凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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断章:いつか、あるいはもしもの

 

 

 “誰か”の“いつか”、或いは、“もしも”を見ていた。

 

 本当にあったことかは分からない。

 だが、それは確かに、誰かの記憶にしっかりと刻まれていることだった。

 

 

「――まだ立つのね……こんなところかしら。いいわ。その諦めない心、見て取った。あなたを認めましょう、勇者ユーリ」

 

 

「私はあなたたちの敵だけど、まあ……活躍してほしいとは思ってるわよ。魔族を連れた勇者なんてとんでもない話だけど……そこまで三人、信頼し合っているならね」

 

 

「……まずは一歩、かな。どうにか切り抜けられたけど」

「おう。流石に初戦で終わったら情けないっての。今のは言ってしまえばチュートリアルだぜ? 俺たちの旅はここから――イダダダッ!? カルラそれすっごい沁みる!」

「まあ、三人揃ってぼろぼろですし、前途多難な旅になりそうですけどね……あ、リッカ、沁みますからね」

「やってから言うの!?」

「リッカの治療が終わったら次はユーリですよ。男の子ですから、我慢できますよね?」

「……あはは、お手柔らかに」

 

 ……いや。

 もしかするとそれは、誰かが思い描いていた理想なのかもしれない。

 その“もしも”はあまりにも眩しかった。薄汚れていない、キレイな世界で、三人は笑っていた。

 そして勇者の始まりを見届ける魔族の少女はそんな騒がしいやり取りを呆れた様子で眺め、やがて苦笑してから飛び去る。

 言ってしまえば、何もかもが都合の良いおとぎ話のような、希望に満ちた始まりだった。

 

 

 光景は目まぐるしく変わっていく。

 見たことある魔族、見たことない魔族。様々な相手を協力して、どうにか撃破していく。

 楽な戦いなど一度たりともなかった。

 誰かが死にかけて、他の誰かが死に物狂いで戦って、或いは全身全霊で逃走して命を拾う。その連続。

 

「マジ無理……おかしいって……何、サイクロプスって。こんな段階で出てくる相手じゃないでしょ」

「か、カルラがいなきゃ死んでた……でも、こっちのルートは駄目だね。もっと別のルートを考えなきゃ、聖都には辿り着けない……カルラ、大丈夫?」

「“マジ無理”なリッカより無理です……二人抱えて何分逃げたと思ってるんですか」

「でも俺より走れてたじゃん……ってかさ、気付いたんだけど俺、かなりお荷物じゃない?」

「ユーリ、リッカが自覚しましたよ。現状ユーリを後方から支援する魔法使いとして、完全にわたしの下位互換だって」

「最近カルラが辛辣」

「……カルラのそれは支援というか相手の妨害だから毛色が違うと思うんだけど。事実、リッカの強化魔法で僕もかなり動きやすくなってるし」

「相手が抵抗できなくなるまで弱らせれば勝ちなんです。アルラウネはそうやって獲物を仕留めます」

「怖いよカルラ。まるで魔族みたい」

「アルラウネですが? なんですか、魔族ハラスメントですか。人間の無力さを分からされたいんですか。花粉撒きますよ」

「カルラの裏切りが一番まずい気がしてきた、この旅」

 

 勝てない相手にひらめくだけの策を講じて、命からがら逃げ果せた三人。

 誰かが脱落していてもおかしくない。つい数分前までそんな状況にあったとは思えない、遠慮のない会話。

 全員、もう一歩も動けないというほどに疲弊していながらも、かれらはどこか、楽しげだった。

 その生は、三人が協力し、死に物狂いで手にしたものだったから。

 

 

 ――ノイズが走る。

 その“もしも”はあり得ないと。間違っていると。あってはならないと。

 過ちを否定し、改竄し、見て見ぬふりをするように、“あり得たこと”は隠れて消えていく。

 

 いつかの思い出は加速していく。

 視認することもままならないまま、通り過ぎていく。

 それはあなたが見て良いものではないのだと、拒絶されるような感覚。

 しかし、過ぎたものを振り返ることは出来ず、流れに身を任せるしかない。

 やがて見えてきたのは、見覚えのない場所で見覚えのある“誰か”を見つける三人だった。

 

 

「――大丈夫? ねえ、しっかりして!」

「っ……あんた、勇者……」

「うん、そうだよ。リッカ、カルラ。治せる?」

「一応やってみるけど……サキュバスに俺たちの回復魔法って効くのか?」

「アルラウネに効くんだから夢魔にも効きますよ。効かなかったらその時はその時です」

「ちょっ、何その行き当たりばったり――いづっ!? 痛い痛い痛いから! アルラウネ! あなたそれわざとやってるでしょ!」

「沁みますからね」

「やってから言うなっ!」

「……やっぱカルラって、軽くサドだよな?」

「軽くというか……まあ、うん」

 

 傷を負って倒れていた魔族を、通りかかった三人が見つける。

 その傷を騒がしく、余計な痛みを齎しながらも治療していくのを、魔族は受け入れざるを得ないながらも、その表情は疑念で満ちていた。

 かれらは勇者だ。共に旅をする仲間に魔族がいるのは、その魔族の方が例外であったから。

 基本的に魔族とは敵対する立場にあるかれらが、自分を救うのはあり得ない。

 何かで手助けしたとかならばまだしも、自分はそういう関係ですらないというのに。

 

「一応、助けてくれたことには感謝するわ。……その上で忠告するけれど、魔族を無暗に助けない方が良い。いつ本性見せるか、分かったもんじゃないわよ」

「その辺りはユーリなら大丈夫だろ。あんたが無害だって確信できるから助ける選択をしたんだろうし」

「……その言い方は脅威と見られていないみたいで癪なんだけど」

「実際脅威じゃないですからね」

「明け透けに言うじゃないの。三人とも、随分と成長したみたいね。なんというか……勇者以外は斜め上に」

 

 三人の成長を、魔族は微妙な表情で評価する。

 この“もしも”の始まりからは想像できないほどに、かれらは強くなっていた。

 それぞれがそれぞれの特異性を自覚しかけた、成長してなお、その先がまだ見える強い希望。

 いくつもの死に物狂いの果てに、かれらはより“勇者一行”らしくなった。

 

「真っ直ぐな勇者に、混ざりもの上等のおかしな人間、それから“ミント”のアルラウネ……カオスだわ」

「カオス上等。ごちゃごちゃ過ぎるくらいが俺たちらしい。……んで、あんた、何があったの?」

「……別に。サキュバスの間ではよくあることよ。アリスアドラ様に見てもらうためには何をしても良いと思ってる連中にしてやられたの。情けないったらないわ……注目されたいならもっと功績で価値を証明しろっての」

「サキュバスの世界ってそんな真っ黒なんですね……いや、クイーン至上主義のアルラウネもたいがいですが」

「魔王様がいるのに現存しているクイーン個人がおかしいだけでしょ。それじゃ、私は行くわ。借りが出来たわね、勇者。返す機会があれば返してあげる」

「……それなら――」

 

 勇者が、何かを言った。

 唖然としていた魔族だったが、やがてあり得ないと一蹴する。

 飛び去った彼女を見上げて肩を竦める勇者を見て、残る二人はひそひそと話し込んでいた。

 

「……フラれたぞ、ユーリ」

「……どうします? “わたしたちと言うものがありながら”……って修羅場やります?」

「いや、ここはようやく来たユーリの春を揶揄った方が面白い」

「同感です。それはそれとして夢魔は流石に趣味悪いと言わざるを得ませんので本気の忠告もしておきましょう」

「二人とも、別にそういうのじゃないからね?」

 

 

 幼馴染である魔族が共にいることで、その勇者の在り方は過去の誰よりも特別であった。

 勇者として正しいか、という話ではないが――良くも悪くも、彼には差別意識がない。

 魔族であろうとも、真に信頼できるならば手を取り合える。

 そして、共に旅する二人もまた、彼の信頼を疑う理由がなかった。

 

 その魔族とは幾度も出会い、時に共闘すら可能とする関係となり。

 居場所を失った彼女は過去への未練を断つと同時に、旅を共にする仲間となった。

 

 旅は続く。常に綱渡りを繰り返し、仲間が増えても決して軽やかとはならない苦戦の日々。

 その中で運命的に出会った、命無き少女もまた、勇者にとっては手を伸ばすに足る存在だった。

 

「……生きても、良いのですか……? わたくしは……人として……!」

「うん。キミが生きていたいというのなら、誰もそれは否定できないよ」

「ユーリ、様……!」

「両思いだな、ユーリ」

「でも夢魔ほどじゃないですが割と趣味が悪いのでは」

「カルラ、あんた私に何か恨みでもある? いやまあ、ユーリの趣味は割と……だけど」

「流石に怒るよ、三人とも」

 

 かれらにとって楽な戦いなどない。

 新たに降り掛かる苦難であれば全て、たった一つの油断が死に直結する戦いだ。

 それらを、手を取り合い、命を預け合い、確かな信頼で切り抜けていく日々。

 休まることなどなかったが、騒がしくも楽しい旅だった。少なくとも、かれらの繋がりの強さだけは順風満帆だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――正しい理想。さぞ真っ直ぐな旅路だったでしょうね。これはこれで、面白いかも」

 

 

 気付けば追想の先を求めていた僕の歩みを、その存在は翼で制した。

 ここが何処なのかは分からないが、少なくともここにいる筈のない魔族。

 彼女は触れられない思い出ではない。僕と同じく、この旅路を傍観する部外者だった。

 

「……アリス、アドラ」

「はぁい、ユーリくん。少し驚いたわぁ。あなたがこれを見られるなんて。やっぱり勇者、ということかしら」

 

 四天王、アリスアドラ。

 彼女の声を聞いて、“もしも”ではない現実に引っ張られるように、足が止まる。

 その先はもう見られない。

 圧倒的な存在感は、二度と現実逃避を許さないだろう。

 

「これだけ楽しげな旅路だったら……それで全部終われば、あなたもリッカちゃんも、こうも苦しむことはなかった。ああ……そう思うと、運命って本当に、残酷ねぇ」

「……」

「私、共感しちゃうわぁ、リッカちゃんの絶望。贔屓しちゃうのも止む無し、って感じ」

 

 微睡みに揺れる瞳と、ふわふわとした声色は、とても本心とは思えない。

 だが、態度と反対に、それが紛れもない本心であることは、不思議なほどに伝わってきた。

 ――アリスアドラは“それ”を見て、感動していた。

 

「ユーリくんは、どう思う? この光景。感じたままを言ってみて」

「……、楽しそうだ。それに――」

「それに?」

 

 この場で、アリスアドラと問答することに何の意味があるのだろう。

 命を守るためだけならば、この場における正しい行動は“逃げ”の一択だ。

 しかし、どこに逃げるかの解がない。その一種の諦めが、僕の口を動かした。

 

「――リッカが、笑ってる。見せかけじゃなくて、心から。これが、僕たちが迎えていたかもしれない“もしも”だったなら……すごく、惜しい」

 

 アリスアドラと同じように、僕もまた、本心を打ち明ける。

 リッカの本当の笑顔を見なくなって、どれだけ経つだろう。

 あそこにいるリッカは、昔のリッカそのものだ。知らない魔族相手でも怖れることのない、遠慮知らずのリッカだ。

 リッカと、カルラ。三人で旅をして、信じられる誰かと道中で知り合い、共に歩む者が増えていく。

 ああ――本当に、都合がいい。

 まさしくおとぎ話。このような理想が叶う魔族なんてほんの一握りしかいない世界を知る前であれば、このような夢を見られたかもしれない。

 

「……フフ。この時の希望は、二度とリッカちゃんには戻らない。私の試練、ちょっと難しいかしら。でも、仕方ないわよねぇ。この絶望に、共感しちゃったんだもの」

 

 引き戻されていく。理想ではなく、現実に向けて。

 この夢のような何かから、覚めようとしている。

 これ以上、この場の何もかもを追うことは出来ない。僕はまた、現実と向き合わないといけない。

 

 ――二度と、リッカには戻らない。

 

 アリスアドラが真に、リッカのことを理解しているというならば。

 この光景の根源は、かつてのリッカだ。

 リッカが思い描いていた理想の旅路。“きっとこうなる筈だ”という、楽しげな希望。

 或いは――

 

「……」

 

 “或いは”の先に踏み込もうとして、躊躇った。

 その先を悟ってはならないと、怖気が走り抜けた。

 気付くな。忘れろ。そんな脅迫をされているかのように、思考の中から消えていく。

 

 今、辿り着いてはいけないものなのか。そうだとしても、僕には諦めきれない。

 アリスアドラの試練とか、勇者であるからだとか、そういう話ではなく。

 あれほどの憎悪、あれほどの恐怖に触れた僕は、リッカを知らなければならないのだ。

 楔を打ち込む。全て忘れてなるものかと。絶対に、すぐに辿り着くと、その真実に栞を挟み込む。

 

 ――内にある熱さ、僕が目覚めるべき色。その一端を、初めて自覚した気がした。

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