凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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勇者クイール

 

 

「いやぁ。勇者に選ばれてから十年間、生きていた者はいないって言いますけど、まさか僕がそれになるなんて。世の中、分からないものですねぇ」

 

 ――勇者クイール。

 黄金の少女は、当事者とは思えない呑気な態度で言った。

 状況に感心した様子はあれど、それを受け入れられないという雰囲気はない。

 

「……十年、生きていたって……キミ、幾つなの?」

 

 九十九代目……先代の勇者であるならば、彼女はイリスティーラから話を聞いた存在である筈だ。

 年齢など聞いていない。聞いていないが――勇者に選ばれて、十年が経った姿とは思えない。

 まだ十にも満たない、幼い頃に選ばれた可能性はあるかもしれないが、そうだとすれば……。

 

「えっと……体感では十七歳なんですけど、十年経ってるってことは、二十七歳ってことになりますかね? うわぁ、なんだろ、自覚するとこれ結構ダメージ大きい……」

「二十、七歳……?」

「いえ――いいえ! 十七歳です! ちょっと十年ほど十七歳を彷徨っていただけの!」

 

 まったく意味が分からないが、何やら彼女は自己解決した。

 十年ほど十七歳を彷徨う。哲学だろうか。生憎そういう知識は持っていない。

 

「……うん。割と真剣に、一年も経っている感覚がないんですよね。ユーリくんの言葉が正しければ、僕十年間ずっと何処とも知れない場所で戦っていたことになりますし」

「一体……何をしてたの?」

「聖剣の試練ですよ。いえ、実際試練なのか罠だったのか知りませんけど」

 

 クイールは肩を竦め、台座のもとまで歩いていく。

 

「ここから聖剣を取り出すと同時、僕に転移の魔法が掛かりました。行き着いた先は何処ぞの迷宮でした。聖剣以外、持っていたものは全部失われていたので、“これ一つで脱出しろ”ってことだったんでしょう」

 

 信じられるのは自身の力と、たった今手に取ったばかりの聖剣のみ。

 そんな状況で放り出され、そこに確かな危機があったとすれば、普通は絶望しか感じない。

 たとえあの魔法がすぐに使えたとしても、まずはその力で出来ることを把握し、命を預けるところから始まるから。

 僕ならば無理だ。リッカの魔法以外で戦うすべを、僕は知らない。

 あの聖剣を手にしたとて、すぐに扱えるとは、到底思えなかった。

 

「そこからはもう、ほぼほぼ戦いですね。さっきも言いましたけど、時間感覚が狂うような力を持っている相手が多かったです。そんな中でひたすら戦ってようやく出て来られたみたいですが……こんな状態で。僕自身だけ置いていかれたまま、十年経ってたみたいです」

「そ、そんな軽く受け入れられるの……?」

「だって、生きて戻ってこられましたし。僕の内の勇者の証も消えていません。つまり僕は、まだ勇者だということです」

 

 体が時を忘れたことを知らないまま、時に置いていかれた。

 それを彼女はまるで気にしていない。

 自身がまだ勇者であることこそ重要なのだと胸を張る。そこには、眩しいほどの誇りがあった。

 

「でも、ユーリくんは僕の次の勇者ってことですよね。この場合どうなるんでしょう。僕、お役御免ですか?」

「いや、知らないけど……」

「いっそ二人とも勇者! って感じなら良いんですけど。ほら、特別感ありません? こんな状況、今回こそ世界を変えろって言われているようなものじゃないですか」

 

 ――そうだろうか。

 この場合、特別視されるべきは彼女に他ならない。

 僕たちは乗り遅れたのだ。誰が手にすることも出来なかった聖剣を持ち帰ったのは、彼女だった。

 お役御免となるのは僕たちの方が相応しい。それほどまでに、彼女は勇者として完璧だ。

 打ちのめされた、という感覚なのだろうか、これは。

 比べるほかない輝きを前にして、比べてしまった結果抱いてしまった敗北感。

 自分がどれだけ未熟な勇者なのか思い知らされた。あろうことか、同じ勇者という存在によって。

 

「……どうしたんですか? ――あ、もしかして聖剣(これ)、取りに来たとか……だ、だとすると申し訳ないというか……」

 

 ……そうだ、聖剣。

 僕たちが手に入れることは出来なかったけれど、僕たちにはあれが必要なのだ。

 ルメリーシャが言っていたことは、あの聖剣を持ってこいということだけ。所有者として、ではないならば……。

 

「――クイール、さん。頼みがあるんだ」

「ん? なんです? あ、“さん”は無しでいいですよ。見た感じ同年代……うん、同年代。同年代なので」

 

 強調するクイール。どうやらそれなりに動揺していたらしい。

 ともかく、今は彼女の助力が必須なのだ。どうあっても、付いてきてもらわないと。

 

「ナイトラクサに、一緒に来てほしい。リッカの……この子の杖を奪われて、取り返すために聖剣を取りに来たんだ」

「あー……ナイトラクサですか。ヴァンパイアの女の子ですよね。僕も彼女たちから聖剣の話を聞いて来たんですよ。となると……これは僕のせいですね。早く持ってっていれば、そんなことにはならなかったでしょうし」

 

 うんうんと頷いて、クイールはリッカの顔を覗き込んだ。

 柔らかい笑顔を浮かべ、心配はいらないと言わんばかりに。

 

「えっと、リッカちゃん? 安心してください。絶対にキミの杖を取り戻します。一緒にナイトラクサに行きましょう」

「……っ」

 

 ほんの一瞬だけ、リッカの表情には安堵が浮かんだ。

 だが、それはすぐに失われる。まるで見間違いだったかのように、苦痛に歪む。

 ……敗北感でも、劣等感でもない。魔族に対するそれとはまた違う、負の感情。

 駄目だ。中身までは良く分からないが、今はそれを爆発させてはいけない。せっかくこうして、クイールが協力的になってくれているのだから。

 

「リッカ、今はとにかく、杖を取り戻そう。他のことは後回し、そうでしょ?」

「……ユー、リ。そ、う……だね。取り返さないと、杖、取り返、さないと」

 

 震えた声を少しずつ、リッカは紡いだ。

 ドラゴンと戦う前、少しだけ調子を取り戻したリッカだったが、僕と同じように――クイールを見て何かを感じた。

 それは間違ってもプラスではなく、リッカをより、不安定にさせるものだった。

 今のリッカは限界ギリギリだ。何を思っているにしても、まずはあの杖を――リッカの支えを取り戻す。

 

「……うん。じゃあ、向かいましょうか。歩けます?」

「大丈夫……リッカは?」

「――歩ける……行こう」

 

 その優先度は、リッカにとっても同様だった。

 悔しいという気持ちは……今は考えない。リッカを優先するのだ。

 

「ユーリくんはリッカちゃんを支えてあげてください。何かあれば、僕が対処しますので」

「……ありがとう。何から、何まで」

「勇者ですから」

 

 事も無げにそう言えた勇者は、今まで何人いるのだろうか。

 少なくとも彼女は、真に世界を変えんと、勇者らしくあり続けている。

 それは当然聖剣にも選ばれるだろう。彼女こそが、勇者の完成形だ。

 

「ユーリくんとリッカちゃんは、もう試練を突破できたんですか?」

「うん……水だけ、だけど」

「水の試練! 聖都ですよね? 僕、聖都の出身なんですよ。……というか、もう十年戻ってないのかぁ……イリス、怒ってるだろうな。ちょっと顔出すべきかなぁ」

 

 故郷のことで、ほんの少し憂いを秘めた表情になったクイール。

 イリスとは、あの不思議なエルフで間違いないだろう。

 先代勇者の話を聞いたのも、彼女からだ。ホープのことも含めて――浅からぬ関係であることは明らかだった。

 ……イリスティーラやホープと知り合ったことについて、話題を出すべきだろうか。

 そんな迷いを知る筈もなく、クイールはまた問いを投げてきた。

 

「土の試練はこれからですか?」

「そう、だね。その準備のために、ナイトラクサに入ったんだ」

「なるほど……災難でしたね。僕も入ってドン引きしましたよ。あの街は好きじゃない、かもです。成り上がるために誰かと運命を奪い合うとか、悲しいじゃないですか」

 

 クイールもまた、あの街について“良い見方”はしていないらしい。

 それに少なからず安堵する自分がいた。

 あの街の価値観が世界にとって当たり前であれば、僕は――――

 

「……」

 

 ――ふわりと過ぎった思考を捨て去る。

 今の自分が、平常心を保ち切れていないことは自覚している。

 これ以上ネガティブになるな。あの街には、杖を取り返すためだけに戻る。それ以外に、あの街について、考える必要はない。

 別のことを考えろ。別の――

 

「……聖剣」

「ん?」

「その聖剣……魔王が用意したものだって聞いたけど、大丈夫なの?」

 

 絞り出したような疑問を僕自身が認識したのは、声に出してから。

 ルメリーシャが言うには、あの聖剣はどうにも信じがたい出自があった。

 

「そういえば……そんな話もありましたね。大丈夫ですよ。この聖剣に勇者を害する目的はありません。それは、ここまでの戦いで確信してます」

 

 しかし、クイールはあれを疑っている素振りはない。

 あの聖剣が信じるに足るものなのかどうかは、まだ、僕には判断できない。

 それは彼女だけの特権だ。到底生温いものとは思えない試練を、聖剣と共に達成したのだから。

 

「この聖剣は僕の、世界を照らしたいって目的に賛同してくれています。それでも何かあったら、まあ、その時にどうにかしますよ」

「……まるで聖剣に意思がある、みたいな言い方だね」

「結構そう感じる時ってありません? 振るう武器と対話するような感覚。え、ありますよね? ユーリくんも、その剣とか……」

「いや……戦いで使ったこと、なくて」

「使ってないんですか!?」

 

 振るうことくらいはしている。寝る前に、自己鍛錬の一環として。

 だが、やはりここまで実戦で使ったことは一度もない。

 リッカの魔法無しで、魔族相手に戦えるとは、僕には思えなかった。

 

「リッカが用意してくれた、さっきの魔法……ずっと、それに頼ってきたんだ」

「あの魔法ですか。まあ、それがユーリくんたちの戦い方なら。聖剣の魔法と性質が似ているのは、気になるところですけど」

 

 それは、確かに気になるところだ。

 リッカが本調子に戻ったら、聖剣との類似点について、何か分かるだろうか。




【ユーリ】
完璧な先代勇者を前にして曇った。
「リッカのため」という一点で辛うじて平常心を保っている。

【リッカ】
マジ無理。

【クイール】
過去から飛ばされてきた偽物とかではなく、正真正銘、十年間生存していた二号ライダー先代勇者。二十七歳。
どこぞのヴァンパイアに聖剣の話を聞き、森を突破して聖剣を取った瞬間、時間の狂った不思議なダンジョンに飛ばされた。
そこは少なくとも、四つの試練に挑んでいる段階の人間が挑むべき場所ではない。ないんだけどなぁ。

【聖剣ブレダリオン】
勇気と伝説が交差する、魔王が勇者に用意したという聖剣。特にカードとか本とかとの連動要素はない。
鞘から引き抜くことで勇気の魔力が刀身を形作り、あらゆる障害を両断する。
特殊なコードを実行することで、剣に刻印された術式が起動して所有者を保護する外装が現れる。
ひとたび見出した担い手に執着し、これ以外の武器を装備することを決して許さない。
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