凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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リッカのための勇者

 

 

 クイールのもとに駆け寄る。

 彼女が受け止めたナディアの肌に浮き上がっていた術式は、末端から解れて消えていく。

 残るのは、無数に縫われた跡のある青い肌のみ。

 暫く受けた衝撃に呻いていたものの、意識は失わなかったようで、ゆっくりと目蓋を開いた。

 

「ぅ……いっ、つつ……」

「ナディアちゃん、大丈夫ですか!?」

「……だ、大丈夫な、ものですか……痛いのは嫌だと言ったのに……」

「ご、ごめん……!」

 

 完全に中への衝撃を殺し切れれば良かったのだが、そこまで器用には出来なかった。

 大きく頭を揺らしたらしく、額を押さえながらナディアは、こちらに苦笑を向けてくる。

 

「――許します。この時代の、勇者の何たるかは、特等席で見せていただきましたわ……――」

「おっと……? やっぱりちょっと刺激が強すぎたみたいですね」

 

 言い切って、ナディアはすぐに目を閉じた。

 眠った、ようだ。寝息を立てる必要のない彼女は、見た目だけでは判別がつかない。

 だが、ナディアとのつながりから“生きている”と伝わってくる。また程なくして、目を覚ますだろう。

 

「いつの間にかゾンビも何処へやら。これは、やったってことで良いんですかね」

 

 クイールの言う通り、既に周囲に死の群れの気配はない。

 相当の数を倒したが全てでないことは明らかだ。まだ攻撃の指示を受けているのなら、襲来が止む筈がない。

 しかし、辺りを見渡しても動くゾンビは一人もいない。

 僕たちと、舞台の上のオドマオズマ。それから、レッドキャップとリャナンシー。

 

「……すごい。勇者だ。アッシュを一撃でぶっ倒した……あいつ勇者だぞ、シェリー!」

「そーねえ。ベルも来れば良かったのに」

 

 ……彼女たち、結局何しに来ていたのだろう。

 ブラックドッグは彼女たちの仲間だったように見えたが、倒したことに怒りも悲しみもない。

 レッドキャップからは今までとは違い、なにやら顔を覆う兜の向こうからキラキラした目を向けられている……気がする。

 いや……うん。気にするのはやめよう。これ以上何かしてくる様子も感じられないし。

 気持ちを切り替え、オドマオズマを見上げる。それを待っていたかのように、彼は手を打ち始めた。

 

「――見事。壊し切れると期待はしていたが、ナディアを助けてみせるとは。土壇場で目覚めた新たな力で活路を拓く……それができる勇者は実のところごく少ない。お約束とは、奇跡とは、現実には見られないものだ。だが……」

 

 批評しつつ、拍手を止めて右腕を掲げる。

 その手首に巻き付いていた、魔力で構成された光の鎖が砕け散った。

 

「認めよう、勇者ユーリ! キミたちは奇跡を起こし、数多の死を否定した! 『世界門』を司る土の錠は砕け、キミの勇者の証は我が輝きを灯した! 土の試練の完了を、ここに宣言する!」

 

 芝居がかった手振りを交え、反響する声を張って、彼は告げる。

 彼には喜びがあった。期待通りか、或いは期待以上か。どうでもいいが、彼は僕たちの結果に納得したらしい。

 夜まであと数刻とない夕暮れ。早朝から始まった長い試練は、ようやく終わりを迎えた。

 

「今後も勇者らしい活躍を期待しよう。キミたちは実に面白い。さぞこれからも人々のため、成長してくれることだろう」

 

 満足したように頷くオドマオズマ。

 その言葉には確信があったが……改めて、正しておかなければなるまい。

 

「……もう一度言うけど、期待なんて知らない。それに――」

 

 人々のため。明るい世界のため。そういった“勇者らしさ”は、僕にはない。

 僕の在り方は、たった一つだ。

 

「勇者らしい勇者になるのは、クイールに任せる。僕は、リッカのための勇者だ」

「――ユーリ」

「ユーリくん……うん、うん! 役割分担ですね。どっちがどっちの代わりにもなれない二人の勇者、良いじゃないですか!」

 

 ……そういう解釈をされるとも、思ってはいなかったが。

 この決断にクイールが僕を見限っても、それでいいと思っていた。

 結局のところ、これが最も僕らしい選択。

 リッカの勇者として、リッカのために、ハッピーエンドに辿り着く。それが、僕の勇気だ。

 

「……ッハハハハハハハ! 個人のための勇者、結構! それもありだ! たった一人に向けた勇気でナディアを救ったなら、その正当性は私が保障しよう!」

 

 オドマオズマはひとしきり笑った後、僅かに笑みに呆れを含ませた表情で、僕たちに向き直る。

 

「――キミたちにもう一つ、朗報がある。勇者クイール、キミも含めてね」

「朗報……?」

「僕もですか?」

「ああ。『狂宴』のアリスアドラからの言伝だ。合格、だとさ」

「――――」

 

 それは、つまり。

 

「だが、希望とは脆いものだ。生物である以上、絶望の方が強く残りやすい。また天秤が逆転しないように気を付けたまえ」

「――リッカ……!」

「……」

 

 ――リッカの希望を、絶望よりも大きく。

 ほんの僅かな差かもしれない。しかし、リッカは“今回”に賭けてくれた。

 リッカは諦めずに戻ってきてくれた。

 結果として、それは僕たちに立ちはだかった火の錠を砕いたのだ。

 

「あー、そういうこと……僕、力になれなかった感じですね。すみません、二人とも」

「ううん。自分らしくを貫いたから、リッカを助けられた。クイールのおかげだよ」

「そう、ですかね? なら良かったんですけど……」

 

 勇者らしく、自分らしく。それを貫き通すクイールの強さは、後押しになった。

 僕とクイールの“自分らしさ”は違う。そして、それが勇者としての在り方の差だ。

 リッカを取り戻せたこと、自分の道を定められたこと、どちらにも、クイールの言葉は繋がってきている。

 これで三つ。どんな勇者も成し遂げなかった四つの試練は、あと一つ。

 

「水、土、そして火。三つの試練が終わり、残るは風。ムルゼはこの大陸の北端の霊峰だ」

「……世界で一番高い山、でしたっけ。よく知らないですけど」

「聖都、そしてこのネシュア。二つの舞台は現在であれ過去であれ、文明があった。しかしあの場所は違う。いや、ある意味では一つの文明の形ではあるが……自然そのものもまた、キミたちに牙を剥くだろう」

 

 平原に出れば、遥か北に薄らと見える山がある。

 それがムルゼ霊山。この場所について詳しく知る人間は、およそ皆無と言っていい。

 長らく人がまともに踏み入っていないというそこに、四天王最後の一人はいるのだろう。

 

「私が知る限り、風の試練を突破した者はいない。キミたちが最初の例となればいいのだが」

「最初で最後の例にしますよ。そのまま魔王まで辿り着いて、世界を変えて見せます」

「その時は、私も本気で舞台に上がることになるだろう。いや、楽しみだ。どのような趣向を用意しようか」

 

 そして、試練を全て突破して終わりではない。

 さらに先――魔王をも倒した先に、リッカが何百年も求め続けたハッピーエンドがある。

 必ず、僕たちはそこに辿り着く。

 そのためにも、最後の試練も突破してみせる。如何に相手が、強大な魔族だったとしても。

 

「では……話は終わりだ。行きたまえ、勇者たち。夜のネシュアに残っていても得などあるまい。ゴーストどもが湧き出す前に外に出ることを勧めるよ」

「……ナディアは――」

「勝ち取ったのはキミたちだ。あの魔法もない、無力なアンデッドの姫が惜しいというなら、好きにするといい」

 

 もう彼に、ナディアへの――妹への興味はないようだった。

 アンデッドとして、蘇らせたのは彼である筈だ。しかし、その命を再度取り上げることはしない。

 オドマオズマにとって彼女は、舞台装置でしかなかったのだから。

 

「――行きましょう、二人とも。夜が来る前に」

「うん――」

「……」

 

 ナディアを抱えたまま、クイールは先を歩き始める。

 その背を追って、オドマオズマの嬉しくない見送り――あと、ずっといたらしい妖精二人も――を受けながら、ネシュアの外へと向かう。

 魔法はまだ解除しない。どこにゾンビが残っているかも分からないし、オドマオズマの言う通り、夜になればゴーストも現れるだろう。

 外に出て、ネシュアから十分に離れたうえで野宿の準備を整えるまでは、維持しておいた方がいい。

 

「……やりましたね、二人とも」

「うん」

「……」

 

 まるで反復のような、同じ返答。

 油断はできない。できないが――少しずつ、達成感を自覚する。

 長く、大切な一日だった。試練の中で、リッカに触れ、その真実を知った。

 クイールは、そのことを知らない。彼女が言っているのは、二つの試練を突破したことと、僕が勇者としての力を理解したことだろう。

 色々なことがありすぎた。全部を整理していたら、何日掛かるかも分からない。

 ……まあ、十分に時間はあるか。

 ムルゼ霊山は遠い。長い旅路になるだろうから。

 

「ひとまず今日は外に出て、ゆっくり休むとして……すぐムルゼ霊山に向かいますか?」

 

 火の試練は、僕とクイールに対して同時に発令されていた。

 それが終わった今、二人とも、残るは風の試練。

 二人の勇者がいるという例外ではあるが、それが認められた以上は共に最後の試練に挑むというのが自然な帰結。僕も、それには異論はない。

 

 クイールは信じられる。より信頼を深く理解できるようになった今でも、なお。

 強いて言えば、リッカはクイールに心を開いているわけではないが、リッカは“他者への信頼”は僕に任せてくれると言っていた。

 クイールは頼もしい……頼もし過ぎる“先輩”だ。

 今後も共に戦ってくれるならば、これほど心強い味方もいない。

 ……とはいえ、彼女はこのまま真っ直ぐムルゼ霊山へ、という話にもなるまい。

 

「クイール、聖都に行かなくていいの? 生きていたって、報告しに」

 

 ぴたりとクイールは足を止めて、すぐにまた歩き出す。

 十年間行方不明……死んだと思われていたクイールは戻ってきてからずっと、僕たちの事情に付き合ってくれた。

 本来ならば、すぐにでも聖都に戻って、大切な相手に生存を伝えるべきだろうに。

 

「……そうですよね。うん、向き合わなきゃ」

 

 イリスティーラはクイールを、口ではどうあれ、強く想っていた。

 生きていたと知れば、どう思うだろう。……いや、間違いなく、絶対に、確信をもって、激怒するだろうと言えるが……それでも、朗報ではある筈だ。

 それに、ホープのこともある。

 結局、彼女たちを知っていると、クイールと話すことはなかったが、あの二人を知っていればこそ、クイールは聖都に戻るべきだと思えた。

 

「えっと、ユーリくん、リッカちゃん。……付いてきてくれません? 聖都まで。戻るのは当然なんですけど……その、ブチギレられそうで」

「……ああ、うん。そうだろうね」

「た、多分死ぬほど怒るだろうから……できればとりなしてほしいというか。あ、相手は魔族なので、難しいと思うんですけどっ!」

 

 ここまで緊張するクイールは珍しいかもしれない。

 見えないものの、どんな表情をしているかなんとなく想像がつく。

 

「いいかな、リッカ」

「……ユーリが、それでいいなら」

 

 ここまで手を貸してくれた。

 その返礼にもならないだろうが、共に聖都に戻るくらいなんのことではない。

 少しだけの遠回り。しかし、最終目標を見据えれば近道になる筈だ。

 

「付き合うよ、クイール。いや、止められるかは分からないけど……」

「ありがとうございますっ! よ、よし、初対面の相手がいるなら少しは遠慮もしてくれる筈……!」

 

 クイールの思い描いている相手があの二人であるとも限らないのだが、そうだとしたら目論見通りにはならない気がした。

 もしかすると、クイールにとっては試練よりも強敵となるかもしれないという予感を覚えつつ、次の目的地を決定する。

 二度目の聖都イグディラ。

 既に『勇蝕写本』こそいないが、あそこもまた、リッカにとっては苦しい記憶の多くある場所。

 決して安全なだけの場所ではない。何かあれば、僕がリッカを守らなければ。

 

「……あ」

「どうしたの?」

「……聖都って祝福がバリバリに掛かった街なわけですけど……ナディアちゃん、入れるんですかね?」

「……」

「……」

 

 リッカの道程を知ったがゆえの、新たな決意。

 それ以前に立ち塞がった、そもそも今の状態で聖都に入れるかという前提に頭を悩ませながら、僕たちは死の国を後にするのだった。




次回から新章となります。
想定している進行度としてはここまでで2クールおおむね全体の半分くらいとなっております。
「リッカと向き合うユーリ」をテーマとしていたため、ナイトラクサ編から掲示板回の少なく暗い展開が続いていましたが、新章では再度掲示板回を増やしつつ進行していきます。
本筋においてもあんな展開、こんな展開を予定しておりますので、ご期待いただければ。

感想や評価についても変わらず執筆の力になっております。
なにとぞ、今後ともよろしくお願いします。

また、新章の前に三話ほどに分けて、ここまでのまとめとして以下のデータ表をUPします。
・各フォーム紹介(U-リッカ、Q-クエスター、D-RIKKA)
・人物紹介(レギュラー、準レギュラー)
・人物紹介(今週の怪人魔族一覧)

初出の情報も含めた内容となっておりますので、お楽しみいただければと思います。
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