イバラの街の英雄達   作:キョウさん。

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(´・ω・`)おえかきたのしい


二章ニ話:ジャンク・レイヤード

 

 

やんごとなき身分にいる者は、良きものを食べるべき、とは言う。

 

金は持っても腐るもの、ある程度回していかねばならなく、そしてそれは持つ者の義務であると。年老いた代表取締役なんか、食に使う身分としてちょうどいいものだろう……リチャード・ウォンという男は、おおむねそれに抵抗のない者だった。

 

「まあ座りたまえ、マシカの真四角かりんとうが手に入ったんだ、最近品薄で苦労したよ」

「ありがとうございます、いただいても?」

「いいともいいとも……あ、あふ、食べにくいけどおいしいねえ……」

「あっ、食べにくいけどあまくておいしい……」

 

密室、社内、社長室。

男二人で茶をしばく。

 

「……まあ本題に入ろうか、健作君」

「ええ、それで、僕をお呼びした理由って…」

「そうだねえ……要件はふたつあるが、まず話しておくべきことがあると思ってね」

 

 

「……ひとつは不動 恒正 君のことだ。

 彼がどうしてああなってしまったかを話そう」

「……!」

 

気になってはいた、十分に順風満帆と言える人生を送ってきていたと聞いていた人物が、あそこまで殺意を身にたぎらせてしまうほどの出来事というものがなんだったのか。健作はいまのところ、思い当たるところもなけれ当然ば知りもしなかった。

 

「“レイヤード事件”のことは知っているかね?」

「ええ、確か数年前……チナミ区とヒノデ区の境あたりにあった技術開発特区、

 そこが事故で消滅したっていうやつですよね、当時ニュースになってたなって。

 僕は家が近かったからすごく親が騒いでたのを耳にしてます」

「そうだ、当時そこで開発中だったエンジンの事故、

 多くの人命が失われたことは記憶に新しい…」

「つまり、まさか」

「ああ、不動君はそこにいた、そこで事件に巻き込まれたんだ。

 そして―――― 我が社もまた、レイヤードの開発に関わっていた」

「!」

 

健作の記憶としては、”レイヤード”という名前は新しい。

その技術特区はかつて別の名前で呼ばれていて、彼が少年期とまだ呼べた頃に起こった事故によって消滅、それからしばらくしてその名前を聞くようになったと覚えているからだ。今では廃墟となったそこは、島外からの不法占拠者がたむろしているとも。

 

「液状化した地面に建造物や人間が飲み込まれ、まだ遺体すら見つからない者もいる。

 まあ記憶に新しいといえどこの街は記憶が長持ちしないものだから……

 今は不法占拠者やホームレス達の実質的な隔離所のようになっていはいるがね」

「……何があったんです?」

「ああ、話すよ」

 

そうしてリチャードは緑茶を一杯、健作の茶器に継ぎ足した。

 

「……チナミ沿岸技術開発特区、もとはそう呼ばれていた。

 我らのような技術を生業とする企業が集まり技術を共同開発し、

 そして街のために未来を造る場所として誕生した場所なんだ」

「……」

「順風満帆だった、私も訪れたことがある。あそこだけ近未来みたいだったよ。

 我が社もパワー・アーマースーツ技術をはじめとした技術開発をしていてね、

 多くのスタッフを送り出した……街のモニュメントにホログラフがあるんだ、

 想像すると未来的だろう?技術が進んでも今の街じゃあなかなか見かけられない」

「そうですね、電光板とネオンはまだ、街の主役です」

「そんな場所だった、未来があふれていた、ここから街が世界に羽ばたけると、

 そう誰もが信じていた……あの時までは、そう、そうだったんだ」

「それがーーー」

「ああ」

 

茶を一杯、リチャードは啜り、窓の外に目を向けながら。

 

「あれは夏のことだった、ちょうど今より少し先くらいのことだ。

 瀬戸重工がSRM社と共同開発していたものだったかな……

 水素型ユナイトエンジンというものがあってね。

 

 おおざっぱにいうと……核融合炉とプラズマ電池の間の子だよ。

 水素を用いて無限の熱とエネルギーを得るという図式のエンジンだ、

 それが――――――― 事故を起こした、それも、巨大な」

「ええ、自分もニュースでそう聞いています、

 誰も消滅して生き残らなかったって……」

「それは報道規制によるものさ、唯一…生き残った人間に、

 世間の目が過剰にいかないように……ひとり、いたんだ」

「……まさか」

「ああ、不動 恒正 君さ。超人的な体力と回復力を持つ彼だけが唯一生き残り、

 プラズマ波により液状化して誰もを飲み込む地面から這い上がった。

 あのレイヤードにおいて唯一生き残った人間が不動君だったんだ」

「……!」

 

「酷な話だろう、あの場には彼の友人や家族もいたと聞いた。

 あの日にすべてを彼は失ったんだ、だからこそ…

 あの場を主導していた者に矛先を向けても仕方ないと思う」

「でもなんで、ヒノデモータース社だけを?」

「“繰り上がり”と言えばそうだと思っているよ、瀬戸重工とSRMは事件の影響で倒産、

 そうなると三番手で技術供与と開発をしていたヒノデモータース社だけが残る。

 あの場にいたすべてに復讐したいのなら、不動君が次に狙うのが我らなのは自然だ」

「でもそんなのって……虚しすぎます、すべてに復讐して、

 しかも事故でどうしようもなかったことに恨みをぶつけて、

 そうして何が――― 残るっていうんですか」

「……何も残るまい、虚無だ。

 でも、だから健作君、君にはね」

 

言うと、リチャードは糸目を薄く開き、健作の目を見た。

真摯に、向き合うと、そう言わんばかりの目線でもって彼を捉えて。

 

「彼が虚無虚構に堕ちないよう、彼を止めてほしいんだ。

 そこに至るまでに我らの責任があったことは違いない、

 だが彼の行ったことも確実に、罪となりえる……

 

 我らにできる罪滅ぼしのひとつが、彼を救うことだと思っているよ。

 あの”レイヤード事件”の過去の遺産、それがこれを招いているとも」

「……!」

「彼は強い、簡単には止められないかもしれない。

 しかしながら我らは武力という意味では大概に非力だ、

 やはり、君を頼ることしか今はすることはできない。

 ……だから君を全力でバックアップするよ、今、姿をくらました不動君…

 彼がまた戻ってきて、私を殺しにきたときに、それを止められるように」

「……はい!」

「良い返事だ、健作君。彼の手を血に染め上げたくはない、それは確かに渡しの願いだ。

 ……だからもし手を借りたいのならなんでも言ってくれ、全力で協力させてもらおう」

 

 

そう言われ、過去を知り、そうして青年は考える。

今のままでは確かに勝てないことだろう、だから…。

 

「じゃあリチャード社長、ひとつだけお願いが―――――」

 

 

 

 

――――――――――◇

 

 

 

 

機械工学に関して逆屋健作が持つ才能を評価するならば、それは上の下、といったところだろう。天才に間違いないが、しかし稀有な才能には大きく及ばない、世界一にはなれないかもしれないが、世界に目を向けてもきっとやっていける、そんな才能の持ち主だ。

 

だからこそ昔からエンジニアをやれば大成した、と言われるもので、その問いかけにはいつも苦笑いと愛想笑いを半々にしたもので応えていた。

 

 

「エンジニアやったらケンゾーさんってめっちゃスゴかったッスよね」

「そ、そうだね……あ、それはもうちょっとキツく締めて」

「ウッス!」

 

今日も一日、愛想笑い。

 

有屋が言われてナットをきつく締めると、ガコン、と装甲板の一枚が嵌まった。

それは装甲板というにはなおさら、機械的な要素をもったものだったが。

 

「しっかしめっちゃ、こう!なんっていうか、アレッスよね!

 この……えーっと!アレ!あれです!あれ!」

「パワーローダーユニット」

「それ!マッシブっていうか、なんっていうか… 

 見ただけでこいつは絶対強いなァ!ってわかりますし!

 これで卿はもっとパワーアップできるってことッスよね!」

「重量比プラス80%、出力比プラス120%、

 パワーに至っては数倍って言っていいからね、

 防御面の欠陥を設計でカバーしきれなかったけれど、

 でも確実に前よりとっても生まれ変わると思っていいよ」

「胸が熱くなりますね……こういうの」

「胸熱」

「それッス」

 

目の前にあるは一着のパワー・アーマースーツ。

従来のセンチネルとはまた大きく形状の異なったそれを組み立てながら、

有屋は年頃らしくテンションが上がってはしゃくだろう、年頃の男はそういうものだ。

 

それを見て健作は想う。自分も最初の頃はもっともっと若くて、

こんなふうにしていたな、と。懐かしさすらもこみ上げた。

 

 

「モータースから剛性の強いフレームをもらって組み込んで…

 あとは注文した部品を全体的に組み込んで調整すれば完成かな。

 ……先に言っててなんだけど、やっぱり胸が熱くなるよ」

「やっぱそうッスおね!ケンゾーさんもやっぱそうなるッスよね!」

「それくらい嬉しくなってるところ見ると、

 僕がもっと若かった頃を思い出すなって」

「……ケンゾーさんって昔どんな若い頃してたんスか?」

「あー」

 

そうして想い、ふくらませ。

思い出して話そうとすれば。

 

「……今はそのときじゃないかも」

「なんすか、もったいぶって」

「僕の過去という戦いに、君はついてこれない……」

「えー、もっと強くなったら聞かせてくれるッスか?」

「そうかもね」

 

ビスを締めながら、笑って言う。

思えばいつもメンテナンスはしていたが、ひとりだった。

会話をしながら作業するということをしたことはなかったな、と。

 

そうしているうちに、作業は終わることだろう。

 

「チェック用のプログラムを走らせて、問題なければロールアウトできるよ、

 お疲れ様、有屋君。適当に休んでて、僕も少し仮眠とるからさ」

「あざッス!おつかれッス! では―――― っと」

 

さて、はて―――。

ソファにごろんと健作が転がったその瞬間、有屋が頭を下げた瞬間だったか。

 

けたたましい響きの出所は備え付けの電話機だったろう。

ちょっと古い型が年季を感じさせる、そんな……健作が受話器をとる。

 

「……はい、こちらヒノデ倉庫―――― はい、ええ、なるほど」

 

 

「わかりました、すぐに。

 できるだけ安全の確保をお願いします」

 

短く応対し、そして受話器を置き。

そうして逆屋健作は天を仰ぎ見ると、肩をすくめてくるりと後ろを振り向くだろう。

まだ突っ立ったままの、有屋へ向いて。

 

「……有屋君、休憩返上!」

「ってこた……ケンゾーさん、つまり!」

「ああ、チェックプログラム走らせてる場合じゃないや、

 場所は近所、ヒノデの高速ジャンクション、内容は――― ”通行止めの駆除”。

 力仕事が必要になるタイミングだってさ、ぶっつけ本番で行くしかなさそう」

「大丈夫なんです!?」

「最悪どうにかするよ、それよりも―――」

 

ケーブルをすべて外し、力付くで放り投げ、健作はセンチネルの背部ハッチを開く。

そうして身体を押し込めばスーツはそれに応答するように閉じ、彼の身体を包み込む。

 

センチネル・バケツヘルム卿としての彼がまた、ここに舞い降りた。

 

「――――我らはヒーローだ、そうだろう?」

「……はいッ!!」

 

 

どんと胸を叩き、頼りがいのある声を発すればそれはまさしくロード・バケツヘルム。

有屋もまたコスチュームを手にかければ準備にすぐ移るだろう。

ヒーローの出撃準備は、新装備のぶっつけ本番という形と並行して行われた。

 

 

 

 

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