凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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先輩、後輩

 

 

 それから、ナイトラクサがどうなったのかは分からない。

 知っていることは、リッカの憎悪が――そして、それに動かされた僕が何をしたのか、だけ。

 

 あの時発現した新しい形態は、あまりにも良くないものだ。

 リッカがあの形態を用意しているという話は聞いたことがない。

 秘密裏に作っていたということでもなければ、あれは、アリスアドラとの接触によって発現したものなのだと思う。

 クイールが言うには、あの形態が外装として纏っているのは、サキュバスの力であるらしい。

 アリスアドラが独自の性質として有する狂気がリッカの憎悪を前面に押し出し、攻撃性として発露させてしまっているのだとか。

 

 この魔法で、リッカの意思によって体が動かされたことは過去にもある。

 だが、あれほどの強制力はなかった。あの時はリッカが新しい形態の戦い方を教えてくれている様子もあったし、制御を取り戻そうと思えばそれも出来ただろう。

 今回は違う。

 あの『アドラフューリー』は真実、僕も、そしてリッカ自身も一切制御できない形態だ。

 理性という枷を外した狂気の暴走。攻撃対象に徹底的に襲い掛かるだけの姿。

 

 魔法が解けていたことに気付いた時、僕たちは教会に戻っていた。

 それまでも意識はあったのだろうが――僕は、現実から目を逸らしていたのだ。

 動かされたのだとしても、その手が二人の魔族を貫き、引き裂いていたことを覚えている。あの感触は、はっきりと残っている。

 殺すだけでは生温いとばかりに、彼女たちにぶつけられた憎悪。

 

 それを、理解できなかった。

 どこから生まれたのかが分からないリッカの憎悪と恐怖が、そこまでを可能にすることを、知らなかった。

 ――怖かった。

 決して、それはリッカに対して抱いてはいけない感情だ。

 

 忘れたい。この恐怖から逃避して、綺麗さっぱり忘れてしまって、これまでの旅に戻りたい。

 それが本音だった。踏み入るべきではないと、僕の理性は告げている。

 

 けれど。

 

 踏み出せと。理性の奥の勇気は背中を押してくる。

 これを受け入れて、その先に踏み込めば、もう二度と戻れない。

 気付いていない――気付こうとしていないだけで、リッカが一人で抱えている大きすぎる闇は、僕にも手が届く場所にある。

 手を触れたその瞬間、今までの僕とリッカには戻れなくなるだろう。

 

 最後の一歩を前にして、僕は立ち往生していた。

 僕と、リッカと、カルラ。常に僕たちは三人だった。

 

 ――その“これまで”を終わらせたくない。

 

 その“これまで”はまやかしだとしたら?――

 

 答えを出すのに、それほど時間が残されていないことは分かっている。

 人生の岐路であり、僕たちの関係の岐路。

 今までの当たり前を決定的に変える選択を、未練をきっぱりと断ち切る決心を簡単に出来るほど――僕は大人じゃない。

 他の二人のために、自分が変わらなければならないという選択を突きつけられれば、リッカやカルラに迷いはないだろう。

 そんな確信があるからこそ、二人に聞きたかった。

 僕たちの“これまで”は、その“当たり前”は、捨てられるものなのかと。

 

 

 

 ナイトラクサ郊外。

 とてもではないがあの街にいられなくなった僕たちは、早々に出立することにした。

 支度を整えようとして、結局、得られたものはたった一つ。あの街における地位ではなく、死を避けるというヴァージニアの首飾りのみ。

 気付いた時、リッカが腕に巻きつけていたものだ。

 顧みれば、それはヴァージニアから奪ったものなのだが、返すために街に戻るということも出来ず、僕たちは死者の国が遠目に見える荒野に魔除けを展開し、いつも通りの野宿の準備を整えていた。

 

「はぇぇ……ちゃんとした結界ですね。どこの町でも高くないですか? これ」

「夜に身を守るために一番大切なものだからって、優先的に買うようにしてるんだ――リッカの知恵だけど」

 

 これまでと変わったことは、二つ。

 まず、先代勇者たるクイールが同行することになった。

 彼女については身の振り方を考えていたという事情もある。勇者として再度歩き出すというのは確定事項だったようだが、そうだとしても単独行動出来ない理由があった。

 ――アリスアドラの試練だ。

 リッカの希望を、絶望よりも大きくしろ。その試練は僕とクイール、両名に与えられたもの。

 クイール個人としても、リッカを案じてくれているようで……彼女曰く、「今は二人を放っておける状態ではない」とのことだった。

 ……締め付けられるように、苦しい安心感だった。

 彼女の在り方に触れるたびに、その強さを、優しさを、頼もしさを、いちいち自分自身と比較してしまっているのだ。

 

「僕、どこの町に行っても装備の新調から入ってたんですよね。普通の剣だとすぐに駄目になっちゃうから、買い溜めとかしちゃったり。だからずっと金欠状態だったんですよ」

「……夜、どうやって過ごしてたの? あと、食事とかも」

「木の上とかで寝てました。ごはんもまあ、適当に。お腹いっぱいになれば何でもいいかなって」

「…………」

「獣みたいだな、とか思ってません?」

「……いや」

 

 ――それはそれとして、聞けば聞くほど、彼女がどうしてここまでやってこられたのか分からない。

 放熱の魔道具の上に置いた鍋の中身をかき混ぜながらクイールの話を聞いていたのだが、その規格外具合はある意味戦闘以外にも発揮されているらしい。

 ようは魔法的に気配を消すこともなく夜を凌いで、食事もそこらにあるものを調達して済ませていたと。

 

 リッカはどうしても無防備になる夜こそ、万全に備えなければならないと判断していた。

 これに関しては、ここまでその判断に従ってきた身として、異論はない。

 町の外でこの結界無しで眠るなど自殺行為にしても愚かだと、流石に認識している。

 

 食事に関しても、僕たちは極力“まともに”整えることが出来るようにしている。

 食材の長期保存など行商人くらいしかしないし、必要な魔道具を見つけるのには苦労したが、これがなければその日の飢えを凌ぐことすら難儀していたと思うと必要な苦労だったと思わざるを得ない。

 最低限、身を休める時は不便がないように。

 旅の中ではそれが大前提だと思い知るまでは早かった。

 ゆえにクイールもそうなのだろうと思っていたが、事実は正反対。

 この野宿の形を感心するクイールを、呆れを通り越して凄まじいと感じる。……買ったものを使い潰して歩いてきたという点は共通だが。

 

「まあ……そっか。あの魔法、元々制御は出来ていたんですよね?」

「……うん」

「それがユーリくんたちの武器であったなら、武器にお金を使わなかったのも納得です。僕も今後は新しく剣を買い直すことはなくなりそうですけど」

 

 傍に置かれた聖剣の鞘を撫でるクイール。

 あれ以上の剣などあるまい。少なくとも、立ち寄った町にそれ以上の代物が売り出されている筈もない。

 

「でも、不思議ですよね。この聖剣の真の力と、ユーリくんたちの魔法、よく似てます。いえ、性質はちょっと違いますけど。この聖剣のことを知っていた訳じゃないんですよね?」

「うん。リッカも……聖剣のことを知る機会はなかったと思う。だから驚いた。その……クイールがあの姿になった時は」

 

 金色の勇者。威風堂々とドラゴンに対峙して見せたあの姿を思い出す。

 あの姿にはリッカも驚愕していた。まったく偶然、聖剣の機能と同じ発想に至ったのだろう。

 それゆえに信じがたかった。

 こんな特殊な魔法、他にあるとは考えられなかったから。

 

「僕もですよ。……ちゃんとした二人の戦いも見たいですね。それに、出来ることなら――並んで、一緒に戦ってみたいです」

「……一緒に?」

「はい。魔王を倒すための、勇者のパーティ。過去には、そんな感じで同行者を集めた勇者もいたらしいですよ」

 

 僕と、リッカ。二人で、旅の終わりまで歩き続けるものだと、そう思っていた。

 たった二人ではあるが――目的を共にする集まり、パーティと称することが出来るかもしれない。

 考えてみればそれは、この使命を受け入れた勇者の中では少数派なのだろうか。

 勇者の使命とは生贄のようなものなのだと、そんな価値観が広まってからは、きっとより少なくなったのだろう。

 その旅に誰かを巻き込もうとは思うまい。僕だって、最初はそうだった。

 

「巻き込んじゃ駄目だーってのはあったんですけど……ちょっとだけ憧れてたんです、誰かと一緒に戦うの」

 

 鍋を覗き込みながら、クイールは言う。諦めのような苦笑を浮かべながら。

 

「僕、昔から変わってたんですよね。周りのみんなはよく気にかけて遊んでくれたんですけど、どうも感覚がズレてるっていうか。結局親友って言えるくらいにまで仲良くなれたのは、同じように周りとズレた一人だけでした」

「……」

 

 思い浮かぶのは、聖都に住まう変わり者のエルフ。

 クイールが“変わっていた”という話も、彼女から聞いたことがある。

 こう言うのもなんだが――彼女も、変わっていた。引き合ったのは、必然だったのだろう。

 

「だからまあ、誰も一緒に来てくれなかったし、そもそも一緒に来てほしいとも思ってなかった。けれどやっぱり……誰かを助けて、助けられて、そういうのって、良いじゃないですか」

 

 彼女からすれば、勇者としては抱くべきではない憧れ。

 だが、その一見素朴な理想は、他者にとってはあまりにも高い場所にある。

 クイールという勇者が助けを必要とする場面に、同じくして立つことが出来る者が一体この世にどれだけいるか。

 常人からすれば自身がそういう立場であることを、クイールは自覚している。

 だからこそ、同じ勇者である僕に、それを打ち明けたのだ。

 照れるように頬を掻くクイール。対して僕は、本音を受けたからこそ、謝らなければならなかった。

 

「……ごめん、クイール。今の僕たちは、キミに“助けられる”ことしか出来ない。たった一回戦いを見ただけで分かった。キミのいる場所は、今の僕たちじゃ並び立てないところだって」

「――――いいと思いますよ、それで」

「え?」

 

 期待を裏切る弱音を、しかしクイールは笑って受け入れた。

 

「何も今すぐ手伝えーって脅迫してる訳じゃありません。困っている人は助けます。それに、後輩が迷っているなら助けるのは先輩の義務だと思うんです。そう……ですよね?」

「……勇者が次の世代まで生きていたことがないし、そこは、分からないけど」

「なら僕が最初で最後の先輩になります。ユーリくんはリッカちゃんのために、しっかり悩んで、ちゃんと答えを出してあげてください」

 

 ――リッカのために。

 クイールが言うからこそ、その、僕にとっての当たり前は突き刺さる。

 やはり勇者としての在り方とは違うかもしれない。

 けれど、やはりそれが――。

 

「ありがとう、クイール」

「いえいえ。勇者ですから」

 

 自分を見つめ直そう。もう一度、それで駄目なら、何度でも。

 迷っている場合でなくとも、今の僕は迷わないといけない。

 何よりも、リッカのために。

 

「そろそろ、出来るかな。リッカ――起きて。リッカ」

「――――ん」

 

 ……僕たちに起きた、二つ目の変化。

 ナイトラクサの教会を出た頃から、リッカの様子がおかしい。

 突如として眠りに落ち、揺すって起こしても、十分と経たずにまた眠ってしまう。

 これもまた、アリスアドラが僕たちに与えた試練の一環なのだろうか。

 

 その状況は、まるでリッカを人質に取られているようだった。

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