凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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幕間:死者たちの国

 

 

 かつて、魔法機械という独特の技術で覇権を手にした国があった。

 術式の効率的な運用と半自動稼働により、魔力の扱いに慣れぬ者であろうとも一定の効果を発揮する魔道具の発展形。

 日常の支えから兵器に至るまであらゆる場面に導入された技術は、その国を急速に発展させた。

 如何に人間の力では及ばずとも、魔力を増幅させ、投入した魔力から発揮できる最大威力を引き出せば、魔族にさえ打ち勝てる。

 そう、その国は一般市民でさえ魔族を打破する可能性に満ちた国だったのだ。

 

 しかしながら、現代においてその国は潰えて久しい。

 先へ先へと進まんとする、精力ある技術者たちなど影も形もなく、修復も難しい魔法機械がそこかしこに転がる廃都。

 数少ない末裔たちも近付こうとはしない。不用意に立ち入ればどうなるか、分かり切っているから。

 

 その国――ネシュアは、魔王が世界を支配する前にあった幾らかの国のように、戦禍によって滅んだのではない。

 国民同士が野心をぶつけ合い、その果てに廃れた訳でもない。

 古きを学ぶ魔族たちならば常識として知るように。

 

 

 ――たった一体の魔族によって、枯らされたのである。

 

 

 今はネシュア国跡と呼ばれるその場所は、アンデッドたちの巣窟だ。

 その数、百や千という単位ではない。

 かつてこの国で生きていた者。外から持ち込まれた者。命さえ関わっていない人形も含めれば、何十万にも上るかもしれない。

 魔族において最大勢力を誇る死者の軍勢。それらの本拠地であるこの地は、十年に一度、勇者が挑むべき試練の舞台となる。

 風が吹いてもたちまち水気は失われ、乾いた風と成り果てる命無き場所。

 当然ながら、この地を治める者は、命無き死者の長である。

 

「――もしかして今代、何か起きてるな?」

 

 誰に向けるでもなく呟かれた言葉が、乾いた空気に乗ってどこかへと消えていく。

 清く透き通って、それでいて何かに反響するような奇妙な声色。

 喉を通って発されるにしては異常なほど生気のないそれは、“声”と表現するより“音”と表すべきものだった。

 

「二代連続でリーテリヴィアが勇者を通した? ジャバウォックが死んで、聖剣が解放された? そもそも、九十九代目の勇者が生きていた? 百代目だからって色々起きすぎでしょ。お祭り気分か? 盛大に遊んで盛大に祝おうって魂胆か?」

 

 どこからか伸びる、巨大な骨の腕が忙しなく指先で術式を弄る。

 その中心にある、野ざらしの煤けたベッドに寝転ぶ一人の魔族。

 両手を枕にし、何重もの術式の綻び一つ見逃すまいと目を走らせながらぶつぶつ呟くその男は、人間と遜色ない姿をしていた。

 やや痩せた長身の成人男性。短く整えられた黒髪と優しげな黒い瞳。

 ベッドに寝転がるには不相応な丈の長い黒い外套さえなければ、その外見はなんの怪しさもない好青年として通用しよう。

 

 ――少なくとも、その色の良い肌は到底、アンデッドとは思えまい。

 

 体が残っていたとしても腐り、青褪め、破損していて当たり前なのが死に還り(アンデッド)である。

 そのように綺麗な形で、体の在り方を失わずに成立するアンデッドなど、彼以外には存在しない。

 ゆえにこそ、彼は特別。その肉体は、彼の異常性の象徴であった。

 

「魔王の気まぐれか、運命のいたずらか……どちらにせよ、勘弁してほしいな」

 

 魔族が至上とする魔王たる存在への不満。

 アンデッドでない者でも、聞く者が聞けば真っ青になるだろうそれを躊躇なく、はっきりと彼は言葉にした。

 

「人間の反逆チャンス、エンターテインメント、大いに結構! だが……対処する側にも美学が求められる。毎度趣向を凝らし、面白おかしく勇者の試練を演出する。これがどんなに難しいことか。リーテリヴィアは分かっていない。彼は心底から、試練を試練として扱っている。はっきり言って、彼はつまらない」

 

 独り言にしては声量は大きく、長い。

 しかし誰に向けた訳でもない彼の言葉は、とにかく自身の心情を吐露しているだけ。

 他の誰が見ても“おかしい”と映るだろうが――彼は彼なりに苦心していた。

 

 千年間続く勇者の伝統。その中で自身に――ネシュア国跡に辿り着いた者は決して多くない。

 大抵はどこぞと知れない場所で終わる生贄たち。

 ゆえにこそ、彼は自ら試練を与える者を、この国にやってくる程度の気骨はある存在と評価し、彼なりの趣向で歓待するのだ。

 それで潰えるにしろ、突破するにしろ、その者の心に“土の試練”が永遠に刻まれるように。

 自身に辿り着くならば、自身の試練は最大の一歩でなければならない。やってきた少数の勇者を、彼はそう対応してきたし、突破したほんの一握りにとっても確かな思い出にしてきた。

 

 彼なりの美学であり、矜持だ。

 悪趣味に偏るきらいこそあるが、彼は四天王の誰より、勇者の試練というものに真摯に向き合ってきた。

 

「これだけ色々起きた百代目。恐らくはじきやってくるだろうが……さて、趣向が定まらない。どれもこれも、百代目を彩るには不足だ。……いっそ全部起こしてみるか? ……いや、万が一突破されたら取り返しが付かないな。難しいものだ」

 

 あれやこれやと、思い描いては消えていく構想。

 楽しげに苦悩する彼に、ふわりと浮いた気配が近付いた。

 

「はぁい……起きてる? 起きてる、かしら……?」

「――やあ。久しぶりだね、アリスアドラ。キミがまさかここにやってくるとは」

 

 瞳を揺らし、夢うつつな様子のサキュバスの長に対し、彼は起き上がり微笑みを向けた。

 彼にとってこの『狂宴』は気の置けない同僚である。

 和やかな雰囲気とは正反対の不思議な重圧に満ちた空間で、魔王軍の最高位に位置する二人は相対した。

 

「犯人は現場に戻ってくる……そんな法則があるらしい。いやはや、国枯らしの大罪にも適用されるとは」

「あら……意地悪なこと、言うわね。この空気、好きなのよ……欲の残滓すらなくて、砂っぽい、乾いた空気……死に尽くした土地じゃないと味わえない珍味だわぁ」

「そうかい。ネシュアの民も浮かばれるだろうさ。どうあれこの国をキミが気に入ってくれたということだからね」

 

 目を細めて枯れた空気を吸うアリスアドラに、男は肩を竦める。

 思ってもいないことだ。彼女が何をしたところで、感じ入る魂などない。

 残る魂全てを管理している彼だからこそ、そう言い切れた。

 

「それで? どうしたんだい? 首元を見る限り、もうキミの試練は出し終えた後なんだろうけど」

 

 アリスアドラが自らの体を申し訳程度に隠す、薄紅の炎。

 それを除けば身に着けているものなど鎖の千切れた手枷くらいである。

 今はその首元に、魔力で構成された鎖が新たに巻き付いている。

 これは勇者に対して試練を発令した証。四天王の力を縛る、一種の契約だ。

 試練とは、四天王がその全力によって勇者を撃滅するものではない。ゆえに、試練の最中に底力を尽くすことは許されない。

 加えて、試練から外れればそれだけ対象を強く束縛する呪い。所謂勇者に対しての“ハンディキャップ”であった。

 

「……あぁ、そうだった。面白いわよ、今回。クイールちゃんも、ユーリくんも」

「勇者クイールに勇者ユーリ。なるほど、先代の勇者の証も有効って訳だ。もう近くまで来ているのかい?」

「えぇ――今頃、ナイトラクサを壊したところ、かしら」

「……うん?」

 

 アリスアドラが“面白い”と感じる人間。

 それは良い。自身にとっても楽しい人間であることは多かった。事実、先代は規格外の化け物だったと思い返す。

 しかし続けて、どうでもいいことのように告げられた彼らの現状。

 この国に隣接する街の“破壊”という事象はあまりにも、勇者らしくはなかった。

 

「何があったんだい?」

「下剋上、ってところねぇ。あの街自体が、そういう“運命”だったってことじゃない?」

「あぁ、何か独自の契約でルールを作ってるって聞いたな。ま、あの街はどうでもいい、問題は勇者たちだ。先代はそれなりに知っているが、百代目はそういうことの出来る子なんだね?」

「どうかしら。場合によっては、ね。それより……あなた好みの子がいたわ。それを伝えに来たのよ」

「へぇ――」

 

 ゆらりと近付くアリスアドラ。

 何をするか見当の付いている男は、当たり前にその唇、その舌を受け入れた。

 何事も、やり取りをするならば直接交わる方が伝わりやすい。アリスアドラを知る存在は誰しもそう言うだろう。

 彼もまた、それを知っている。数十秒舌を絡めることで、“情報”の受け渡しは終わった。

 

「――ぁ、どうかしら。お気に召した?」

「……想像以上。いいね、百代目はともかく、その子は中々の化け物だ。これは俄然楽しみになってきた。しかし、そうなると……本当に並の試練では納得いかないな」

 

 アリスアドラが受け渡した内容は、彼の意欲をより沸き立たせるものであった。

 同時に自身が用意する試練のハードルも上がる。

 なるほど、これほど狂った人間を連れる勇者であるならば、自身の歓待にも狂気が必要だ。

 

「……ドラゴンゾンビが何体かいなかった?」

「生憎、この国には一体も残っていなくてね。なけなしの四体も先代に倒された」

「あの、愉快ないたずらっ子たちは?」

「面白そうなら勝手に出てくるんじゃないか? どっちにせよ、試練そのものにするには役者不足だね、彼女たちは」

「なら……ナディアちゃんは?」

 

 かれらが唇を重ねている間も、絶えず動いていた骨の腕が止まる。

 アリスアドラとしては、なんてことのない一案。しかしそれは彼が作業を止め、思考を僅かに止めるに足ることで。

 

 ――やがて苦笑を、提案した彼女に向けた。

 

「……その提案になんの悪意もないのだから、キミは恐ろしいな」

「あら……褒められちゃったわぁ。でも……あの子を使うなら、あなたも手を抜けないし……いいんじゃないかしら」

「うんうん、その通りだ――足がかりは掴めたな。あとは、どう使うか、か……もっと教えてくれないかい? その子……リッカなる人間について」

「えぇ、いいわよ……フフ、あなたとするのも久しぶり……楽しませてね、オドマオズマ」

「無論だとも」

 

 アリスアドラと交わることは死を意味する。そんな風に冗談めかして言う魔族は少なくない。

 それは真実だ。飢えた彼女を満たせる者などいないのだから。

 だが、“食事”を目的としていない、純粋に快楽を貪り合う“戯れ”であるならば話は別。

 死者には尽きるべきものがそもそも存在しない。サキュバスが目的とする精気を持たないがゆえに、普通は彼女たちに見向きもされない種ではあるが――

 

 それもまた、好ましいものだとアリスアドラは受け入れる。

 飢えを満たさないものであるならば、あってもなくてもそう変わらない。

 ゆえに目を付けられれば逃れるすべのない、過食にして飢餓の化身。

 彼女に貪られ、死ぬことはないと分かっているからこそ――四天王オドマオズマは、自らのベッドに彼女を招く。

 

 如何なる嬌声も、乾いた風に消えていく。

 自らが作り上げた、枯れ果てた空気が、アリスアドラは好きだった。

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