凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
この屋上には、入り口らしき場所はない。
建物に侵入したゾンビたちが上ってくるべき道がないのはこちらにとって好ましいと言える。
圧倒的な数の多さと気配の小ささ。それで高い身体能力まで持っていたらそれこそ手が付けられなかっただろう。
しかし、幸いかれらは動きが遅く、見た目以上の力を発揮できる訳でもないらしい。
高い場所に辿り着くために跳躍することも出来ず、ただよじ登ろうとするのみ。
かれらだけが敵であれば、この場での安全性は高いと言える。
……恐らく、そうではないだろうが。
「とりあえず……ゾンビたちは大丈夫そうですね」
「でも、それだけじゃないんだよね。ゴーストとかもいるって、聞いたことがある」
「あー……いましたいました。とはいえ、ゴーストは今は気にしなくてもいいですよ。どうせ夜しか出てきませんし」
建物の下に目を向け、ゾンビたちの動向を確かめるクイールはかつての試練を思い返して言う。
この試練は、果たして夜まで続くだろうか。
正直、どうするべきか分からない。果たしてナディアを気にしつつ、あの外装を破壊することが出来るのか。
「ただ、他にもいるんですよねぇ。ゾンビ、スケルトン、ゴースト。そういう簡単な相手だけなら、ナディアちゃんに集中することも出来るんですけど」
「他にも……?」
「前の時もいたんですよ。なんというか……ちょっと妖精みたいな子たち」
「え……」
思わず、抵抗感が声に出た。
妖精と聞いて思い出すのは、ある意味で非常に厄介であった魔族。
吹き行くそよ風のように自由な、二人のフェアリー。リッカの異常なまでの魔族への拒絶を、初めて実感した相手だ。
“妖精みたいな”と言われると、あの二人のようなやりたい放題を連想する。
「妖精って会ったことあります?」
「……一回だけ。なんというか……すごく自由だった」
「ですよね。正直、ああいうのは試練の最中に出てくるのは勘弁してほしいんですけど……」
どうやらそんな、自由な魔族がこの廃都にも棲んでいるらしい。
オドマオズマが操るアンデッドだけが脅威という訳ではないようだ。
試練が長引けば長引くほど、そうした魔族と遭遇する可能性も高くなる。
可能な限り、早く終わらせるべきではあるのだが……。
「とりあえずナディアちゃんをどうにかしないことには試練も終わりません。彼女が目覚めるまで――」
「――わたくし寝てましたっ!?」
「早くないですか?」
果たして、十分経っただろうか。
気絶して間もない、といっても良いほどの短時間でナディアは目を覚ました。
勢いよく体を起こし、激しく頭を動かして忙しなく辺りを見渡し、当たり前に目が合う。
「……? ここは……それに、あなたたちは?」
「えっと、僕たちは……」
即座に、先の魔法が再発動する様子は見られない。
とはいえ油断は出来ず、多少の距離を保つ。まずは彼女の誤解をどうにかしなければ――
「まあ大変、そちらの子、夢魔の淫気に侵されてますの?」
「え?」
先程恐怖していた者と同一人物とはまったく思っていないのか。
事情を説明する前に彼女は、僕の傍に寝かせていたリッカに目を向ける。
「えっと……この子の状態について何かご存知なんですか?」
「夢魔の淫気は嫌というほど感じてきました。ここまで濃く残っている辺り、かなり気に入られたのでしょうね、この子は」
リッカを見るや否や、ナディアはその状態を即座に言い当てた。
もしかして、という希望が生まれる。
殆ど目を覚まさないリッカを、治すことが出来るかもしれないという希望は、僕にとってあまりに重大だった。
「な、治せるかな……もう数日、ずっとこの状態なんだ」
「見て見ぬ振りは出来ません。試してみましょう……わたくしの修めた簡単な治療魔術が効けば良いのですが」
偽りはない。彼女は本気で、リッカを案じている。
それが伝わってきただけで、この場で信じるには十分だ。
歩み寄ってきたナディアはリッカに青い手を伸ばす。
そして、その手先に構築した魔法による輝きが灯って、リッカへと――
「――――ッあっづぃ!?」
「えっ」
「えっ」
――リッカの全身を包む前に、じゅうぅ、という音がその指先から鳴り、ナディアが悲鳴と共に跳び上がった。
煙が上がる指先は、まるで火で炙ったかのようだった。
「な、なんなんですの今の……指青っ!? 肌青っ!? わたくしまた何かされました!?」
「……そういえば、アンデッドって癒しの類の魔法が天敵なんでしたっけ」
教会の祝福とは違うが、生命ある者にとっての癒しはアンデッドにとって身を焼く呪いにも等しくなると聞いたことがある。
回復だけでなく、毒の類に効く癒しも同じなのか。
リッカを治そうと、ナディアは治療魔法を発動しようとしてくれた。結果として、自分が発現させたそれが自分に向かって牙を剥いたということらしい。
「アンデッド……? 何を戯けたことを……死にそうな目には山ほど遭ってきましたが、まだまだわたくしは死ぬわけにはいかないのです。ネシュアに瑞々しい活気を取り戻すまでは……」
指先を摩っていた手を胸に当て、ナディアは決意を口にする。
なんというか……色々と現実逃避しているのだろうか。
「……? ……、……心臓、動いてませんわね」
「……あー、うん。でしょうね」
「もしかしてわたくし、死んでまして?」
「えっと……そうなる、かな」
「…………なんと」
呆然と呟き、膝から崩れ落ちるナディア。
そうしている間も魔法が再発動する様子は見られない。
ひとまず、対話は叶うらしいという認識が生まれ、僕とクイールはまず現状の共有を行うことにした。
結論から言うと、ナディアは先程の一件について思い出した。
オドマオズマによって目覚めてから、彼によって仕込まれた魔法に操られ、“新種と見られる魔族”と戦ったこと。
そして魔族たちに拉致され、その中で気を失ったことまで。
まず解くべき誤解として、“新種と見られる魔族”の正体が僕たちであることは分かってもらえた。
そのうえで、今の世界と、勇者のシステムについて話し終えるまで、ナディアが何度気を失いかけたかは定かではない。
「――なんというか」
ようやく全ての説明が終わったとき、ナディアは廃都と化したネシュアをどこか悟ったような瞳で見下ろしていた。
「素面では信じられないことばかりですわ。ですが、信じましょう。世界はそれほど、希望のない形に変わってしまったのですね」
「一応僕たち勇者が希望ってことにはなるんですけど」
「本当の意味で、そうとはなっていないのでしょう。千年も続く慣習だというなら、今やそれが生贄にも等しい行事と化していることは想像に難くありません」
呆れた表情で、ナディアは勇者の本質を言い当てた。
希望と見ている者など殆どいないそのシステム。
クイールでさえ、“珍しく足掻いている”と見る者の方が遥かに多いだろう。
「それで、その子は? 勇者の証とやらが、あなたたち二人の中に感じられるものであれば、その女の子は無関係でしょう。妙な存在感を持っていますが、普通の女の子では?」
「リッカは……僕に付いてきてくれたんだ。リッカがいないと、ここまで来ることも出来なかった。あの魔法を用意してくれたのも、リッカなんだ」
「え、アレこの子が……? ……趣味、ですの?」
「……知らないけど」
リッカの魔法が魔族を模したものになっている理由は未だに分からない。
彼女自身が何より恐れる魔族をどうして、戦うための手段として選んだのだろう。
「ともかく、話は分かりました。あなたたち勇者が先に進むには、わたくしに先程掛けられた魔法を破壊しないといけないと」
「ええ……ですが、そのためにはナディアちゃんを傷つける必要があります。僕たちとしては、それは本意ではありません」
「……その心意気は結構ですが、今のわたくしは魔族です。兄……オドマオズマに蘇らせられたアンデッドなのでしょう? それを容易く手に掛けられなければ、勇者など務まらないのでは?」
そう指摘するナディアが、決して小さくない恐怖を抱いていたことを見逃さない。
だからこそ、僕たちはこうしている。
それが甘さと言われるのは当然だ。
「“甘い”って言われるのは承知の上です。でも、そこを無視して勇者は名乗れないじゃないですか」
「……理解出来ません。“かわいそうだから”と情を掛けていられる立場なのですか? 人間はそこまで強い存在ではないでしょう。魔族は強く、それでいて狡猾です。いつか、足を掬われますよ」
――それでも。
間違っているとしても、自身に情けを掛けるなと言いながら震える彼女を、はいそうですかと簡単に倒すことは出来ない。
それが、僕の“勇者らしさ”であるとは……言えない気もするが。
「悲惨ですよ、魔族の手に落ちた末路は。即座に殺されるならば良い方です」
「
「あなた、は……そうでなければ勇者が務まらぬというならば、残酷なもの、ですね」
向けられる視線が、怪訝なものから、憐れみを持ったものへと変わる。
もしかすると、なんとなく、察したのかもしれない。
僕もまた、クイールから実際に聞いた訳ではないが……彼女もまた、ただ完全な勇者というだけではないことを。
「さて! 僕たちはやりますよ。ナディアちゃんを助けつつ、土の試練を突破しますっ!」
「……好きにしてください。しかし、“ちゃん”って……いえ、王家どころかネシュアそのものが残っていないいま、不敬も何もないんでしょうけど」
「あれ、駄目でした? あまりそういうの、気にしたことなくて」
「いえ、構いません。ですが、わたくしから名乗った訳でもないでしょう。改めて、自己紹介といたしましょう」
最低限、僕たちに歩み寄ってくれたということだろうか。
呆れ顔のままに、ナディアは初めて、僕たちに名乗った。
「わたくしはナディア・ディアネシュア――既に死した身ではありますが、ネシュア王家最後の一人、ということになります」
「あ、僕はクイール。九十九代目勇者です」
「僕はユーリ。そして、この子はリッカ。百代目の勇者として、今、土の試練に挑んでる」
ここからどうするかの見通しなど立っていない。
しかしながら、それは進歩であると、そう思いたい。