サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラの16:クレイモランの聖獣祭

 

 俺、マルティナ、ロウ、シャール、クレイモラン王、リーズレット、そしてムンババ。

 このキャンプ地で揃い踏みした、今後こうやって並ぶこともなくなりそうな旅の仲間たちと見慣れたキャンプ地で最後の朝食を囲む。

 

「あ! これ、とってもおいしいですね!」

 

「あれ、それはロウ爺さんのお酒のつまみに作っておいたものなんだけど」

 

「えっ? でもおいしいなぁ……お酒が飲めるようになったらまた作ってもらっちゃおうかな」

 

 一本釣りしただいおういかの灼熱スルメをかじるシャールの意外な趣味を垣間見つつ、海にほど近い雪原ならではの海鮮グルメに舌鼓を打つ。

 この食事の用意のためにマルティナと挑んだトリコさながらのグルメ大冒険があったことはないしょだ。

 

 クレイモラン王とリーズレットは薄味派のようで、軽く済ませたい朝につるりと飲めるすまし汁を好んでいた。

 

 マルティナとロウはいつも通りで、ロウは今日の料理を俺とマルティナとの合作であることまで見抜く鋭い舌を持っていた。

 

 姫と孫の相乗効果で20倍旨いとは彼の弁で、ロウは今日も平常運転だった。

 

 ムンババは特に気に入ったと呼べるほど好んで食べるものはなかったようだが、バクバクと大きな顎を動かして用意したご飯を平らげてムフォとひと鳴きしてからは、その場におすわりの体勢でリラックスしていた。

 

 背中をなでてやると、たてがみが意外にもサラサラで気持ちがいい。

 それを仲間に喧伝すると、俺とムンババの毛髪品評会が始まった。そういう意味で呼んだんじゃないのよ。

「ふむ、この手触り……」とか言ってる場合か。

 

 さて、食事が終わればこのキャンプ地ともおさらばだ。

 火を消し、壊れてしまった女神像をできるだけ手直してから皆で祈りを捧げ、その場を後にする。

 

 シャールが女神像の破壊によってムンババに罰が当たらないかを心配していたが、それは杞憂だろう。

 

 ルビスは案外大らかな性格で、特に邪神に操られていた者が改心するエピソードに弱いのでムンババについてはサクッと許してくれるはずだ。

 

 まぁルビスの性格を多少なりとも知っているのは直接話をできる俺しかいないので、それを証明するのはちょっと難しいのだけれど。

 

 かくしてクレイモラン地方全域を脅かさんとした邪神ニズゼルファの暗躍を未然に防ぎ、さらにはすっかり改心してしまった様子のムンババを仲間に加えて一件落着とあいなった俺たちはムンババの広い背中に全員で乗せてもらい、彼女──リーズレットによると、実はメスらしい──の素早いナックル・ランニング法によってその日のうちにクレイモランにたどり着く。

 

 ドスドス、ムフォムフォと吹雪の彼方からやってきたムンババにすわ魔物の襲撃かと総動員された見張り番兵たちも、今の時間ならば謁見を終えて趣味の読書にふけっているだろう自らの仕えるべき王と王女が巨大な魔物の頭部や背部にてオレンジ色のソフトモヒカンに包まれている光景にはあんぐりと口を開けていた。

 

 理解の範疇を大きく越えた疑問は当然ながら部外者の俺たち行商人組にぶつけられるが、あいにく目の前には事実しか転がっていないのだ、残念ながら。

 

 彼ら王族は俺たちが無理やり連れてきたわけじゃなくて、王女シャールの護衛を建前にノリノリでお忍び冒険に出かけたファンキーなお爺さんこそが他ならぬあんたたちの王なのだ。

 

 愉快な国民性でいいよね。国防的にはかなり良くないけれど。

 

 ともかく、結果的に誰もが無傷でことを終えたのは俺たちとクレイモランの双方にとって喜ばしいことだった。

 

 美しい門構えに大興奮して喜びのダンスをしたそうにうずうずと待機するムンババがこれ以上に状況をややこしくする前に正門を開けてもらい、俺たちはひとまずの凱旋を迎える。

 

 城下町に現れた巨大な魔物に当初はたいそう国民に驚かれたものの、その上に国王陛下と王女殿下がいるとなれば「なんだ、王さまのペットか」と安心した様子で俺たちを迎えてくれていた。

 

 さらには見知らぬ旅商人である俺たちもなにやら国賓か何かだと思われているらしく、疑問の声よりも歓迎の声の方が多くこちらの耳に届いている始末だった。

 

 この国は本当に大丈夫か?と心配になる受け入れの早さだったが、国ごとリーズレットに凍らされてなお解凍されれば「なんか時間経ってんな……?」で済ませる原作での大らかさを見るに、これがクレイモランのお国柄ということなのかもしれんね。

 

 俺はお忍びで城を抜けた上に魔物とドンパチやっても素知らぬ顔で国民に手を振れる理外の図太さを持っていた王とシャールを見比べながら、「まぁこの二人がトップだものな」と内心で納得するのだった。

 

 

 

 

 吹雪のように手早く短い旅を終えた俺たちはクレイモラン王国へ滞在することになり、それから二週間と少しの時間が経過した。

 

 その間にはドゥルダ謹製ブランド"D.R.D"に関する交易の手配や、先のお忍びムンババ救出大作戦の事情聴取に対する

『王家の者がある日突然国を飛び出したとは言えないクレイモラン』

VS

『追手を放ちかねないデルカダールに"悪魔の子(勇者)"らしき者の名声を届かせるわけにはいかない俺たち』

のせめぎあいという名の口裏合わせなどを済ませていき、なんとか今回の冒険に関わるおおよその調整を終えた頃にはその間に準備が進められていた国を挙げての大祭、聖獣祭(せいじゅうさい)が開催される運びとなっていたのだった。

 

 なんでも聖獣祭というのは本来クレイモランにあったものの時が経つにつれ廃れた聖獣信仰で行われていた儀式を、くだんの聖獣そのものであるムンババのクレイモラン帰属に際して現代風に復刻することとなったものらしい。

 

 一際大きく設けられた壇上(今でいうライブステージ)に立ったムンババのダンスに合わせた音楽が楽しげに鳴り響く中で、クレイモラン名産のアイスクリームの出店や、俺たちの持ち込んだドゥルダ謹製の衣服の運輸ルート開通記念セール、さらには雪玉投げによる射的のような屋台まで並んだ実に賑やかな出し物たちが催される形の、地球で言うところの夏祭りのような催し物であるらしかった。

 

 この二週間ですっかり見慣れたと思っていた雪景色も楽しげな喧騒で一味違うように見えるのは祭りの魔力か。

 気分も思わず祭りを楽しむ方に引き寄せられるというものだろう。

 

「イレブンや、楽しんでおるかね?」

 

「もちろん!」

 

「ほっほ、祭りというのはいくつであろうと楽しいもんじゃからのぉ」

 

 ムンババとの激しい戦いの余波でひどい腰痛が発生したものの、休養期間を設けたことでひとまずの落ち着きをみせたロウは好々爺然とした表情で微笑む。

 

「孫と祭りに行かずして、なんのために歳を取ったと思っておるんじゃ〜!」と教会の神父たちの制止を振り切ったロウの姿は、心底嬉しそうな現在の彼の様子に免じて見なかったことにしてあげよう。

 

 マルティナはシャールとすっかり仲良くなったようで、現在は二人で服飾店をお忍びで見に行っているようだった。

 

 俺はすでに完食したスライムわたあめ(ソーダ味)の棒を所在なさげに片手に持ちつつ、もう片方の手でロウと手を繋いで人混みの中を歩く。

 

 こうして普通の子どものようにロウと連れ立っていくのはもしかして初めてなんじゃないだろうかと思い至り、なんとなくロウを見上げてみる。

 

 身長差から見えにくくはあるが、雪の反射した光にすら楽しげに目を細めるロウの顔は、微笑みつつもどこか遠くを見ていた。

 

 様子から察するに、おそらく今は亡きユグノア王国をこの祭りの風景を通して見ているのだろうか。

 

 過去を振り返るなとは言わないが、今を生きる俺とロウ爺さんとの距離が離れていくようで、少しだけ胸の中がもやもやとする。

 

 否応なく訪れるその感情は、俺の肉体的な年齢に相応な幼い精神がもたらしたものだろうか。

 

 大好きなおじいちゃんが自分以外を見ているのがなんとなく気に入らないのだと、子供としての小さなやきもちがロウと繋いでいた手を少しだけ横合いに揺らした。

 

 その行動に白昼夢のような意識を現実に呼び戻したロウは俺を見て一瞬だけ目を見開き、また優しく細める。

 

「イレブンよ……お主が楽しんで、それでいて、生きていてくれる……それだけでわしは嬉しいんじゃよ」

 

 いきなりこんなことを言うても分からぬかのう、とロウは俺の頭を撫でる。

 

 その手つきは泣きたくなる程に優しく、未成熟で幼い心を制御できなかった気恥ずかしさはありつつも、俺はロウを静かに受け入れた。

 

「俺は誰かの、大切な人に生きていてほしいって気持ちも護れたのかな」

 

「……そうじゃのう……」

 

 口をついて出た言葉にロウは頷いた。

 

「誰知らずとも己の手で護れた民を静かに案じ、愛することができる。それはまさしく勇者に、ひいては王にあるべき資質じゃとわしは思う。なればこそ……おぬしはすでに、わしの誇りじゃよ」

 

「──っ!」

 

 俺はとっさに目を伏せる。

 

 母から受け継いだサラサラの髪が、しわの刻まれた温かい手のひらの動きとクレイモランの冷たく優しい風に合わせてたなびいていた。

 

 

 

 

「……ど、どうでしょうか?」

 

「最高ッ! いまこの世界の中で一番その服を着こなせているッ!」

 

 バン!と『最高』の文字が書かれた扇型覇王斬*1を開いてシャールに率直な感想を伝えると、その場にいた猫が"にゃぁ~"と合いの手を加えてくれた。

 

 ん?さっきまで「とっさに目を伏せ──」とかやってなかったかって?

 

 あれは俺が突然発露してしまった子供っぽさの残る行動をきっかけにロウの包容力がいきなり最大限引き出されてしまったいわば事故のようなもの。

 

 そのおじいちゃん力たるや、前世を合わせれば成人をとっくに越えたアンバランスボーイすらもロウにかかればただの孫ってワケですな。

 

 だけど、そんなナイーブで感傷的な時間は終わりだ。

 『男たるもの女の服はどストレートに褒めちぎるべし』と在りし日のプレイボーイたるロウからの薫陶を受けた俺に怖いものはない。

 

 シャールを正面から褒め倒し、少し攻めた挑戦だったのだろう短めのスカートを中心とした冬のデートスタイルに普段とのギャップのあるカジュアルなアウターをあえて合わせた彼女の勇気に、勇者として自身を持たせるべく太鼓判を押すのが今の俺の使命なのだ!

 

「かわいいし、似合ってる! ……それに自惚れじゃなかったらだけど……俺に見せるために選んでくれてたりする?」

 

「っ! そ、それはそのぉ……」

 

「こら、あまりいじめないの。シャールが赤くなってしまっているでしょう」

 

「マルティナも似合って」

 

「はい、そこまでよ」

 

 むぎゅ、と頬を両手でプレスされることで俺の口車は急停車する。そんなー。

 

 その場には自分で選んだ服というものを褒められ慣れてないのか、りんごのように顔を赤く染めたシャールが残るばかりであった。

 

 水はやらねば植物は育たず、ジューシーフルーツは実らない。シャールのおしゃれはもっと褒める必要があるのだ、マルティナさんや。

 

「今は注目されてしまっているから、続きはまたの機会にね?」

 

 たしなめるマルティナの言葉には一理あった。

 

 周りを見てみれば、今どきのおしゃれな格好に身を包んだこの国の王女らしき人物を褒めちぎる誰とも知れぬ少年の図は、にわかに衆目を集めているようだった。

 

 むむむ、こうなると弱いな……。

 

「あの、わたしはそろそろ父上とお祭りの視察があるので、またのちほどっ!」

 

 羞恥に耐えかねたと思われるシャールが拙いごまかしをしながら脱兎の勢いで立ち去っていくのを見送りつつ、微笑ましくもやりすぎたかと扇を畳んで自省する。

 

 褒める時にも慎みを。

 ロウの教えに加えて自身でも学びを得た瞬間だった。

 

 ……この後の視察とやらもあのカジュアルでおしゃれな服でするのかなぁ、などと益体もないことを考えたところでかぶりを振ってマルティナに向き直る。

 

「マルティナもその服、とても似合ってる」

 

「……ふふ、ありがとね。イレブン」

 

 俺はマルティナの笑顔を心のスクリーンショットに収めながら、ドゥルダ宴会芸のひとつである扇型覇王斬の軸に使っていたわたあめの棒に感謝をひとつ添え、設置されていた臨時くずカゴへ丁寧に投げ入れるのだった。

 

*1
転生勇者スキル(※嘘)である"宴会芸"のひとつ(※嘘)。剣型の覇王斬を扇子の形に変える器用な小技。発動には"センス"が大事らしい。




ギャルファッションのシャール、略してギャールなんてどうでしょう。新概念です。
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