凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「ぅげ」
我ながら、なんとも情けない声が零れた。
どうやら床に投げ出されたらしい。卵のたんまりと入った苗床の扱いじゃないだろうにと思いつつも辺りを見渡せば、触手の海はどこへやら。視界に入るのは私の工房だったもの。
形を保っているような、いないような。地下への階段に転がっていて分かるだけでも、見るも無残な廃墟になっていることは確信できる。
ふむ……元からこれなら悪ガキたちの幽霊屋敷扱いにも相応しいロケーションなのだが。
このまま放っておいて、十年も経てば陰気な亡霊たちも集まるかもしれないが、それだと私たちが住むに困る。
たった一晩で我が身に起きた災難に溜息をつきつつも立ち上がる。
「っ……重……」
尋常ではない腹の重み。
まったく、好き放題やってくれる。これで元勇者、元人間だというのだから、皮肉なものだ。
憎悪が変じて、弱者を喰らう魔族になったもの。勇気を呪い、勇者をも喰らうように変わったもの。
最早もとの人格など残っていなかっただろう。あれはただ、執念と憎悪が記憶していた対象をローパーとして襲うだけのシステムだ。
人格が残っているなら、捕えた魔族を生かして卵を植え付けるなんてことはしないだろうし。
しかし……驚いた。
自分の体というのも随分と拡張性がある。耐えられるということは知っていたが、体験するとまた違う感心を持つものだ。
母は強し、ということか。ネクリナの言う通り、私が頑丈なだけなのかもしれないが。
……いや、本当に重いな、これ。
生命の神秘、その一端に触れているというのは良いが、単純に考え事の邪魔だ。
どうしようかな。このまま孵るまで経過を見ておきたいものの、これでは満足に動くことも出来ない。
いいか。別に子宮でなくともこれは育つ。目で見た方が経過も分かりやすいし、私の体が無暗に変化してバランスが崩れるのも面倒臭い。
『マミーコード、スフィンクスコード、スライムコード、レイスコード、レディ』
保存、崩壊、再生、滞留。四つ同時に撃ち込むのは少々混乱しやすくなるのだが、仕方ない。
順繰りに撃てない状況になる以上、背負わないとならない負債だ。
……当然だが、手に持てばコレもべたべただ。洗浄とメンテナンスにどれだけ掛かるやら。
数日は続くだろう徹夜を億劫に思いながらも腕にコードを撃ち込み、因子を起動する。
記憶された過去の形質、形状という型が映し出され、続けて体が完全に崩壊。
支えのなくなった“お荷物”が排出され、肉体が元に戻るまでの間精神をそこに留める。
「……うん。生まれ変わった気分だ。おかえり、私の体」
あっという間に元通り。一年と……二ヶ月ほど前か? ともかく形状のバックアップを取っていた頃の、俗的な意味での穢れを知らぬ身である。
失うものも多いが、このくらいであれば集め直せる。
身軽になった
駄目な卵は、放っておいていいか。気が向いたら片付けよう。
「……。いや、先にあっちかな」
後はホープを出してやろうと、ガッチリと施錠された扉に手を掛けて、やっぱり離す。
起きたことも、後始末も、別に彼女が知らなければいけないようなことじゃない。
それが必要なことならば、彼女がもっと成長して、受け止められるようになってからだ。
多分それは、ホープにとってつらい話題になる。私もあの子には話したくはないから、うん、あくまであの子から求めてきたら、だな。
階段を上り、風通しの良くなった一階に出る。
本当、惨状だなこれは。愛しき我が家がこの始末というのは笑えてしまう。
まったく、修復はひと手間だが、全てが元に戻る訳ではない。生きた資材のバックアップは取れないのだ。
もしも被害額を請求できるなら自慢できる財産が築けるぞ。
無駄になったあれやこれやを以後はちゃんと保護する仕組みを整えておかねばと反省しつつ、一つの部屋……だった場所に向かう。
テーブルどころか壁も床も派手に砕けたそこには、見知った二人と知らない一人がいた。
「やあ、お疲れ様、リッカくん。ユーリくんはどうしたんだい? 任せてくれるなら診察も」
「必要ない」
おっと、食い気味な返答。
答えが返ってくるだけマシか。いやはや、まるであの時とは逆の状況だ。
どうやら眠っているらしいユーリくんの頭を膝に置いて、不安げにその顔を見下ろしているリッカくん。
この様子だけ見れば微笑ましい関係なのだが。
というか、使えるならまずは洗浄魔法なり何なり使った方が良いのではないか、リッカくん。勇気喰いの分泌液でべちゃべちゃになってるぞ、キミ。
全身でそれを浴びていないユーリくんの様子を見る限り、寄り添うリッカくんのそれが付着したものだと判断していい。
あの戦闘スーツの仕組みだろう。全身をリッカくんがコーティングしているためにユーリくんが分泌液まみれにならないという訳だ。
……昨日それを知っていれば、逆じゃなかろうかという感想を持っていただろう。
如何にリッカくんが勇者を――ユーリくんを支えようとしているとしても、彼女が積極的に彼を庇うというシステムは褒められたものじゃない。
守られながら補助に徹するべき。それを理解していてこその、二人でありながら単身での戦いを実現するあのシステムかと思っていた。
だが、まあ。
違った訳だ。リッカくんは己の何を捨てることになったとしても、ユーリくんを守ろうとしている。
――もういっそのこと、結論付けてしまおうか。
推測の段階にあるものが多いが、それで納得できるものが大半なのだ。
魔族を生き物とすら思いたくないほどに憎悪をつのらせているリッカくんが、ユーリくんと共に旅をしながら感情を共有しようとしていない理由。
あの瞳の奥に沈殿した、無限にも等しい苦痛と後悔。
一人の人間が作り出したとは思えない悪趣味な戦闘システム。
未だ目覚めぬ勇者の気質。ホープへの対応と、今回私の工房を中心に発生した事故。
知っていたのだろうな。少なくとも勇気喰いについては、詳細に。
未来視、或いは繰り返し、転生、憑依、未確認事項の受信。どれもこれも荒唐無稽だが、可能性でいえばざっとこれくらいは挙げられるか。
加えて、魔族を見る目が空想の恐怖を見るものでないこと、ネクリナが見逃したことを判断材料に含めれば、最初と最後の可能性は消える。
つまるところ、彼女は私がユーリくんに警告した危険性について、私よりもよく知っていたということだろう。
ユーリくんはその素振りもないから、彼女だけ。
その失敗、その地獄を繰り返させないために、独りで戦っているというところか。ユーリくんを守ること、そして、魔族への復讐も兼ねて。
いやあ、甘く見た。ここまで根源からして狂っているとは思わなかった。
恐るべしは冥界の魔力か。取り込んでみてなお、微塵も理解できる気がしない。
あれをリッカくんが自覚しているかは知らないが、よくもまあこんな使い方を選んだものだ。
ネクリナはさぞ嬉しかっただろうな。世界に生まれ落ちる筈のない同胞に出会えたのだから。
ここまで知っていたのか、別の結末を知った上でこれを勝ち取ったのか。
これは私にも分からないな。予想するなら後者だが。
どちらにせよこれは、少なくとも今は私の中に仕舞い込んでおくべき事項だ。
如何に確信めいていても結論が曖昧なものなのだから仕方ない。
勇気喰いは今度こそ消滅し、あれを封じた魔本が彼女によってホープに送り付けられた証拠もない。
だから私はリッカくんを恨めないし、ホープを利用したことを責められない。ホープと接していたリッカくんの言葉が詭弁だろうと、それを知る手段はない。
卑怯極まりない完全犯罪だ。お見事、リッカくん。
「……」
とはいえ、軽率……勇気喰いに私を貪らせ、地獄を見せようというのなら、私への理解が足りてなかったと言わざるを得ない。
勇気喰いは確かに捕えたものの精神を汚染し、狂わせるように出来ている。
侵された思考を嘲笑い凌辱の限りを尽くす触手の群れ。なるほど、それは地獄だろう。
だが、もっと基本的な、精神という“もの”の話として。
壊し切ったものはそれ以上壊せないのである。
精神にマイナスはない。全部擦り切れればそれで終わりだ。
例外の話で言えば、“なにか”を知った状態で瑞々しい頃に巻き戻るようなことがあれば、より“おかしい”壊れ方をするかもしれないが、まあそれは私には関係ない。
大方彼女は、私をただのエルフか、或いは堕落したダークエルフの類だと思い込んだのだろう。
私は
そして自らを失うほどのトラウマなんざ、十年前に経験済みだ。ホープに被害がなかった時点で、此度の事故なぞ実験の失敗一つにも満たない。
人間が変じた魔族というとびっきりの異常個体、そのサンプルも得られた訳だし、これで物的損害がなければリッカくんに感謝していたほどだ。
……言うつもりはないが。蛇の見える藪をつつく主義ではない。
結果を見れば私は一方的な被害者であり敗者だ。それがどうあれ、リッカくんがユーリくんの手を引っ張る原動力になるならそれでいい。
あのバカの分まで頑張ってほしいという気持ちは、偽りではないのだから。
「まあ、いいさ。そこのキミ。リーテリヴィアはどこだい? 勇気喰いにとどめをさしたのはアイツだろう?」
館を修復する準備を進めながら、リッカくんたちの近くに立っていた騎士に問う。
恐らくは被害の確認なりなんなりでそこらをほっつき歩いている彼に代わって二人の護衛でも命じられたのだろう。ご苦労なことだ。
しかし……当たり前だが術式の損壊も結構激しいな。
たんまり仕掛けた罠の類も全部台無しだぞ。この分だと庭に張った隠蔽もメチャクチャに違いない。
暫くは外からも見える幽霊屋敷か。それはそれで面白いかもしれない。どうせだからゴーストを模した魔力体でも徘徊させておこうかな。
「どこも何も。リーテリヴィアは俺だ。決して“そこらをほっつき歩いている”わけではない」
「……あ?」
騎士団……つまり、九割九分が彼に心酔するあの者たちであれば到底ほざかないだろう冗談。
とうとう連中にも気狂いが出たかと聖都の治安に不安を覚えつつもそっちを見てやれば、立っていたのは中々に良く出来た彼のコスプレであった。
なるほど。彼に負けず劣らずの美人と言えよう。並んで立てば双子に見えるかもしれない。
他者の口に出していない考えを天然で読み取ろうとする不躾な部分もよく再現したと言える。
だが、装束まで真似るのは些か不敬と取られないだろうか。リーテリヴィアは気にしないだろうが、他の連中が。
そして高潔な騎士ともあろう者が勇気喰いの分泌液を浴びたままにしておくのはどうかと思う。
絵面として危ないし、洗浄したらどうだろう。リッカくんたちもついでに。
「……とりあえず、禁書の管理不備は彼に追及させてもらうので、そのつもりでいろと伝えてくれ」
「無論、責任は取らせてもらう。まずは被害状況を纏めねばな」
「いやあ、責任を取るのはキミじゃなくてリーテリヴィアさ。私も被害者なんだ、物真似で戯けるのはどうかと思うよ」
「話を聞け、イリス。それと何度言ったか分からないが白衣を羽織っただけで歩き回るな。キミは昔から自己に無神経すぎる」
「……え? リーテ?」
「だからそうだと言っている」
「……、……え? ん……んん? え、本当にリーテ?」
「我ながら無理もないとは思っているが、何度問われても俺はリーテリヴィアだ」
「――――え?」
――これは知らんぞ、リッカくん。
そうであると確信した訳ではないが、何仕出かすか分からないという意味でそうとしか考えられない容疑者。
彼女にもう一手打たれていたことを、私はそこでようやく悟るのだった。
【『勇蝕写本』】
人間だった頃の名をポラリス。いつかの代に勇者として選ばれたもの。
既に人格は喪失しており、憎悪のままに獲物を貪るだけの怪物となった。
+
魔族、勇者、リーテリヴィアの三つに強く反応するようになっており、それらを確認するごとに出力が強化される。
三段階の強化が入るとまず詰む。また、リッカにある知識としてユーリが勇者として目覚めた状態で聖都に訪れるとコイツが自発的に封印ぶち破って強制ボス戦に入る。
聖都でのボス戦である以上魔族の発見とリーテリヴィアの参戦による二段階の強化は必至であるため、リッカ的にはユーリを半端な状態で聖都の試練完了まで導く必要があった。
また、観測した最も大きな勇者の気質に反応し、ホープの元まで転移したが、ホープ自体は少なくとも『勇者』として攻撃対象に定められていたわけではない。
+
触手は狂気の塊のようなものであり、捕らえられるとU-リッカの耐性を抜くレベルの精神異常が齎される。
普通なら耐えられず、前話のユーリみたいな状態になる。普通なら。
【ユーリ】
で、解放されたことで安堵のあまり気を失っている。
拘束中はあまりに未曾有の恐怖からリッカのことさえ頭に入っていなかった。
【リーテリヴィアちゃんさん】
縛りプレイは勇者の試練終了によって解ける方式。
不正とは理解しつつも『勇蝕写本』がこのまま被害を広げる方が大事になると判断したため、遠回しに「背中を狙え」と前に出たら全力で必殺技ぶちこまれた。
HPはゼロにならなかったため苗床空間に飛ばせなかったが、縛りプレイで魔力への抵抗が落ちていたのかTSは速攻で効いた。
【イリスティーラ】
ボス戦の裏でCG展開になっていた。
頭がおかしいので苗床られても気は狂わなかったし、頭がおかしいのでリッカの真実に九割がた辿り着いた。
今回の出来事はほぼほぼ把握したつもりで内心勝ち誇っていたがリーテリヴィアちゃんのそれは流石に予想外だった。
裸白衣には無限のロマンがある。
【リッカ】
ユーリをとにかく試練前に強くしようとしていたかつてのリッカにとって、詳細を知る前の『勇蝕写本』は幾度となくストッパーとなる天敵であった。
リーテリヴィアとの共闘による突破も経験しており、彼の性格を知っていたリッカは試練の突破に利用することを決定。
ところが聖都到着の前にユーリを誑かし、勇者として目覚めさせかけた知らないエルフが湧いたのと、それと同棲する勇者の気質を何故か先代から受け継いでいる知らない虫が湧いたのを確認したことで、掲示板で辞書を利用して決意のオリチャー発動。
散々に犯され抜いて放心状態の知らないエルフを回収できれば良し、そっちが捕食されていても試練が突破できれば良しというのが今夜の計画であった。
結果として知らないエルフはなんかノーダメだったが、念願叶い試練を突破。
ユーリが最後、自ら引き金を引くことを躊躇ったことは想定外であり失敗だったと、ユーリを膝枕しつつ絶賛後悔中。
ちなみに『勇蝕写本』の汚染効果はユーリよりダイレクトに喰らっているのだが頭がおかしいのでノーダメだった。コイツで狂うことには慣れたともいう。
それと第五話『その話やめない?』の後書きにあるリッカのステータスは反転できるんですよ。わたしたちって似た者同士ですね、リッカ。