凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『残灰』/勇者なるもの

 

 

 自身の現状を知ったとき、大して驚愕もなかった。

 強い感慨を抱いた訳でもない。

 ――とうとう死んだと思えば、その死体まで辱められるのか、と思ったくらい。

 

 ネシュアは既に滅び、命の瑞々しさなど残っていない。

 わたくしがあの日々を耐え凌ぐために持ち続けたディアネシュアの誇りも、既にまったく意味のないものと化している。

 だって、ディアネシュアの名を知る者が今の世界のどこにいようか。

 勇者なる二人から聞かされた、魔王に支配され人々が希望を失った今の世界では、人々が誇りを持つ必要もないのだ。

 

 最早希望を取り戻すことなど出来まい、というのが感想。

 勇者たちが、人間にしては特殊な才能を持っていることは認めてもいい。特に九十九代目の方は目を見張るものがある。

 それでも、そもそも百代目まで続いている現状が、如何なる才を持っていようと魔族にとっては戯れに過ぎないことを証明している。

 

 二人も知らない訳ではないだろう。

 本当に世界を取り戻せると思っているのか、或いは虚勢でしかないのかは知らないが、厳しい旅路だ。

 あの愚かしき国賊、憎き兄は魔族の要の一つとなっているらしい。

 それが発令した試練を、馬鹿正直にこなそうとしている。そのうえで、わたくしを救おうとさえしている。

 ただでさえ戦力に差があるというのに、このような余事にまで気を留めているなど、笑うことさえ出来ない。

 

 付き合ってやる。付き合ってやるとも。

 だが、かれらが抱いている感情はまやかしに過ぎない。

 何もかも無駄になるという確信があって、しかしかれらにそれを告げられないのは、性格だった。

 気が済むまでやればいい。

 どうせ死体だ。手足をもがれても毒を打ち込まれても凌辱の限りを尽くされようとも、これ以上わたくしの何が変わる訳でもない。

 ……いや、痛いのは嫌だが。

 

 そんな冷めた感情で付き合い始めたおままごとだが、多少、二人の胆力について、評価を上げる必要があるらしい。

 今のわたくしでは扱えない、癒しの魔法。

 それを百代目たるユーリが修め、九十九代目たるクイールがその間、墓荒らしたるブラックドッグから守り続ける。

 なんだ、この状況。どうしてユーリは術式の構築に意識を戻せるのか。

 十メートルと離れていない場所に、自身を殺めるに足る魔族がいる。

 集中など出来る訳がないというのに、腰を据えて作業をするほど、クイールを信頼しているのか。

 或いは――それだけ、あのリッカとかいう少女が大事なのか。

 

「さて。また一筋縄ではいかない相手みたいですが、ユーリくんたちには指一本、牙一本触れさせません!」

 

 そして、クイールもクイールだ。

 いつ襲ってくるか分からないブラックドッグと対峙している状況で、悠長に決意表明など、死にたいのだろうか。

 呆れた視線を向けていれば、彼女は黄金の剣を構え、その柄に手を当てた。

 

『ブレイブコード! スタンバイ!』

 

 ……今のは、魔法音声だろうか。

 どうやらあの剣に魔法を仕込んでいたらしい。わたくしに刻まれたものや、リッカが有するものと類似した、自身の戦闘能力を補う魔法。

 剣から浮き出た緻密な術式はクイールを覆っていき、不気味なまでに眩しい輝きを放つ。

 なんなのだろう、あの魔力。

 あの属性は知らないが……どこか、あたたかい。

 

『マスターアップ! Q-クエスター!』

 

 ……、……あの魔法音声、必要か?

 自分だけで完結する魔法であるのに、シーケンスを周知する音声を実装するに足る理由があるとは思えない。

 魔法音声とて考えなしに組み込めるものではない。

 それを組み込まなければ、多少なりあの戦闘スーツのスペックを引き上げることが出来るだろうに。

 たとえ必要なのだとしても、無駄にテンションが高すぎる。相手を煽るだけではないか。理解できない。

 

「よーしっ、ここからの僕は、百パーセントです!」

 

 展開された黄金の鎧を纏ったクイールの身体能力が跳ね上げられているのは、見なくとも分かる。

 芸術の域にまで至る緻密な魔法の成せる業だ。数えきれないほどの強化魔法の合わせ技により、装着者に人間を超えた力を与える魔法――人間という種族が魔族に対抗するならば、理に適っているといえる。

 戦うのがその勇者一人、足手まといになる存在がなければ、魔族と同じ領域に立つことが出来ると。

 

 はっきり言ってあのスーツのスペックは異常だ。

 魔族に対抗できるというレベルではない。身体能力という面では、大半の魔族を凌駕できる。

 いやまあ、残る一握りの強大な存在こそが、勇者たちの戦う相手であるのだろうが。

 相対しているのが“普通の”ブラックドッグであるならば、クイールは何の心配もないだろう。

 ……あれと先程まで、戦わされていたのかと思うと寒気がする。やっぱりあの魔法の破壊、拒否しようかな。

 

「 ――――! 」

 

 ……確かに、煙に見える。

 黒い靄を吐き出し、咳き込むような唸り声を上げながら、獣はクイールとユーリを交互に見比べている。

 奇妙な雰囲気だ。戦意はあるが、殺意はない……勇者の二人には。

 どうやら既に死体であるわたくしは、デザートか何かにしか映っていないらしい。

 結論として、獣がわたくしを真っ先に狙うのは自明の理。

 

「っ……」

「大丈夫です! そこを動かずに、安心して観戦していただければ!」

 

 怖いものは怖い。今のわたくしにとって、ブラックドッグなどという存在は天敵でしかない。

 逃げ出したい気持ちを、当たり前のようにクイールは察した。

 そして逃げることは間違いだとばかりに、この場の全員を守るように立ち回る。

 

 こちらに突っ込んできた獣の爪を、放射した魔力で押し返す。

 怯んだその横腹を蹴り飛ばせば、まさに襤褸布の如く転がっていった。

 その動作一つ一つで撒き散らされる黒いそれは――落ちてくれば煙ではないと分かる。

 細かい粒子は空気に消えることなく、その色を残してそこにある。

 ……灰、だろうか。

 ブラックドッグがこのようなものを纏うという話は聞いたことがない。

 わたくしの知識も遥か昔のものだ。魔族の性質が変化していてもおかしくはないが、ただ死を食い荒らすだけの獣がこんなものを要するかといえばそれも否だろう。

 

「 ―――― 」

 

 すぐさま起き上がった獣は屋上の縁に沿うように走り出す。

 隙を窺う動きだ。クイールが一瞬でも油断すれば、あの牙はわたくしの首を貫く。

 ……何故わたくしはここまで、初対面の人間に命を預けなければならないのか。

 信ずるに値する近衛はもういない。勝手に蘇らせられ、勝手に戦わされ、その相手の片割れに今は守られながら、もう片方に魔法を教えている。

 

「そこぉ!」

 

 向こうが襲ってくるまで待つことはしない。

 走り回るブラックドッグのどこに隙を見たのかは知らないが、クイールは魔力を束ねた斬撃を飛ばす。

 一筋の光が切り裂いたのは獣の中心。

 どう考えても軽傷にはならないだろう一撃は、その腹を容易く裂く。

 中から飛び出してくる筈の臓腑はない。やはり黒い灰が撒き散らされるだけ。

 ……実体がないかのような相手だ。傷のように見えたものもすぐに修復され、元の形を取り戻してしまう。

 

「……まともに戦っても、馬鹿馬鹿しいように思えますが」

「ですねぇ。かといって一発で吹っ飛ばすのも……ちょっとこの場だと」

 

 出来るには出来るのか。

 すぐにそれをしないのは、攻撃範囲が広すぎるとか、そんな理由だろうか。

 別にやってほしい訳ではないが、このままだといつまで経っても有効打を与えられる気がしない。

 

「 ――――! 」

「おっと……!」

 

 元通りになったブラックドッグが本格的に動き出す前に、クイールは次の一撃を叩き込む。

 ドラゴンを模した兜から放つ魔力弾。

 あれの威力は知っている。生前受けたことがないほどの衝撃だった。

 正直、あれを三度、四度と受けるだけで意識が飛びそうなそれの直撃を受け、獣は爆散する。

 

 飛び散った灰は霧の如く。

 クイールが魔力放射でこちらに飛んでこないようにしているが、離れていてもその死の気配は伝わってくる。

 それは、ブラックドッグそのものの死ではない。

 霧の向こうから、再び完全な姿の獣は姿を現した。

 

「幻と戦っているみたいですね」

「……本来、ブラックドッグが有する能力ではありませんが……」

「まあ、こんな場所にいる魔族です。普通じゃない能力を持っていてもおかしくはないですけど」

 

 ……かつて自分の生きた国の成れの果てを“こんな場所”扱いされるのは複雑だが。

 いや、これだけ死が溢れた場所であれば、ブラックドッグもさぞ育つだろう。

 このまま戦い続ければ、当面クイールが負けることはない。

 かといって勝ち切ることも出来ず、膠着状態……魔族と体力比べをするなど馬鹿らしいし、それは避けなければならない状態なのだが……。

 

「まあいいです。こうして時間を稼いでいる間に、ユーリくんが魔法を完成させてくれれば」

「……」

 

 この危機の根本的な解決にはならない訳だが、クイールにとってはあくまでそれが最優先なのか。

 魔法構築は終盤に差し掛かっている。

 言ってしまえば、彼がやっているのは、中身を理解せずに設計図を模写しているだけのもの。

 それであればたった数時間で一つの魔法を完成させることも叶う。

 

 無論、危険というレベルではない愚行だが。

 わたくしが提示したこの術式に、一つ毒でも仕込んでおけば、彼の旅は終わる。

 そんなことはしない。しないが……微塵もそれを警戒していない彼はなんなのか。

 クイールと、このリッカなる少女が警戒心を育てないように誘導してきたのかとすら邪推できるほどに、この少年は甘い。

 

 ――生き残れまい。

 クイールはともかく、ユーリの方はこの、悪意を知らないような甘さを捨てない限り、先は明るくない。

 ……知ったことではないが。どうせこの土の試練とやらだけの関係だ。

 

「……であれば、あと少しの辛抱です。じき完成するでしょう」

「そうですか。ならやっぱり、早く終わらせないとですね。リッカちゃんが目を覚ました時に怖がらせちゃいけませんから!」

 

 ……怖がらせたら、か。

 人間が魔族への恐怖心を持っているのは、わたくしの時代から当たり前のものだった。

 この時代でもそれは変わらない――寧ろより魔族は絶対的なものになっているのだろうが、勇者に付き添う者としてはどうなのか。

 魔族に抗い、魔族と戦い続ける立場だというのに。

 

 どうもこの面々の歪さに、人間の世の未来を案じることを禁じ得ない。

 誰にも知られず呆れていれば、そうしている内にクイールは再び剣の柄に手を当てていた。

 

「という訳で、ここからの僕は全力マックスです!」

 

 ――なんて?

 

『ブレイブコード! スタンバイ!』

 

 浮き上がった術式は、やはり即座の解析など出来ようはずもない。

 だが、先程あの姿に変わったものとは明らかに異なる。

 威嚇のように振り抜いた剣から飛び出した、魔力で形作られた黄金のドラゴン。

 翼を羽ばたかせ、ブラックドッグに突っ込んでいくそれは攻撃ではない。特定のシーケンスを妨害されないための牽制だ。

 ブラックドッグを後退させたうえでクイールのもとまで戻っていったドラゴンは、クイールを包み込み、新たな外装を紡ぎ上げる。

 

『マックスアップ! Q-クエスター!』

 

「さて! ご退場願いましょう!」

「……」

 

 ……ここは敵地だ。こんな、絶対に倒すべきでもない魔族を相手に、あまり手札を見せ過ぎるな。

 辛うじて“戦装束”と言える先の姿はともかく、それは淑女としてどうなのか。

 そんな冷静な指摘をする前に、得体の知れない頭痛に見舞われる。

 クイールが変じたらしいその二メートルを超える黄金の巨体は魔法のコンセプトからして意味が分からず、早々に思考を放棄する。

 

 ……さて、そろそろユーリの魔法が完成する。

 これでリッカとやらが目覚めて、事が進めばいいのだが。




【ユーリ】
空気だけど本人的には大事なことやってる。

【リッカ】
またしても何も知らないリッカ(17+α)

【クイール】
主人公みたいなことやってるクイール(17+10)
手札を隠すタイプではないので手っ取り早い手段はガンガン使う。
出し惜しんで最悪な事態を呼んじゃったら死んでも死にきれないじゃないですか。

【ナディア】
勇者のぶっ飛んだ思考を理解出来る訳もない巻き込まれ常識人系お姫様。
わたくし何やってんだろうとは思ってる。

【Q-クエスター マックスブレイブリー】
術式を変えてフォームチェンジ!(62話)
出し惜しみをしない主義なクイールが灰わんこを撃退するために使ったQ-クエスターの派生フォーム。
短期決戦向きの形態であり、純粋な強化フォームに見えて基本フォームのマスターブレイブリーに比べ使い勝手が悪い。
全長二メートル越えの淑女らしさをかなぐり捨てたマッシブでマキシマムなパワフルボディ。ダリラガーン! ダゴズバーン!
別に次回で活躍する訳ではない。
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