凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
“健康的”に過ごす秘訣は十分な睡眠と十分な食事である。
さらに運動なり魔力の消費なりで余分を消費できれば完璧だ。
精神的な楽しみがあるかないかは置いておいて、とにかくこれだけ出来れば容易くは死なない健全さを保持できる。
つまるところ――この環境で当たり前に眠ることが出来るようになった私は、最悪に健康的だということだ。
「……っ」
気付かない内に意識を失っていた、ということは随分減った。
ここに放り込まれてもうどれだけ経ったかは知らないが、既に当たり前のこと。
やることもないし、眠ろうと思えばいくらでも眠れる。時間を確認するすべがないが、十何時間というレベルで寝ていることだってあると思う。
苗床に魔力が無いのなら、頑張り屋な使い魔たちが魔力を吸い取ることも出来ないし、孕んでいるならそれ以上を植え付けることも出来ない。
即ちそういう状態が、私たちにとって休憩の時間である。
……私たち、とは言うが、そういう精神ケアのサイクルを保てている者がどれだけいるやら。
あのイカレたアルラウネはともかくとして、ここに招待される後輩たちは悉く、“人間もどき”の餌食になってきた。
新しい魔族がやってきては、ほんの僅かな期間だけ話し相手となって、すぐに先に行く。
羨ましいとか、羨ましくないとかも、もう感じなくなった。
死にたい。殺して。そんな言葉はここに来る者みんなの口癖である。
だが、どうやら私は一周回ったらしい。
長らくこの場所にいて、瀬戸際で留まり続けていたからか。助かりたいと思うことすら億劫になってしまった。
そういう感情を麻痺させるほど、ここにはおかしいものが多すぎるのだ。
辛うじて、あの女が喜びそうな反応を返せるのが、すっかりこの空間の大半を占めた虫たちの群れに叩き落とされることくらい。
それさえ異様な嫌悪感があるばかりで、最初ほどの涙も絶叫も出なくなった。その変わりようを自覚してしまうのが、ある意味で一番効く。
いなくなってはちょこちょこと顔を出す妖精たちにすら慣れた。なんなんだ、私。
こういうところのしぶとさで、自分がサキュバスであることを如実に感じる。
外にいた頃であれば、これは紛れもなく誇りであった筈なのだが。
とっくの昔に当たり前になったお腹の重さを感じながらも、目を開く。
ああ――知らない間にまた、新入りがやってきていたらしい。
その図体相応に頑丈なオーク――予想は当たっていた――も今は寝ているらしい。なら、私が気を遣ってやらないといけないか。
……ほんとアイツ、見た目に寄らず結構面倒見良いんだよな。それが報われないのが悲しいが。
「む……? ……おぉ、目が覚めたか淫魔。身重のようだが、大丈夫か?」
「……こっちの台詞よ。最近入ってきたんでしょ?」
身重なのはお互いさまである。
翼や鳥に似た下半身。容姿に変化がないのであればハーピーかセイレーンか。
虫の海に体の半分ほど沈めたそいつは既に仕込まれた後であるようで、お腹は歪に膨らんでいる。
今の私でさえ拒絶したい、あの惨状の中にいながら、私に掛けてきた第一声は呑気なものだった。
それなりに頑丈な精神性の持ち主なのだろうか。ハーピーやセイレーンにそうした噂は聞いたことがないが。
セイレーンだったら生涯の伴侶に対してだけは、異常なほどに執着するらしいが、それとこれとは関係なさそうだ。……ないよな?
「うむ。既に時間感覚は失ってしまったゆえ分からぬが、一日と経っていない気がするな。陽の光なり時計なり取り入れれば良いと思うのだが」
「あの女に言ってやりなさいよ、そういうのは……言える気概があれば、だけど」
ちなみに私は言う気がない。というか、あの女と話す気がない。
しかし……そんなことを気にすることが出来る辺り、かなり余裕があるのか?
まさかあの妖精たちのように私の精神を削る側かと警戒し、その在り方を注視する。
「……んん? あの女? なんだ、他に誰かいるのか、ここ」
「…………」
――もうやだ。“死にたい”も“殺して”ももう遥か彼方にある身だが、本当にもうやだ。
くそ、覗いたことを後悔した。今すぐにでも忘れたい。
間違いない、セイレーンだ。生涯たった一つの愛に全てを捧げる、奉仕の魔族だ。
分かり合えない相手を覗くものではないとは言うが、本当にその通りだ。
他者の精を啜ることに特化したサキュバスが魔族の中でも忌避されやすいことは知っているが、こうして見るとセイレーンも対照的であるだけで十分におかしい。
一切この状況を苦に思っていない。それどころか、快感すら覚えているときた。
変態だ。そうでもなければ、よりヤバい。
セイレーンが喜びを感じることとは、即ち“伴侶”と認めた相手への奉仕に他ならないのだから。
「おーい、どうした? 何を黙って……おお?」
これで何度目か分からない、全てを投げ出したくなるような感覚。
理解の外を味わわされた時の気疲れを一瞬にして感じ、また眠ってしまおうかと思った時、空間に元凶が現れる。
相変わらずふらふらとした足取りと、焦点の合わないような壊れた瞳。
この部屋の異常さを体現したような“ご主人様”である。
「お前は……そうか! この部屋の管理者だな? 勇者から委託されているのであろう?」
「……気分、どう? 捧げようとしたもの全部奪われて、どんな気持ち?」
会話しろよ、二人とも。
蚊帳の外になったのは大歓迎だが、これを聞かされる身にもなってほしい。
今からのやり取りなんて想像がつく。相当狂った形になるぞ、これは。
聞きたくない、聞きたくない。
さっさと眠って意識を失ってしまいたい。そういう時ほど、簡単に寝られなくなるものなのだが。
「うむ、うむ。強引かつ、勇者本人に捧げられなかったのが残念ではあるが。勇者の使い魔が啜っていったということは勇者に操を捧げたのも同義。だから……うむ、喜ばしい。我は喜ばしいぞ」
「……は?」
ほら、こうなる。
考えなしにほいほい放り込むからこうなるんだ。
そもそもこれだけ大勢の魔族を使っていてまだ足りないのか。殺すなりなんなりしてしまえば良いだろうに。
「この虫たちを見てすぐに分かったとも。これは勇者が操っていた使い魔だ。それを増やし、戦うに足る魔力を補うことを我は彼に求められた。勇者は我を必要とし、我にこの役割を託してくれたのだ」
「……、……なに、言ってるの」
「勇者はどこまでも勇者だったということだ。我が愛を囁いたとて歩みを止めることはない。愚直ではあるが、それもまた愛おしい。ならば我はその歩みを止めさせぬよう尽くすまで。我が操、我が胎、我が血肉、我が魔力。我が何もかもを、世界を変えんとする勇者に捧げて見せるとも!」
その声が熱を帯びていく。
今の状況が心の底から愛おしいと、セイレーンは自慢の声で歌って見せる。
……怖いもの見たさに、少しだけ目を開けた。
恍惚とした表情のセイレーン。そこには苦痛はない。あるのは満ち足りた歓喜と快楽。
ほんの僅かにも、その他の可能性を疑っていないゆえの強靭な精神は、まるで傷を負っていない。
セイレーンにとって生涯一度きりの運命の出会い。
彼女のそれは、つまりあの勇者だったのだろう。
分からないでもない。少なくとも将来性は感じていたし。
勇者に惚れた上でここに放り込まれたということは、彼女にとってここは凌辱の場ですらない。
彼に全てを捧げ続ける幸福の空間なのだ。
「……自分の立場、理解していないんだ。この場所をユーリは知らないし、あなたがここでどうなろうとユーリは認識しない。顧みられることだって――」
「ユーリ! 勇者ユーリ! ユーリというのかっ! ああ、出来れば彼自身から名を聞きたかったが、そうか、ユーリか! うむ、ユーリ……良い名だ。ああ、名を呼ぶだけで満たされる。ユーリ、ユーリか……」
……あの女の表情だけは、見ていて少し気の晴れるものかもしれない。
時折ここにふらりと現れては何事か呟きつつ苦悩している彼女ではあるが、これはその中でも一番の混乱だ。
よほど予想外の反応だったのだろう。あの女は顔を歪めて目の前の人外に困惑、怒り、憎悪を膨らませている。
どうせ、“勇者に捧げるつもりだった全てを虫に奪われた様子”を見て悦に浸るつもりだったのだろうが、そんなありきたりな絶望を味わわせたいのであれば、セイレーンは相手が悪いとしか言いようがない。
この連中が心底から絶望するのは、想い人が非業の死を遂げた場合くらいだ。
そうでもなければ対象の行動全てが愛おしさに変わる種族を“これ”で壊すのは無理があるぞ。
「っ、ユーリの名前を呼ばないで。あなたがどれだけ想ってもユーリには届かないの」
「届かないから想いを断つセイレーンなどおらぬ。それに、失恋した者どもに比べれば我は幸福だ。どうあれ全てを彼に捧げられる。我が愛は無駄ではなく、勇者の旅路を彩ることが出来るのだからな」
「――――」
はっきり言って、セイレーンを理解するなんて不可能だ。
多分これであの女も理解したと思う。戦いには勝てたのだろうが、ここに放り込んだ時点である意味負けである。
あの女には勇者を殺せない。だからこのセイレーンは決して絶望しないのだ。
「――、駄目、殺しちゃ駄目。落ち着け、落ち着かないと……」
このままもう少し煽れば何人か解放できそうだな、と何となく思う。
本人なりの禁忌らしいそれを必死に耐えているさまは、少しだけ人間らしかった。
耐えているものが殺意でなければもっと良かったが。……いや、変に綺麗な感情があっても気持ち悪いだけだな。
ともあれ、これであの女も悟っただろう。
完敗である。あの愛の深さには、他種族では勝てないし、はく奪することも出来ない。
例え本当にこの空間が勇者の活躍に繋がっていないのだとしても、一たびそちらに思考を傾かせたセイレーンは都合よく解釈し続ける。どんなメンタルだよ、まったく。
「おお、そうだ。お前、ユーリと繋がっているのか? であれば定期的に彼の活躍を語って聞かせてくれ。彼の冒険譚、さぞ我の胸を焦がすものであろう……おい何処へいく!?」
――“りっかりか”、涙目敗走。これ妖精たちに聞かせてやろうかな。この空間の一大ブームになるぞ。
逃げていった彼女に対し、無敵のセイレーンは彼女なりの本気の要望らしいそれをぎゃあぎゃあと吠えたてている。
私は別に聞きたくないぞ。暇潰しにはなるかもしれないが、あの女の声を聞いているのが億劫なのだし。
「……むぅ、堅物だな、あの娘。そうだ淫魔よ、お前も勇者に敗れたのか?」
うわ、標的がこっちに戻ってきた。
……ちょっと待て。こいつ放置なのか? 私これからこいつを相手にしなきゃいけないのか?
「思い出させないでよ……あんたにとってどうかは知らないけど、あんた以外の魔族にとっては屈辱でしかないのよ」
「おお、それもそうか。すまぬ。だがまあ……我の前に淫魔にも勝っていたとは。流石勇者、流石ユーリだ」
うんうんと勝手に頷いている後方良妻面セイレーン。あの女が見ていればまた面白いことになっていたかもしれない。
本当……こんなことになると分かっていれば、死に物狂いで戦ったというのに。
所詮駆け出しの勇者。殺す気であればなんの問題もない相手だった。
それが何故……何故負けたんだっけ。
「……」
……そうだ。勝ちもせず、負けもせず、見定めようとしていたんだ。
勇者として相応しいか確かめる、『初戦試験官』として。
誇りある役割だった。これまでの頑張りが認められたのだと喜び勇んで出発した気がする。
しっかりと、マニュアル通りに成し遂げんと。アリスアドラ様の信頼と期待を裏切りたくない一心で――
「……」
「む? なんだ? どうした淫魔よ」
――気のせいか。
前もこんなことあったな。オークがここに叩き込まれて、少し経った頃だっけっか。
それほどまでに、あの時の判断ミスを後悔しているということだろう。深層ではこれが壊れ切れない理由になっていたのだろう。
鼻なんてあてにならないようなこの空間で、アリスアドラ様の香を錯覚するなど、それくらいしか考えられない。
そう考えると……うん。悔しいな。久しぶりだ、この感情。
あの方のようになりたかった。他の多くのライバルたちのように、私もあの方の超然とした雰囲気に魅せられたのだ。
もしも、あのお方をもっと深く理解していれば、あのお方の期待にも十全に応えられたのではないだろうか。
かつての使命、かつての憧れをふと思い出して、痛むその心は――ある種の、郷愁なのかもしれない。
【ラフィーナ】
サキュバスちゃん。だいぶ重症。それでもまだ他者を気に掛けられる。
リッカちゃんとの比較は出来ないがたいがいな異常メンタルである。
イピカの投獄によって回復したのかより深刻になったのかよく分からない状態に持っていかれた。
【オレブ】
オークちゃん。まだ壊れてない。
意外と面倒見が良いらしい。異常メンタルである。
【シナト&トノカ】
フェアリーちゃんたち。生存確認。時々現れてはメンタル面のキルスコアを積み上げている。どっかの妖精と違って仕事熱心なものである。
ちなみに本編には一切関係ないし明言もしていないがシナトの方は元々男である。
【イピカ】
セイレーンちゃん。割と良識的に見えるだけで苗床民ぶっちぎりのヤベー奴。
前話までの出会いから戦闘において、そもそもリッカちゃんの存在を認識していない。恋は盲目である。
リッカちゃんがセイレーンの性質をよく理解せずに“先程の戦闘で使った”虫たちをけしかけた結果、独特すぎる思考回路で苗床空間の性質を完全把握。
この空間でリッカちゃんとは“初対面”であったため、ユーリくんの使い魔たちの管理者か意識総体と認識する。
こうなればセイレーンは止められない。リッカちゃんを叩きのめし、ついでに同僚もげんなりさせた。
【りっかりか】
【リッカ】
TS転生者ちゃん。セイレーンの思考回路が意味不明すぎて涙目敗走。
【汚いメタルクラスタホッパー】
【汚いビカソコンボ】
【汚いムカチリコンボ】
【バラーズフューリー】
前回の戦闘はいわゆるこのフォームのチュートリアル戦。
その他、オズマはラフィーナちゃん、リヴィアは妖精たちがチュートリアル役となっている。
当たり前だが船乗りたちにはドン引きされた。