凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『勇蝕写本』/防衛戦線

 

 

 ――二十分。

 巨大ローパーの本能が優先的に仕留めるべき外敵を判断するまでの時間である。

 

「っ!」

「くっ……ユーリ殿、助かった。しかしどうにも……攻められんな」

 

 液体を周囲に展開することによる防壁の中で、フェンが苛立たしげに言う。

 僕とリッカ、オリヴィエ、フェン。ここで抵抗している者たちが最も厄介だと、『勇蝕写本』は理解した。

 無数の触手は殆どがこちらに殺到するようになり、周囲への被害は減ったのだと思う。

 ただ、それによって僕たちが対応すべき手数は何倍にも膨れ上がった。

 どうにか、防ぐことは出来ている。

 だが攻められない。オリヴィエの剣技によって迫りくる触手をもう何百と切り裂いているものの、それでローパーが消耗した様子も見られない。

 こちらが防戦に徹している時間は、触手が再生しきるのに十分な時間なのだろう。

 

「ふむ……私も単一の敵を斬るのは慣れているとばかり思っていましたが――」

 

 一息の後、幾重もの剣閃が取り囲む触手を切り払う。

 液体による防壁も諸共だが、こちらは回収してしまえば向こうの再生よりも素早い再利用が可能なため、影響は少ない。

 それをオリヴィエも、ここまでの時間で把握しているのだろう。

 

「オリヴィエ殿、支援する!」

「ええ。ユーリ殿、共に」

 

 ともかく、これを相手取るにはとてもではないが、僕とリッカだけでは及ばない。

 リッカは至極気に入らないようだが、黙過している辺りその脅威を理解しているようだ。

 

『U-リッカ――オズマッ! ファイナライズ!』

 

 触手には触手、という訳ではないが、広域の破壊力に秀でたオズマフューリーに移行。

 フェンの強化魔法を帯びたオリヴィエと共に、一気に削り取る。

 

「行きます」

『オズマ・エクスタシー!』

「……先程からなんなんだ? あの魔法音声は……」

 

 展開された触手が相手を貫いていき、拓かれた道をオリヴィエが進む。

 中心に近い部分から切り離せば、その分再生は遅れる。

 これが『勇蝕写本』を倒すという目的に到達する堅実かつ最短の手段、であるのだが。

 

「リッカ、もう一回!」

「……ごめん、ユーリ。もう少し待って」

 

 ――必殺技の連続使用を、リッカが止める。

 

「っ……もしかして魔力が……?」

「ん……違う。ただ、必殺技はまだ控えて。連発してもまだ、核に辿り着ける駒が揃ってない」

 

 それは、『勇蝕写本』を冷静に分析した上での、リッカの結論だった。

 このまま必殺技を使い続けても届かない。僕たちとオリヴィエ、フェンだけでは、足りないと。

 

「リーテリヴィア様を待つ、ということですか?」

「……魔王への報告はいつ終わるの。聖都の危機にいつまで長が引き籠ってるつもり?」

「さて。四天王も一人を除き色々と制約があると聞いていますが――足りないというのは私も同感です。これならばレイス百体の方が遥かにマシだ。今からでも変化してくれないものか」

「ネシュアの跡地でもあるまいし、それだけレイスが出たら未曾有の大事件だぞオリヴィエ殿……駒扱いはともかく、リーテリヴィア様を頼るという判断に否やはない。頼り切りというのも気が引けるが、ともかく我々には手数が足りない」

 

 見えている範囲での救助も終え、防壁魔法の展開に余裕が出来てきたからか、攻勢に出ている騎士たちも少なくない。

 だが、そもそもの規模がイリスティーラの工房の敷地を超えるほどの触手の山。

 それが常に再生を続けるというのだから、突破口がない。

 必殺技の連発でも足りないのなら、リッカの言う通りにするのが正しいのだろうか。

 

 ――ただ、少し違和感なのが、リッカがリーテリヴィアを……魔族を頼りにしているということ。

 この旅の中で、ホープと、詳細不明のアラクネ以外で信頼の素振りも見せていなかったリッカが、魔族に頼らざるを得ない純粋な危機。

 或いは、そうしてでもホープを助けたいということだろうか。

 そうであるならば、リッカの判断を否定しない。

 待つことが一番の近道。問題は、どれだけ待てば良いのか、だが。

 

「よし――それなら、とにかく今は、防ぎきる!」

「まあ、防ぐだけなら……特段の問題は見られないのですがねっ」

「了解した……! ……ユーリ殿、強化魔法を掛けたいのだが、そのスーツに弾かれる。出来れば受け入れてほしい」

「……ごめん」

 

 防戦になって以降、共闘自体はリッカも黙過してくれている。

 とはいえ、それは全てを受け入れるということでは決してない。

 フェンの強みはエルフ特有の魔法による補助のようだが――僕たちに掛けようとしているその一切をリッカが拒絶しているらしい。

 聞いた限りではこのスーツにそんな効果はない。つまりリッカが別途で弾いているということのようだ。

 ともかくこの触手の山を捌ききり、リーテリヴィアを待つ。今はそれだけだ。

 

『U-リッカ――リヴィアッ!』

「……あの魔法音声、本当にいるのか? 私がおかしいのか?」

「私に聞かれても。魔法にも土地ごとの風習はあるでしょうし」

 

 ……いや、この魔法音声については僕も不思議には思っているが。

 ただ魔法の進行状況を伝えるだけならばともかく、ここ数年は聞いたことがないほどテンションの高いリッカの声というのがどうにも違和感だった。

 

 

 

 防戦を続け、さらに十分ほど経っただろうか。

 これだけの長期戦は経験にない。必殺技を使わずとも魔力が足りるか不安になってきたが、リッカは問題ないとのこと。

 とりあえずここまで、予想していたほどの脅威は、感じられていない。

 かつて、四天王がどうにか封じたというほどのローパーは、再生力の高さから倒すことは難しいものの、押し止めることは出来ていた。

 

 これであれば、あの山道のオークの方がよほど恐ろしい。

 そう思えるほどに、どうにかなっている。それは、こちらがあれから殆ど防戦主体なこともあるのだろうが。

 状況は悪くはなっていない。変化があったとすれば、一点。

 

「っと、フェン先輩! 危ないであります!」

 

 担当区画の避難を終えたルークがこちらに駆けつけたのである。

 そうした命令は受けていないだろうというフェンの叱責に怯んでいた彼を受け入れたのはオリヴィエ。

 そこからは彼も加わることになった。

 ここまで彼と関わってきて、正直なところ、それほど頼れるとは思っていなかったのだが――

 

「ぶっ千切るでありますよぉっ!」

「……お前はその頼もしさをどうして平時の任務で発揮できないんだ」

 

 強い。それまでとのギャップから余計にそう感じるのかもしれないが、リッカが少し困惑するレベルで強い。

 サイズの合わない分厚い鎧や兜をガシャガシャと鳴らす忙しない姿はここにはない。

 大槍を振り回し、絡み付いてきた触手を派手に引き千切る。

 そもそも体格に合わない大きな武器や防具を当たり前のように身に付けていられるということは、それに足る筋力は備わっているということ。

 人は……エルフは見かけによらないというか、よく観察しなければならないというか。

 フェンが呆れ、オリヴィエが感心するように頷く前で、続けざまの刺突が数十の触手を一気にぶち抜く。

 

「えぇ……」

「……ルークはこと戦闘に集中すればあの通りでな。規定年齢に達していないというのに騎士の入団試験をパスするだけはある。あとは普段のあがり症さえ克服してくれれば文句はないのだが」

「一人に二物は齎されないという好例ですね。いや、例外はこの聖都にも多くいますが」

 

 言いつつも、ルークの隙を補って剣を振るうフェンとオリヴィエ。

 戦闘に関しては類稀な才能を持つ、成長途上の騎士。それがルークのようだ。

 彼の参戦は、予想に反して大きなプラスになった。

 これで倒し切ることが出来れば完璧だったのだが、そこを許さないのが『勇蝕写本』の脅威たる所以か。

 触手の対処自体はさせても、その再生速度でもって、深くまで掘り進むことは許さない。

 状況が変われど、攻めきれないという一点は変わらない状況。

 それが終わる時――つまり、僕たちが待ち続けていたものの到来は、交戦開始から四十分を迎えようとしていた時であった。

 

「――――!」

 

 周囲の防壁が突如狭まり、光の輪となってローパーの巨体を縛り上げる。

 声にならない悲鳴を響かせるローパー。その外へと触手を伸ばすことが出来ていない辺り、見えている以上の束縛効果があるものだ。

 防壁を担当していた騎士たちが困惑の様子を見せていた辺り、それはかれらの意思によるものではなかったのだろう。

 騎士たちが共同で行使していた魔法の制御を一手に預かれるほどの強力な使い手。

 その足音は、甲高い悲鳴以上に、その場によく響いた。

 

「待たせた」

 

 短く、端的な一言。

 しかしながら魔法の掌握という一手でこの場を支配し、己の到着を全域に知らせたこの聖都の長。

 白銀の鎧と青い外套が包む、輝く騎士。

 魔法を制御する左手を掲げて歩いてくるリーテリヴィアの存在感に、誰もの視線が集まり――そして、離せなくなった。

 はじめは驚愕と期待で。そしてその姿を一度見たあとは、困惑で。

 

「……リーテリヴィア様?」

「如何にも。リーテリヴィアだ。早速だが、この『勇蝕写本』の暴走、俺が預かる。騎士団一同は後退し、第八区全域に結界を張り、次の指示を出すまで維持せよ。それから……どうした?」

「こっちの台詞なんだけど」

 

 思わず、絶句する他の面々に代わって声を上げた。

 どうしたもこうしたもない。真顔で魔法を維持しながらやってくる、それはいい。

 彼を取り囲む、空間に走る亀裂のような魔法。

 詳細は定かではないが、リーテリヴィアは明らかにローパーを縛るものよりも強力な束縛魔法を何重にも施されながらやってきていた。

 

「その声は勇者ユーリか。報告の通り、奇抜な姿だな」

「今に限ってはその言葉、そっくりそのまま返したい」

「む……? ……、……ああ、なるほど。気にしなくていい。これは俺たちにとって受け入れなければならない枷だ。過剰だとは、俺も思うが」

 

 指摘すれば、ぽろりと本音が漏れた。

 そうだろう。自由なのは左腕だけで、右腕は束縛魔法に巻き込まれている。

 はっきり言って、まともに戦えるようにすら見えない。それでいてこの存在感を放てているのだから異常だ。

 

「キミが気にする必要はない。……試練の時間を削り、手を貸してくれたことに礼を言う。後は俺が引き継ごう」

「……いや。まだ、力を貸すよ」

 

 ともかく、彼だけに任せるつもりはない。

 彼が来たならば次は攻勢に出る番であり、あれを倒し、ホープたちを助ける番だ。

 

「言っておくが、これより先、『勇蝕写本』の攻撃は激しくなるぞ。あれは特別、俺を憎く思っている。今にもあの拘束を叩き割らんばかりだ。わざわざ巻き込まれるメリットもないと思うが」

「メリットなんて考えてないけど……多分知り合いがあの中にいる。“巻き込まれる理由”ならあるよ」

「……不思議な人間だな、キミは。それでまだ目覚めていないのだから、分からないものだ」

 

 そうひとりごちると、暫し、こちらに向けていた目を『勇蝕写本』に戻す。

 ミシミシと拘束に負担を掛けて抵抗する巨体を見上げ、再度、騎士たちに指示を出した。

 

「先の通りだ。オリヴィエ、指揮を執れ。フェンとルークは後退しろ」

「……彼らは?」

「残るそうだ。気に掛けるな」

 

 重ねての指示で、三人が動き出す。

 まずはフェンとルークの二人が慌ただしく。そして、オリヴィエが「武運を」と言葉を残し、去っていく。

 残ったのは僕たちとリーテリヴィア。

 

「『勇蝕写本』の本気はここからだ。あえて言うが……生き残りたいと思うならば余計な考えは捨て去れ。できる最善を徹底し、俺を利用し尽くし、恐れずして掛かれ」

「……参考にする」

「それでいい。キミたちが最善を取るならば、今度こそあれも真に倒し切れるかもしれない」

 

 勇者と、魔王に仕える四天王。本来なら並ぶことはあり得ない間柄かもしれない。

 それが成立する状況は、一体どれほど稀なのだろうかというふとした思考を振り払い、目の前の怪物に集中する。

 拘束には次々と罅が入っていき、今にも砕け散りそうになっている。

 リーテリヴィアは、こちらの戦闘準備が整ったのを見届けるように、拘束を緩める。

 次の瞬間魔法は爆発するように粉砕され、けたたましい雄叫びを上げた巨大ローパーの触手の群れは、先程までとは比較にならない速度で襲い掛かってきた。


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