夕食後。
腹を満たして寝室に戻った俺は自分用のベッドの下がキラキラしていることに気が付き、ドラクエ主人公特有のアイテムコレクター脳に従ってそれを取り出した。
意外とかさばって取り出しにくかったそれをまじまじと見ると……かなりファンタジーめいた装飾を施された、金床とハンマーだった。
「これって……ふしぎな鍛治セットか?」
ふしぎな鍛冶セット。
他シリーズでいう錬金釜のようなアイテムにあたる、本作のゲームシステム上における重要アイテムだ。
材料とレシピさえあれば武器・防具・アクセサリーなどの装備品をハンマーで打つだけで製作するトンデモアーティファクトなのだが……どうしてここにあるのかはこの際いい。
おそらく、これがルビスの言う贈り物なのだろう。
それはそれとして、俺の目は本来のそれとは少し仕様が違うらしい不思議な鍛冶セットの外観に向けられていた。
「釜と、変な玉がついてる……?」
俺の頭の中*1にある本来のふしぎな鍛冶セットの外観とは違い、その鍛冶セットには釜と透明なガラス玉のような球体が上部にひっついていた。
脳内でシリーズ横断検索を掛け、ヒットしたのは錬金釜だった。
鍛冶セットに違和感丸出しでくっついている釜の方はどうやら、先程解説した錬金釜に近いと直感した。
玉については色と形からシリーズ内での重要アイテム、シルバーオーブなどが連想されるが……触ってみても何か反応するわけじゃないし、引っ張っても取れるわけじゃないので現状は保留にしておくことにする。
俺は鍛冶セットをベッド下に戻して、ペルラに「さっき木の上から落ちて頭と背中が痛いから、やくそうが欲しい」とねだる。
もちろんペルラは心配するが、「自分で治してみたい」と子供の成長チャンスをちらつかせて親のツボをあくどく刺激していると、ちょうどいいタイミングで川岸の釣りから帰ってきたペルラの父であるテオじいさんの鶴の一声によって、テオがやくそうの扱いを教えながら行うという前提でやくそうをいくつか使用する許可を貰ったのだった。
「それで……あまり痛そうなケガには見えんが、何に使うんじゃ?」
やくそうを取り出しにテオと納屋まで来たところで投げかけられた一言に、俺の心臓がドキンと跳ねる。
世界を巡って旅をしていた彼の洞察力は、見た目よりも精神年齢が高いといえど、まだまだ若造である俺の怪しい行動を即座に見破ることは訳ないようだった。
「ええっと……」
答えに窮した俺は、二人だけの秘密にしてくれと念を押し、テオが泣きたくなるくらいに優しい顔で頷いたところで、やくそうでやりたいことについての真相を話した。
「ふしぎな鍛冶セット……冒険家だった頃に聞いた名じゃのぉ。一時期は勇んで探したもんじゃが、まさかわしの家のベッドの下にあったとは!」
見つからん訳じゃ、と呵々大笑したテオは俺にやくそうを二つ渡し、悪いようにはせんとウインクをしてくれた。このお爺ちゃん……カッコよ過ぎる!
肉体年齢相応にカッコいい大人への憧れに目をキラキラとさせる俺は、小躍りしながら寝室に向かった。
後でわかったことだが、俺の精神的な感性は主に肉体に大きく引っ張られているようで、前世の自分としての感性と共に、年相応の感性もある状態になっているようだ。
エマとのかけっこやかくれんぼも大人が子どもに付き合う感じではなく、子ども同士の楽しさを感じるというか、そういった状態であるみたいだった。この精神的乖離がなくなるのは多分、物語の始まる十六歳くらいからだろうか。
……いまから考えても詮がないが。
閑話休題。
テオとともにベッドの下のふしぎな鍛冶セットを取り出し、取り付けられた釜を開いてやくそうを二つ入れる。覚えているレシピが有効ならば……。
しばらくグツグツ煮込まれたのち、ボフン! という破裂音と共に何かが飛び出てくる。それは入れておいた二つのやくそうではなく……質の良いやくそうである、上やくそうだった。
「ほほー。こりゃたまげたのぉ」
「本当だ……」
テオが目を見開いて、俺も顎が外れんばかりに驚いた。こうなるであろうと予測していても、やはり目の前で本物のファンタジーな出来事が発生すると人は驚くものなのだ。
テオの興味はふしぎな鍛冶セットそのものにも向いたようで、冒険家の血が騒いだのか大急ぎで屋根裏の蔵書から本を取り出し、納屋からさらにいくつかの材料を持ってきて俺に見せてくれる。
「これは、ふしぎな鍛冶に使えるレシピのひとつじゃ。現物がなければ無用の長物だと思っておったが、人生やはり何が起こるかわからんのう」
テオは感慨深げに俺を見る。
俺はその本を見せてもらったもののまだ文字が読めず、挿し絵から脳内検索をしたことで「騎士団の服」のレシピであろうことがわかるだけだった。
「早速作ってみよう。わしが後ろから支えるから、ハンマーを持ってみなさい」
俺は頷き、装飾過多のハンマーを持つ。それは子供の力でも問題なく扱えるほど軽かった。
テオが持たせてくれた材料を金床に放り込むと、虹色に輝く液体金属のようになる。
はじめてのふしぎな鍛冶は、トンテンカン、トンテンカンという小気味いい音とともに進んでいく。
大人の集中力を
「し、信じられん……」
「同じ気持ちだよ、爺さん……」
明らかな布製であるにも関わらず鍛冶台でハンマーを振って出来上がった、鎧よりも防御力の高い服。
二人して驚愕に目を見開き、俺たちは目を見合わせて頷いた。
「これは、あまり公にしないほうがいいかもしれんのぅ……」
凄まじい道具は人心を容易く乱す。そして、テオは俺、イレブンが故ユグノア王国の王子であり、当代の勇者であることを知っている。立派に育つまでは近隣のデルカダールにすら知られていないこのイシの村で育てると決めた以上、必要以上に目立つことを避けたいということだろう。
俺としても下手に幼少期から目立って城に召喚→悪魔の子扱いからの投獄ルートを早めることは避けたい。
俺とテオは、現状このアイテムの存在を知られないよう上から分厚い布を掛けて、納屋にしまい込むことにする。
「じゃが、これほどの宝を持ち腐れさせるわけにはいかん」
納屋にてテオは俺に振り向き、
「あれはお前のものじゃ、使いたいときはわしに一言声を掛けるのじゃぞ」
そう言って、慈しむような顔で俺の頭に大きな手をポンと乗せるのだった。