凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「それで? 魔族に抗う勇者たるあなたたちは、どうやってわたくしを助けてくれるのです?」
「さあ? これから考えます」
「まあ、見事なまでの行き当たりばったり。それでよく生き延びてこられましたね」
見通しが立っていないとは、つまるところナディアに切った啖呵になんの根拠もないということ。
それを薄々想像していたのか、ナディアはクイールの返答に肩を竦めた。
先程までとは雰囲気が違う。自身の死を自覚し、一周回って落ち着いたらしい。
「やることは一つなんですよね。あの魔法による外装を破壊しろって言うなら」
「……わたくしにもう一度、あれを発動しろと?」
「やってほしいって言ったら出来ます?」
「感情を度外視すれば」
オドマオズマに強制的に刻まれた魔法は、どうやらナディアが任意で起動できるものらしい。
まさか既に制御したというのだろうか。そうであれば、驚きはあれど、ナディアが目覚めた状況で再発動していないことにも納得がいくが。
「そこなんですよねぇ。死ぬほど痛いでしょうし」
「もう死んでるんですけどね」
「やれます?」
「嫌です」
「じゃあ駄目です」
突っ込むことが躊躇われる自虐をクイールは気にする素振りがない。
その遠慮の無さが……勇者には必要なのだろう。
何事にも物怖じしない、真っ直ぐな行動力。それは、今の僕に欠けているものだった。
もしもクイールが僕の立場であれば、リッカについて踏み出す迷いなど抱くまい。
強い、と思った。クイールも、変わった“今”を受け入れられるナディアも。
「そもそも、これ……壊せというなら困難ですよ。ネシュアの秘宝が修復能力に関わっているようですから」
「秘宝?」
「ええ――追想機関イエスタデー……“万全たる昨日”から魔力の供与を受け続けることによる半永久機関。それがこの魔法には埋め込まれているようです」
「半永久機関……つまり、魔力切れが起きないってこと?」
「その理解で構いません。術式を解析したいというなら許しますが」
オドマオズマが、それを試練とした理由の一つ。
浮き上がった術式は、リッカが魔法を使う際、その体に浮き上がるものに劣らないほど緻密なものだった。
どこにどんな意味合いが含まれているか、魔法の知識に乏しい僕では、僅かに理解することもままならない。
「……クイール、分かる?」
「いえ、全然。僕、魔法は感覚派だったので」
「……わたくしもここまで複雑な術式は読み取れません。わたくしが思うに、この魔法の弱点は、イエスタデーの術式部分を砕くこと。修復が及ぶ前に全体を粉砕出来る威力をぶつける方法もあるでしょうが――わたくしは助からないでしょう」
僕たちの立場に立っての仮定は、最も可能性の高い突破手段に待ったを掛けるものだった。
修復の根幹を担う術式を的確に破壊出来ないならば、全て纏めて破壊するしかない。
しかし、そうした場合、僕たちが宣言した“ナディアを助ける”という目的は果たせない。
中途半端な攻撃であれば即座に修復される。僕たちは消耗し、ナディアは痛みに耐えなければならない。
或いは、僕たちがこの問題に行き当たる確信があって、これを試練としたのか――そんな憶測が生まれるほどの難題だ。
「……リッカ」
あの魔法を作り上げたリッカであれば、ナディアの魔法を解析し、突破口を開けるかもしれない。
同時に、結局はリッカに頼っているという無力感。それほどの信頼。
ままならない――まるで“リッカ離れ”を促している状況で、なおもそれが無理だという結論に至る。
「――その子は、魔法に理解があるのですか?」
「うん……きっとリッカなら、解決できるんだ。ビックリするくらい鮮やかに」
今こそ、という訳ではない。
いつだってリッカの力が必要だ。それでも……今、リッカの存在の大きさを痛感していた。
――ならば。
リッカに目覚めてほしいならば、僕が何もしないなど許されるだろうか。
「……ナディア」
「なんですの?」
「ナディアが知っている魔法で、リッカが治るかもしれないんだよね?」
「ええ……あくまで、可能性の話ですが。まあ、あれは考慮しても仕方ないでしょう。まともに機能するまで、わたくしの体が耐えられませんわ」
アンデッドたるナディアにとって、あの癒しの魔法は自分を傷つける刃でしかない。
だが、現状唯一、リッカを回復させられるかもしれない手段だ。
「――その魔法、教えてくれないかな」
「……あなたに、ですか?」
「うん。魔法が得意な訳じゃない。物覚えも、いい方じゃないと思う。けど……何もせずにはいられない。望み薄でも、可能性があるなら、試したいんだ」
アリスアドラが発した、火の試練なんて知らない。
とにかく、リッカに目を覚ましてほしい。そんな一心だった。
「……まったく……魔法の鍛錬がどれだけ大変なものか、分かっていますか? 然るべき順序も踏まずに、これだけを知りたいなどと……」
無学に対する呆れと、僅かな怒り。
当たり前だ。魔法が扱いを間違えれば即座に危険を招く技術であることくらい、知識として持っている。
それを、慎重さも何もなく、段階をすっ飛ばして一つの魔法だけを学びたいなどと、考慮すらされずに一蹴されても仕方ない懇願だろう。
分かっていて、なお頼んだのは、それが僕にとって希望に他ならなかったから。
「構成について……理解はさせません。あなたにとっては、“ただ使えるだけ”の手段でしかない技術になります。それで構いませんか?」
「それでもいい、お願い」
「……わたくしに悪意があって、毒でも掴まされる可能性を考えなさい」
それが、脅しでしかないことは伝わってくる。
ナディアが不承不承ながら、善意で手を貸してくれること。そこに害意はないということ。
そもそも、彼女がそうした悪には染まれないということが、伝わってくる。
ならば僕はナディアを信じ切る。そうでなければ、僕がまるで本気でないかのようで嫌なのだ。
「じゃあ、僕は変わらず護衛で。何かあれば三人を守るので、ゆっくり学んでください、ユーリくん」
「ゆっくり学んでいる暇などないでしょう。夕暮れまでには教え切ります」
クイールがそう宣言してくれた中であれば、外敵の心配はいらない。
今の僕の最優先は、リッカを助けることだ。
――始まったナディアによる魔法の学習は、リッカに魔道具の使い方を教わっていた時とはまったく違った。
術式の構成、意味合いの理解という、誤作動や不具合を防ぐための大前提などない。
ナディアが言った通りのそのままに、未知の術式を組み上げていく。
理解している暇などない。
魔法の学習とは縁が無かった。既に術式が仕込まれている魔道具のうち、簡単なものを使用できるようになった程度だ。
術式を組むということさえ、僕はやったことがない。
だから、“構築の仕方”が正しいのかさえ分からない。ナディアがその進捗について口を出すことはしないから、やり方はどうあれ終着点には向かっているのだと思う。
組んだ術式を圧縮、さらに別の術式の一部として利用する。そしてそれを複数の別の術式から呼び出せるよう加工する。
さほど複雑な術式という訳ではない、とのことだった。
だからこそ、やってみれば――リッカの魔法がどれほど“異常”なものなのかが良く分かる。
体中に浮き上がる、緻密な紋様。末端たりとも手を抜かない術式を、あれほどの規模で刻み込むことでようやく魔法として成立するほどの代物。
――僕が勇者として選ばれてから旅に出るまで、長い期間があった訳ではない。
あの魔法はそんな短時間で組めるものではない。たとえリッカであっても。
――リッカが魔法を学んでいたのは知っている。だが、専門的な学習を受けたことはない。
あくまでも、村の中で学べる範囲で基礎を学び、発展させようとする好奇心があっただけだ。
あの魔法はそれだけの知識量で組めるものではない。たとえリッカであっても。
やはり、おかしい。
同じ村で、当たり前のように一緒に過ごしてきたリッカが、この魔法を用意できる筈がない。
どうあっても、時間が足りないのだ。
知識を詰め込む時間が足りない。術式を構築する時間が足りない。
旅に出る前の、様子がおかしくなった一年前から、ずっと“これ”を用意していたのだとしたら、必要性を感じていたのがおかしい。
勇者の使命が僕たちの村に降り掛かることを冗談交じりに期待していたことはあった。だがそれも――リッカは自分自身が勇者となる前提だった。
僕が主体となって戦うための魔法“だけ”を用意しておく理由が、存在しない。
「集中」
「っ」
沈んでいく思考により、鈍る作業の手を、ナディアは見逃さない。
……知って良いことなのか。知るべきことなのか。この疑問に、リッカの秘密があることは間違いない。
だが、今は置いておくべきだ。この魔法をいち早く習得するのだ。
「……クイールさん、あなたは少し気を休めては?」
「いやあ。ユーリくんが頑張ってるんだし、僕も休む訳にはいきませんよ。いつまでも安全が保障されている訳ではありませんし、今すぐ魔族が襲ってくる、なんてことだってあり得るんですから」
クイールは周囲の警戒を解くことはしない。
ゾンビたちはここに上ってくることは出来ないが、なにもこの場所の脅威はそれだけではない
当然、過去にこの場所にやってきて、試練を突破したクイールの経験則もあるだろう。
だが僕にも分かることがある。
――オドマオズマが用意しているものが、ゾンビたちだけである筈がない。
「業腹ですが……ネシュアが既に死した土地であるならば。兄……リッチが特別操らずとも寄ってくる魔族はいるでしょうね」
「ええ、いるんですよ。ナディアちゃん、なんか黒い煙をまき散らしながらこっちに向かって走ってくる、四足歩行の魔族がいるんですけど、分かります?」
「黒い煙はともかくこんな土地で見られる魔族だというなら――こっちに向かってくるとは?」
「めっちゃ走ってきてるんですよ、すれ違ったゾンビたちを“つまみ食い”しながら。もうすぐここに辿り着きます」
さして危機とは感じていない――ナディアに感じさせないような、普段通りの声色で、クイールは敵の接近を告げる。
ここで大人しくしていれば状況は動かない、などというほど試練は甘くはない。
「……死した土地を我が物顔で闊歩し、死を食い荒らして無へと変える墓荒らし……食べきれないほどの死があるんですもの、ここに居付く個体がいてもおかしくないでしょう」
「ほほう。なんという種族なんです?」
「……ブラックドッグ」
その奇妙な悪意に思わず目を向ければ、黒い襤褸布を被ったような大きな塊が宙に浮きあがり、一直線にこちらに突っ込んできていた。
ゾンビでは不可能な、一跳びによるこの高さまでの到達。それだけで油断ならない相手と判断するには十分だ。
敵意や殺意を感じる訳ではない。しかし、どうも存在感がはっきりしない奇妙な相手。
迎撃のために振るわれたクイールの聖剣を受け流し、屋上の縁にまで飛び退いたそれは、大型の獣だった。
二メートル近い体の輪郭は、瘴気のようなものに覆われているからか、ぼやけて見える。
強力かどうかは分からないが、間違いなく厄介な相手。しかし物怖じすることなく、クイールは獣と僕たちの間に立った。
「こっちは僕がどうにかします。ユーリくんは、そのままで」
「……分かった」
妖しい存在感を意識から放り出し、術式に向き直る。
僕はかれらと戦う訳ではない。一切、気にする必要はない。
一刻も早く、この作業を終えること。それが今の僕がやるべきことだ。
――リッカのために。
終点は見えている。そこに辿り着いて、必ず――リッカのあるべき姿を取り戻すのだ。