凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『初戦試験官』/“常識”の外の世界

 

 

 ――おかしい。全てがおかしい。

 何が起きている。この勇者は、あの女は、一体なんだ。

 

「――いいよ、ユーリ。戦えてる。その調子だよ、ユーリ」

「うん。体が動く……戦い方が分かるよリッカっ!」

 

 女が自らを供することで、駆け出しの勇者が魔族と戦えるほどにまで強化される。

 魔法使いが強化魔法で勇者をサポートした例はいくらでもあったと聞く。

 だが、こんな例は書庫のどんな資料を探してもなかった。

 肉体の分解だと? 装備への再構築だと?

 馬鹿げている。私たち夢魔のような、精神体に近い存在ならばまだしも、あの女は人間だ。

 自分の肉体を躊躇いなく捨てることなんて出来る訳がない。術式に不具合でもあれば、二度と戻れない可能性だってあるというのに。

 

 勇者も勇者だ。何故、女のその行動を受け入れることが出来る。

 正気の沙汰ではない魔法を使用していると、理解しているのか? 女がやっていることを正常に認識できているのか?

 伸びてきた腕の触手を剣で受け止め――力負けして後退を余儀なくされる。

 

「このっ……あまり良い気になってんじゃないわよ、勇者ァ!」

 

 こんなふざけた話があってたまるか。

 私が――サキュバスが――アリスアドラ様に大役を任ぜられたエリートが。

 大成を約束されたラフィーナが、人間に力で劣るなどあってはならない!

 

「くっ……あ……!」

「魔族に力で勝とうと思うなっ! それは人間がやっていい戦い方じゃない!」

 

 思いきり踏み込み、力の限りの突きを叩き込む。

 あんなものを纏っていなければ、人間の一人や二人容易く粉砕してしまえるほどの一撃。

 それを勇者は、触手を突き出し盾にして防ぎ切った。砕けることなく、たたらを踏むだけに抑えてみせた。

 

 あの女は危険だ。勇者だけならばいい。だが、あの女は生かしておいてはならない。

 勇者の味方でいるにしろ、勇者が見限るにしろ、あの女の思考回路はあまりにも危険すぎる。

 あれは放置しておけば間違いなく、碌なことにならない。

 最早アリスアドラ様に報告するまでもない。それでは遅すぎる。

 これは命令でも何でもなく、世界のための――私がやらなければならない正義だ。

 

「人間なら、人間らしく戦いなさい! 人間としての誇りを捨てるんじゃない! 下賤な触手に身を捧げるなんて――恥知らずも甚だしいのよ!」

「がっ――!」

 

 苛立ちに任せて剣を振るう。

 ほら、こんなものだ。ちょっとこちらが魔族らしく力を込めてやれば、すぐに防戦一方になる。

 身の程を知れ、人間。何が勇者だ。そんな称号、魔王様の酔狂な戯れに過ぎない。

 所詮人間なんて――私たちサキュバスの被食者に過ぎないんだ。

 

「ほら! ほら! 躱せないでしょ! 受け止められないでしょ! それが人間なのよ! 魔族には勝てないのよっ!」

 

 熱い。熱い。これだ、これが反抗的な人間に対し、絶対優位に立つ感覚。

 獲物であることを自ら認めた人間たちでは決して得られないサキュバスの本能。

 黄色に輝く無機質な瞳の向こう、内にいる勇者の瞳が恐怖に揺れるのが分かる。

 

 ああ――甘美だ。

 

 アリスアドラ様が好むのも当然だ。

 これほどの味わいであるならば、伝説に謳われる国枯らしの大罪も仕方ないとさえ思ってしまう。

 まだ諦めないのか。いいぞ、もっと抗え。そうすれば、私はそれを打ち負かしたうえで褒美をくれてやろう。

 熱い肉体から吸い上げる精は極上だろう。根こそぎいただく返礼に、至上の快楽を齎そう。

 人間同士が如何にまぐわおうとも得られない、天にも昇る悦楽を捧げよう。

 

 体が火照る。脳の内まで熱が染み渡り、ご馳走を待ち切れないと衝動の証が全身から零れていく。

 この興奮さえ人間にとっては毒となる。

 夢に通ずるサキュバスの魔力は人間の思考を侵し、情欲を誘導していく。

 さあ、落ちろ。堕ちろ。勇者の使命など捨ててしまえ。

 お前は魔王様のものでも、アリスアドラ様のものでもない、私の所有物(もの)――

 

「ッ!」

 

 不意に左の手首が何かに絡め取られ、追撃が止まった。

 視線を落とせば、そこに巻き付いているのはやはり、黒い触手。

 空間に開いた小さな穴から伸びているのを確認し、舌打ちしつつそれを切り落とす。

 遠方との空間接続による、使い魔の援護攻撃だろうか。つくづく、意味の分からない技術ばかり持っている。

 手首に残った先端を振り払い、勇者に視線を戻すと次の瞬間伸びてきた二本目に足首が捕えられた。

 

「ああもう――鬱陶しいのよ!」

 

 欲望と綯交ぜになって爆発しそうな苛立ちに身を任せ、足元の触手に剣を突き刺す。

 ご馳走の食べごろが来るまでの調理過程なら甘んじて待とう。

 だが、邪魔されることは許容できない。深く深く剣を刺し、魔力を流してその触手を爆散させる。

 勇者に集中させろ、私のご馳走に――

 

「――だぁ――!」

「か、ふ……っ!?」

 

 腹部に走った衝撃で、怒りが瞬間的に混乱へと変わった。

 物理攻撃に強いサキュバスの体をして、無視してはいられないダメージ。

 体の内にまで響く、じんわりとした変化を齎しているような違和感に向き、放熱された思考は先までの自分の隙と油断を自覚させる。

 これは、不味い。

 吹き飛ぶ体を羽を広げて制動し、体勢を整えようとして――もう見飽きた、どこまでも邪魔な触手が四肢に巻き付いた。

 

「しまっ……」

 

 三本は勇者から、一本はまた別の場所に開いた空間から。

 それぞれ単一なら大したことはない。四本巻き付こうと、自力で逃れられるものではある。

 だが、そのために晒す致命的な隙は決して取り返せない。

 

「――ユーリ、今」

「わかった、リッカ!」

『ファイナライズ! アクセプション!』

 

 逃れる前に勇者に発現した膨大な魔力に、全身が冷たくなっていくのを感じる。

 あの姿の実現にあれだけの魔力を使っておきながら、まだここまで用意できる異常性。

 やっぱり――おかしい。

 勇者に指名されるその瞬間まで、その人間に兆候らしいものはない。

 指名があって、旅に出るまでの短期間で、小村出身の人間がここまでの魔力を用意できる筈がない。

 

『オズマ・エクスタシーッ!』

 

 贅沢にも程がある魔力の山によって可能性を得たスーツから伸びる、数十にも及ぶ更なる触手。

 それまでのものとは違う。捕えるのではなく、明確に敵を害し、戦いを終わらせるという必殺の意思。

 

「――――」

 

 黒く輝く奔流に悟った。死ぬ、と。

 迫る暴力を前にした不思議なほど冷静な思考は、人間に敗北したことを認めていた。

 けれど、やはり。

 その冒涜的な蹂躙を呆然と待ち受けるより、少しはマシな選択肢があったかもしれない。

 何もかもの間違いを理解するのは、あまりにも遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――体が引き千切れ、外と内の違いもないくらいバラバラにされるような感覚の延長。

 曖昧な安寧から浮き上がる意識に身を委ね、重い目蓋を開ける。

 

「……?」

 

 意識がある、と自覚したのはその後。

 何が起きたのか、いまいちわからない。手も足も健在だし、サキュバスの象徴である角も、羽も、尻尾も健在だ。

 姿も先と同じ。勇者を試すための軽鎧は腹部に罅こそ入っているが、他の部分を守る役割は失われていない。

 

「……私、死んだの? ここってどこ?」

 

 生きているにしては、どうにも現実感がない。

 そもそも、ここはどこだ。どこに光源があるか判然としない、灯りらしい灯りがないのに、薄暗いと形容できる程度には明るさのある広い部屋。

 こんな場所を私は知らない。

 考え得るのは、勇者たちに敗れ、どこかへ幽閉された可能性だが――それにしては、体に特有の重みがない。

 人間の夢に入り込んでいる時に近い。サキュバスが持つ精神体としての姿。完全にそれとも言い切れない違和感はあるが。

 

 現状の整理をするためにも、情報がほしい。

 ほんの小さな不安を殺し、奮い立たせるように――或いは縋るように――目標を確立させる。

 そうして、振り向いた先にあったものは、私に更なる混乱を与えた。

 

「ッ、え……は?」

 

 先程まで嫌というほど見ていた、黒い触手の山があった。

 生理的嫌悪を催す蠢きの中心。黄色い瞳は、じっと此方を見下ろしている。

 それを見て、悲鳴らしい悲鳴も上げずに済んだのは、もっと目に付くものがあったからだ。

 

「何、これ。マンドレイク……じゃなくて、アルラウネ? ちょっと、生きてる!? しっかりしなさいよ!」

 

 触手の山に取り込まれ、一部だけが外に飛び出すそれを判別するのに、少し時間が掛かった。

 腕から伸びたり、緑色の髪と一体になったような植物の葉。

 “生物感の無さ”からマンドレイクの類かと思ったが、この魔力量はアルラウネのものだ。

 脱力して目を閉じている様子に眠っているのかと考えられるほど呑気ではない。

 

 べったりと粘液の纏わりついた頬を軽く叩いてみるも、反応らしい反応は返ってこない。

 ただ呼吸していることだけは確認できた。

 生きているなら、やることは一つ。何はともあれ、まずはここから引っ張り出してやらないと。

 剣を引き抜いて、アルラウネを捕えている触手の一本に向けて振るう。

 

「この……、硬っ……さっきと全然違うじゃないの!」

 

 まるで刃が通らない。斬ることは簡単だった筈なのに、威力が全部飛んだかのように、弾かれてしまう。

 

「なんなのよもう! ……、待ってなさいよ。必ず出したげるからね」

 

 見て見ぬふりなど出来ようか。これを放置しておけば、遠からずこのアルラウネは喰われるだろう。

 解放する手段はある。この触手の怪物……おぞましい使い魔を倒してやればいい。

 相対してみればこれが作り物であることはすぐ分かる。こんなものは魔族でもなければ、生き物ですらない。

 この『おもちゃ』を倒す。アリスアドラ様に選ばれたラフィーナであれば可能だ。

 先のような油断がなければこの程度、恐れることも――

 

「――案外優しいんだね、魔族には」

「ッ! あんた……勇者にくっついてた女……!」

 

 不意に聞こえた声は、蠢く山の後ろから。

 ゆらりと姿を現した白い女は、焦点が合っているかもはっきりしない虚ろな目でこちらを見ていた。

 薄暗い空間で異様なほど目立つその白は周囲の不気味さも相まってゴーストっぽさが際立つ。

 ――もう油断はしない。ただの人間でないことは十分に分かった。

 しかもこの場に平然と現れたことから察するに、アルラウネに触手を差し向けたのもこの女だ。

 

「ねえ、教えてよ。魔族の癖に、人間に負けた気分」

 

 問答無用で踏み込む。斬るでも砕くでもいい、とにかくこの女を壊さんと、手を動かした。

 額の真ん中に力の限り、剣を叩き付ける。それで事態が好転することを祈りながら。

 

「っ……! なん、で……っ!」

「無力って悔しいでしょ。理不尽って怖いでしょ。分かるよ、私」

 

 剣は一ミリたりとも食い込むことはない。

 まるでそこが世界の行き止まりであるかのように、先に進もうとしない。

 ――こんなこと、知らない。どんなに自由な夢の中だってあり得ない。だって、サキュバスはその夢さえ好き勝手できる種族なのだから。

 こんな“夢みたいな”状況、サキュバスである限り起きる訳がない。

 

「く、ぅ……! なに、なんなの、あんた。このっ……! わけわかんない、何者なの、何がしたいのよあんたは!」

 

 何度も何度も、力を込め直す。

 鋼鉄さえ容易く斬れるほどの力が、その度に何処かへ消えていく。

 必死な私を――女は底なし沼のような瞳でじっと見つめていた。

 

「何者? 私は人間だよ。ユーリと一緒に、魔王を倒そうとしている人間」

「出鱈目言わないでよ! 人間ってのはあんたみたいに壊れてないし、狂ってもいないのよ!」

 

 こんなものは人間なんて言わない。私たちの理解の外にあるものだ。

 

「いい!? 人間の感情ってのは膨れるにも限度があるの! 妄執を百年拗らせたってそうはならないの! 人間だって言い張るなら、せめて人間らしい感情だけ背負ってなさいよ!」

「……魔族の癖に、随分饒舌に人間を語るね。人間の感情ってのをよくご存知みたい」

「――当たり前じゃない。人間より人間の感情を熟知しているのがサキュバスよ。抱いている感情なんて一目で分かる……“人間相手”ならねっ!」

 

 精一杯の虚勢を張って、皮肉で返す。

 淡々と声を発するだけの人形にさえ見えるこの女に通じているかなど興味もない。

 ただ――その言葉を噛み砕いてゆっくりと理解しているかのような間は、ひどく不気味だった。

 

「…………、そう。凄いね。どんな感情なのか分かるんだ――分かってたんだ」

「は……? なに――きゃ!?」

 

 突如強い力に右足が引っ張られ体勢が崩される。

 触手が動き出したのだと気付いて咄嗟に剣を突き刺そうとしたが、やはりほんの僅かに食い込むこともない。

 それだと、解くことが出来ないじゃないか、と背筋に冷たいものが走る。自由な左足で触手を蹴って脱出しようとするも、状況は好転の兆しさえ見せず、更に伸びてきた一本が左足を捕えた。

 

「ちょ、やだ……痛ッ!」

 

 そのまま逆さに持ち上げられ、広げようとした羽ごと胴体が拘束される。

 抵抗しようとした矢先、強く体を締め付けられ、力が抜けた手から剣が落ちた。

 同時にバキバキと呆気ない音を立てて鎧も崩れていく。

 じんわりとその内に染み込んでいく生温かい粘液が気持ち悪い。

 そして、それ以上に――あの女がこの上なく気持ち悪い。

 

「さぞ美味しかっただろうね。私の目の前で堪能したユーリは」

「っ……何言ってんのよっ、私が勇者に負けたの、あんたはよく知ってるでしょうが! 手を出す前にこの通りじゃないの!」

「私の感情が見えていたなら、私を生かしておくのも納得。あの時の私も、あなたにとってはご馳走だったんだ」

「話を聞きなさいよ! ちょっと、あんた大丈夫なの!?」

 

 虚ろな目を見開いて、声を震わせながら女は記憶にない恨み言をぶつけてくる。

 正常な状態などこれまで一切見ていないが、今の彼女は飛び抜けて異常だ。

 声だけは、怒りに満ちている。だが、彼女の膨大な感情はやはり恐怖が大半を占めており、その声色に見合う怒りなど感じられなかった。

 

「――駄目。もう、耐えられそうにない。気が狂いそう。オズマ、やっていいよ」

 

 とっくに気なんて狂っているだろうと言おうとしたが、女が突然、糸が切れたように膝を折って蹲ったことで言葉に詰まる。

 そしてそれ以上の変化が、触手に起きる。

 私を拘束していたものがゆっくりと本体の方へ引き寄せられていく。

 

「待って、なに……なんなの!? なにするつもりなのよ!?」

「……分からない? そんな筈ない、分かるでしょ。こうなった女が、どうなるか」

 

 蹲ったままの女から、掠れた答えが返ってくる。

 その言葉を聞いて思い至ることは、高等な教育を受けた者であれば知っている、下等な生物の下等な性質。

 

 

 ――ローパー種を領地の防衛に使う者は多いけど、実際のところ魔族に有効なことは少ないわ。そもそも強く育たないもの。

 

 ――けど、万が一、抵抗する手立てがない状態で捕まったら、それはそれは悲惨なことになっちゃうわ。

 

 ――どんどん卵を産みつけられちゃうもの。それに、母体を休ませる知恵なんてかれらには存在しない。

 

 ――脱出するか、誰かが助けてくれるか、死ぬまでずうっとかれらの苗床。

 

 ――ふふ、あの時は……私もちょっとしんどかったわぁ。

 

 

 ただ、他者を使って増えることだけに特化した、醜悪な存在。

 勇者たちはそれを真似て戦った。それだけだ。それだけに決まっている。

 ここにいるのは、あの下等生物を模した使い魔。上辺だけを似せた作り物だ。

 触手という部位があるだけ。作り物がそんな増え方をしないなど、あまりにも初歩的な知識。常識の類だ。――“常識”の、筈なのだ。

 

「じょ……冗談、よね? あれ、見せかけでしょ? 繁殖力なんて、あるわけ……」

「そうかもね。試してみれば分かるんじゃない? ちゃんとあなたを使って増やせたら――」

 

 “今後とも、よろしくね”。

 女は伏せていた顔をおもむろに上げて、違和感しかない作り笑いを浮かべてそう言った。

 触手は止まらない。力を込めてもまるでその実感が湧かない私を、より“やりやすい”姿勢へと無理やり変えていく。

 

「う、うそ――や、やめてよ! こんなのおかしいって! わた、わたし、『初戦試験官』なのよ!? アリスアドラ様に選ばれたエリートなんだってば! まって、やだやだやだ、なんなのそれ――」

「……ふうん、エリートなんだ。それなのに“下賤な触手”に身を捧げるなんて、おかしいの。恥を知れば?」

 

 ――絶叫は部屋に響くだけ。

 抜け出すことなんて許されず、助けは来ず、死ぬことだって選べず。

 力も、尊厳も、未来も、何もかもをその日私は失った。

 好きだった勉強も二度と出来ない、薄暗い世界の中に閉じ込められて、しばらくの後。

 

 ――たった一つ、この使い魔に“常識”が通用しないことだけ、知ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

「リッカ……さっきの魔族、死んだんだよね……ぼ、僕が殺したって、ことだよね」

「安心して、ユーリ。死んでない。ユーリは誰も殺してないし、ここから先も殺させない。そういう風に作った、優しいユーリのための戦い方だから」




『ラフィーナ』
【属性】火/夢
【攻撃力】■■■■
【防御力】■■■■■
【素早さ】■■■■
【魔 力】■■■
【精神力】■■

【種族】サキュバス種
魔族が人間の上位者である所以とは基本的に単純な魔力量や体のつくりの差である。
だが、サキュバスは違う。勿論強い力を持っている事は同じだが、何より彼女たちは人間の欲望を貪ることを生きがいとする生き物だからだ。
夢から生じたサキュバスは人間の心に敏感である。
相手の欲望を刺激する段階も彼女たちにとっては大変な栄養であり、一度目を付けられれば長い時間をかけて精気を吸い取られていくだろう。
また、サキュバスは精神体に近い存在ながら肉体が非常に丈夫なことでも知られており、過度な負荷にも耐えられる。
物理攻撃が効きにくい性質も相まって、真正面から打ち倒すのは困難をきわめる魔族だ。

【『初戦試験官』ラフィーナ】
魔王の配下たる魔族は魔王軍という通称に反して、特定の指揮官の指揮の下、作戦行動を取ることはさほど多くない。
『狂宴』のアリスアドラの配下にある夢魔たちなどその最たる例だ。
にも拘らず魔王を討つべき勇者たちに最初に立ちはだかる魔族としてサキュバスが遣わされることが通例となっているのは、人間の心を測るに相応しい存在だからである。
勇者とは身体能力や魔力のみが強ければ良いという存在ではない。その名の通り、勇ましき心ある者だ。
ゆえに情動に乱されず、格上に対して諦めない勇者足り得る意思を、『初戦試験官』は見定める。
この役割は『狂宴』自身が任命することになっており、幼い配下から才能ある者を選び出す。
夢魔たちにとってこの役割は名誉あるものであると同時に、強大な夢魔になれるというお墨付きでもある。
十年に一体という非常に狭き門をくぐれる者は、紛れもなきエリートサキュバスだ。
自らが欲望に負け醜態を晒すことなど、万に一つもあり得まい。

【リッカの評価】
「……エリートが聞いて呆れる。サキュバスって、こんな簡単に壊れるんだ」

【アリスアドラの評価】
「遅いなあ、ラフィーナちゃん。あれでかなり生真面目な性格だし、よっぽど慎重にやってるのかしらぁ」

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