凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
ネシュア国跡を前にして、四日。
僕はひたすら、クイールを相手に鍛錬を積んでいた。
リッカのために踏み出さなければならないその一歩。その手掛かりを、より確固たるものにするために。
「さあ、次です! ちょっとだけ複雑なの、行きますよ!」
「うん――お願い……!」
思えば、こうして明確な目的を持って、強くなるための鍛錬をしたことなどなかった。
お飾りでしかなかった剣を振る。それは、毎日当たり前に繰り返してきたルーチンでしかなくなっていた。
意味がなかった訳ではない。
事実、体力はしっかりと付いていたと思う。
だがそれだけ。それを通して、“どう強くなりたいのか”という信念はなかった。
そもそも、勇者とはなんなのか。
十年に一度、魔王によって選ばれる、人間の生贄。
そう思って旅を始め、リッカを守りたい、リッカのために止まりたくないという想いで、ここまで進んできた。
きっと、どんな街に行って、誰に話を聞いても、この役割が生贄に等しいことを否定する者はいない。勇者本人でさえ。
僕の中にあった当たり前はこれまでに何度も崩されてきたが、この価値観だってそうだ。
自身が生贄とは露ほども思っていない勇者が、ここにいる。
九十九代目、勇者クイール。彼女の強い信念に触れれば、価値観は揺らぐ。
その使命に誰より頑なで、世界を変える希望であらんとする彼女は強い。自身の想いに、疑いを持っていないから。
自己を押し通すことは、それだけの力へと繋がるのだ。
「っと、やりますね……ですが!」
「まだまだ……!」
絶対的な自我、圧倒的な個によって、一人であってもひたすらに強くなることが出来たクイール。
同じことは無理だろうと、諦めを付けるのは早かった。
クイールが辿り着いた、或いは邁進している強さは、僕では至れない場所にある。
この数日、“もしも”を空想することが、何度もあった。
きっと、選択一つで何もかもが変わる“もしも”なんて、幾らでもあるだろう。
その中には、リッカもカルラも置いて、一人で飛び出すような僕もいたのかもしれない。
では、それが果たしてまともに成長出来たのかと考えれば、あり得ないという結論に至る。
恐らくは聖都にすら辿り着く前にどこかで倒れていた。
クイールという、一つの完成形に触れたからこそ、自覚できる。
僕はそういう人間ではない。決して、一人で強くなれる存在ではない。
強くならないとと思えば、常に誰かが必要になる。どんな可能性を洗っても、そうなってしまう。
それがはっきりと分かるほどに、クイールも、僕も、極端だった。
もしかすると――リッカはそれを知っていたのかもしれない。だからこそ、常に“二人で一人”として戦える手段を、彼女は用意した。そんな推測さえ生まれる。
何故教えてくれなかったのか、という不満はない。
こうして、何をきっかけにしようとも、これは僕が自分から気付かなければならなかったことだろう。
しかし、これが。これが本当に、僕の本質であるならば。
果たして勇者となるに相応しいものなのだろうか。
空想する“もしも”は、勇者として正しい姿ではない。一人で希望とならなければならない勇者が、常に誰かを巻き込み続けるという姿は、決して正しくはない。
「それじゃあ、仕上げと行きましょうか!」
「分かった……六割くらいで!」
「了解です! 六割の全力でやりましょう!」
『ファイナライズ! アクセプション!』
『ファイナライズ! スタンバイ!』
そこを、僕が受け入れて良いのか。
考えるまでもない。わざわざ答えを出すまでもないことに思えるが、はっきりと方向性を決めなければならない。
勇者として正しくない姿に向かって歩むことへの迷いは、リッカへの迷いにも繋がる。
即ち、当たり前を自分から捨てられるかどうか。
生まれてから今まで、リッカやカルラと共に過ごしてきた当たり前を置いて、その先に進むことが出来るのか。
『オズマ・エクスタシーッ!』
『マスター・エクストリームッ!』
一択しかないその選択肢に手が届くまで、あと少しだった。
クイールとの模擬戦は、幾度となく繰り返された。
僕からの希望だ。クイールの在り方を学び、僕の在り方を模索するために、何度も戦った。
勝てた戦いというのは、これまで一度もない。勝つことを目的にしていた訳ではないが、やはり彼女との差は大きかった。
とはいえ、ここまで闇雲だった戦い方も、ある程度正された自覚はある。
誰かとの戦いを想定した鍛錬――今まで僕が、一度としてしてこなかったことだ。
この模擬戦がそのまま魔族との戦いに活かせるということはない。
互いに相手を出来る限り傷つけないという取り決めの下の模擬戦だ。それに、人型とは限らない魔族にはそれぞれ違った対応を求められる。
だが、これまで何もなかった、戦いにおける“芯”……中心は定まった気がする。
決まった武器のない状態ではそこに至るのは当然なのだが、それさえ考えず、僕はリッカの魔法の性質に頼り切りになっていた。
どれだけこの魔法の性質を熟知しても、僕自身が身のこなしを上達させなければ、勝てる戦いにすら勝てなくなる。
それを、土の試練の前に知ることが出来たのは、大きい。
決して一筋縄ではいかないのは分かっている。水の試練のように、例外さえ起きなければ安全は保障されているという内容でもあるまい。
「土の試練ですか?」
「うん。そういえば、話を聞いていなかったなって」
ネシュア国跡とはどんな場所か、どんな試練が待っているのか。
試練そのものを突破したクイールがいたというのに、今まで聞くことがなかった。
その日の鍛錬を終えて、夕食を囲みながら尋ねてみれば、クイールは匙で椀をつつきながら記憶を掘り起こす。
「んー……確か、試練本体は……ドラゴンゾンビ、でしたっけ」
「ドラゴンゾンビ」
名前をそのまま解釈するならば、魔族の最上位種たるドラゴンのアンデッド。
土の試練が、アンデッドたちが中心となるものだとは、イリスティーラから聞いていた。
しかし、それがドラゴンであるとは聞いていない。思い出すのは、クイールと出会ったあの森での出来事。
あれは紛れもなく生きているドラゴンだ。同じように考えてはいけないだろうが、あの威容を振り返ればたとえアンデッドとして弱体化していようと、手の付けられる相手ではない。
「それが四体ですかね? 何日掛かってもいいから倒し切れって」
「四体」
「同士討ちとか考えたりして、二日くらいは掛かってましたっけ。うん、結構きつかったことは覚えてます」
「二日」
……時折、目の前にいる先代勇者は果たして人間なのだろうかと疑うことがある。
同士討ちという言葉から察するに、ドラゴンゾンビ複数体を同時に相手取り、生き延びるどころか倒し切る。
しかも、その頃にはまだクイールは聖剣を持っていなかった筈。
つまり他の町で買っていた剣を使い潰す形で、ということだ。
……いや、届かない高みではあるが、これ以上気にするな。僕の強さはまた別にあるとは分かったのだ。クイールの偉業と同じことを出来ないといけない訳ではない。
「ただ、参考にはならないと思いますよ。あそこの四天王、毎回試練は別の内容を考えている節がありましたし。一緒なのは前提だけです」
「前提?」
「ネシュア国跡……あの場所にいる、数え切れないほどのアンデッド。ゾンビやら何やらと、試練はまた別ってことです」
――ゾンビ、マミー、ゴースト、ポルターガイスト。
そこは、かつて多くの人々が住んでいた場所だ。
名残であるアンデッドたちは、試練に当然のように付きまとう障害。それらを対処することは前提でしかない。
きっと、これまでにないほど長く、大きな戦いになる。
そう考えれば、まだネシュア国跡には足を踏み入れることなど出来ない。
傍に横になって、寝息を立てるリッカは、満足に動ける状態ではない。
寝顔は穏やかだった。まるで――まるで、何年もの疲労をこの睡眠で癒しているかのようだった。
目を覚ましている時間、少しでもものを食べることは出来ているし、対話も叶う。
だが、長時間それをしてはいられない。リッカの防衛本能からか、クイールとの模擬戦でも時折『アドラフューリー』へと強制的に形態変化を起こしてしまう。
今の僕たちの課題は、ネシュア国跡の土の試練よりもリッカだった。
この状態がアリスアドラの火の試練に関連しているのだとしたら、リッカが本調子に戻るかどうかはリッカ自身と、そして僕次第ということになる。
「まあ……先にリッカちゃんですよね。そっちはゆっくり解決していくしかないかなって思ってますけど」
「――うん」
クイールもまた同意見。きっと彼女は、いつまでも待つだろう。
時間を掛けないといけない問題だ。だが、そこに時間を掛けることは許されない。
僕は現在進行形で、リッカの負担になっている。
それがいつしか、アリスアドラが試練とするに相応しいほどの絶望になってしまった。
僕はリッカの希望になりたい。リッカに笑っていてほしい。
つらく苦しい旅路を、少しでも、安心して共に歩いてほしい。
そのためには、やはり――僕は知らなければならないのだ。僕の知らないリッカの全てを。
そうでなければリッカの絶望は消えることはない。まして、僕のことを希望などとは思わない。
「ごめんクイール、もう少しだけ、時間を掛けるかも」
「いいんです。ユーリくんはリッカちゃんと二人で勇者で、僕はその先輩です。二人の足並みに揃えるのが、今の僕のやることですから」
クイールに足踏みをさせる状況。
それに甘んじてでも、果たさなければならない成長がある。
深く、どこまで続いているかも分からない霧の向こうにある真実。
それを掴んで、僕なりの答えを出すために、僕は手を伸ばさないといけない。
リッカが隠しているものが、どれだけ――受け入れがたいものなのだとしても。
だから、そのために。
あと数日だけ、土の試練を後回しにしよう。
そんな悠長な選択は、許されなかった。
翌朝、僕たちが仮初の拠点としていたテントから、リッカは姿を消していた。
独りでに、自分の意思で出ていったのではない。
それを証明するように、リッカの寝ていた場所には、今にも崩れ落ちてしまいそうな襤褸切れの如き紙が置き去りにされていた。
親愛なる勇者ユーリ様
土の試練の準備が整いました。
本日の日暮れ、ネシュア国跡、ゼニス記念広場でお待ちしております。
九十九代目勇者クイール様も是非ご参加ください。
試練の際、リッカ様をお返しいたします。
【クイール】
後輩改造計画(おおむね無意識)。
ユーリが迷走していることを知っていてなお、それは悪い方向には転がらないと判断し付き合っている。
【リッカ】
主に魔族に取っ捕まることでヒロインポイントを頑張って溜めている。
【ユーリ】
本来ならばもっと早く自覚すべき己の本質。なお自覚していたらしていたで『勇蝕写本』で詰む。
水の試練を後半に回せば回すほど厄介になる性質(+α)からの自覚先送りチャート。
しかしそれによって自覚のタイミングが失われて今に至る。
その状態で歩み続ければ、ナイトラクサで冒険は終わる。その筈だった。
【アリスアドラ】
てへぺろ。
【オドマオズマ】
準備が出来たから早く来てほしい。