凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
土の試練が行われるというネシュア国跡は、その名の通りかつて国と呼ばれる大きな居住圏があった場所らしい。
それは魔王が現れる前のこと。
魔族によって滅ぼされたそこは、既に人間の生存圏としては確立されていない。
そこで暮らしていた人間の生き残りは各地に散らばったとも言われ、この大陸屈指の大都市は“跡地の傍で生きることを許された者たち”から始まったそうだ。
魔王が故郷の見える場所での生存を許したのは、慈悲なのか、それとも更なる屈辱を与えるためなのか。
少なくとも、その都市の今を見てみると、後者だとしか思えない。
試練に挑むための拠点として選んだ街は、そんな場所であった。
その街は聖都と同様、外との境が非常に分かりやすかった。
見た時に抱いた印象は、尋常ならざる大きさの黒い箱が置かれているようだ、というもの。
それは外の光を遮り、この街の内部に通さないための一種の結界だった。
リッカ曰く個人の力ではなく、大規模な魔道具によって維持されているというその結界は、入り口自体は分かりやすい。
来る者を拒むつくりにはなっていないようで、あくまで結界としての役割は光を通さないことのみ。
ただ、こうした結界を張っているということはそれ相応の理由があるということ。
土の試練に備え、大都市であるこの街を拠点として情報収集や準備を整えようと決めたのだが、どうにも怪しい街だ。
眠らない都という異名を持つとは思えない、内部の暗がりを想像させる外観は、入場を躊躇わせる。
リッカもそれは同じであったようで、二人で決めた方針ではあるがここにきて撤回しようかとさえ思わせた。
結局、このまま準備も乏しいままにネシュア国跡に乗り込むことを考えれば、どちらも危ない橋であることは変わらない。ならば試練に備えた方が幾分良いだろうと決心し、結界の内部に踏み込んだのは翌日のこと。
そして入ってから暫くの間、僕たちはその光景に目を奪われることとなる。
聖都の荘厳なきらめきとは正反対。
自己主張に満ち、調和もなにもあったものではないバラバラな光が、これでもかというほどに照らす街並み。
建物の背の高さは聖都を超える。縦に成長し、星の代わりにならんと言わんばかりに建物一つ一つが光をまき散らす。
耳を塞いでいようとも、ただその景色だけで“やかましさ”を体現する世界がそこにあった。
空に太陽はない。最も大きな空の光さえ、この街には届かない。
しかし、この街は眠らない。陽光など不要と内部の光だけで街を成り立たせる、夜ならざる夜の街。
――不夜街ナイトラクサ。
凄まじい光景だ。ハッキリ言って、衝撃で言えば聖都より大きい。
村の祭りが何十倍、何百倍にも拡大したかのような眩しさは、この街にとって当たり前のもの。
近寄り難い非現実さという共通項を持ちながら聖都と対照的な街を前にして、思わずリッカと顔を見合わせた。
「……すごいね」
「……悪趣味」
リッカは辛辣だった。正直同感である。
聖都の光は心を落ち着かせ、勇者という使命が無ければいくらでも滞在したいとさえ思わせた。
だが、ここはあまりにも落ち着かない。ただ街を見て歩いているだけで疲れそうだ。
人口は多い。見える範囲でも人間は多いし、建物の中にも気配はある。
これがこの街の特色なのだろうが、長く滞在したいとは思わない。朝と夜の差さえ分からなくなってしまいそうなこの街は苦手だと、一目で感じた。
「あまり長居はしたくないけど……とりあえず、教会探そうか」
「ん……」
建物の看板は文字が見づらいほどに輝いていて、目を向ける気になれない。
これでは宿を探すことすら一苦労だ。
変わった街だという拒否感を抱きつつ、大通りを歩き始める。
……人間は多い。街全体が活気に満ちている。
だが、一人ひとりを見てみれば、他の街には見られない違和感があった。
強気に大通りの真ん中を歩く者もいれば、隅に蹲る弱弱しさに溢れた者もいる。
血色が悪く、どこか足取りが不安定な者が多い。
そして僕たちを除いて、誰一人の例外もなく、妙な魔道具を首に巻いている。
胸元ほどまでの鎖が付いた、銀の首輪。
鎖の先端にある装飾は人それぞれ、数が違う。楽しげに笑い、街を闊歩する者ほど、その数は多く、豪華だ。
その“上と下の差”があまりにも顕著な、不安定さを感じる街は、あまり見ていたいと思えるような光景ではない。
早く教会を見つけ、路銀や情報を貰おうと足を速める僕たちだったが、前からやってくるその気配に止まらざるを得なくなる。
「ッ……」
「――――」
「……おや。本当に外部からの人間。それも、勇者」
この街の誰より豪奢な真紅の装束に身を包んだ、魔族の少女。
衣服と、それよりも濃い赤の瞳以外に“色”を感じられない、周りの人々よりも青白い肌と髪。
熱のない冷たい瞳は、見ているだけで沈みそうなほど深い。
エルフの耳のように人間と明確に異なる外見的特徴が無いにも関わらず、その超常的な存在感で魔族であることを確信できる。
「徒労ではなかったと……いいでしょう。酬いに能う報せと認めましょう」
「あ、ありがとうございますっ!」
その少女の後ろで頭を低くしていたやせ細った人間の男性が、更に頭を低く下げる。
大袈裟な仕草にカチャカチャと首輪の鎖が音を立て、少女がそれを一瞥したと思えば、先端の装飾が変化した。
「その運、無駄にしないように」
「はいっ! 約束いたします、ヴァージニア様!」
――ヴァージニア様だ――なんと珍しい――勇者だって?――この街に来たのか?――あいつ、相当運がいいな――あれで“二等”か――くそ、今日やってくるって分かってれば私が――
そんな言葉が好き勝手に飛び交う中、何やら喜ぶに足る変化があったらしい男性は何処かへと走り去る。
どうでも良さげにそれを見届けた少女は、改めてこちらに向き直った。
「ようこそナイトラクサへ、人間の勇者。早速ですが付いてきなさい。“首輪無し”のまま歩き回られても迷惑です」
「首輪無し……?」
「疑問を声に出すこと、問いを私に投げること、どちらも権利も今のあなたにはありません。勇者への対応として一度限り警告で済ませます。黙って付いてくるように」
僕たちに背を向け、少女は歩き出す。
瞳と同じく、その声にも熱はない。人間をどう見ているか、隠そうともしない。
やはり、聖都のエルフたちとは違う――寧ろ、旅に出る前の、魔族はカルラ以外全員こうなのだろうというイメージそのまま。
会話が成立する中ではおよそ初めての、世界の支配者らしい魔族。
リッカの敵意、恐怖が当然のものであると思わせる、人間を下と見る存在であった。
案内されたのは、この街の教会。
これまでの教会では人形型の魔族がいたが、ここにはそれらしい姿はない。
僕たちが入ると扉は自動的に閉じられる。それを億劫そうに見届け、再び少女は口を開いた。
「この街に足を踏み入れた理由を話しなさい。言うまでもありませんが、偽りは許しません」
「……試練の前に、準備を整えにきた。長く滞在するつもりはないよ」
「……また試練。本当に、汚らわしい廃墟などいつまで使っているのか……それで迷惑するこちらの身にもなってほしいものです」
その侮蔑は、他の種族――もしかすると試練を担う四天王に向けているのだろうか。
リーテリヴィアを前にした時の感覚を思い出すと、僕には到底出来そうもない。
「ナイトラクサでは“持たざる人間”には何も与えられません。魂の潤いを搾り合い、運命を競い、金銭が自在に流れ、朝の勝者が夜には全てを失う。誰もが刹那的に人生を賭け、誰かの明日を奪って生きる。私たちの支配の下、それが日毎夜毎に繰り返される享楽の街です」
淡々と、誰に向けているようにも思えない言葉を並べながら、少女はこの教会で支給されるものらしい路銀の袋を投げ渡してきた。
これまでの教会で受け取ったものよりも遥かに多い。重さから、それが伝わってくる。
「“持たざる人間”は襤褸にも劣る価値しか残らない。己が運命の強さを証明すれば、私たちと立場の等しい支配者にすらなれる」
「――つまりね? よわぁい人間が他の
凄まじく歪で、凄まじく悪趣味な説明を、突如僕たちの背後からの声が引き継ぐ。
咄嗟に振り返れば、人間ならばまだ十歳にも満たないだろう小さな背丈の魔族がいた。
赤い瞳と、青白い肌。白い髪は左右で二房に纏め、過剰なまでの装飾があしらわれた黒いドレスに身を包んだ少女。
こちらを見上げる少女は、尖った歯を見せてにんまりと笑う。まるで――玩具でも見るかのような笑みだった。
「ルメリーシャ。私が説明しているのですが」
「そんな嫌そうな顔で説明されても嬉しくないよ。ねー、勇者のお兄ちゃん?」
「お、お兄ちゃん……?」
「あはは! 狼狽えちゃって可愛いの! だって男の子でしょ? じゃあお兄ちゃんじゃん!」
「ざっと百年は年上の癖に恥とは感じないのですか?」
「ねーヴァージニアぁ、空気読めなくてウザいって言われない?」
「あなた以外には言われません」
まさか年下なのかと思ったが、瞬時に否定される。
魔族は人間とは外見の年齢が異なるもの。長命が多いゆえに、肉体の変化も相応に遅い場合が多いらしい。
とはいえ、その成長さえ個々に差があるようだが。少なくともこの小さな少女が“百歳以上”であることは確定した。
「あの性悪女は気にしないで、お兄ちゃん。それよりも、この街のこと教えてあげる。この街の人間、みんなこれを着けていたの気付いてた?」
少女が手に持っていたのは、例の首輪であった。
鎖の先に何も付いていないものが二つ。頷けば、少女の笑みはより一層深くなる。
「これはね? この街でのフリーパスであると同時に、その人間の“等級”と“運命”、そして“魂”を紐づけるものなの。大きな運命を持っていればいるほど、その人間はこの街で大きな権力を持てるし、この首輪を持つ別の人間から運命を奪い取ることも出来るの」
「運命を、奪い取る?」
「うん! 誰かの分まで大きな何かを出来るようになるのよ! ……当然、勇者として持っている運命を取られちゃうこともあるんだけどね。さ、着けて着けて。お姉ちゃんも! 今のままじゃ宿に泊まることも出来ないよ!」
説明だけ聞いていれば、不穏にしか感じないその首輪を押し付けられる。
……運命の奪い合いなることをしないのだとしても、そもそもこれがなければこの街で何も出来ない、ということなのか。
何かをする前提である、というならば、受け入れるほかないものなのだが……。
「ユーリ、着けないで。持つだけでいい」
「え?」
「着けたら外せなくなる。それに、存在証明用の術式は持っているだけで勝手に動く」
迷っていた僕を、リッカが止めた。
「……もう読み取りましたか。勇者に同行するだけのことはある、と」
「ちぇー、つまんないの。今度こそ“不夜街の首輪付き勇者”が出来ると思ったのにぃ」
「この街の在り方もあなたたちの趣味もどうでもいい。巻き込もうとしないで」
危うく“不夜街の首輪付き勇者”になるところだったらしい。
露骨に残念がる黒の少女と、相も変わらず侮蔑を隠さない赤の少女。
感情をあらわにする二人の魔族に対して、リッカもまた、敵意を隠していなかった。
【ふみなぺでぃあ】
(首輪の解析を)辞書が道中でやってくれました。
この解析が間に合うかどうかが鍵でした。