凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
頬を細い指がなぞっていく。
くすぐったいというよりは、怖気の方が強かった。
今すぐに逃げ出したい。これが夢だというのならすぐに覚めたい。
明晰夢、というのだったか。だというのに、この夢はまるで思い通りになることはなく、アリスアドラに支配されていた。
無言のままに、数分。
何が面白いのか知らないが、妖しい笑みを浮かべながら指を這わせてくる彼女に、拒絶の意思をぶつけ続ける。
そうすることで、いつかいなくなってくれないかと。
あってはならない過ちを犯しそうになった瞬間の延長線上にあるこの悪夢を、今すぐ終わらせたい。
「――ねえ。ユーリくん。ラフィーナちゃんって覚えてる?」
指がぴたりと止まり、不意にアリスアドラが口を開いた。
今、関係ある問いとは思えなかったが、その名前には覚えがあった。
「……僕たちが旅に出て、最初に戦ったサキュバスだ」
「正解。私がね、『初戦試験官』として送り出したの。勇者の最初の戦いは、私が選んだサキュバスが担当するのよ」
……初耳だった。
『初戦試験官』だと名乗っていたことは、覚えている。
ラフィーナ――あの、旅を始めて間もない頃に戦った、剣を持ったサキュバスはアリスアドラの命を受けたようだ。
「すっごく真面目な子だったわぁ。サキュバスって奔放な種族だから、それで少し浮いちゃってたんだけど。あんなにも他の子の足を引っ張らないで、自分で頑張る子もそういなかった。落ちこぼれて、嫌がらせされても、自分を奮い立たせて、立ち上がれる子だった」
――目を掛けていたのだろう、と分かる。
“それ”がアリスアドラにとってどんな意味があるかは不明だが、それが高い評価であることは確かだった。
まだ、魔族がどんな存在であるのかを、真に知らなかった頃。
リッカが用意してくれた力でどうにか倒した彼女は、そんな、強い存在だったようだ。
「自分に出来る精一杯を、それで駄目ならもう一歩、限界を超えるのが得意な子。ユーリくんとは気が合ったでしょうね。クイールちゃんとは……どうかしら。あの子とは合わないかも」
「……何が、言いたいんだ」
アリスアドラの言いたいことが分からない。
ラフィーナと気が合う可能性があるとして、結局僕たちはそうならなかった。
――その可能性を、知っている気がする。
だが、可能性は可能性であるだけだ。
それはもしかすると、僕たちが至ることが出来る最善の結果であったのかもしれない。
時すでに遅し――そもそも、今のリッカは魔族と共に歩むことを選ばないだろうが。
「……フフ。面白いかなって、思ったのよ。そんな風にあなたたちとラフィーナちゃんが一緒に行くことになって、あなたが気を許すのと、ラフィーナちゃんが我慢出来なくなることが噛み合って、リッカちゃんの前で――」
「ッ――やめて!」
“もしも”の先の、更なる“もしも”。
アリスアドラがぽつりぽつりと紡ぐ空想は、耳を通して頭の中に染み込んできた。
考えたくない。思いつくことさえしたくない。
たとえ“もしも”の世界であっても、リッカに失望されたくない。
「安心なさいな、そんなことはなかった。なかったんだから。まあ……ユーリくんがラフィーナちゃんとの初戦で、少しでも諦めを見せてしまってたら、近いことは“起きていたかも”だけど」
「ぼく、は……っ、僕はリッカがいる限り、諦めない。一番最初でそんなこと……!」
「そうね。そうだと良いわねぇ」
……なんなんだ、この魔族は。
もう過ぎ去ったことだ。そこにどんな可能性を思い描いたところで、過去は帰ってこない。
巻き戻るのであれば、やり直したいことだってある。リッカを傷つけるナイトラクサに立ち入ることなんてしなかった。もっと上手くやれたことは、いくらでも思いつく。
けれど、だからといって今の結果だって否定できない。
ラフィーナと気が合うことはなかった。ラフィーナを相手に諦めることはなかった。
それ以外の結果は、今ここにはないのだ。
「――ラフィーナちゃんね、戻ってこないのよ」
「……え?」
「ユーリくんの初戦のために向かってから、行方不明。どこに行ったのかしらねぇ。生真面目な子だから、報告を怠って遊び歩いている筈もないし。他のみんなに聞いても知らないって言うし」
初めての戦い。その、最後の攻撃を思い出す。
無我夢中で放った必殺技。あれに限らず、僕たちが倒した相手は共通して、その場から消えている。
その“末路”が残っている訳でもなく、しかし、“仕留めた”という確信もなく。
リッカは「死んでいない」と言っていた。
それは、リッカなりの僕への気遣いだと思っていたこともあった。
だが、今その言葉を思い返してみれば、何となくではあるが――“嘘ではない”と分かる。
あの必殺技に付随した、なんらかの転移魔法。どこに飛ばしているかなど想像できないが、リッカは確かに、僕に誰かを殺させようとしていない。
だから、ラフィーナはどこかで生きている。そうは思うが……。
「……フフ。本当に、知らなさそうね。顔を見せてくれなくても、楽しくやっていてくれればいいんだけどリッカちゃんなら知ってるかしらぁ。今、ラフィーナちゃんがどんな状態になっているか」
「リッカに……関わらないで」
「それは無理よぉ。だって、共感しちゃったんだもの」
アリスアドラは指を唇に触れさせ、薄く微笑む。
「リッカちゃんはこの世界の理不尽を山ほど知っている。だから、ここまでの道のりも、何度も何度も死ぬような思いをして乗り越えてきた。ねぇ、ユーリくん、リッカちゃんが魔族に抱いているどうしようもない恐怖、知ってる?」
「――知ってる。どれだけ怖がっているか、どれだけ憎く思っているか。だから、言ってるんだ。リッカに関わるなって」
その言い分は、まるで誰よりリッカのことを理解しているかのようだった。
今の状況を強制されていることもあり、苛立ちが大きくなっていることを自覚する。
敵意を向けても、脅威ではないと分かっているからか、アリスアドラはその笑みを崩すことさえしない。
「リッカちゃんは知ってる。自分が魔族の手に落ちたら、どうなるか。聖都のローパー、山道のオーク、スライム、ゴブリン……自分だけでは決して勝てない魔族に敗れる“もしも”……考えたことあるかしら? 悲惨なものよぉ」
「ッ、そんな、こと……!」
「身を案じられることもなく性の捌け口にされるのも、そうとすら扱われない苗床になるのも、すっごく苦しいのよねぇ。リッカちゃんはそれが怖い、怖くて仕方ない。本当は魔族の前に立つことすらまともに出来ないのに、心を削りに削って、それを耐えてる。加えて、ナイトラクサでは人間にまで襲われかけて……本当、頑張ってて、かわいいわぁ」
イリスティーラに、そういう世界だと、教えられた。
どんなに完全な勇者でも、一瞬の油断で何もかもを奪われると。
ナイトラクサで、そういう世界だと、思い知らされた。
悪意に満ちた魔族。それに唆されれば、人間でさえ恐怖の対象になると。
この世界は、運命の潰えた者をそう簡単に殺そうとはしない。
尊厳を奪うだけ奪い、貶めるだけ貶める。そこから立ち上がれる者の方が異常な世界。
魔族との力の差はあまりに大きい。
だからこそ、村の外に出ることが何を意味するか、勇者に同行することが何を意味するかを、リッカは知っている。
……ナイトラクサで何か一つ、間違っていれば。
悪ふざけでも何でもなく、受け入れなければならない話だとは分かる。
だからといって、想像したくはない。
そんな世界なのだと思い知っても、リッカがその毒牙に掛かるなんて、考えたくない。
「だから、身を守れる力をあげたのよ。面白い魔法を持っているみたいだから、それに合わせてあげたの。今の二人だと勝てない相手にも、勝てるように」
「……やっぱり、あれは……」
「ええ。それでもちょっと意外だったけど。リッカちゃんの思うがままに、あの街を壊してしまえばよかったのに。人間は傷つけない、ユーリくんを守る……そこはまだ、あの子の前提として残っているのね」
「――――」
どうしようもない息苦しさがあった。
嫌な感情ばかりが頭の中でぐちゃぐちゃと渦巻く。
その中で一番はっきりとしたものが、無力感。
これを知ってなお、“リッカを守るため”に“リッカの力を借りなければならない”という、否定しようもない事実。
「苦しい? 受け入れないと、駄目よ。そうでないと、あなたたちはここから進めないから」
「……キミは」
顔を覗き込んでくるアリスアドラに向けて、言葉を絞り出す。
「キミは、何が、したいんだ……?」
僕の夢に現れて、惑わせてきたかと思えば、こうして背中を押そうとしてくる。
アリスアドラの目的が、僕には一切分からなかった。
「……フフ。自分の試練を突破してほしいと思うのは、四天王なら当然よ。勇者が先に進めば進むほど、私たちは楽しめるんだもの」
ふわりと浮き上がり、僕を解放しながら、アリスアドラは笑った。
その先でより楽しめるならばという、一時の投資。
今の言葉は本心であり、しかし、リッカに共感したという言葉も嘘ではない。
どうしてその二つの感情を同時に持つことが出来るのか。目の前の魔族を、理解出来る気がしなかった。
その気味悪さと、自身の情けなさ。二つを受け入れる前に、背後に引っ張られるような感覚に見舞われる。
「もうお目覚めみたいね。それなら最後に一つ、いいコト、教えてあげようかしら」
夢が終わる合図……そこに安心感を覚える自分がいた。
これ以上、アリスアドラの言葉を聞いていたくない。
何を言おうとしているのか分からないが、あとたった一言、それを聞けば終わる。この混乱から逃げ出したいという気持ちの中で――
「――ここ、ユーリくんの夢じゃなくて、リッカちゃんの夢の中よ」
「――――え?」
「ユーリくんを軽く一口、とも思ったけれど、リッカちゃんの中でそれをするのも流石にかわいそうだものねぇ。まだまだ楽しめそうだわぁ、二人とも」
最後に告げられた言葉は、今までの混乱をあっさりと塗り替えた。
引っ張られる流れに任せるほかない体。
離れていくアリスアドラは相変わらずの笑みを浮かべたまま、手を振っている。
そこから目覚めるまでに整理するのは不可能だった。
あり得ないことだとは分かる。誰かの夢の中に入るなど、それこそサキュバスでもなければ出来ない芸当だろう。
では、アリスアドラが誘導したのか。なんとなく――そうではない気がした。
【リッカ】
今週も被害者。無我夢中で自慰に耽っていたらユーリが介入するタイプの夢だった。
【ユーリ】
どういうわけかリッカの夢の中にお邪魔した不安定系勇者。
リッカに手を出していたら当然バッドエンド直行だった。
かなり希少なリッカの手助け無しでバッドを回避したパターンだったがその直後にアリスアドラ様とのタイマンが入った。
リッカの夢だと知った後にアリスアドラ様のサキュバスASMR喰らって無様夢精してしまう展開の構想もあったがユーリとリッカの双方がかわいそうなのでやめた。本作は全年齢向けである。