凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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つよつよリッカちゃんは首輪なんかに負けない

 

 

 その勇者を見た時、抱いた感想は無味だった。

 弱い。突出した才や力を持っている訳でもなければ、勇者として当然の目覚めを終えている訳でもない。

 よくもまあ、こんな場所まで辿り着けたものだ――大方ルメリーシャは内心そう思っていることだろう。

 彼女の言葉はどこまでも軽いが、他者への興味自体は本心だ。

 人間の足掻きを“面白い”と感じる心こそ、ルメリーシャの支配の形なのだから。

 

 ――私は、その勇者の到来を快くは思わないが。聖都のエルフたちは何をしているのか。

 『王剣』のリーテリヴィアが聞いて呆れる。

 二代続けて試練を通過させるなど、世を統べる魔族の最上位の座にあるという自覚が決定的に欠けている。

 先代はまだいい。十年前に見たあの勇者は、魔族に抗おうという考えを抱くに足る力はあった。

 あれはあれで本当に人間なのか疑わしい異常な存在ではあったが、多少は認めても良い可能性を見せたと言えるだろう。

 

 だが、今代はなんなのか。

 これがどうして試練を乗り越えられた。そもそも何故、初戦を推し量るサキュバスに認められた。

 この程度の人間ならば、この街にも掃き捨てるほどいる。

 嘆かわしい。目覚めぬ勇者すら認めるほど、他の種族は劣化したのか。

 この分であれば、ネシュアの屍人も、ムルゼの御大も期待できない。後者は老い耄れて久しい、いつ“ぽっくり”いっても分からない身なのだし。

 世代交代は近いか。であれば、諫言すべきかもしれない。

 最早四天王に資格無し。少なくとも、平等を謳う気の触れたエルフよりは、我ら夜の種族の方が相応しい。

 

 今の魔族には誇りが無いのだ。

 人間の上位種として生まれたならば、持って然るべきの誇りが。

 人間は絶対的に、魔族の下にいなければならない。

 魔族は人間の支配者であり、人間は魔族の決定で運命を左右される存在でなければならない。

 勇者とは魔王の戯れに過ぎない。人間から選び出された、哀れな玩具でなければならない。

 

 先代のそれは単なるエラーだ。九十九代続いていれば、一度くらい馬鹿げたバグがあるだろう。人間にだって突然変異の才はあると理解している。

 それに何の才もない凡人が続き、人間たちに希望を与えるなどあってはならない。これ以上この勇者が先に進むことがあれば、その後死んだとしても、人間たちに“次はもしかすると”が蔓延する。

 誰もかれもが甘く見るから付け上がるのだ。

 そも、魔族にとって勇者とは自分たちの立場を脅かす者。それを理解せず、面白そうだからと支援する輩のなんと多いことか。

 

 私たちはそのようなことはしない。

 

 この街なりの秩序を維持させるため、最低限の面倒は見るが、そこからは何も変わらない。

 勇者だろうが、人間は人間だ。持たざる者であれば、この街では等しく価値がない。

 人畜無害に見えてその実、他者の運命すら摘み取れる逸材であれば、この街も味方するだろう。それが出来るのであれば、私にも文句はない。

 

 ――期待は出来そうにないが。

 同行する少女に指摘されなければ、首輪を着けていたのではないかとさえ思える。

 この街の大前提たる疑うこと、それを知らない“大切に育てられた”人間だ。

 その面で言えば、首輪の仕掛けを看破した少女の方がまともだろうか。少なくともある程度の技量と、勇者の旅に付き添う覚悟、魔族への警戒と憎悪を持ち、そして特別な魔力を有している。

 こちらが勇者であればさぞ“面白かった”に違いない。

 憎悪を抱いたままにその尊厳を打ち砕かれ、本人が頑なに信じなかった当然の末路を迎える。

 この街は、こうした人間を叩き落とすための悪意に満ちている。“立場”を知らないこの少女がいつまでこの目をしていられるか。ルメリーシャは楽しみで仕方ないだろう。

 ……いや、案外早く壊してしまうかもしれないな。

 人間の反抗心が大好きなルメリーシャだが、度を過ぎたそれは弄ぶよりすぐに叩き伏せる主義なのだから。

 

「さてと。それじゃあ、首輪にお兄ちゃんたちの“価値”を映すね。着けないのは勝手だけど、盗られないように注意するんだよ? 二個はあげないからね?」

 

 ルメリーシャが二人の首輪を起動する。

 あれは少なくとも、装着しない限り魔法契約が結ばれることはない。

 ただ持っているだけであれば、起動した時に持っていた者の価値に沿った変化を成して、等級を決めるだけ。

 この街に来た勇者としての第一関門と言えよう。外に出たとして、首輪付きのままでは格好も付くまい。

 

「まずはお兄ちゃん――それっ!」

 

 勇者の首輪が起動する。

 運命を推し量り、魂を推し量り、その人間が持つ価値を算出する。

 

「――へー、一等級! さっすが勇者だね、お兄ちゃん!」

「……生意気な」

 

 鎖は鮮やかに輝き、先端にじゃらじゃらと赤色の装飾が“四つ”付く。

 これは首輪を作り出した私たちの基準ではあるが、勇者として、何かを果たすこともおかしくない運命の大きさと、魂の強さ。

 見掛けに寄らず、大成できる器ではあるらしい。

 それらしさの欠片もないこの勇者に、確かな資格が証明されたことは不愉快ではあったが、これを否定するのは私たちの沽券に関わることだ。認めざるを得ない。

 

「一等級って……?」

「つまりね? この街の一般人としては一番上の等級で、大抵のことは認められるってこと。二等級から四等級までの人間とは自由度が違うし、何なら下の人間を“使う”ことだって出来るし……うん、空き部屋だって貸してあげられるよ」

 

 勇者が皆、こうだとは思いたくない。

 先代も当然のように一等級に輝いたが、まさかただ勇者であるというだけでここまで運命の質が跳ね上がったりするのだろうか。

 首輪の改良を急がなければ。この勇者が四等まで落ちぶれるようなことがあれば、適当な理由を付けて解析に使えるのだが。

 

「それじゃあ次! ――お姉ちゃん、そのこわーい目、やめてくれない? 人間なんだし、喧嘩売る相手は考えた方が良いよ?」

「……」

「……忠告してあげたのになぁ。もうしーらない。ま、いいや。首輪は、っと……」

 

 それなりに力はあるというのに、なんと愚かしいことか。

 挑発どころの話ではない。愚弄と受け取られてもおかしくない程の感情。

 ここまで魔族を憎める人間というのも、さほど聞いたことがない。反抗する者がいないともいうが。

 利口であればその感情は秘めておくべきだ。力の差も分からないならば仕方ないが、長生きできまい。

 それにしても、随分対照的な二人だ。

 どこから共に旅してきたかなど興味はないが、これで旅の道連れが成立するとは。

 勇者として相応しくない勇者と、身の程を知らない相方。

 であれば――

 

「え……?」

「……」

 

 ――どの道破滅も時間の問題だったということ。

 それが判明したのがこの街であり、私たちが見つける羽目になったというだけ。

 多少、驚きはした。どちらかと言えば安堵の方が大きい。こういう反応があったのが勇者であったならば、色々と面倒だっただろうから。

 

「――ねー、ヴァージニアぁ。どうしよっか?」

 

 起動して瞬時に色を失い、腐り果ててぱらぱらと少女の手元から落ちていく首輪。

 秘めている悍ましい魔力は気になるものではあったが、こういうことであれば私たちが理解する必要はない。

 どちらかと言えば、ネシュアの屍人辺りの管轄だろうか。詳しくは知らない。

 その直前で私たちが気付くというのは、この少女にとって幸運だったか否か。

 考えるまでもないか。事実として、首輪は少女の価値を示した。“もしも”がどうなったにせよ、この街における私たちの対応は変わらない。

 

「好きになさい、ルメリーシャ。あなたに任せます」

 

 術式は少女の反応を受け入れず、自壊した。

 少女の価値を映すべき首輪は喪失した。代替となるものなど存在しない以上、この事実こそが最終決定だ。

 

「はぁい。えへへ、ひっさしぶりのご馳走だ。それじゃお姉ちゃん、覚悟……はしなくていいや――」

 

 しかしまあ、相手が勇者に同行する者であるというのに、この勿体付けたやり方。

 それでは向こうが“嫌な予感”に対応する時間を与えるだけだ。

 ともすれば、それが狙いか。十年前はこうはならなかったからか、ルメリーシャも随分浮かれている。

 

「ッ!」

『トランスコード! アクセプション!』

 

 流石に自分に危険が迫ったことは理解できるのだろう。

 少女は己の魔力を励起させ、全身に刻んだ複雑な術式を起動させた。

 

 ……ちょっと待て。正気か? 体に術式を刻む?

 妙に上等な杖まで持っておきながらどうしてその発想に至るんだ。自身を魔道具同然と見なしているのか?

 視認、検知不可、ただの人間と同等に見せかけた肉体に術式を仕込む。不意打ちとしてはこれ以上ないほど効果的だが、見えないとはいえそれは“癒えない傷”だ。

 刺青などというレベルではない趣味の悪さ。ほんの僅か、肌に焼き入れるだけで相当に痛むだろうに、それを全身に施し、術式として成立するほどの精度で纏められる?

 痛覚を持つ人間らしくなさ。呆れ返るほど理解出来ないが――同時に理解出来ることもある。

 これほどに狂っていなければ、あの首輪もああいう反応は返すまい。

 

「リッカッ!」

『U-リッカ――オズマッ!』

 

 状況は、勇者も認識したらしい。

 少女は魔法の働きによって魔力へと変換され、更に再変換を施されて勇者へと集っていく。

 ――なるほど。これが、あの力無き勇者が成果を挙げられた理由か。

 複雑な魔力によって変換された少女を身に纏うことによる戦闘能力の大幅向上。

 ようやく、目の前に立っている人間は、“私たちの前に立つに相応しい人間”へと変わる。

 

「わぁ……ちょっとびっくり。二人で一人の勇者だったんだ、お兄ちゃんたち」

「……」

 

 ……いい性格をしている。これは勇者……ではないな。間違いなく少女の方が決めた趣旨だろう。

 下地となる、強化魔法を幾重にも施したスーツの上に纏わりついて鎧となる触手の群れ。使い魔を利用したシステムか。

 意志薄弱な魔族であれば相対しただけで気をやられるだろう。相手への威圧と、恐怖を煽る“澱み”。

 これを人間だとは思いたくないが、ある意味では人間らしい。

 何を利用してでも生にしがみ付く無様な生き汚さ。

 人間とはかくあるべしだ。噛みつく牙すら抜け落ちてしまっては、価値どころか存在する意味さえなくなってしまうのだから。

 

「――リッカに何をする気だったの?」

「何って……血を吸おうとしたんだよ」

 

 この街のルールは分からずとも、それは察して然るべきだと思うが。

 眠らない夜の街を統べるのであれば、私たちが夜の支配者(ヴァンパイア)であるということは明白。人間とて知識として持っている筈だ。

 

「血の味はどれだけ魂が手遅れでも変わらないもん。汚れちゃう前に飲んじゃいたいってのは間違ってないでしょ?」

「……魂が、手遅れ?」

「ありゃ、そっち? 知らなかったんだ、お兄ちゃん。自覚ないワケないし、お姉ちゃん、隠してたんだねー」

「――黙って」

 

 少女の意識はあの状態でも残ったままであるらしい。

 鎧から聞こえてくる憎悪と怒り、焦燥に満ちた声は、ルメリーシャの嗜虐心を煽るだけ。

 遠隔攻撃機能があるらしく、何処からか空間を繋げ触手を伸ばして妨害を試みているが、それも無駄だ。

 伸びてきた二本が認識する前に、一秒足らずで勇者の目の前まで迫ったルメリーシャは、彼らがその接近を理解するより前に言葉を続ける。

 

「首輪が崩れた理由、分かる? もう一回言うけど、あれはその人間の“運命”と“魂”を“等級”に紐付けるものなの。お兄ちゃんは潤った魂と、おぉーきな運命を持っているから、それを表現した形に変わったの」

「黙って――それ以上言わないでっ!」

「りっ……リッカ!? ちょっと……っ!」

 

 “二人で一人”を強引に反映させているからか。歪だな、あの魔法。

 真の性能を発揮するには勇者の意思が必要なのに、今のあれは少女の意思で動かしている。

 少女がスーツの形を無理やり変えているだけ。当然、そんな不格好な戦い方ではルメリーシャの“遊び”さえ捉えられない。

 言葉を止めたいなら勇者に任せる方が確実だ。或いはそのままこの街から逃げるとか。

 どの道、少女が焦っていては無理な話だが。

 

「どういう生き方をしてきたか知らないけど、お姉ちゃんの“運命”は捻じれたり巻き戻ったりでぐっちゃぐちゃ。お姉ちゃんの“魂”は何回使い回したか分からないくらいぼろぼろでかっぴかぴ。五百年レベルのレイスの方がまだ瑞々しいくらい」

「この……ッ!」

 

 ひとまず合わせようとする勇者が追いつけない少女の焦りは、相応に不格好な動きとして反映される。

 なんとも無様だ。何を仕出かせばここまで壊れられるやら。

 意味は分からないがその焦りは面白くて仕方ないらしい。ルメリーシャは勇者の後頭部に蹴りを放って吹き飛ばすと、その頭に腰を下ろし、教会の祝福を操って襲い掛かろうとする触手諸共動きを停止させる。

 

「あはは! よわーい! それだけ“ぐちゃぐちゃ”“ぼろぼろ”“かぴかぴ”になって、ちっちゃいヴァンパイア一人にも勝てないんだ! あのね、お兄ちゃん。首輪が崩れた以上、この“よわよわお姉ちゃん”はこの街では無価値。明日も分からない四等級にすら逆らえない、人間扱いされない人間なの。あたしが飲んであげるってだけで、すっごく名誉なことなんだよ?」

 

 ……それはいいとして。大して残っていない祝福を無駄遣いするのはやめてほしいのだが。後で説教しておこうか。




【運命】
今回の魔族たちが言う運命とは、何かを成すための力。可能性の総量。
何をするにも消費する特殊ステータスのようなもの。
勇者くんは未熟でも素質はあるようで、この値は凄まじいらしい。つまり、可能性には満ちているということ。
約一名これが数値化できずバグ表記になっているらしい。何でだろうね。

【魂】
今回の魔族たちが言う魂とは、存在の根幹。その誰かが、誰かたるための概念。
概ねこの“魂”については転生者たちが言うものとほぼほぼ同じと見なして良い。
当たり前に生きているうちに少しずつ魂は削れ、潤いを失っていく。
これが尽きた時が、その存在が終わる時である。
ごく稀に、普通ではない一生を過ごしても失われない強い魂を持った者もいる。
そうした者たちを有効活用して世界の危機を救わせる倫理観のない仕組みがあるらしい。
勇者くんの魂は年齢相応。瑞々しく、強い、運命の大きさに足る魂。
約一名自分を保っているのが不思議な程に枯れ切った魂を持っているらしい。何でだろうね。

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