凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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Hello! My World!!

 

 

 『管理人』と名乗ったその誰かを、リッカは知っていたのだと思う。

 困惑をより深めたリッカに対し、感慨も見せずに人型は宙に浮かぶ透明な板のようなものを操作し始める。

 そこに書かれた文字は、僕の知らないものだった。

 

「管理人、って……」

「掲示板使ってるならその辺は分かるよな? 第十二転生領域を管轄してる」

 

 掲示板……第十二、転生領域。

 どちらも聞き覚えのない単語で、やはりリッカは知っているものであるらしい。

 

「リッカ……知り合い、なの?」

「っ……少し、だけ。何の用……? なんで……なんでユーリまで、巻き込んだの?」

 

 僕の問いに肯定しつつ、リッカは人型に向けて強い視線を向ける。

 ――小さく、震えながら。

 魔族ではない。人間でもない……のだろうか、よくわからない。

 何もかもが判然としない『管理人』。あれが……リッカの秘密の、根源なのだろうか。

 

「巻き込んだってか、そっちが本命なんだよね。あんたを通した転生領域への不正アクセス犯を割り出した結果、その現地民に行き着いたんだよ。何故か」

 

 のそのそと、黒い輪郭がこちらに歩いてくる。

 敵意はない。危険かどうかは分からない。

 

「――っ、ユーリに触らないで!」

「いや怖。なんでそこまでズタボロになってるのにそんな感情持てるわけ……? まったく……なんで俺の管轄でこんなことが……」

 

 その人型に何を思えば良いのだろう。正体のはっきりしない相手だが、あれがもし、リッカの敵であるならば……。

 

「……あなたは、何者なの? リッカはあなたを知っているみたいだけど、僕はあなたを知らない」

「知らなくていい。……ってのは呼び出した身で不義理か。つっても、どこから説明したものか。俺たちの存在は、前提からしてあんたらの常識と違うし」

「ユーリ……! 耳を傾けないで! 私が……私が、話をするからっ」

「……過保護な転生者ってのはこれだから。■■■■・■■■■……じゃなくて、今はリッカって言うの?」

「その名前を呼ばないで!」

「“その”ってどっちの……? うわあやり辛い。過保護で情緒不安定って。どうしてこんなん放っておいたんだ俺……」

 

 『管理人』の言葉には、時折何を喋っているのか分からないくらいのノイズが走る。

 きっと、何度聞いても僕では理解できない言葉なのだろう。

 だが……やり取りからして、それはリッカを指した名前であるようだった。

 

「私は――」

「はい、ちょっと静かにしてようね。話進まないから。俺も暇じゃないの」

 

 次の瞬間、リッカの声が聞こえなくなる。

 リッカは変わらず、口を動かし続けている。この『管理人』が、何かをしたのか。

 

「リッカに……リッカに、何をしたの?」

「えぇ……そっちからも? あのね、俺は話を進めたい。あんたは話を聞きたい。で、あっちはその邪魔になるから少し静かにさせた。別に傷付けてる訳じゃない。いい?」

「……リッカに手は出さないで。そのうえで、話を聞かせて」

「ん、よろしい。手を出すつもりなんてないから安心しな。TSは趣味じゃない……これも分からないか。いや冗談、冗談だって。趣味に合ったら手を出してたとかじゃないから。ほれほれ、見てみなよこの体。物理的に無理でしょ」

 

 なんなのだろう……この雰囲気は。

 笑い声こそ聞こえないが、そのラクガキの口は弧を描き、満面の笑みを表している。

 子ども扱いされているというか、本気にされていないというか。

 揶揄っているのか知らないが、リッカには手を出させないと意思をぶつける。向こうは、笑みをより深めるだけだった。

 

「さて……ようやく本題入れる。えっと……あんたは……ユーリだったか。この名前で呼んでも?」

「……いい、けど」

「ありがとう。ではユーリ、あんたは何か、覚えがあるかい? あんたの不正アクセスについて」

「さっきから言ってる、その不正アクセスって……? どこに、なにを……?」

 

 この『管理人』が言うようなことをした記憶はない。

 そもそも、この存在や、この空間そのものがまったく分からないのだ。

 『管理人』の次元の話を理解できる域に、僕は立っていなかった。

 

「あー……無自覚系かぁ。本当、どうしよ。現地民にこういうこと、俺が教える機会とかどれくらいぶりだ?」

「――――! ――――!」

「黙っててもうるさいなあんた……分かってるよ。ユーリ、ここは転生領域って場所だ。たくさんある別の世界に繋がる、中枢の空間……理解が出来なきゃ、とりあえず“あんたらの世界の外”ってだけ、理解してくれればいい」

「世界の……外?」

「ああ。当たり前だが、普通はあんたたちが来るような場所じゃない。こっちにあんたたちが来ている間、時間は進まないから安心してくれ」

 

 この場所が、常識の通じない空間であることは、なんとなく分かっていた。

 だが、『管理人』の言葉はあまりに荒唐無稽だ。

 世界の外……と言われても、ピンと来ない。

 僕の想像できる中で、どこまでが“世界の中”で、どこからが“世界の外”なのだろう。

 そもそも、たくさんの世界っていうのは……。

 

「俺はこの空間で、たくさんの世界を管理する役目を持っている。んで、“おかしく”なった世界があったら、それとなく手助けしたり、場合によっては正したりする」

「……よく分からないけれど、僕たちの世界は、その“おかしく”なった世界って、こと?」

「そうそう、今回俺が出張ったのは、あんたがここにアクセスしたからなんだよ。この場所の存在すらも知らない筈のあんたが、どうやって?」

「どうやって、って言われても……」

 

 積み重なっていく疑問の中で、自分が理解できる場所を一つずつ解していく。

 元々知らなかったこの場所に無意識にアクセスした……やはり、考えにくいし、思い返してもそれらしいことなんて……。

 知らないものを知った、知らない光景を、見たというならば――

 

「……っ」

「おわっと……そうだ、それそれ。あんたは無意識に、自分の力を通して、繋がってはいけないところに繋がろうとしている」

 

 また、その瞬間、何かを見た気がした。

 ほんの一瞬。決して、状況を詳しく把握できるほどの長い時間ではない。

 けれど、それまでよりもはっきりと、何かを見た。

 

「なーるほど……よりによってあんたの特異性か……もっと性質悪いじゃんこれ。さて、どうするか……」

 

 『管理人』は一人、納得したように頷きながら、歩き始める。

 ふらふらと、不安になる歩調。まさしく、ラクガキがそのまま歩行を覚えたような、おぼつかなさ。

 頭をかっくり、かっくり揺らし、歩いていったのはリッカの前。

 膝を折ってしゃがんだ『管理人』は、リッカを見上げて問いかけた。

 

「なあ、あんたは知ってたわけ? 自分のIP勝手に使われてたって」

「ッ、知らない……もう、いいでしょ。解放して」

「そういうわけにもいかんのよな……どうあれ、現地民の不正アクセスは対応しないといけないし、あんたにも俺が説明しないといけないことがある。結構、あんたにとっては重大なことだよ」

 

 リッカは再度、声を出せるようになったようだった。

 二人が会話をする中で、僕は考える。

 ……『管理人』の反応からして、その不正アクセスが意味するところは、あの光景の幻視なのだろうか。

 それは、“世界の外”や転生領域なるこの場所に関わってしまうことなのか。

 

「つーか、あんたが知らないってのはマズいと思うんだわ。あんたが知らないうちに、あんたの存在の奥底にまでアクセスされていたってことだぞ」

「……」

「なんだかなぁ……ん? 何だ今の、にわかの強行アクセスか……? 仕事増やすなってのに……とりあえず、手短に伝えることは伝えないとな」

 

 僕の見るあの光景が、リッカの“いつか”だとしても、どうしてそれを僕が見ることが出来るのか。そこの答えが、今の僕にはない。

 『管理人』にやめろと言われても、これがなんなのか分からないし、そもそも――それが、“リッカを知るな”という意味であるのならば、僕はそれに答えられない。

 この空間、この“世界の外”の理屈が、僕の理解出来ないものならばそれでいい。

 だが、リッカのことは別だ。はいそうですかと、諦められるものではない。

 何をもってしても、僕はリッカを知りたい。知らないと――。

 

「掲示板覗いて、後はあの世界を観測して、ある程度把握した。あんたの存在も、あの世界も、相当おかしな状態になってる。それで、あんたが想定を超えた“無理”をしているってことも分かった。寄越すべき戦力を見誤ったのは俺のミスだ、悪かった」

「……まだ、終わったわけじゃない。まだ、次が……それでも駄目なら、その次がある」

「そこなんだよ。あんたのスレの連中にはもう言ってあるけどさ、俺はあんたに“やり直しの機会”なんて与えてない」

「――――え?」

 

 リッカと『管理人』の会話は、意図的な、僕に核心を知られないようにしている節を感じられた。

 僕が分かるのは、リッカの反応と、感情の動きくらい。

 今に限っては、それで十分だった。

 『管理人』の言葉は、僕の埒外にあるリッカの常識が、根底から揺るがすものだった。

 

「この領域であんたたちに特典を付与して送り出すのは俺の役目だ。リソースには限度があるし、考えなしに渡すことはしない。俺が管理している人数はそこそこ多い。はっきり言って……やり直しなんて大喰らいを渡す余裕、俺にはない」

「だ……な……じゃ、あ、なんで……私、は……」

「あの世界由来ってことになるな。そこの謎解きは俺の仕事じゃないが……ともかく、あんたに渡した特典はまた別だ。いつか、説明もした筈だぜ。それはお前にとって、記憶にすら残ってないほど昔のことなんだろうがな」

「――っ、リッカ!」

 

 呆然と、『管理人』を見下ろすリッカ。

 僕はその時、彼女の存在を辛うじて縫い留めていたものが、崩れ落ちてしまうかのような錯覚に陥った。

 

「始まった時のあんたは、こういうのもなんだが“当たり”だった。世界を幾つ変えて見せてくれるかってくらいの魂。今はもう正直見てられないわ。あの世界で、これまでやり直しは利いていたかもしれない。だけど、もう次は多分ない」

「――――」

「俺からしてみればあんた、なんで自我を保てているか不思議だよ。どんなブラックな領域でも、そこまで擦り切れているのを使っていたら上からのお咎めが怖い。そのくらい、あんたはもうボロボロだ」

 

 体は動かない。

 けれど、リッカを支えないといけない。このままにしていれば、リッカが壊れてしまう。

 助けないと――何を理解できずとも、それが本来、許されないことであっても。

 “世界の外”なんて知らない。僕が助けたいのは、支えたいのは、手を伸ばしたいのは、リッカだ。

 世界の隔たりなんて、そこにない筈だ。

 

「まあ、なんだ……放任主義が災いした。全面的に俺の責任だってのは認めるよ。あんたはこれ以上無理しなくていい。あんたが望むなら、ここで終わりにする」

「……」

「安心しな。あの世界はどうにかする。未練を持つ必要はない。全部終わらせて、俺も見届けるさ」

 

 いや――たとえあったとしても、関係ない。

 僕がそうしたいからそうする――どれだけ無法だろうと、理由なんてそれだけでいい。

 リッカの知識。見えた光景。ボロボロの魂。やり直し。

 何もかもが分からなくても、一つ一つの不明のかけらが糸のように結ばれて、奥へ奥へと伸びていく。

 

 ああ、そうだ。

 それで全てが丸く収まるのだとしても。リッカが諦めてしまうのだとしても。

 僕は、それでは納得できない。それは――リッカのための幸せには、繋がらないのだから。

 

「だから……って、おい、あんた……! それ駄目だってば! その先に行ってもあんたのためにならない! 絶対後悔するぞ!」

 

 ――制止の声が、聞こえた気がして、それはすぐに遠のいていく。

 先程よりもあっさりと、扉は開いた。

 その先には真実があった。知ってはいけないリッカがいた。知れば二度とリッカと元通りの仲に戻れないような光景があった。

 魂を、心の全てを埋め尽くして、なお溢れんばかりの絶望があった。

 

 存在を擦り減らしながら、なおも進むリッカがぶつかった、数えきれないほどの行き止まりがあった。

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