凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
いつのことだっただろう。
リッカと、カルラと、僕。当たり前の三人でしていた……というより、カルラとリッカの話を隣で聞かされていた時のことを思い出す。
「二人とも。アルラウネってどうやって増えるかしってますか?」
「ねえカルラ、それ、僕を呼んでまでする話?」
「よくあるのはアレだよな、こう、人間を捕まえて苗床にしてってやつ」
「ねえリッカ、それ、どこの世界で“よくある”の?」
「正解ですリッカ! いや、まあ手段にも色々あるんですけどね? 一番わたしに相応しいのはそれだと思うんですよ」
「これ本当に僕が必要な話? ねえ?」
「必要ですよ。わたし女の子ですもん。ユーリから種をもらって、リッカのおなかを借りて産んでもらうのが――リッカ!? なんで逃げるんですか!? ユーリ、追いますよ!」
「一から十までカルラにしか責任がないと思うんだけど」
こんな時に、思い出すようなことではない筈の、なんてことのない時間だったというのに。
真っ黒な砂嵐の向こう。
無限に続くと錯覚するノイズを掻き分けて、その先に進んで。
そこでようやく、僕は――リッカがそれを隠し続けていた理由を知った。
「ま、て……待てって、ば……! おまえ、おかしく、なって、るって……!」
「い……づ、ッ……! ま、待って、いた、痛い、から……っ!」
「ちが、違う、こんなの……おかしい、だろ……」
「ユーリ、起きてよ……いつもみたいに、とめてよ……」
「――なんで、だよ、どうして……」
「こんな、の……やだよ……か、るら……ぁ……」
はじめ、その光景は、“もしも”とすら思わなかった。
あまりにも信じがたい悪趣味な作り物で、だからこそ僕は目を背けた。
それでも……そこにある、リッカの実感は、ほんの少しも薄れることはない。
いつまで経っても、リッカはその“いつか”を否定してくれない。
虚空を見上げ、時折呻き声を上げるばかりになったリッカが、そこにいた。
それをはじめリッカだとは、認めたくなかった。それほどまでに、変わり果てていた。
何処ともしれない暗がり。
絡み合った蔦のベッドに横たわるリッカと、それを見下ろす、もう一人。
後悔と罪悪感に歪み、それでいて、多幸感に満ちた、恍惚の表情の幼馴染がいた。
――それは、果たしていつの出来事だったかは分からない。リッカすらも、正確には覚えていない。
しかし、限りなく“最初”に近いところで、リッカはどんな結末よりも迎えてはいけない、そんな終わりを迎えた。
立ち上がる意思が、壊れたわけではない。
それでも……その不屈は、リッカの大きな支柱は、そこで崩れてしまった。
「……また、一年前……けど、どうしろって……カルラも、信じちゃ駄目なのか……? ……無理だろ……無理、だよ、そんなの……っ」
そこからリッカには、正しい道が見えなくなった。
信じられるものと、そうでないものの違いが分からなくなり。
削れていく、擦り減っていく自分が怖くなり。
そして、魔族というものが怖くなった。
聖都にあふれ出た、狂気に満ちる触手の群れ。
万全を喫した戦いでそれに手も足も出ず、少女は容易くそれに呑み込まれた。
その触手の魔族に意思がある訳ではない。
生物として、人を捕らえ繁殖しようという気すらない。
ローパーとしての在り方を無機質のままに再生し、人体が許容できるとは思えないほど、夥しい量の触手は、抵抗すら許さず少女の秘所を貫いた。
激痛を訴える絶叫も、助けを請う悲鳴も、蠢く触手の海の中ではそれらが軋む音にかき消される。
すぐに泣き叫ぶことすらも出来なくなり、生きることと触手の子をお腹の中で育てることだけを許される――強制される存在になった。
呻き声も出さなくなって、異形の子どもたちが内から溢れるなかで、少しずつ衰弱していき、目を閉じないまま事切れた。
悉くの危険から逃げ、徹底的に安全な手段を取る旅路の中で辿り着いた死の国。
強くなることからも逃げ、奇跡に助けられて辿り着いたそこで待っていたのは、“つまらない”という一言だった。
面白みがないと一蹴され、試練という名目で、練度の足りない自分たちに嗾けられた死の群れ。
太刀打ちなど出来る筈もなかった。抵抗にすらならなかった。
毛ほどの力をすぐに取り上げてから思い立ったその男は、その妙案を実行した。
ここまで連れ添った少女の危機ならば、勇者も少しは面白みを発揮するだろうと。
――結論から言えば、男の思惑通りとはならなかった。
生殖機能すらない筈の死に群がられる少女は、勇者が目覚めるより前に恐怖が振り切れて反応を返さなくなってしまった。
これならば先代の方が九十九倍面白かったと、男はひどく落胆した。
聖都の試練で、力を尽くし、敗北した。
それでも騎士は勇者たちの命運を奪うことなく、再挑戦を許した。
そこから、かれらの成長を許さなかったのは、また別の要因。
淫魔たちが飛び交う中で、秩序を重んじる筈のエルフたちによって、そこまでの全てを否定され、殺された。
やがて恐怖だけに支配され、始まりの地点でさえ、正しい動きを出来なくなって。
「ま、って……おねがい、とらないで、わた、しから、ユーリまで――とらないで……」
「良いじゃない、どうせ希望なんてない旅なんだし。ほら、ほら、どうかしら勇者、気持ちいいわよね? あの女より、勇者の運命より、私に溺れちゃいなさいよ――その方が、ずっと幸せだから」
「……」
「……? まだいたの? ま、いいじゃない。結局この子も、魔族に身を捧げちゃうような“下賤な勇者”なんだから。……ああもう泣かないの。わかったわよ、ちょっとだけ貸してあげるってば」
狂った歯車は、満足に動くことすらなくなった。
何をすればいいのか。自分がどうあればいいのか。
全てが分からなくなった。
正常な判断力を失って、迷走を始めて、些細なことでさえ、何度も何度も何度も何度も躓いた。
捨てていた道に可能性を見出して、隻眼の巨人に捕えられた。
残された道に縋って、大翼のドラゴンに蹂躙された。
運に見放されて、それまで出会うことさえなかった海魔に襲われた。
魔族のちょっとした思い付きで、手足を切られて人形たちの仲間に加えられた。
誰かの欲に振り回されて、迷宮に巣食う罠と化した魔族の大口に叩き落とされた。
騙されて踏み込んだ魔族の巣で、好き勝手にその体を貪られた。
致命的な不運から誰かを庇って、長大な体を持った魔族に丸呑みにされた。
無数の虫の前になすすべもなく、その日の夜にはかれらの卵を預かる機能だけを求められる存在となった。
使い捨てられたという幽霊屋敷の中で、死ぬまで玩具として扱われた。
オークに大敗を喫して、子を孕むという役割を見出された。
スライムの苗床として利用されながら溺死した。
ゴブリンの群れに何処ぞへと連れ去られ慰み者になった。
そして、果たして何度目か。聖都に蠢く触手の中で、少女は“自分”が無くなることが怖くなった。
これで狂い切るのは嫌だ。これで壊れ切るのは嫌だ。諦めて、何もかもが無駄になるのが嫌だ。
縋りつくように、少女は二つを握り締めた。
「なにかを信じることは、ユーリがやってくれる。私には、向いてない」
「邪魔するやつは、全部巻き込む。ら、ラフィーナ、だって……もう、信じるもんか」
「余計な誰かを助けようなんて、思っちゃ駄目だ。私は、勇者なんかじゃない。そんなこと考えられるほど、強くないんだ」
「三人もいるからいけないんだ。私と、ユーリと、カルラで、一つになればいい。……そうだ、それでいい」
「確実なルートを組み立てないと……なのに……っ! 思い出せ、思い出してよ……! ずっと前は、もっと先まで行ってた筈なのに……っ!」
「いつか、あった筈なんだってば……! なんで、なんで思い出せないんだよぉ……!」
「……本当に、あったんだっけ……? そんな順調なとき、なんて……なかったのかな」
「……せめて……おぼえているところまでは。そこから先は、わからないけど」
「――必ず、ハッピーエンドまで。魔王よりも、ずっと先まで」
過去を忘れず、先に進み続けるための“復讐”を。
未来を諦めず、先に進み続けるための“ハッピーエンド”を。
未来だけでは動力にならないから。過去だけでは辿り着く場所が見えず、迷子になるから。
そのために、可能な限り切り捨てた。
“勇者の仲間”らしく、知らない何かを信じることをやめた。過去の全てを未来への糧にした。
そこから先の敗北も、全てを“いつか”のための部品にした。
――それでも。
考え付いた手段を完成させるには、時間が足りなくて。
やってきた次の“一年後”を蔑ろにする選択肢もまた、彼女にはなかった。
それを紡ぐノウハウも利用して、ここで終わるならば構わないと全力で挑んで、また倒れた。
どこか一つでも捨てればいいなんて考えはなかった。“その勇者”を見捨てるということに他ならないから。
だから毎回に魂を燃やして、敗北する度に絶望と不快感に溺れながら、少しずつそれを組み上げて。
完成する前に、ゴールに辿り着きたい。その方がいいと、心のどこかで願いながら、あらゆる道を模索し続けて。
ついぞ、その魔法が完成するまで、長い旅路の終わりは訪れなかった。
そこまで来たとき、もう彼女はボロボロで、何が希望なのかも分からなくなっていたけれど。
これまでの全てを“準備期間”と受け入れて、本命に至ったのだと、自分に喝を入れた。
復讐と、ハッピーエンドの歯車を同時に回し始めた。
どこまで失ったかは覚えていなくて、同じ目には遭わせられないから、自分に出来る手段で魔族たちの尊厳を叩き落とそう。
そして貪った力を使って、どこまでも突き進もう。魔族の力で、魔族に抗おう。
今度こそ……今度こそ、ハッピーエンドに辿り着こう。
――どちらを失っても先に進めないから、この二つだけをリッカは突き詰めた。
はるか昔のような目で、もう魔族を見ることは出来ない。
常に付きまとう恐怖に押し潰されそうになりながらも、復讐心で誤魔化しながら、立ち続けた。
自分に似た誰か。自分と同じ境遇の誰か。かつての自分であれば同じように笑い合っていたかもしれない誰か。
同じく例外にまみれた、はみ出し者である誰か。狂っている自覚のある自分の行為を、煽り立てて正当化してくれる誰か。
しょうもないと眼中にさえ入れていなかった、異郷とのコミュニティにさえ縋り付いて、幾つもの杖を借りることで、ようやく足が動く。
“それらしく”を徹底しようとした。文字で交流する分には、感情なんて表れないから。
受け入れられるために、笑顔も分からなくなった頭の中で、“面白さ”を考え尽くした。
多くの見えない手に背中を押されて、崩れ落ちそうな足を動かして。
立ち塞がった障害に、完成した魔法は牙を剥いた。
捕えた魔族を利用し尽くして、満たされる筈のない心を無理やり満ち足りたと錯覚させた。
まだ目覚めてはいけない勇者の手を引きながら、最初の試練に辿り着いた。
この時点で、勇者が覚醒していてはいけない。勇気に反応する化け物を、切り抜ける手段は見つからなかった。
道中の苦難を受け入れて、利用できるもの全てを利用して、難敵を退け試練をも突破する一手を、死に物狂いで掴み取った。
味わってきた苦痛は、なにも自分が受けるものだけではない。
敗北した勇者の末路一つ一つが、その度に彼女の心を引き裂いてきた。
失うものが無くなった、なんてことは一度もない。
間違えるたびに、大切なものを失って、大切なものはどんどん大きくなっていった。
思い描いたハッピーエンドは、勇者を中心にしたもので、彼女は動機も存在意義もとっくに他者に依存していた。
だから離れることに、離れる可能性に恐怖し、それが友好的な存在であっても信じることなど出来なくなっていた。
ここに辿り着くことで、自身に起きている異常性を忌避した勇者は、自身を見捨てるのではないか。
そう思い至ってしまい、これまで、ただの一度として選択していなかった“その周”の諦めを選びかけたのも、勇者にひどく依存していたから。
――それが、リッカの深淵。“この一年間”、隠し続けていたリッカの真実。
敗北して、絶望する度にやり直して、
何百回という再挑戦の繰り返し。何百年という終わらない旅路。
それでも、諦めたくないからと手を彷徨わせて歩むリッカを、僕はどこまで知っていただろう。
……何も。
何も、知らなかった。
僕が知っていた“リッカの何もかも”は、彼女にとって一パーセントにも満たなかった。