凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
人里離れた場所で生まれ育ちながら、我にとって人間とは慣れ親しんだ存在だった。
セイレーンとしては珍しい話ではない。
遥か昔よりセイレーンとは、人間と交わり子を成すことのありふれた種族であるからだ。
人間との子で種族を繁栄させることの出来る魔族は、なにもセイレーンだけではない。
血の混乱を禁忌と見なす耳長でも事例はあると聞くし、夜の支配者を気取る血吸いコウモリなんぞは娯楽感覚で人と交わるとか。
それで雑種ともいえぬ、種族として問題のない子が産まれるところが、魔族が魔族たる所以なのだと、母様は言っていた。
かくいう我も、セイレーンの母様と人間の父様から産まれた。
ながら十全に種としての力を行使できることから、母様の言葉は真実なのだろう。
セイレーンは小島や岩礁など、海の上の小さな陸地を主に縄張りとする。
魔力の扱いに長けた種族であるために、そこを基点に空間を拡張して住処とするのだ。
魔族であるための独自の生態。己の誇りある才覚の証明。そして何より、伴侶に一切の不満を抱かせぬために、セイレーンは技術を凝らして住処を作る。
セイレーンは奉仕の種族だ。母様に言われずとも、物心ついた時から本能として理解していた。
生涯たった一人の伴侶を想い、身と愛の全てを捧げて尽くす。
焦がれる感情を向けた相手に人間の営みを捨てさせることで初めて結ばれるのだから、それは当然のこと。
――独り立ちしたセイレーンはそのまま同種と結ばれることもあれば、人間を探しに行くこともある。
どちらも目的は同じだし、そこから先も変わらない。
セイレーン同士であれば種としての性質を熟知しているがゆえに、はじめから互いに愛を捧げ合う。
そして人間であれば、まずはセイレーンというものを理解してもらうことから始まる。
人間に染み込みやすい魔力を乗せた言の葉で愛を囁き、脳を蕩かせ、住処へと誘う。
これは人間に恐れられる、魔族としてのセイレーンの脅威性。人間からすれば、心を惑わし、何処かへと連れ去る怪物にさえ見えるのだろう。
だが、これはセイレーンからすれば一世一代の告白。生涯最大の挑戦である。
愛するのはたった一人。焦がれるのはたった一人。“初恋”が実を結ばなければ、そのセイレーンの炎はたちまち燻り、二度と燃え上がることはない。
ゆえにセイレーンは胸の奥に感じる最初で最後の熱さを一生のものとするために全霊を尽くすのだ。
……さて。
そんな、他種族からすれば“難儀な”生態を持つセイレーンは、その特性ゆえか、つがいとなるべき相手を見つけやすいという。
たった一度しか燃え上がらない心に火をつける相手がいつまで経っても見つからなければ種族は衰退まっしぐらだ。
個体ごとのセイレーンの好みの範囲は一般的には広い。
見つけようと思えば生涯を尽くす相手はすぐに見つかると、母様はそう言っていたのだが。
我の琴線はほとほと我儘であった。
海を行く男たちを見ても、心はぴくりとも靡かない。
人間の中でも屈強な体を持つことを求められる命知らずたちは、海に関わるということからも取り分け“出会いを得やすい”とされているのだが、それは嘘なのではないかと思うほどに何も感じない。
冷たいほどに無であった。
他のセイレーンが魅力を感じるものに、己がどうして惹かれないのか分からなかった。
強い者が良い、という気持ちは当然ある。魔族とは比べるべくはなくとも、人間の中ではの話だ。
であれば船に乗る益荒男たちは相応しい筈なのに、何が違うのか。
その答えはいずれ伴侶を見つけた時に分かるのだろう。
疑問を己の内に仕舞い込み、この日も空から一つの船を見下ろして――
――そして、見つけた。
周りの男どもと見比べれば、その肉体は貧弱にもほどがある。
しかし、一目見て分かった。彼は勇者だ。それも、大した功績を残せずに歴史に散っていく名ばかりのそれではない。
聖都の耳長の長に認められ一つ目の試練に打ち勝った、“真の勇者”の卵だ。
燃え上がるものを感じた。冷たかった心は途端に熱くなり、体は狂ったように彼を求め始めた。
勇者としては芽を結んだばかり。摘み取ってこの先の活躍を無かったことにしてしまうのは勿体ない。
だが、どうしてその衝動を抑えることが出来ようか。
幼さの残るその顔つきが良い。
気取るためではなく、恥とならないために整えられ、田舎育ちという印象を残しつつも都会でも悪目立ちしない程度に背伸びした身なりが良い。
艶のない平凡な黒髪が良い。黒の奥に勇気の灯りかけた瞳が良い。未だ目覚めぬ勇者としての資質を起こそうと、確かな標を頼りに試行錯誤する愚直な魂が良い。
垢抜けず、頼りなく、しかし最後の一線だけは譲らず踏みとどまるのだろう存在が、己の内を急速に満たしていった。
目が合えば、よりその熱は強くなった。
我を敵意のある魔族と見て取ったのだろう。顔を隠す無粋な戦装束を纏い攻撃を仕掛けてきたが、仕方なきこと。
特段、悲しいとも思わない。それを当然と受け入れれば、彼の意識がこちらに向いている事実で想いはさらに加速する。
交わりたい。全てを捧げたい。我が愛の限りを、彼の幸福に費やしたい。
驚くと同時に、あまりに甘美であった。
セイレーンの生き方とは、セイレーンの愛とは、ここまで己を狂わせてしまうのだ。
「もう良いか、心の昂ぶるままに一度まぐわってしまおう! なに、我に任せよ、極上の快楽を約束しよう!」
告げた想いは心からのもの。
加えて、本気であることの証明として言の葉に乗せた魔力は、想い人を当たり前に蕩かせてしまう筈だった。
そうしなければならない。たとえばの話、二つのセイレーンが一人の人間を想った場合、勝敗を決するのは唇で紡がれる歌である。
はじめに相手を傾かせた方こそが生涯の伴侶を得る。セイレーン同士の数少ない争いは、そうして行われる。
これほど可愛らしく、将来性のある勇者とあれば他の者どもがこぞって押しかけてきてもおかしくない。
だからこそ誰より早く、この想いを告白し、受け入れてもらわねばならない。
この内なる炎が間違いではない、彼に捧げるに相応しいものであると、認めてもらわねばならない。
――ところが、答えの如く返ってきたのは、夥しい数の虫の群れであった。
水を使った先の攻撃や身の守りはいささか珍妙ではあるが、魔法を正しく駆使すれば出来ないことはない。
魔力の操り方さえこの勇者は学んでいたのかと感心したほどだ。
だがその群れに対しては、しばし思考が止まってしまう。
どこかと空間を繋げているのだろう。
飛び出してくる虫の群れは種も大きさもまちまちだが、全て等しく“使い魔”であった。
使い魔とは増やせば増やすほどに制御が難しくなる。
そも、人間が魔族を使役するということ自体、常軌を逸した命知らずな行為だ。
汚らわしい夢魔どもが人間に使役されることもあるというが、あれも人間の営みから精を啜るための戯れでしかない。
反逆の危険を考えれば、使い魔を人間が操るなどあり得ない。
しかしどうだ。この数、虫型魔族の上位種にも匹敵する。単調な命令のみで動かすにしても、人間が制御できるとは思えない。
黒々とした虫は勇者を守るように、周囲を飛び、這い回り、我を近付かせない。
実際に見たことがあるのは、海を渡る旅バッタや魔蛾の類くらい。残る種は、“これだろう”という憶測しか出せない。
ハチに羽アリ、甲板を這うのはクモやムカデやサソリ。
名も無き虫型魔族たちはそれぞれの種が喰い合うこともなく互いの合間を縫うように蠢く。
そして不意に群れの動きが統一され、勇者に集ったかと思えば――黒く輝く、戦装束の上を覆う鎧となった。
手足や胸部などの部位に集中し、鱗のような文様を描く鎧。
戦装束に走っていた魔力の経路は青から緑へと変色し、巡る属性をも変化させる。
使い魔の形質変化。共通した“規格”によって異なる種の同時制御を容易にしたのか。
そして、肉体というどうしようもない魔族との差を、使い魔を利用することで補う工夫。それを実現させる技術。
これか。この、歴代の勇者が誰一人やらなかっただろう戦法こそが、彼を強き勇者たらしめているのか。
「ちょ、リッカ……これ勝手に動いて――」
ギチギチと音を立てて鎧が動く。
あれを構成する無数の虫たちが形状を変化させることで、無理やりな動きを可能とさせるのだろう。
――強く甲板が蹴られ、無機質な瞳が寸前まで接近する。
「……あぁ――あぁっ!」
驚いた、驚いたとも。まさか、ここまでだとは思わなかった。
風を操り、振るわれる拳を舞うように躱す。すれ違いざまに、鎧から独立して飛び出してきた羽虫を更なる風で叩き落とし、空へと退避する。
彼から離れるのは心苦しい。だがこうして距離を取るのは彼への敬意。
その特別さに対し、我もセイレーンとして立ち向かおう。戦うことで互いにより分かり合える。
凄まじい力だ。やはり我の心は間違っていなかった。
我が愛は、勇者――お前に向けられるために存在するのだ。
「良いぞ、勇者! 見せてくれ、お前の力! 向けられる敵意、その倍お前を愛そう! その敵意が愛に変わってくれる時まで、一方通行だろうと愛を囁き続けよう!」
鎧からさらに分かれ、散弾の如く飛び上がってくる群れを、風で薙ぐことで近付かせない。
ばらけたそれらを気にする必要もないと勇者に目を向けていれば、いつの間にか合わさって巨大な蛾となり、風の壁をものともせずに突っ込んでくる。
分離させた上での結合まで可能なのか。
「くっ……ふ、ははっ――!」
その翅の一振りによる、鋼鉄かと思うほどの衝撃を和らげつつ、勇者に向かって落ちる。
分かるぞ。虫たちがあの鎧を構成している以上、攻撃のために分離させれば勇者本体を守る数が減る。
身の守りと引き換えの攻撃は、やり過ごされてしまえば付け入られる隙になるのだ。
風を操る。セイレーンは元来魔力の扱いに長ける種であり、海上に生きる種である以上これが最も得意であるのは当然だ。
蛾に追いつかれない程度の速度で落下し、勢いを乗せて足を振るい勇者の胸に叩き込む。
「ッ――!」
「防いだか! それでこそっ!」
躱すことは出来なくとも、防御の判断が間に合ったらしい。
蹴り込む瞬間、鎧となっていた虫たちが胸部に集まり、部分的に鎧を分厚く、硬くしたのだ。
有効打にはならない。どころか触れたところにすかさず虫たちは集ろうとしてくる始末。
こっちは想定内だ。足に纏わせていた風は分離した虫などには触れられない。
さらに衝撃で鎧から虫たちがいくらか吹っ飛んで、動かなくなる。あれらはもう使い物にはなるまい。
勇者が魔族に抗う手段として、苦労して用意したのだろうそれらを蹴散らすのは気が引ける。だが、その躊躇いを呑み込み、障害として打ち払ってこそ、この愛を彼に捧げられるならば。
「いいぞ勇者。ならば我は、その鎧、戦装束、無粋なもの全て取り払ってお前を組み伏せよう! その果てでお前は我を受け入れてくれるのだろう!?」
「えっ」
普通のセイレーンとは盛大に異なるだろう求愛だが、それもまた良し。勇者が相手ならばそうもなろう。
全力で彼を愛するべく、全力で彼を倒す。
虫たちが集まることによる防御力は大したものだ。だが苛烈な攻撃を仕掛ければ、弱いものから散っていく。
数によって維持されている攻めも守りもその積み重ねにより弱体化していく。
巨大蛾もまた然り。その眉間に蹴りを叩きつけても顔面が歪むだけで活動を続けていたのは少々恐ろしかったが、そちらも散らせば弱る。
そのまま分離しておくのは悪手だと判断したのだろう、勇者は鎧に巨大蛾を引き戻す。
その判断は間違っていない。ここからさらに舞を苛烈にしていくのだ。守るものは必要だろう。
「むっ……?」
――と思いきや、戻っていった虫は左腕に集中して結合していく。
作り出されたのは、ワニの大顎を思わせる手甲。
考えるまでもない。それは武器だ。
カニやエビの持つ鋏脚と同じ、敵を捕らえるための攻撃機能だ。
攻撃に特化する方向に動いたか。ならば大人げないが、空を舞わせてもらう。強力な武器であろうとも、届かなければ役目を成さない。
許せ、勇者。これが魔族と戦うということ――
――――見下ろした勇者が体中から翅を伸ばし、迫ってきた事実が生んだ混乱で、隙を晒した。
「づっ……勇者、飛べるのかっ!」
咄嗟の防御が間に合わず、風を貫いて大顎が翼に噛みつく。
染み込むような痛みに驚愕しつつも、やはりそれに勝る喜びと誇らしさが沸き上がる。
凄い、凄いぞ勇者。今や空は魔族だけの領域ではない。
お前は空すら駆けることが出来る。そんな――そんな勇者に、我は愛の全てを捧げることができるのだ。
少々不格好な飛び方ではあるが、それもまた愛おしい。
愛おしく思いつつも、振り払う。大顎を蹴り砕き、距離を取る。
共に飛べるというのなら、そう……他のどんなセイレーンでも出来ない、人間の伴侶と共に。
空の……空の逢引など、出来るのではないか。
――うむ、良し。良しだ!
誰しもが羨むだろう。それを可能とするのが、我が伴侶なのだ。
彼も飛べるとなれば色々出来るぞ。ああ、今から楽しみではないか。
これほどまでに何でも出来るならば、我も彼と胸を張って並べるセイレーンにならなければ。
強く、美しく、巧く、賢く、至高のセイレーンに……ッ!
「――な、に……!?」
突如として操っていた魔力のバランスが乱れ、崩れた。
呼吸と同じく当たり前であったものが失われた。
風を操ることで浮遊していた体が揺れ、咄嗟に羽ばたきによる飛行に移ろうとして、そこで噛みつかれた右の翼が麻痺していることに気付く。
この傷から染みるように広がっていく痛みと痺れは、もしや。
「毒……っ!」
いつも通りに操れない魔力と動かせない翼。
それが意味することは、セイレーンとして有する技能を喪失したということ。
飛行を保てず甲板に落ちる。
落下の痛みは、初めて感じるもの。
いや――思えば誰かから傷らしい傷を受けたことすら、これが初めてだったか。
「……うむ。なるほど、そういうものなのだろうな」
悪くない、愛する者から虐げられるというのも、また良しか。
それが望みであるならば。勇者にこの身を捧げられるならば。
『ファイナライズ! アクセプション!』
この未知の痛みに浸るのもまた一興。
じわり、じわりと染み込んで、全身に広がり心地良さに変わっていくその刺激は。
彼に全てを尽くすセイレーンとしては、愛おしく感じて当たり前のものだったのか。
『バラーズ・エクスタシーッ!』
空を見上げる。
視界を埋め尽くすほどの虫の群れ。巻き込んだものを容易く引き裂くだろう、生命の嵐。
よもやそれが最後の景色となろうとは、我の生涯も分からないもの。
勇者の使い魔に満ちた光景というのも悪くはないかもしれないが、やはり――
「……だが、その顔……最後にもう一度見せてくれても良かったのではないか……?」
――少なからず、未練はあるものだ。
『イピカ』
【属性】火
【攻撃力】■■■
【防御力】■■■
【素早さ】■■■■■
【魔 力】■■■■■
【精神力】■■■■
【種族】セイレーン種
海の向こうから、海鳥の鳴き声にも錯覚する高い歌声が聞こえてきたら、それはセイレーンの歌である。
セイレーンは海に浮かぶ小島や岩礁を縄張りとする、人に酷似した上半身と鳥の下半身を持つ魔族で、腕は発達した翼となっている。
飛行能力と魔力の操作に長け、魔力で空気を操作することで空中で舞うような細かい制動を可能とする。
歌は人を惑わす効果があり、判断能力を鈍らせ操りやすくする。歴史の中では群れが船一つを丸ごと乗っ取り、攫ってしまったという事例も。
飛行能力や歌も危険だが、最も注意すべき特徴として、人間に対し非常に友好的だという点がある。
好みの人間を見つけると歌などを駆使して魅了させ、縄張りに持ち帰るのだ。
人間との交配が可能ということもありこれはセイレーン種全体の生態にも等しくなっている。海沿いの町では、特に夜などは歌の影響を防ぐための耳栓が欠かせない。
――なお、攫われた人間は逃げ出そうとしない限り甲斐甲斐しく世話をされるらしい。奉仕体質な種族のようだ。
【『海恋歌』イピカ】
シートレイアの町とニャーシェの町を繋ぐ海路は人間の船が航行することを許されている。
ここは町と町とを繋ぐ陸路の街道と同じく、理性ある魔族であれば手出しをすべきではない場所だ。
ただし、そうした場所でも被害は多少なり存在する。命がけで海を行く者にとって、それは事故の如き災難である。
『海恋歌』はここ数年でこの海路に出没するようになったセイレーンで、人が攫われたという被害は確認されていない。
積み荷から食糧を盗んでいくことこそあるが、それ以外は船の上空から乗員を見下ろしているだけであった。
それゆえ、この海路を利用する船乗りからは、危険ではないが不気味な存在と判断され、嫌われている。
そうした“弱者の囀り”を、強者たるセイレーンは気にしない。
今日も今日とて、つがいに相応しい人間を見定めるだけである。
【ユーリの評価】
「変わった魔族ではあったけど……それより、リッカが怖かった」
【リッカの評価】
「……そんなに子供が欲しいなら、望み通りにしてあげる。百でも千でも産めばいい」