サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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 今回は初の試み、主人公以外の他者視点です。
 登場を匂わされ続けていたあの兄妹も満を持して登場だそうです。
 それでは本編どうぞ。
 


サラサラの17:ツンツンヘアーの転換点

 

「友達になろう」とアイツは言った。

 

 兄妹二人だけで身を寄せ合って生きてきたオレたちにはなんて似合わない言葉だろう。

 

 だからこそ、オレはアイツの手を取ることにしたんだ。

 

 

 

 

「おい、荷運びが遅れてんぞカミュ、マヤ!」

 

「はい! 今すぐ持っていきます!」

 

「これ重いんだって! ……わわ、っとと!」

 

「足もとに気をつけろよ、マヤ」

 

「兄貴に言われなくてもわかってるし!」

 

「きょうは祭りがあるんだとよ! そんな日に帰ってこれたおれたちには、運よくかき入れ時がやってきたってわけだ! 野郎ども、気合い入れろォ~!」

 

『ヤイサホー!』

 

 もはや聞き慣れた海の男たちの合図を聞きつつ、潮の香りが漂う港で酒や魚介などの食料品や各地で集めた宝飾品を運び込んでいく。

 

 海風に晒されることで湿って重くなったタルを抱えて、このオレ、カミュは必死にクレイモランへの交易品を運んでいた。

 

 バイキング。酒と冒険を愛する海の探検家。

 それに付け加えるとするならば、物心付く前に親に見捨てられ死を待つだけだったオレと妹を助けてくれた恩人たちだ。

 

 その後のこき使われようから恩義については既に霧散していても、やっぱり妹を含めた命を助けられた借りってのはデカい。

 ほかに行くあてがあるわけでもなく、今はただ彼らの冒険に見習いとしてついていく毎日だった。

 

『世界中のお宝を見つけて、世界一の大金持ちになる。そんで、世界の王様になるんだ!』

 

『そしたらさ、兄貴はおれの"みぎうで"にしてやるよ!』

 

 いししと笑って夢を語った妹のために、バイキングたちから貰える少ない分け前を蓄えながら独立するための資金を貯めていたときのことだった。

 

「────わっ」

 

「マヤッ!」

 

 マヤが荷運びの途中にたまたま足を滑らせて、タルと一緒に港へ落ちた。

 タルを離せばよかったのに、分け前が減ると思ったんだろうマヤは後生大事に抱きかかえたまま沈んでいく。

 

 周りのバイキングたちも遅まきながらも気付いたが、いち早く気付いたオレだけがその場でマヤを助けに飛び込んだ。

 

 クレイモランの冷たい海は大人でも辛い。なら、マヤは今どれだけ苦しい思いをしているか。

 

『……!』

 

 マヤはこちらを見て、助けを求めるように手を伸ばす。

 積荷をたっぷり詰め込んだ重いタルの分、マヤのほうがよっぽど早く沈んでいった。

 

『ゴボ……マヤ……ッ!』

 

 オレの身体は限界を越えて泳いだが、あと少しが届かない。浅い領域を越えた暗い海には魔物もちらほらと見受けられていた。

 

『ねぇ、カミュ……きみは、妹を助けたい?』

 

『な……んだ……いったい……?』

 

 息継ぎも出来ない深海で、誰かの鮮明な声がする。

 

 ああ……助けたいに決まってる。

 

『そうなんだね、カミュ。なら、少しだけ、手を貸してあげる』

 

 オレのそばにはいつの間にか、しびれくらげがふよふよと浮いていた。

 

 

 

 

「────そろそろ起きたらどうじゃ、カミュよ」

 

「────マヤッ!」

 

「開口一番に妹の心配か。よい兄であるようで感心、感心。助けた甲斐もあるというものよ」

 

 見知らぬ老人の声を聞いて反射的に身体を起こす。

 辺りをキョロキョロと見回すと、地平線が見えるほどの草原に囲まれた牧歌的な家の中で、ベッドに寝かされていることがわかった。

 そして、ベッドの側にはありふれた服を着た印象に残らない老人がひとり、こちらをただ観察するように見ていた。

 

「……あんた、一体誰だ? それに、ここは?」

 

「説明してもいいが……わしの成り立ちからじっくりコースか、もしくは簡単な状況説明コースがあるが、どちらにするかの?」

 

「その前に、質問にだけ答えてくれ。マヤは……助かったのか?」

 

 目の前の老人は頷いた。

 

「お主ともども助かったぞ。わしの力でちょちょいと人を呼んでな」

 

「それは……あんた一体なにもんだ?」

 

「じっくりコースをご所望じゃな? なら、教えてしんぜよう……お主の前にわしが現れるに至った経緯についてもな」

 

 老人は、ここでの時間は現実と違い極端にゆっくりと流れている事を前置きしてからじっくりと話をはじめ、オレは自分と妹を助けたらしい奇妙で力のある老人に興味が湧いていたために、それを余さず聞いていった。

 

 自らを預言者と名乗るその老人は、数百年以上の長い時を生きながら人の助けとなる預言を授けている存在なのだとか。

 なんの目的があってそんなことをと尋ねても、のらりくらりとはぐらかされるような胡散臭さもあったが。

 

 想定していたよりもかなりじっくりとした長話を老人が済ませたのち、オレはそのような預言者が何のためにオレと妹を助けたのか聞くことができた。

 

「これからひとりの少年を探しなさい。サラサラの髪に左手には竜の紋章。それに加えて、くじけぬ心を持つ少年じゃ」

 

「そいつがどうしたっていうんだ?」

 

「彼こそ、お主たちの人生の目標を叶える一助となる。彼は勇者、世界を救うさだめを持つ聖竜の末裔なのじゃ……」

 

「ふぅん、勇者か……」

 

 正直、聞きなじみのない単語ばかりであまり頭に入ってはこず、おとぎ話を大真面目に聞かされているみたいで現実味のない話だと感じた。

 

 だが、不思議と気分は前を向いていて。

 

 この老人に助けてもらった恩のぶんくらいは、ソイツを探してみようと思ったんだ。

 

 

 

 

「……き……あにき……っ、お兄ちゃん!」

 

「マヤッ!」

 

 マヤの声を聞いて反射的に身体を起こす。

 そこは教会の休憩室で、オレはベッドに寝かされているようだった。

 

「お兄ちゃあんっ!」

 

 オレが起きるなり飛びついてきたマヤを抱きとめる。

 

「よかったっ、お兄ちゃんが死んじゃうかもって、おれのせいでっ、ひぐ……」

 

「あぁ、大丈夫だぜマヤ。それより、お前が生きててくれてよかった」

 

「おれなんかより、お兄ちゃんがぁ……っ!」

 

 ああ、これはどうにも泣き止んでくれるまで時間がかかるかもなとマヤの頭を撫でて宥めてやる。

 数分後、泣きじゃくるマヤも少しずついつもの調子を取り戻していった頃、コンコンという控えめなノックが響いた。

 

「目を覚ましたかね、カミュくん」

 

「神父さん! ベッドを貸していただいてありがとうございます」

 

「いやいや、礼には及ばないよ。神に仕えるものとして当然のことをしたまでだ。それに、数分ほど前から急に苦しみ出したものだから、マヤくんと同じく気が気でなかったよ」

 

 ノックの返事をした後に、教会の神父が顔を出す。

 

 彼はクレイモランの教会をまとめる人物で、みなし子のオレたちに対しても態度を変えずに良くしいるような人格者でもあり、今もその手には大きな薬箱と気を落ち着かせる香りがするお香を持っていた。

 

「意識を失った君たちが教会に押しかけてきた時はどうなることかと思ったよ」

 

「バイキングのやつら、おれたちよりタルを引き上げる方に必死だったんだぜ!? 大事な商品がー!ってさ!」

 

「そうか、オレを背負ってきてくれたのか、マヤ?」

 

「ん? おれは違うぜ?」

 

 マヤの発言と神父の証言に、明確な穴があることにオレは気付いた。

 

 二人の言い分の間には、オレとマヤを助け、気絶していたのだろうオレを担いで神父に引き渡した人物がいるはずだった。

 

「ああ、そうしたのは私たちじゃなくて彼だよ。彼は先程まであなたたちの看病に加わってくれていたのだが、壇上に立つ機会が回ってきてしまったとかなんとかで、今はここを出ているよ」

 

「いやはや、あの少年のタフさには驚かされたよ。君たちと同じ所まで潜ったと聞くのに、なんとも凄まじい生命力だ」

 

 神父が柔和な表情で窓から見える教会の外を指した。

 

 暗い夜に明るく照らされていた祭りの壇上にはオレでも知っているクレイモランの王様と姫様が二人と冷たい印象の魔術師らしき女、そしてサラサラの髪が特徴的な少年が立っていた。

 

「っ!? おい、まさかオレたちを助けたやつってのは」

 

「そう、そこに立っている少年だよ」

 

 まどろみの中で聞いた預言。

 

 遠くにいる上に手袋をしているせいで竜の紋章とやら見えないが、オレはほとんど、あいつが預言者の言っていた少年なのだと確信していた。

 

「勇者、か」

 

「ん? なんか言った、兄貴?」

 

「いや、別に。それよりさ、祭りに出かけないか? もう遅くなっちまってわりぃけどな」

 

 オレの誘いに、抱きついたままのマヤがさらに力を強めた。

 

「……本当にもう大丈夫なの?」

 

「ああ。妹に心配されるほど、兄貴って生き物は弱くねえんだ」

 

 妹の頭を優しく撫でると、面白いように頬が膨らんでいく。

 

「また子ども扱いして、せっかく心配してやって損したじゃん! ……でも、兄貴もおれも今日はぜったいあんせー!」

 

 マヤはオレをベッドに寝かせて、自分は横合いの椅子に座り直した。

 

「祭りは明後日まで続いてるから、明日にでも行けばいいよ。そのかわり、今日楽しめなかったぶんは二日で二百倍にして取り返す! もちろん兄貴にもついてってもらうからな!」

 

「……もうそんなに元気なのか。いつもながら調子がいいもんだな、マヤは」

 

 いつもの調子で軽口を叩きつつ、妹なりに未だ気分が優れないことを隠せないオレを気遣っての発言なのだと納得する。

 

 神父はオレたちを微笑ましそうに見ていたのが若干気恥ずかしい限りだったが、マヤが夜の祭りの風景を見ながら明日のルートを吟味して楽しそうにしている姿を見れば、彼女が無事でほんとうに良かったと胸を撫で下ろすばかりだった。

 

 夕暮れを越えた壇上はいま、大きな盛り上がりを見せている。

 

 衆目に片手を挙げて心なしか気まずそうに応えるアイツも、オレたちの見舞いがてらもう一度教会に来るだろう。

 

 その時には、改めて感謝を伝えないとな。

 




 このお話を書く前にSwitch版11Sのボイスドラマを聴いてカミュやマヤの口調などを確認し直したのですが、ロトゼタシア短歌大会がどこまで執筆の助けになってくれたのかはちょっぴり不明かもしれません。
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