凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
朝、目が覚めると、ベッドにはリッカがいなかった。
多分、寝過ごした訳ではないだろう。カルラはぐっすりと眠っているし。
「……」
僕たちの使命が終わり、一夜明けた。
リッカが事前に準備をしていた転移魔法で聖都に戻ってきてから、それほど特別なことはなかった。
まずはゆっくりと休むようにとリーテリヴィアに言われ、それからイリスティーラの屋敷へと戻った。
ホープに迎えられ、少し変わった夕食を済ませて、その日を終えた。
すべてが終わった後とは思えない、あまりにもありふれた――僕たちが望んだ日常だった。
カルラを起こさないようにベッドを出て、外に出る。
もうすっかり慣れ親しんだ、ゼクセリオンのリビングに赴くと、既にリッカは朝食の支度を始めていた。
「――おはよう、ユーリ」
「うん。おはようリッカ。早いね」
「ん……なんか、目が覚めちゃって」
らしくないと、苦笑するリッカ。
まだ、帰るべき日常に戻り切っている訳ではないという自覚があるのだろう。
それもその筈……リッカにとって、それは一体いつ以来のことか。慣れない感覚から、目が覚めてしまうのも仕方ないことなのかもしれない。
「カルラは?」
「まだ寝てる。……というか、良いのかな。冥界の管理とかあるんじゃ……」
「さあ……? まあ、仕事とかがたくさん残ってるなら、困るのはカルラだし」
「それもそうだね」
そんな風に、ちょっと気になったことを話しながらも、隣り合って朝食の準備を進める。
昨日の戦いの中で、絆によって喚起したカルラは冥界から本体のままやってきた。
他の面々は既に冥界に戻っているようだが、主であるカルラは帰ることなく、普通にここで一晩を過ごした。
いや、別に一緒にいられる分には、何も文句はないものの――カルラがやるべきことを放置しているのであれば、褒められたことではない。
そうだとして、僕たちに出来ることはないのだが。
精々が、こうして朝食を作ってあげることくらいである。
「一昨日の食材、まだ残ってるよね」
「足の早いのは使っちゃおう。……どうせ、今日も買い込むんだろうし」
どうだろう……確かに、今夜の宴にはみんな乗り気だったが。
アズとリーテリヴィア、キリカとイヴもいるし、ホープが友人を呼びたいとも言っていた。
それに、エヴァネスも呼んでほしいとのことだし、より賑やかで、一昨日よりも躊躇のないことになるのは、間違いないかもしれない。
僕たちも張り切らなければ……と、リッカと共に決意を固める。使命が終わって早々だが、油断ならない戦いといえるだろう。
「できることなら、フミナたちも呼びたいんだけど」
「……流石に無理だと思う。賑やかしにつなげておく分には止めはしないけど、おすすめはしない」
あの後聞いた話では、最後の戦いの中で、フミナや虹色の彼女も手を貸してくれていたらしい。
虹色の彼女はリッカが呼んだ。僕たちが戦えない状況で、リッカが窮地を乗り越える一助となってくれた。
そしてフミナは、クイールがこの世界に無事戻ってくるのに手を貸してくれたらしい。
恐らくは……僕が転生領域で大女神アズと話しているとき。
相変わらず、そういうところで僕たちが躓かないように助けてくれるのが彼らしい行いだと思う。その辺りは、リッカよりも経験豊富な、転生者ゆえだろうか。
だからこそもっとゆっくり話してみたかったのだが……。
「そのぅ……そんな気軽にクロスオーバーされると、我としても困るというか……」
……と、そんな話をしていれば、廊下の方から至極申し訳なさそうな声が飛んできた。
大きな純白の翼を床に垂らしつつ、眠たげに目を擦るアズだった。
彼女とキリカ、イヴの三人はひとまず、拡張したゼクセリオンの個室で眠ってもらっていたのだ。
「おはよう、アズ。まだ朝ご飯には早いよ?」
「おはようございます――いえ、朝食には大変興味がありますが、そうではなく……」
昨晩は全員疲労困憊……どころか、イリスティーラやリーテリヴィアは瀕死にまで至っていた。
傷を癒した後、夕食はリーテリヴィアの薦めてくれた店で食べたため、アズたちに僕たちが料理を振る舞うのは初めてになる。
朝だしあまり凝ったものは持て余してしまうだろうが、喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えていれば、アズは椅子に座ると、苦い表情を浮かべながら、控え目に注意を送ってきた。
「勇者ユーリからすれば当たり前のことかもしれませんが、本来、転生者間のクロスオーバーという事象は極めて危険なのです……下手をすれば、我やアリスアドラが何をする前に、世界が壊れかねないほどに」
「そうだったの……?」
「まあ……聞いた話じゃそうみたい」
「転生者リッカ、あなたその程度の認識で……っ!?」
「そうせざるを得なくなったのはあなたのせいなんだけど」
「うぐ……ぅぅ……」
クロスオーバー……異なる世界の人物が、別の世界に関わることだっけ。
確かに、フミナからはあまり良くないことだとは聞いてたものの、まさかそこまで危険なことだったとは。
リッカもそんな大げさに受け止める話とは思っていなかったらしく、僕たちの反応は、アズからすればよほど予想外だったらしい。
保存魔法の期限を確認しつつ卵を取り出すリッカは、最早その危機に大した興味を持っていなかった。
「そもそも興味なかったし……それと、わざわざ“転生者”ってつけるのやめて。いちいち仰々しくて嫌になる」
「わ、我の長年の癖でして……こう、立場上仕方なかったというか。肩書が不要だったのは転生領域での側近くらいで……」
「ああ……確か、リーンに怒られるって……」
「何故あなたがリーンの名を……本体の我と一体どんな話をしたというのですか」
――僕が戻ってくるに至った経緯を、既にみんなには伝えている。
転生領域に至ったこと。転生者となることを蹴って、戻ってきたこと。リッカや過去の勇者が積み上げた記録を壊し続けた旅路。
それを話した時点で、想像がついていたのはリッカだけだったらしい。
あとは、カルラとナディアが腹を抱えて笑っていた以外は殆ど、まるで理解できていなかったような反応だったが。
「まあ、ともかく皆さまがこれからの生涯に安寧を求めるのなら、世界観に歪みが起きることは避けるべきでしょう……朝から説教してしまい、申し訳ないです……」
「卑屈過ぎない……?」
決して虚偽ではない警告をしてきたかと思えば、アズは見る見るうちに落ち込んでしまった。
やはりまだ、罪悪感の方が大きいようだ。
もちろん、そういう蟠りがすぐに解けるなんてことはないだろう。
しかし、本来のアズらしい、あらゆる善性を信じるような慈愛が、今の彼女からはすっかり消えてしまっている。
このままでは良くないと――もやもやとした気分が晴れないアズに、作っていたものを差し出した。
「へ……?」
「一旦、これ飲んで。僕たちも、別に不必要に誰かを呼ぼうなんて思っていないから」
アズの目の前に、湯気を立てるコップを置く。
「ホットミルクだよ。飲んだら温まるし、落ち着くから」
「…………ほぁぁ……あまい……」
……なんだろう。クイールとかナディアの最初の頃を思い出す反応だ。
とろけるかのように表情を緩めたアズに既視感を覚えながら、その様子を見守った。
前の宴で余ったマシュマロというお菓子。リッカがホットミルクに溶かすと良いと言っていたが、アズの口にも合ったようだ。
「うぅ……何たる味覚の暴力……生の喜び……絆される……」
何を言っているんだろう、彼女は。
嬉しそうではあるが、やはり独特な語彙を持っているなと思った。
そして、朝ご飯ができて、みんなも起きてきて。
大聖堂の方に顔を出していたリーテリヴィアも招いての食事の場で、僕たちはとうとう大きな問題に向き合っていた。
「はああぁっ!?」
テーブルに手を叩きつけて立ち上がったカルラの叫び。
みんなの驚愕の中でも、一際大きなリアクションは、当然のことだろう。
「村がないってどういうことですか!? もしかして魔族が襲撃を!?」
「いや、そうじゃなくて……その……」
つまるところ、これからの僕たちが向き合わないといけない問題。
リッカが抱えていた最大の秘密――アズの村についての話をしたのである。
転生特典という、転生者が持って生まれる特異性は、周囲の認識さえ書き換えて、なんの変哲もない村を誤認させるほどだった。
僕たちはその虚構の村の中で育ったこと。村を認識できるのは、リッカが無意識に受け入れた者だけであったこと。
――僕たちが帰るべき故郷は、そもそも存在していないことをリッカが打ち明けた結果がこれだ。
「最初から、アズの村なんてなくて……つまり、帰る場所がないっていう……」
「わたしが描いていた未来像は!? 村での平穏でお気楽なスローライフはどうなるっていうんですか!?」
「カルラが冥界の主になった時点でそこは破綻してるんじゃないかな……」
「黙りなさいユーリ! そこは良いんです! その内、外から遠隔管理できる機構が完成するので!」
さらっと凄いことを言っているカルラの怒りは収まりそうもない。
まあ、どちらかというと、落ち着いて受け止められた僕の方が異常なのかもしれないが。
「……転生領域の機構の弊害がこんなところにも……わ、我は善かれと思って……もむもむ……」
「というか、ユーリはなんとも思わないんですか!? ここまでの思い出を全否定された気分なんですけどっ!」
「思うところがない訳じゃないよ。けど、二人との思い出は否定されてない。僕は、そこが一番大事だと思ってる」
大きなパンを頬張りながらまたも気落ちしているアズのぼやきを聞き流しつつ、味方を増やそうとするカルラに本音を返す。
僕としては、既に心の整理は付けていた。あの時言ったように、使命が終わった後に聞かされていれば、怒っていたかもしれないけれど。
要するに、カルラはそちら側だったということだ。
……いや、多分カルラはこれより前に聞かされていてもこうなっていただろうが。
「それは……っ、そうですが……これからどうするんですか。この空飛ぶ船だかテントだか良く分からない魔道具に住むにしても、常に起動しておくようなものでもないでしょう? それに、イリスティーラさんのお屋敷の庭にずっと置いておく訳にもいきませんし」
「ああいや、庭は別に使っていないし、私は構わないのだが……キミたちの村の件は……」
「あの時って、そういうことだったんですね。なんというか、納得です」
そういえば――風の試練を終えた後、一度村に帰った時、クイールとイリスティーラも一緒にいた。
まだリッカは二人を心から信じていた訳ではなかった。村の様子は、きっと見えていなかっただろう。
あの時、二人の様子がおかしいと思っていたが……二人から見れば、異常なのは僕たちだったということか。
「……ごめん」
「むぅ……もうちょっと調子乗ってくれないとわたしもやり辛いんですけど……」
いつも通り言葉をぶつけ合うならば、いくらでも応酬は続くのだろうが、今回に関してはリッカがしっかりと負い目を感じてしまっている。
そうなると、責めるに責められないのが僕たちである。
実際のところ、どうにもならない話ではある。
リッカの能力で、あの場所に村を再現することは……意識的にできるか不明だが、それが可能だったとしても、その村は“再現されたもの”でしかないのだ。
「……キミたちの村の事情をはっきりと理解できる訳ではないが、住むべき場所に悩んでいるというのならば、手を貸すことは出来そうだ」
さて、どうしたものかと考えていれば、そこで声を上げたのはリーテリヴィアだった。
「リーテ、何かあるのかい?」
「ああ。昨晩から少し考えていてな。キミたちに使命の報酬も、何の返礼もないというのは心苦しいと。ゆえにキミたちに提案したい――この聖都に住んでみないか?」
帰るべき場所がないという根本的な問題。それを、リーテリヴィアは端的に解消するための手立てを提示する。
聖都に住む――この問題をリッカに打ち明けられた時、案の一つとして考えていたことだった。
「魔王の四天王として最後に残った身として、俺には義務がある。キミたちが望むならば、使命を果たした勇者として盛大に讃え、その生涯を保障させてもらおう」
「いや、そんなことは望んでいないけど……聖都に住む、か」
「何にせよ、先立つものは必要だろう。四天王としてだけではない。聖都の長として、そしてキミたちに救われたリーテリヴィアとして……ハッピーエンドのその先の、手助けをさせてもらえないだろうか」
僕たちは自分たちの未来を守っただけで、おとぎ話のように世界を救った訳でもない。
寧ろ、自分たちの望みのために、多くの誰かの望みが叶う機会を奪った側だ。
みんなに誇れる偉業ではないし……これから先、何もせずに暮らしていきたいということもない。
だが……何をしたいか決まっていないからこそ、それを探すための土台は必要だった。
「……リッカ、カルラ」
その方針を、僕一人で決める訳にはいかない。
リッカの答えには確信があったけれど、あえて確認を投げてみれば、それほど時間を掛けずにリッカは返してきた。
「……ユーリが、それで良いなら」
「……まあ、四天王の方の善意を受け取らないのも気が引けますしね。リッカへの追及は、また今度としましょう」
「うん、それなら――お願いできるかな、リーテリヴィア」
「喜んで。受け入れてくれて感謝する、ユーリ。聖都はキミたちの村に比べれば騒がしいだろうが、良い都市だ。どうかここで、気の済むまで生き方を模索してくれ」
結局のところ、これが僕たちの始まりとして、唯一の道だろう。
少しの間、リーテリヴィアに頼ることになるものの……きっとここで、何か望ましい暮らし方は見つかる筈だ。
それを想えば、何とも楽しみになってくる。
「わぁ……! あの、ユーリくんたちはどこに住むんですか!?」
なんだか僕たちよりも興味を持っているらしいクイールが身を乗り出して尋ねる。
別に今すぐ引っ越す訳でもないと思うが……リーテリヴィアは苦笑しながら答える。
「候補としては……そうだな。大通りのここから近い場所に、長年使われていない空き家があってな。イリスの屋敷ほどではないが、それなりの人数が住める場所だよ」
「リーテ、まさか……」
「ああ。かつてはとある商会が使っていた建物だ。何を始めるにしても、申し分はないだろう」
――かつて、強要された使命の中で狂い果てた、一人の勇者を思い出す。
もしかすると、そこは彼女が代表を務めていたという場所なのかもしれない。
正確な年代は知らないけれど、その全盛期は数百年は昔のこと。
それでも、そこに在り続ける――彼女と言う存在の、名残なのだろう。
「運用の仕方はキミたちに任せる。それなりの人数が住める規模ではある筈だ。困ったことがあれば、相談してくれて良い」
アズに、キリカとイヴ……それに、ラフィーナやナディアも含めて。
ひとまずであっても、住居が必要な者はこの場に多い。彼はそれを考慮してくれているのだ。
「ありがとう、リーテリヴィア。……後で、見に行っても良いかな?」
「もちろんだ。気に入らなければ他にも候補はある。せっかくだ、聖都をゆっくり見て回ると良い」
まるで決まっていなかった、これから先の一歩目はこんな風に決定した。
ここから始まる、新しい生活。それぞれの道がまったく同じとは限らなくとも、大きく逸れることはないだろう。
リッカもしばらくは、落ち着いて過ごしたい筈だ。焦らずにゆっくりと、やりたいことを探していこう。
使命を終えて帰ってきた日常。
賑やかで、平穏な、ハッピーエンドの向こうで。