とある朝。
ちゅんちゅんと小鳥がさえずり、穏やかな一日が始まるだろうことを予感させるそんな時、事件は起こった。
「大変ですシップ〜〜〜!!」
ベッドの上で寝そべる盟友ゴルシに、ジャスタウェイは悲鳴ともとれるほどの大声で声をかけつつ、体を揺らす。
「うぅ〜ん…じゃすぅ?ゴルシちゃんはまだねみぃんだが…」
「ご迷惑をおかけするのは申し訳ありません!!ですがそのくらいの一大事なんです〜〜!!」
若干の涙声になりつつあるジャスタウェイの声色にゴルシはただならぬものを感じのそのそと起き上がる。
「んで〜〜…どーしたんだよ〜〜?」
「無いんです!!」
要領を得ない言葉に、ゴルシは訊ねる。
「無いって…何がよ?」
そして、返ってきた答えは……。
「魚拓が!!無いんです〜〜!!」
「あん?魚拓ぅ?そんなモン、幾つも持ってんだろ?」
「シップとはじめて釣り上げた魚のヤツなんですぅ〜〜!!」
その言葉に、ゴルシはガラにも無くハッとした様子になる。
「なんだオメー、まぁだ大事にしてたんか〜?」
「当たり前じゃあ無いですか!!だってあの魚拓には……」
そう言うなり、しょぼくれた様子になるジャスタウェイ。
それほど大切な思い出が詰まっていたのだろう。
…………………
幼い頃のジャスタウェイは、テレビを見て釣りに興味を持ち、当時は100均の釣り竿なんて無かったので適当にその辺の棒っ切れにたこ糸を結んで、その先には木を削って作った釣り針を使用。
金属製の釣針は危ないからと買ってもらえなかったが、ジャスタウェイなりに工夫して実家の近場の川にて釣りに臨んだ。
が…一向に釣れる気配は無い。
そんな時、背後から声をかけられたのだ。
「オウオメー、何してんだ〜?」
振り向いてみると、そこには見たことのない同年代と思しきウマ娘が。
「なにって…さかなつり?」
尤も、今のところボウズだが。
「ど〜れどれ〜?って、釣り餌つけてねーじゃん。コレじゃー釣れるモンも釣れねーよ」
かしてみ、と言われおずおずと気恥ずかしそうに釣竿を差し出す幼いジャスタウェイ。
同じくらいの年齢ながら、慣れた手つきで釣り餌をつけるウマ娘に驚き、そちらにも興味を持つことになる。
ほらよっ、と渡された釣り針には、なにやらうごうごとした虫らしき生物が。
気持ち悪くてこれ以上見たく無かったのもあり、先ほどと同じようにちゃぽん、と川に針を入れると、五分とせず魚が釣れた。
ぴちぴちとはねる名も知らぬ魚は正直小ぶりで拍子抜けしたが。
それでも初めての魚釣りへの興奮と、釣れたことへの達成感は大きかった。
「なぁ、知ってっか?釣り人はなぁ〜、釣った時のことを思い出すために魚拓ってのをとるんだぜ〜?」
ニコニコとそう言うウマ娘は、いつの間にやら用意していた墨汁と半紙を差し出す。
比較的平らな、大きい石の上で釣った魚を墨汁につけ、半紙の上に乗せる。
にひひと笑うウマ娘に、ジャスタウェイはひどく感謝すると同時に、いい友だちになれそうだと直感した。
…………………………
それから二人は学園内の思い当たるすべての場所に行った。
寮の部屋に始まり、カバンの中、教室、トレーナー室、ジャスタウェイのお散歩コースに、お気に入りの見守りスポットまで様々に。
「うぅ…シップぅ…」
「しゃーねーなぁ〜、ゴルシちゃんのヤツをコピーしてやるよ」
「え?いやでも…」
「遠慮すんなって、そんじゃーコピー機借りて来るわ」
ゴルシが寮の部屋から出ようとするとカタン、と硬質で軽いものが落ちる音が聞こえた。
「うん?」
「おや?」
振り返ってみるとジャスタウェイのベッドの方から聞こえて来たようだ。
「おかしいですねぇ〜、確かこの辺は調べ物とは関係ないはずですが…」
「んぉ?脇に落ちてるそれ…」
「…あっ」
それは、写真入れに入ったあの魚拓であった。
恐らくだが、何かの拍子にベッドとクッションの間に挟まっていたのが、徐々に緩んでついさっき落ちたらしい。
「そう言えば、ベッドのところに置いとく場所を変えたんでしたっけ…」
「ったく…大切ならもっとちゃんとしたとこにしまっとけよなぁ〜」
そういうゴルシもなにやらまんざらでも無さそうだ。
カチャカチャと、写真入れの後ろを開けジャスタウェイ。
「いやぁ〜、良かった〜コレも無事です〜〜」
そして魚拓の裏からピラリ、と何かを取り出す。
「あん?何だよそれ?」
「なんだって、推しの芦毛ちゃんバンドの激レアチケットに決まって…あっ」
しまったという表情のジャスタウェイ。
意味ありげに笑みを深めるゴルシ。
「あっ、いや…これは違うんですよ?」
必死に言い訳をしようとするが…。
笑顔で近づいて来たゴルシにチケットをパッと奪われ…。
ビリィッ…!!
「あああああ〜〜〜〜!!」
その悲鳴は、今朝のそれと大差無い大きさだったそうな。
ヤキモチゴルシちゃん。
アリだと思います。