凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
状況の理解が及ばないままに、僕はその少女に呆然と目を向けていた。
もしも、勇者が本当に人々の“希望”であるのなら、誰しもが思い浮かべるだろう理想の勇者像。
それをそのまま現実に投影したかのような存在が、目の前にいる。
見たことこそないものの、その手にある剣の存在感は紛れもなく、“聖剣”という仰々しい称号を与えるのに相応しい。
聖剣を担う、きらめく勇者。人々の希望の完成形。
牙を剥き出しにしたドラゴンにとっても脅威と判断されたのか、甲高い呻き声で威嚇している。
僕たちと、ドラゴン。自身が間に入った二つを、少女は交互に見て、怪訝そうに首を傾げる――それが初めてのリアクションだった。
「……んん。どういう状況ですか、これ? あの台座見覚えありますし、戻ってきたってことで良いんですかね?」
「……僕に聞かれても」
「あ、喋れるんだ……スライムの突然変種……? ま、いいです。やることは変わらないんで」
へにゃりと柔らかく笑う少女が背を向けたのを隙と見たのか、ドラゴンが動く。
大口を開け、中から零れる強大な魔力。
予兆を見ただけで寒気がするほどのそれは、まともに受けてはならないもので、真っ直ぐ伸びてきたならはじめに貫かれるのは――
「ッ――」
危ない、と叫ぼうとして、それで避けるのを躊躇っていては巻き込まれる。
そんな瞬時の葛藤の後、僕は退避することを優先しようとした。
思うように体が動かなかったのは、飛び退くよりも早く、体が“動かされた”から。
少女に剣を持っていない方の腕で抱えられていると把握した直後、それまでいた場所を白い煙のような奔流が通り過ぎていく。
そこにあった草木を霜が覆ったかと思えばみるみるうちに枯れていく。まるで、命の終わりまで即座に進められたかのように。
「ここ、こんなんばっかなんですよねぇ。時間を早めたり押し戻したり。ほんと、時間感覚が狂うのなんのって」
退避だけでは終わらない。
そのブレスが齎すものを確認し、そんなことをぼやきながら、少女は再度跳ぶ――僕たちを抱えたまま。
ドラゴンが反応する前に、剣をその顎に叩き込む。両断こそ出来ないものの、傷に至ったことを証明するように、鱗が飛んだ。
「というか、思わず体が動いちゃいましたけど、良かったですかね? 決闘の最中とかで、助太刀無用なんてことは……」
「いや……急に現れて、襲われたから、そんなことはないけど……」
「なら安心です。そして、安心してください。僕が来たからには、もう大丈夫」
ドラゴンが怯んだ隙に離れて僕たちを下ろし、特段自身に付いた粘液を気にすることなく。
少女は、まるで僕たちを勇気づけるようにもう一度微笑みを向けた後、ドラゴンに向き直った。
「なんてったって――僕は聖剣に認められた、勇者ですから」
僕が勝手に抱いていた印象を、自ら確定付けた少女。
勇者のような、ではなく間違いなく勇者で、聖剣のような、ではなく間違いなく聖剣。
どうしてそれが、僕たちの前に立っているのか。
それを理解させる暇すら与えないままに、少女は聖剣を高く掲げた。
「――聖剣ブレダリオン! 正当なる担い手として誓います! 決してこの輝きを損なうことなく、立ちはだかる苦難全てを払わんと!」
解き放たれた魔力が、一体どちらのものなのか、分からなかった。
きらめく黄金は暴風の壁となって、ドラゴンを近付かせない。
その性質はどういう訳か――リッカの魔法のシーケンスと、似通っていた。
「あなたは僕の勇気の象徴! 共に世界を照らしましょう!」
『ブレイブコード! スタンバイ!』
宣言の後、剣を胸元に戻し、鍔に手を当てたそれが認証であるかのように、聖剣が魔法を紡ぎ始める。
浮かび上がった緻密な術式が少女と重なり、その体を覆っていく。
何故ここまで同じなのか、分からないほどに、リッカの魔法と同じだ。
偶然なのか、それともリッカがこの魔法を知っていたのか。前者の可能性が限りなく低い推測だが、リッカは現在進行形で困惑しており、目の前の輝きが初めて見るものだと伝わってくる。
身体能力を向上させ、魔族との無茶な戦いを可能とする黒の戦闘スーツ。
その上を覆う、動きを阻害しない軽そうな黄金の鎧。
背中の翼のような外装と、後ろに伸びる二つの角を持った兜は、相対する敵とはまた違う印象のドラゴンを模したもの。
聖剣と共にあることで完成される、真の勇者――
『マスターアップ! Q-クエスター!』
黄金の魔力を伴い、その魔法が完了する。
眩しい、と感じた。勇者という存在を体現したその姿は、今の僕がどう足掻いても届かない。
魔法を使い、姿を変えた。たったそれだけで、ここまで違うものだと感じるものなのか。
「さあ、ここからの僕は百パーセントです。お互い全力でいきましょう!」
「 ――――――――ッ! 」
少女の啖呵が、ドラゴンの咆哮とぶつかり合う。
ビリビリと空気が震えた。人間が、真正面から戦う相手では断じてない。
だというのに、少女はドラゴンの巨大な爪を聖剣で真っ向から受け止め、動きが止まったところで拳を作って殴り付ける。
弾き返した脚の下をくぐり、横腹を蹴り付ければ、巨体は揺れる。
休むことなく、バランスを崩したドラゴンの胸元に剣を突き付けるが、天然の鎧は今度は内まで通さない。
「硬っ……だけど!」
反撃が来る前に、翼の外装が魔力を放出した。
体を無理やり動かすほどの推進で剣を押し込み、巨体を吹き飛ばす。
木々をへし折りながらドラゴンは転がっていく。まるでおとぎ話か何かのような光景だった。
同じ勇者が――同じ人間が、ここまでのことを成し遂げられるものなのか。
目の前で実際に起きているのに、到底信じがたい。
これまで、僕たちは色々と型破りに物事をこなしてきたという自覚はある。
だが、“本物”とはこうも違う。
全力を尽くせばドラゴンさえ手玉に取れる。人間の可能性の極み――
「……なに、これ」
呆然と、リッカが呟いた。
こんなものは知らないという、当然の反応。
その声は震えていた。当たり前と受け入れるには、あまりにも差が大きすぎた。
すぐに体勢を立て直し、ドラゴンは再び少女に飛び掛かる。
巨体を活かした攻撃だけではない。先のブレスも織り交ぜ、周囲を枯らしながらも少女を攻めたてる。
「やっぱりドラゴン……頭は良いみたいですね!」
少しずつ退路を狭めるような戦い方は、何も考えずに出来ることではない。少女もそれは気付いたらしい。
助けに出るべきだろうか――その迷いは、まったくの無意味なのだろう。
あの少女は助けを求めていない。助力という可能性を考えてすらいない。
少女にとって僕たちは、勇者として守るべき対象だ。そのために、ドラゴンの視線を誘導させ、自分に注目させた上で攻撃を捌いている。
――体に負担が掛かり過ぎる戦い方だ。
背中の翼のような外装は、魔力の放出によって加速や制動を行う機能があるらしい。
しかしそれは、安全を考慮しているようには見られない。どころか、力加減を一歩間違えれば暴発してあらぬ方向に吹っ飛ぶだろう。
それを制御し切るのではなく、その勢いに自分が慣れることによって対応する。
振り回されるような急な動きの連続は、数秒と経たずに目を回してしまいそうなのに、少女はそれによってドラゴンの動きと渡り合っていた。
傍から見れば危なっかしい。しかし、僕がそれ以上の動きをこなせる自信はない。
だからこそ、余計に凄まじく感じさせる。
「これはっ! どうですっ!」
その回避という過程すらも、彼女にとっては攻撃に転用できるものだった。
放出によって周囲に撒き散らしていた黄金の魔力は、粒子のように漂っている。
そして再度胸に聖剣を突き立てると同時、散らばる輝きが反応して爆発し、ドラゴンを――少女諸共巻き込んだ。
「 ――――――――ッ! 」
「効果抜群、みたいですね――!」
爆発の中から上方へと飛び出した少女。
飛行というほどの自由さはない。翼からの魔力が無くなれば落ちるだけ。
その落下は、ドラゴンが起き上がるのと同時だった。
長い首に沿って振り下ろされた聖剣と、続いて巻き起こる魔力の爆発。
圧倒的。ただただ、圧倒的。
ドラゴンは強大だ。あの種は亜種の類ではない。紛れもなく、最上位の魔族の筈だ。
状況が少しでも違えば、僕たちを含め、この場を蹂躙していてもおかしくない存在だった。
だが、そうはならなかった。その目を出すことが無いように、少女が全力を尽くし切った結果だ。
まだまだ未熟にも程がある、“五十点の勇者”などお呼びでないとばかりに、ドラゴンは“百点満点の勇者”一人によって追い詰められた。
そして、最後まで少女は抜け目がない。そこに一切の隙はない。
「さあ、クライマックスといきましょう!」
僕だけが弱いと思い知らされるだけならば、まだいい。
しかし、少女の武器はその聖剣、その動き、その判断力のみではない。
リッカが作り上げた魔法さえも不完全だと断じるように、“それ”を発動してみせた。
『ファイナライズ! スタンバイ!』
再度、手にした聖剣の鍔に手を乗せ、魔法音声が決着を宣言する。
僕たちの切り札と同じ、凄まじい魔力を一撃に乗せる必殺技。
「この瞬間の僕は――二百パーセント! ですっ!」
『マスター・エクストリームッ!』
周囲一帯を眩く照らす、横薙ぎの斬撃。
駆け抜ける閃光にドラゴンの断末魔は呑み込まれ、彼方へと消えていく。
その光が収まれば、聖剣を持つ勇者の先には何もいない。
辺りの枯れた草木だけが、そのドラゴンがいたという唯一の痕跡だった。
「――よし、よし。問題なく全力は出せる、全力以上も出せる。なんとか、戻ってくる前に、使いこなせるようになったかな」
苛烈で、大胆な戦い方でドラゴンを押し切ったとは思えない、柔らかい雰囲気に戻った少女は、魔法を解いた。
「い、ったた……やっぱり限界以上は反動きっつ……っと、怪我はないですよね? ドラゴンは倒しましたよ」
「……」
「……」
対して、何もしなかった――何も出来なかった僕たちは、呆然と。
どちらともなく、力が抜けたように、魔法を解く。
そんな姿が情けなくて、思わず少女から目を逸らし、ふらついたリッカを見て慌てて支える。
リッカは瞳を揺らしつつも、少女を見据えていた。
魔族を見る時のものとはまた違う、様々な感情が綯交ぜになった表情だった。
「……あれ? 人、ですか?」
気付いていなかった……当然か。
魔法を使用する時を見ていなければ、装備している者が人間だとは思うまい。
彼女もまた、自分と似た仕組みの魔法を使う者が他にいるとは知らなかったのだろう。
「だとしたら危ないですよ。ここ、ノクトールの森で合ってますよね? どこからやってきたのかは知りませんが、勇者でもない人が来る場所じゃありません」
「……勇者……なんだけど。一応……」
「…………んん?」
少女は首を傾げる。事情が分からないのはお互い様だ。
「僕は、ユーリ。百代目の勇者――キミは?」
「百代目……うーん、そういうことですか。やることは変わらないけど、それはそれで……少しだけ参ったなぁ」
ひとまず、名乗り合うことが必要だろう。
正直なところ、尋ねても良いものかという迷いがあった。
彼女の正体には確信があって、そうであってほしくない気持ちが、どこかにあった。
「うん……僕はクイール。九十九代目……つまり、キミたちの一つ前に、勇者に選ばれた人間です」
――本来はあり得ない筈の、二人の勇者が出会う状況。
彼女の力を垣間見て感じたものは、きっと、劣等感というものなのだろう。
『ジャバウォック』
【属性】風/時
【攻撃力】■■■■■■■
【防御力】■■■■■■■■
【素早さ】■■■■
【魔 力】■■■■■■■■
【精神力】■■■■
【種族】ドラゴン種
ドラゴンとは虫型魔族同様、厳密には一つの纏まった種ではなく同系列の種族の総称である。
そこから外れて繁栄したことにより独立した種となったワイバーンやヴィーヴルも、未だドラゴンの一種として見なされることも多い。
種全体が共通して持つ特徴としては、巨体と相応の怪力と、生半な攻撃を通さない鱗の鎧。
莫大な魔力を秘めているものの、属性が遺伝せず変質しやすいようで、とにかく個体ごとの能力差が激しい種族。
一代限りの固有能力を有する個体が多く、その全てに対応することは不可能である。
その圧倒的な力と存在感から最上位の魔族と見なされており、幼体であっても他種族を蹴散らして一帯の支配者となってしまう。
人間との関わりは非常に少ないが、その存在は誰しもが『最強の種族』と聞いて連想するものである。
【『壊時』ジャバウォック】
不夜街ナイトラクサの北東には、森林地帯が広がっている。
ノクトールの森と呼ばれるそこは、ナイトラクサほどではないが天然の魔力が日光を遮り薄暗い闇で覆われる場所だ。
森を知るとある魔族によれば、森の中は時を忘れ、無限の不条理を侵入者に味わわせる構造になっているとのこと。
この森には魔王が勇者に用意した聖剣が存在するとされ、これまでも辿り着いた勇者が森に挑んできた。
戻ってきた者は皆無。ただの一人も、聖剣を持ち帰ることはなかった。
『壊時』と呼ばれるドラゴンは、この森の最奥部から始まる大いなる試練の番人だという。
このドラゴンが持つ特異性は『時』。強大なドラゴンですら持つ者はきわめて少ないという属性だ。
『時』は『夢』を覚まし、『夢』は『毒』を忘れ、『毒』は『時』を奪う。
サキュバスたちは自分たちの特性をそう伝える。これに習うならば、『毒』属性の助力を得ることこそが、人間がこのドラゴンに対抗する唯一のすべとなるだろう。
【イリスティーラの評価】
「聖剣ねえ……胡散臭いな。あのバカも引っかからないだろうさ……引っかかってないよな?」
【クイールの評価】
「なんかこのドラゴンも懐かしいですねぇ。これ千体と戦え、とかならシンプルで良かったんですが」