サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラのプロローグ
サラサラの1:願われた始まり


「イレブン、だいじょうぶ!? いたくない!?」

 

 動転したような少女の声で目を覚ます。

 目の前には金髪の可愛らしい女の子が、心配そうに俺を見下ろしていた。

 

 どうやら俺は倒れていたようで、背中と後頭部の激痛に青々とした木の下という状況から、おそらく木登りの途中で滑落したようだった。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「? へんな言いかただね?……でも、ぶじでよかったぁ!」

 

 女の子が涙を目に溜めて俺に抱きついてきた。

 

 え、何この状況は。そして、なんか俺の視線、倒れ込んだままの姿勢から起き上がってもまだ低くない?

 

 なんだか、目の前の五、六歳の女の子と同じくらいにしか……。

 

 不思議に思いつつ辺りを見回すと、牧歌的な村の風景が目に入る。

 

 視界に入った俺の体もなんか小さいし、首の振りに遅れてやってきた髪の毛は……なんともサラサラだ。

 

 そして、紅葉みたいなちいちゃいおててにはハンカチだかランチョンマットだか知らないオレンジの布切れがいつの間にか握られていた。

 

 あと、俺が登って落ちたと思われるこの木……それ以外にもこの状況、なんか見覚えがあるような……?

 

 そこまで考えたところで、俺の脳内に透き通るような美しい女性の声が響いた。

 

『起きましたか、外なる神よ。あなたには、勇者となって貰いたいのです』

 

「いったい誰だ?」

 

「え? エマだよ、あなたのおともだち」

 

 しまった。声に出したせいで女の子……エマに言ったみたいになってしまった。

 

 なんでもないと取り繕い、表面上はエマの応対をしながら脳内の声に疑問を呈する。

 

『あの、一体誰なんだ? 言い方から見るに、俺が外なる神ってことでいいのか? で、あんたは上位の神様って感じ?』

 

『疑問はもっともです。包み隠さずお答えしましょう……』

 

 まるでお告げのように直接頭に響くその声。

 

 精霊ルビスと言うらしいその声の主は、状況があまり飲み込めていない俺の疑問をひとつひとつ解消していった。

 

 ……んで、精霊ルビスを筆頭に、ロトゼタシア、邪悪の神ニズゼルファ、それを打ち滅ぼす勇者などなど……俺にとって聞き馴染みのある単語が次々と飛び出てきたのだ。

 

 それらの点と点を繋げる単語がひとつだけあるとするならば……

 

『ドラゴンクエストⅪ……の勇者に俺がなったってことなのか?』

 

『外なる神の見た11番目の物語の勇者、その理解で問題ありません。……あなたに、この世界を救っていただきたいのです』

 

『はぁ、なるほど……』

 

 にわかに信じがたいルビスの言葉に生返事を返しつつ、手に持っていた布切れ(バンダナだった)はエマに渡し、彼女との手遊びを器用にマルチタスクでこなしながらルビスの話を掘り下げていった。

 

 ルビスの語った話の要点を掻い摘んでいくと、どうやらルビス……このロトゼタシアを見守っている彼女が、この世界を闇に包もうと暗躍する邪神ニズゼルファの力が封印中にも関わらず予想を超えて高まっていることに強い危機感を覚えてしまったことが俺をここに呼び寄せてしまった発端らしい。

 

 精霊というのは意思を覚醒させている場合、何かを少し願っただけで奇蹟を起こしてしまうことがよくあるそうだ。

 難儀な種族だな。

 

 その件の願いとは、勇者を手助けするために外から見守る神(俺、というよりプレイヤー的な意味らしい)のうちロトゼタシアをよく知る神の助力を求めたことらしく。

 

 結果、ドラクエ11のクリアプレイヤーであり、ちょうど事故で死んだばかりでもあった俺がこの世界に引き寄せられ、この世界の勇者の魂と入れ替わってしまったのだそうだ。

 

 が……、ん? 魂が入れ替わった?

 ちょっと聞き捨てならなそうな単語に疑問を返していく。

 

『じゃあ本来の勇者……この子の意識はどうなってるんだ?』

 

『いえ、最初からあなたの意識のまま、この子、イレブンは育っています。心配する必要はありませんよ』

 

 ……心配大ありじゃい!

 

 俺が輪廻転生せずにドラクエ世界に転生したのは百歩譲っていいのだが、生まれて愛を受けるはずだった子どもが誰とも知らない男に人生を取って代わられるのは一般的に最悪と言って差し支えないだろう。

 

『その辺りも心配はありません。彼の本来の魂は保護してありますので、いずれはあなたの子孫……ロトの勇者を継ぐものとして生を受けるはずですから』

 

 ……子孫ねぇ、それはそれで問題は大いにあると思うんだが? 俺は訝しんだ。

 

 まぁ、これ以上は俺に手立てがある訳でもないし、最低限保護はされてる以上とやかく言っても仕方がないことなのかもしれない。

 

 ルビスなりに手を尽くしたようではあるし。

 

 勇者として世界を救うってだけでも前世で一般人の俺では荷が重いのに、本来の勇者の人生のために子孫を残すことも使命に加わった。

 

 前世では童貞のまま死んだ俺にはある意味世界を救うより荷が重いかもしれん。

 

 帰り道にあるエマの家で彼女と別れ、家路でひっそりため息を吐いたのだった。

 

 その様子を見た村人からは『エマちゃんと離れるのが寂しくてため息なんて……イレブンくんてばゾッコンね!』と盛大に勘違いされているのだが、その時の俺は当然知る由もなかった。

 

『精霊として大きく干渉はできませんが、あなたの旅路を補助できるように、あなたの中に眠る外なる知識を活かせる物を用意させて頂きました。これを役立てて、どうか邪悪の神を退け、当代の勇者となってください……』

 

『あっ消え入りそうな声で脳内から遠ざかんな! まだ言いたいことが山ほど……!』

 

 頭の中に響く声は消え、そこには一人の少年勇者イレブンだけが取り残された。

 

「言いたいことだけ言って消えやがった……」

 

 頭の中の声が聞こえなくなった後、俺はもう一度盛大なため息を吐いてから家路についた。

 

 自宅に到着すると、育ての母親であるペルラの歓迎に「はぁ」と短い挨拶をして寝室に入る。

 

 怪訝な顔をするペルラには悪いが、あえてそれを無視してベッドに寝転んだ俺は、そのまま静かに寝入った。

 

 そして、夕方になった頃ペルラに起こされたとき、俺はある程度この世界で過ごす心の準備を整えていた。

 

 そう、俺は飲み込めないような大きな出来事があった時も、寝て起きたら大体なんとかやっていける性格だった。

 

 実際、本当ならくだらない事故で死んでしまっていたはずのこの命。

 拾った代わりに使命を押し付けられたのならくよくよしても仕方がない。

 

 どのみち世界を救うなら、その使命ごと楽しんで達成する方がいいに決まってる!

 まぁ、そう思わないとやってられないってのもあるが……。

 

 ともかく俺は、せっかく転生したこの世界をサクッと救うことだってまぁ吝かじゃない程度には受け入れ態勢を整えてベッドから起き上がってペルラの用意してくれたスープを飲み、その熱さに舌を軽めにやけどさせるのだった。

 

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