凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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さようなら、幼年期

 

 

「……っ」

「リッカ……?」

 

 飛行を続けて暫く。

 ナディアのもとまで戻ろうとしている中で、僅かに、リッカの意識が“ふらついた”感覚があった。

 

「疲れた?」

「……大丈夫。行こう」

 

 言葉では否定していても、気疲れが分からない仲ではない。

 リッカは目が覚めてからずっと、いつもと変わらない様子だった。

 ナディアの魔法を解析する点も、こうして魔法を維持するという点でも、だ。

 この魔法は僕とリッカが万全な状態でこそ、本来の力を発揮できる。

 今の状態がリッカが眠っていた時と違う性能を発揮していることは明らかだった。

 しかし、その“ベスト”な状態を、リッカが続けていられるといえば、それも間違いだ。

 

 早々に無理をさせ過ぎたと反省する。

 ナディアのところに早く戻らないといけない。クイールと早く合流しないといけない。

 それでも、僕にとって優先はリッカなのだ。

 廃墟に混じって立つ、形を残した建物。その最上階の窓から中に降り立つ。

 先程まで集まっていた場所ほど高くはないが、室内である分、ブラックドッグのような身軽な魔族にも対応しやすいだろう。

 

「少し休もう、リッカ。少しだけ」

「……ごめん」

 

 部屋の中にゾンビなどがいないことを確認し、一度魔法を解く。

 なんらかの襲撃があってもすぐに対応できるよう、警戒はしておく必要はある。

 しかし、魔法を維持しているだけでも少なからずリッカの負担にはなるのだ。解除して休む時間はあった方がいい。

 

「……」

 

 隣に立ったリッカがふらついたのを支えて、ゆっくりと座らせる。

 舞った砂埃を防ぐため、口元をハンカチで覆うリッカの呼吸はやや荒い。

 ……暫くの間、魔族が来ないと良いのだが。

 ネシュアから出ることは出来ない。すぐにでもどこかの町に駆け込んで、暫くの間休養を取ることだって考えられる状況だというのに。

 今の状況を苦々しく思いつつも、魔除けの魔道具を起動する。

 

「――? ユーリ、そんなに長く休むわけじゃ……」

「念のため。ないより、ある方がいいでしょ?」

「……ユーリも、だいぶ臆病になった」

「ごめん」

「褒めてる。そうしてきたのは、私だから」

 

 リッカは、慎重で、臆病だ。

 夜に出来る限り気を抜くため、この魔除けを優先して用意するのはリッカの知恵だ。

 食事も満足できるように。常に万全でいられるように。そう考えるようになったのは、リッカがいたからだ。

 

 町から一歩出れば、人間の生の保障は出来ないこの世界。

 リッカの臆病さは過剰ではない。

 クイールのような特別な才もなく、きわめて平凡な僕では、勇者云々の前にそれでようやく旅が成り立つ。

 その結果として、僕はこうして生きている。リッカの臆病さは、僕とリッカ自身が生きるためのものなのだ。

 

 

 ――では、その生き方を、リッカはどこで学んだのか。

 

 

 あの小さな村で、そこまで強く危機意識が芽生えることがあっただろうか。

 外からやってくる行商人に、そこまで真剣に危険性を教えてくれる者がいただろうか。

 僕よりも、カルラよりも無鉄砲だったリッカが、そこまで考えを変えるほどの出来事などあっただろうか。

 

 ここまでの旅は、リッカが先導してくれたようなものだ。

 魔族なんてカルラしか知らなかったリッカが、他の魔族を極度に怖がるようになった理由。

 ナイトラクサの機構が見破った、リッカの特異性。

 あれは、あの魔族たちの根拠のない嫌がらせではない。そうであれば……リッカは、いつも通りの様子で否定していただろうから。

 

 リッカはナディアを何故知っていたのか。あのリッカが思い描いた“もしも”――否、“いつか”はなんなのか。

 どうしてリッカは――別人のように変わったのか。

 リッカを目覚めさせたナディアの魔法は、確かにここに至る一押しになったのだと思う。

 

「……」

 

 聞けるのは今しかなかった。

 クイールたちはいない。今この場にいるのは、僕とリッカだけだ。

 

 聞くのは今であるべきだと思った。

 これ以上目を瞑っていて何になるのか。僕のためにも、何より、リッカのためにもならない。

 

 怖い。怖いとも。

 今までなんて容易く全部壊れてしまう。それほどに、リッカが隠しているものは大きい。

 知らない方がずっと怖い……かどうかは分からない。聞いてみないと分からない。

 けれど、僕がリッカの幼馴染(ユーリ)であるならば、リッカの一番重い荷物を預かって、支えられる唯一の存在なのだ。

 

「……リッカ」

「何?」

「……、……聞きたいことがあるんだ。大事なこと」

 

 なんとなく、リッカも察したのだと思う。その目が、魔族を見るものとは違う恐怖に染まった。

 そんな様子を見て、やはり駄目だと、迷いで足が止まりそうになって。

 いいから進めと、心から信じられる誰かが強く背中を押す。

 

 慣れ切った、爽やかで、普通のそれよりも穏やかな、ミントの香り。

 ……いつだってそうだった。

 僕たち三人のうち、二人が下らない理由ですれ違ったら、残った一人がやれやれと二人の手を無理やり引いて繋ぎ止める。

 二人がぎくしゃくしている間にいるのは面倒くさいからさっさと仲直りしろと、素直じゃない物言いで罅を埋める。

 僕がそれをした時もあったし、リッカがそれをした時もあった。

 そして、一番その役割をこなしたのはカルラで――今回も、力を貸してくれた気がした。

 

「――――待って」

「待たない」

 

 気楽だった訳ではない。

 それでも、一歩踏み込んでしまえば、なんのことはなかった。

 

「ユーリ――っ」

「ごめん」

 

 踏み入ってはならない禁忌の領域。そんなの、分かっている。

 

「聞きたくないっ、言いたくないっ……!」

「それでも」

 

 立ち止まっていた場所はもう通り過ぎた。

 振り返ることもなければ、後戻りの選択肢もない。

 これ以上躊躇いなんて持っていられない。それが、リッカを苦しめているものならば。

 

「ユーリが知らなきゃいけないことじゃないっ!」

「それでも――ッ!」

 

 知らないとならない。これから先も、見て見ぬフリ、気付いていないフリなんて出来ない。

 僕に何か誇れるものがあるとすれば、それはリッカのために力を尽くせることだ。

 僕に勇者性があるならば、たったその一点だ。

 リッカが望んでいなくても。それを心から拒絶していようとも。

 リッカが知っている“いつか”“どこか”“だれか”の苦しみを、僕が誰より知っていなければならないのだ。

 

「――魔法でリッカを起こした時、知らない旅の光景が見えた」

「ッ――――!」

「夢の中で、知らない旅の光景が見えた」

「ぁ……」

「思い描いた“もしも”じゃない。それがリッカの思い出だって確信できるほど、あたたかかった」

 

 浮かべた絶望の表情を見て、話しながらも幾度も躊躇いが生まれる。

 もう戻れない。あの村で当たり前のように過ごしてきた僕とリッカの仲は、二度と戻ってくることがない。

 リッカを追い詰めたくはないけれど――ここで、止まっては駄目だ。

 踏み込んで、中途半端なところで終わるなどあってはならない。

 

「それがなくても……ずっと、リッカが僕の知らない何かで苦しんでいたのは、分かってた。それを知っていて、リッカに甘え続けるなんて、もう嫌だ」

「……っ……関係、ない。本当に、ユーリには、関係ないの……っ! だから、何も気にしなくていい!」

「リッカ……!」

「お願い、聞かないで、ユーリ。私は、大丈夫だから。いつも通りのままでいてっ――ユーリは……ユーリだけは!」

「リッカ!」

 

 ――“いつも通りのままで”。

 リッカは心の底から、それを求めていた。

 隠している何かを明かさなかったのは、リッカが“今まで”を壊したくなかったからで。

 明かしたくなかった、守り続けていたそこに、僕は無遠慮に踏み入った。

 

 いつからリッカがそれを隠していたのだとしても、今この瞬間、僕はリッカのそれを台無しにしたのだろう。

 このまま、今の話をなかったことにして、回れ右をしたのだとすれば。

 きっとリッカは今まで通りに接してくれる。それを、リッカ自身が望んでいたのだから。

 

「……ユーリ……お願い、ユーリ……」

「……ごめんリッカ。きっと、それはリッカがずっと隠しておくつもりのことだったんだと思う」

 

 けれど聞いても聞かなくても、その“いつも通り”が、僕が知らないだけの虚構に過ぎないものだったというならば。

 僕はその先へ行きたい。その先に、行かなければならない。

 

「リッカはここまでずっと……弱い僕を支えてくれた。これからも、そうだと思う。だけど――だから――僕にも、リッカを支えさせてよ」

 

 リッカの“いつか”に僕が触れることが出来た理由は、分からない。

 きっと、あの機会が今後もあるならば、いつか僕が自力で、リッカの秘密に辿り着く可能性だってあるかもしれない。

 だけどそれでは、リッカがその時を知らないことになる。

 一方的に知ってしまうのも、また嫌だ。それを隠し通すのは、嫌だった。

 僕はリッカに話してほしい。この時、どれだけリッカが苦しい思いをするのだとしても――この先のリッカが、少しだけ気楽になるならば。

 

「……」

「……」

 

 俯いて、カルラの杖を抱き締めるリッカ。

 僕もまた、その傍に座って、待つ。

 先程見たあの光景に、いてもたってもいられなかったというところはある。

 しかし、本当に試練の最中にすべき話だったかといえば……それは否だ。

 気が急いたかもしれない。そんな後悔もまた、少しだけあった。それでも、リッカを信じているから、こうして僕は待っている。

 

 そこから、何分経ったかは分からない。

 その選択が本当に正しかったのか、リッカに嫌われないかと気が気でなくて、時間など気にしていられなかった。

 リッカを知るために、必死になり過ぎたかもしれない。

 リッカがどう思うか、考えなしに過ぎたかもしれない。

 沈黙が続けば続くほどそんな考えが浮かんで、不安になる。

 

 ……やはり、間違いだっただろうか。そんなことさえ考えて。

 

「……もう……ユーリが、知っても……」

「え……?」

「ユーリが、知っても、何にもならない……こうなるってことは、最初から、私は間違えてたってことで……そ、それじゃあ、私、どうしてたら……」

 

 声に出している自覚もなさそうな、消え入るような呟き。

 その中で、リッカの呼吸が荒くなっていく。

 

「……いい……次は、もっと、正しく……!」

「ッ、リッカ!」

 

 言葉を紡ぎながらも、あろうことか杖を自身の首に突き立てようとしたリッカの手首を掴んで止める。

 

「リッカ……! 落ち着いてよ、リッカ!」

「離、して! ユーリ、私、は……っ!」

 

 僕の言葉は、それほどまでにリッカを追い詰めていた。

 早まろうとしたリッカは、本気だった。止めなければリッカは躊躇いなく、その後まで実行していた。

 今はリッカを落ち着かせないと――そう考え、言葉を選ぼうとして。

 

 

 

「自決はやめた方がいいよ、非効率だ。というかあんたはあと一回とて、それに耐えられないぞ」

 

 

 

 脳だけではない。体だけではない。

 存在全てが強く揺さぶられるような衝撃が僕を襲った。

 

 

 

「一つの世界を優先するのは本来タブーなんだが、急いで良かったよ。こんなクソ末端の田舎世界がここまで頭のおかしいことになってるなんて思わなかった」

 

 

 

 次の瞬間、立っていたのは、上も下もないような真っ白な空間。

 体は縛られているかのように自由が利かない。

 隣にいるリッカも、困惑を露わにしている。これはリッカもまた、想定外の何か。

 

 

 

「さて、不正アクセスの犯人は捕らえた。転生者の方は……まあ割とどうでもいいんだけど。なんだこれ? なんでこんなことになってんの?」

 

 

 

 前方に立っている、恐らくはこの声の主を……どう表現すれば良いのだろう。

 黒くて雑な輪郭と、丸い顔に目と口だけを描いたような人型のラクガキ。

 生き物とは到底思えない何かが、ぐにゃぐにゃと線を歪めながら喋っている。

 敵にしろ、そうでないにしろ、こちらに意識を向けているならば感じない筈のない感情が一切伝わってこない。

 その何者かが僕の理解の埒外にある存在だということは明らかだった。

 

 

 

「マジでイレギュラーも程々にしてくれよ……えぇっと、あんたの情報は……? 管理番号■■■■■■、登録名■■■■・■■■■……」

「っ……なに、あなた、だれ……?」

「いや忘れられてるし。まっずいなぁコレ……怒られるだろうなぁ……とりあえず、俺は『管理人』って呼んでくれればいい。この名前ならあんたも見当が付くだろ?」

「……管理、人……?」

 

 

 

 だが、一つだけ間違いないことは。

 

 ――この日、僕は、普通に生きていれば絶対に知ることはないだろう何かを、知ることになる。

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