまうようでは、リッカだってここまでやってこられなかった。

 諦めの悪さは、きっと――リッカの一番の武器だったのだから。

 

「……いいから。私たちに負い目を感じているんだったら、受け入れて。こっちも、これ以上時間を無駄にはしたくない」

「うぅ……ど、どなたか……」

 

 もちろん、別の誰かに縋ろうとするアズに、そちらの意味合いで手を差し伸べる者などいない。

 あるいは……それが、リッカにとっての最後の復讐なのかもしれない。

 その罪悪感を抱きながらこの世界で生きるのであれば、リッカとしても、それ以上は望まないと。

 おろおろと彷徨う手。……多分リッカはもう何も言わないし、このままでは話も進むまい。

 見ていられないと思って、その手を取った。

 

「一緒に行こう。きっとキミも、自分の生き方を見つけられる。その手伝いなら、僕たちもできると思うんだ」

「あ……」

 

 ここから先、アズが何を見出すかは分からないけれど、そのための最初の一歩というのは、踏み出すのに勇気がいるもの。

 誰かに手を引いてもらうことは、何も恥ずべきことではないのだ。

 

「…………はい」

「――リッカ。ユーリがまたやらかしてますよ。どうしてくれましょう」

「……もうユーリだから仕方ない。最後に私たちのところにいれば、それでいい」

 

 さて……あとは、やるべきことは一つ。

 戦いは終わり、僕たちの日常に帰る――その日常に、連れていくべき者がいる。

 

「――終わったみたいね。アリスアドラ様の野望も、勇者の運命も」

 

 いつからそこにいたのだろうか。

 この玉座の間の入り口……だった場所から寄ってきた、半透明の魔族。

 ポルターガイストのコッペリアは、その両手で、勇者の使命を定められた二人の子供の手を引いていた。

 

「コッペリア……」

「やっぱりコッペの期待通り――おめでとう、勇者ユーリ、勇者リッカ。ふふ……どうかしら。ハッピーエンドの感想は」

「まだ、そこまで実感を抱ける訳じゃないよ。安心できるのは、きっと、今夜なんじゃないかな」

「うんうん、現実的ね。それでこそよ。……コッペは嬉しいわ。すごく、嬉しい。だって、ようやく報われる勇者が誕生したんですもの」

 

 彼女の目的はこの二人のことだろうが、それでも、その祝福は心からのものだった。

 これまでの勇者たちを造ってきた、ある意味では、母のような存在。

 一人ひとりに思い入れなく、それができるほど、彼女は無情にはなれなかった。

 ゆえにこそ、その感慨は千年分だった。

 

「それに、魔王様も。そういう結末になったのは何より、なのかしら」

「我はまだ納得しかねているのですが……いいえ、どうあれ。あなたにも、長年手を煩わせましたね、コッペリア」

 

 コッペリアの安堵は、アズにもまた、向けられている。

 ……その選択に、何か、思うところがあったのだろうか。

 

「コッペのことはいいの。勇者の二人が、そしてこの子たちがこれからの生涯を幸せに過ごせるのなら」

 

 ――最後の戦いに臨む前、コッペリアから託されたのは、かれらの未来。

 まだ生き方を、勇者としての使命の外を知らない、無垢な二人は、不安げに僕たちを見上げていた。

 コッペリアはその場に居合わせていなかった面々に、二人を紹介する。

 

「この子たちは、キリカとイヴ。アリスアドラ様の目論見通り、この世界が完成したとしたら……その繰り返される世界で、勇者となる筈だった二人」

「ユーリたちの、次の勇者……?」

「ここが完成だったとしたら、そうなったわね。二人はそのために生まれた存在。その存在意義は、ここで終わってしまうの」

 

 ナディアには、名前だけは伝えていた。

 そして、コッペリアの伝えた要点で、何を求めているかも理解したようだ。

 ナディアは微笑んだ。存在意義がなくなることを、悲観的には思わない。

 新しく生き方を定めることはできるのだ。ナディアも、ここに至るまでにそれを決意したように。

 

「……思いのほか、これからも賑やかになりそうですね」

「はい! 全然退屈するだなんて思ってませんでしたけど……きっと、楽しい日常になりそうです」

 

 使命のなくなった先の日常を探さないといけないのは、僕たちも同じだ。

 だったら、一緒に探すことができる。

 きっとその先に、かれらの……そして、僕たちの新しい存在意義がある筈だ。

 

「行きましょう、キリカくん、イヴちゃん!」

 

 クイールが差し出した両手。そこに送り出すように――コッペリアは手の輪郭を消失させて、二人から離れた。

 

「コッペ、僕たち――」

「ふふ。コッペと二人が話すことは、もう一つもないの。あとはここにいるみんなが教えてくれるわ。素晴らしい、人の生というものを」

 

 親離れに、近いのだろう。

 それを迎えるには、まだ二人は幼いかもしれない。

 だが、コッペリアはそう思わなかった。むしろ、これが最適な時期なのだと感じていた。

 僕たちもまた、それを否定はしない。クイールが僕たちを代表するように、差し出した手を近づける。

 

「僕たちも一緒です。どんな風に生きていくかを、これから決める……勇者ではない目で、一緒に世界を見てみましょう!」

「……クイールさん」

「私たち――迷惑じゃない?」

「もちろん! ――ホープっていう、二人と変わらないくらいの子がいるんです。きっと二人も、仲良くなれると思いますよ」

 

 その言葉を受けて、やや不安そうに。それでも希望を持って……二人は、その手を取った。

 

「――行ってらっしゃい、二人とも。……どうか、幸せになって」

「うん……行ってきます、コッペ」

「……今まで、ありがとう。私たちに、たくさんのことを教えてくれて」

 

 この日が始まった頃は、こんな風にすべてが終わるだなんて、思ってもみなかった。

 けれど、それが――僕たちがこれから経験していく、たくさんの変化の始まりなのだろう。

 そう自覚してみれば、思った以上に、ワクワクするものだ。

 みんなの、それぞれの笑みを見渡す。

 この状況を受け入れきっているもの、複雑さを抱えるものはいれど、未来への希望は共通していた。

 

「――さあ。みんな、帰ろう」

 

 その希望を胸に、歩んでいこう。

 たくさんの出来事が待ち受けている、これからの人生へと。

 僕たちが迎えたハッピーエンドの――その向こうへと。




長い長い旅を終えて、ここがハッピーエンド。
見届けてくださった皆様に、まずは感謝を。

次回は掲示板回。
そして後日談……というか、翌日の話を一話入れた後、再度掲示板回。
その後、いよいよ本作のエピローグとなります。

全て合わせて、残り10話を予定しています。
よろしければあと少しだけ、お付き合いいただければ。
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