サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラの11:古代図書館へ

 シャールとの合意からほどなくして、密談を終えたロウとクレイモラン王もシャールの部屋に訪れる。

 

 そこで俺は改めてユグノアの王子として、マルティナはデルカダールの王女として、クレイモラン王とシャール親子に自己紹介をすることになった。

 

 だが、当のクレイモラン王と、父王と違いロウという知己の存在のヒントすらなかったシャールも俺たちと出会った時からただの商人一家ではない事には気付いていたようで。

 

 特にシャールは勇者の紋章を俺が見せたタイミングで、十年前に滅んだユグノア王国の王子がいまだに悪魔の子と呼ばれて捜索を続けられていることと、俺が素行に問題を抱えているわけでもないのに身分を偽っていることとその年齢を紐付けて、おそらく俺こそが渦中の王子なのだろうと当たりをつけていたのだと話してくれた。

 

「生きていれば王子とはいずれご縁があったかも知れませんから。貴方がもしクレイモランで見つかれば保護をしようという話もあったんですよ? あの日、自国を危惧して守護に就くためとはいえユグノアに義理を欠いて撤退してしまったことを、王として間違ったとは言わずとも、個人としての父はとても悔やんでおいででしたから」

 

 そう言って、十年前のあの日の裏話を俺にだけこっそり耳打ちで教えてくれるシャール。

 

 お話はとても興味深いのだが、少年的に女の子に免疫がない部分がある俺は整ったシャールの顔が隣に近づくだけで簡単に惚れてしまいそうになるが、なんとか精神力は赤ゲージで踏みとどまった。

 厳しい修行の成果ですな。

 

 不確定な情報は真とせず確定した断片的な情報を選りすぐって勘案し、その上で未だ不確定な状態からでも高い情報処理能力と虫の知らせと言うほかないカンを合わせてどんな距離からでもたった一目で真相を見抜く。

 

 俺はそういったホームズじみた彼女のアブダクション推理の精度について驚くばかりなのだが、デルカダールの異変に安楽椅子探偵よろしく玉座に座ったまま正答を導き出した先ほどの王を思い出す限り、クレイモラン王家はこれがデフォルトなのだろうか。

 

 その辺りの情報戦や地頭については原作知識の保有というアドバンテージで下駄を履いているだけのポンコツワトソンたる俺は、はえ〜すっごいとただ舌を巻くのみなのだった。

 

 クレイモラン王とロウにも預言者の話を共有し、ロウは依頼という形で俺たち旅商人組の三人で片を着けることを提案したが、クレイモラン王は熟考した後、

 

「わしとシャールもついて行こう」

 

 と豪快に決断するに至った。

 

「なりませんぞ、クレイモラン王」

 

 ロウの即答を皮切りに俺たちは反対するが、クレイモラン王は頑として譲らない。

 

 クレイモラン王家は王の他は娘のシャール一人のみで、妻は既に他界して久しい。つまるところ、残された跡継ぎであるシャールがついていくことすら本当はかなり危険であり、ならば自分が助力することで生存率を上げようという主張だった。

 

 近衛兵を連れて行ってはどうかという反論もしたのだが、物々しい列を成しても吹雪に阻まれるうえに図書館到達前にムンババと会敵すれば壊滅は必至のため、最低限の人数で構成した少数精鋭が正解とした王の論説には納得できる部分もあった。

 

 加えて、自分の身は自分で守れると王はその場で手にスナップを効かせ、軽い魔法の爆発を起こしてみせた。

 

「それにロウよ、こちらのお家断絶を懸念するのなら、お前さんの方こそどうなんじゃ?」

 

「ぐ、そこを突かれると痛いのう……!」

 

 クレイモラン王は唯一生き残ったユグノア王家である俺とロウの二人が一般的にかなり危険な旅を行っていることを指摘し、確かにそこを突かれると当人であるロウと俺は閉口するほかない。

 

 だが、クレイモランに万が一を起こさせない最後の砦であるマルティナがまだ……。

 

「犠牲になっても血筋が残るのは私だけ。あの日守れなかったぶん、私がみんなを護らなきゃ……!」

 

 マルティナはもう既に彼女の中のスイッチが入っているようで、今は十年前の非力な自分ではないと気合充分だった。

 マルティナさんや、あんた普段そんな感じじゃないでしょうが。

 

 そんなー。

 

 こうして結論はほぼ決まったようなものではあったが、俺たちはクレイモラン王の同行についての決を取る。

 

 賛成票が2、反対票が2、守護らねば……票が1。

 その内訳はクレイモラン王家、ユグノア王家、デルカダール王家で綺麗に分かれていた。どうやらお家柄として受け継いだ考え方も大いに関係していそうだった。

 

 結果的に反対票を投じていた俺とロウが押し負ける形になり、せめて俺の用意した武具やローブなどを着用して完全武装をしてもらう約束してもらいつつ、シャールに加えてクレイモラン王にも同行をしてもらう運びとなったのだった。

 

 

 

 

 トンテンカン、トンテンカンと王宮の客間でろうそくの明かりを頼りに夜な夜な武具を拵えること二日ほど。

 

 謁見から三日目の朝、俺たちは城をお忍びで留守にしてムンババへの対策を講じるべく古代図書館へと向かい、現在はシケスビア雪原南のキャンプ地にいた。

 

 王家のお忍び外出に気付いた国民にむやみな不安を与えぬようシケスビア雪原までの道中は近衛兵を伴い普段どおりに出ていき、キャンプ地に着いてからテントを張りつつ、じっくりと対ムンババ用の装備を整えていた。

 

「わぁ、かわいい……!」

 

「かなり着心地がいいわ」

 

「ほほう、よい杖じゃ。これが終わった後は国宝にしてもよいかな?」

 

「勘弁して下さい、陛下」

 

「ほほほ、半分冗談じゃよ」

 

 五割は本当なの?

 俺は訝しんだ。

 

 王宮の外に出たクレイモラン王にも玉座にいた厳格な王というイメージより和気あいあいとした談笑を好む好々爺らしい一面が垣間見える人柄であることが判明するあたり、人間、間近で接すると新たな一面が垣間見えるものだと俺はしみじみと感じていた。

 

 そんなクレイモラン王は魔法使いであることと今回の仮想敵であるムンババの耐性を鑑みて、武器はいかずちの杖を持ってもらっている。

 

 防具は属性ダメージを軽減する魔法の法衣を高い身長に合わせたものを着用しており、王というよりはどこぞの魔法魔術学校の校長のような雰囲気になっていた。

 

 トム・リドルの日記を巡る秘密の部屋事件のように、魔導書に封じられた魔法使いの封印を解きに行くのだからある意味お似合いかもしれないが。

 

 シャールは父王と同じく攻撃・補助魔法に適性があり、いざという時にMPを使用せずとも逃げられるようにピオラの杖を持ってもらい、毛皮のフードとみかわしの服を合わせて着用してもらって氷耐性と回避力を重視。

 

 普段は身体に合わせたロングドレスで過ごす彼女にひらひらとした服はどうかと思ったが、嬉しそうにスカートの裾をつまんでみたりフードの紐を調節している姿を見るに、おおむね好評のようだった。

 

 マルティナはドゥルダ郷で取得していた竜のどうぎを着てもらい、武器はいなずまのやりを使ってもらう。

 道着は男女兼用だが、打ち直しと調整の手間も考えると特筆すべき理由がなければ今後も彼女が使っていくことになるだろう。

 ちなみに女性陣の採寸は女性同士で行ってもらっていたりする。

 

 ロウは毛皮のポンチョを着込み、今回は前衛の不足から杖をツメに持ち替えて、クレイモラン謹製のこおりのツメを使ってもらうことになった。

 

 ツメは一品ものが多くレシピから作れるものは少なく既製品の流用となったが、そこは打ち直しによる強度の底上げとロウの地力でカバーする形だった。

 

 そして俺、イレブンは自身の重装備適性を活かしてドラゴンシールドにドラゴンメイルのセットで固め、はじゃのつるぎを用意。

 

 子供用のリサイズを行ったために少々性能は落ちているが、ふしぎな鍛治によりとても良い出来で製作できたため、総合的には通常の性能に対してトントンに収まっている。

 

 重装備で強力な氷耐性と守備力を担保しつつ、もしほかの魔物がちょっかいを掛けた場合もはじゃのつるぎの使用効果である程度の露払いを行えるように想定したこの装備で、最前線を押し上げ維持して魔法使いが自由に動ける状況を作るのが今回の俺の役割だ。

 

 いずれもアクセサリーは共通で、雪原の吹雪と投げつけられる雪玉対策に氷のイヤリングを身に付けてもらい、結構な頻度で挟まれるわりには半数以上に効けば壊滅必至の全体睡眠魔法であるラリホーマ対策としてめざましリングも嵌めてもらっている。

 

 どうぐも錬金釜をフル稼働させて、緊急時でも可能な限り個々人の判断でその場で打開できるよう潤沢に用意し、みんなに配っておいた。

 

 ここまでやればとりあえず、当面の危機は乗り越えられるだろうと言えるだけの手は打ったと言える。

 

 いわゆる人事を尽くしたというヤツなのだが……おそらく、これだけ対策を行っても邪モンスター化したムンババであるムンババ・邪にはおそらく歯が立たないだろうと俺は考えていた。

 

 原作知識という脳内あんちょこを見ながら整えた準備と一対多の優位性から戦いの体を為すだけで、回復手段を前衛である俺とロウに頼るこのパーティは時間を掛けるほどに攻撃と回復のメリハリが崩れ、どんどんジリ貧になっていくだろう。

 

 だからといって、ジリ貧を嫌って速攻を掛けようにも戦闘経験に乏しいシャールと最高齢のクレイモラン王を抱えたまま捨て身の攻勢を仕掛けることは現実的じゃない。

 

 やはりもう一人ほど俺、ロウ、マルティナ並み……つまるところ原作パーティメンバー並みの人材が必要だと痛感する。

 

 それはつまり現状のカギであると預言者にも示唆された人物が、原作ではこのクレイモラン王国で対峙するボスも務めたほどの実力者である魔女リーズレットの加入が急務であることを示していると言えるのだった。

 

 俺たちは装備を整えて女神像に祈り、足並みをそろえていざ古代図書館に向かい、最後の一手をどうにか詰めるために歩を進めていく────はずだった。

 

 女神像からルビスの声が発され、俺の脳内にこだまする。

 

『勇者よ、今すぐにその場から離れるのですっ!!』

 

「! みんな、今すぐその場から飛び退けっ!」

 

 ルビスの鬼気迫るその言葉を聞くが早いか、俺は殺傷力をできる限り低めたイオを足元に打ち込み、その場の全員を吹き飛ばした。

 

「イレブン、何を……!」

 

 直後、"ムッフォ、ムッフォ"という独特の鳴き声が響いた後、キャンプ地めがけて大岩のごとき影が飛来する。先ほどまで火の点いていた焚き火に着弾したそれは、雪原の地肌すら見える隕石のようなクレーターを伴ってキャンプ地、そしルビスが経由して忠告を叫んだ女神像までもを容易く粉砕せしめていた。

 

 イオの爆発の余波から起き上がった皆に向けて、俺は先ほどの攻撃……いてつく雪玉を投げつけた下手人の名を叫ぶ。

 

「ミルレアンの森にいるはずなんだが、事実いるもんは認めなきゃだ……みんな、あれがムンババだっ!」

 

「ムブォ……ムッフォ、ムブォォッ!」

 

 ドゴン、ドゴンと地震のようなナックル・ウォーキングの足音が響く。悠々とその姿を現したのは、大人の背丈よりも大きな口を持った怪物だった。

 

 正気を失ったその目は緑色に怪しく輝いており、本来の水色から少し暗い青となった肌の体表は内から溢れ出るエネルギーをまとって輝いている。

 つまり、既にいわゆるゾーン状態*1に入っていることが伺えた。

 

 不意打ちとゾーン状態。

 俺たちにとって、考えうる限りで最悪の邂逅だった。

 

「変わった鳴き声だけど、あれで威嚇しているみたいね」

 

「……ふむ、ここからどう切り抜けるね、勇者どの」

 

 動揺から態勢を立て直した俺たちはムンババに相対し、マルティナは前線で槍を構え、クレイモラン王が俺に向けて声を掛ける。

 

「決まってます」

 

 身に被った雪埃を払ってから俺の隣に着いたシャールはムンババの威容にぶるりと震え、両手で杖を強く握った。

 

「ど、どうやって戦うんですか?」

 

「逃げます」

 

「えぇぇっ!? た、戦わないんですかっ!?」

 

 シャールはどうやら腹をくくって戦う覚悟を決めていたようだが、その勇気はまだまだ先まで取っておいてもらいたい。

 

 何しろ勝算が元からないに等しいのに、いきなり襲いかかってきたゾーン状態の格上に勝つのはいくらなんでも難しい。

 

 しかも、預言者の言うカギである魔女リーズレットに至っては、未だ出会ってすらいないのだ。

 

「古代図書館へ急ぐぞ、走れい!」

 

 ロウが指した方角は北東。目的の巨塔、古代図書館の姿は高い崖の上にあるせいで見えないが、地図の通りなら道なりに進めば歩いて登れる緩やかな坂道まで辿り着くはずだ。

 

 だが、ムンババもただ黙って俺たちに道を譲る気はないようで、意思統一を終えた俺たちの雰囲気が切り替わるのを見計らったようにムンババはドラミングのようにして胸を叩き、巨体を誇示して威嚇する。

 

「……行くぞ、ムンババ!」

 

 こうして俺たちは立ち塞がるムンババの横をすり抜けてリーズレットの封印された魔導書を所蔵する古代図書館に急ぐため、シケスビア雪原撤退戦に身を投じていくのだった。

*1
超集中状態で様々な能力をアップさせる敵・味方ともに効果のあるゲーム内システム。同じ陣営にゾーン状態のキャラクターが複数いる場合、強力な連携攻撃を行えることがある。

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