サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラの20:願って始めた物語(ハッピーエンド)

 

 マヤの起床後もいまだうわ言を繰り返しながら眠るカミュを看病していたとき、今回のムンババのクレイモラン帰属に関わる功労者として壇上に立つように近衛兵が案内に来る。

 

 彼らはこの祭りの間は諸々の警備対応や王の演説の準備にかかりきりであった。

 そのため、教会に来たとたんに満身創痍の俺の姿を見てしまい、たいそう顔を青くしていた。

 

 登壇を打診されて承諾した手前はあるものの、出番があるまではこの祭りを楽しんでもらうべく彼らは俺たちにノータッチを貫いてくれていたわけなのだが。

 

 それが災いして曲がりなりにも来賓である俺たちを不祥事に巻き込んだかと戦々恐々しているようだった。

 

 しきりに頭を下げようとする彼らを安心させるため、俺は満身創痍の風体は見かけ上の話であること。

 加えて、結果としてはなんてことのない無被害の勝利であったことを報告する。

 

 大丈夫。こんな怪我はホイミで治るくらいのものなのだ。

 

 だが、近衛兵たちは納得しつつも複雑な感情を顔に載せ、「あなたの偉業は称えられるべきですが……あまり無茶をしないでください」と訴えられ、逆に俺が彼らに平謝りする形となった。

 

 こればっかりは無茶をした自覚があるので申し訳ない。

 同時にロウにも「これ以上寿命を縮めさせんでおくれ。次からはせめて側で共に戦わせて欲しいのう」と釘を刺されてしまう。

 

 その意見を全面的に肯定して頷くマルティナも併せて、俺は二人にも同じく平謝りする形となったのだった。

 

 壇上に連れられる際にもカミュの意識はいまだ戻らなかったが、彼が海水を吐ききってからの容態と呼吸は、夢を見ているかのように静かに安定していた。

 

 時折「マヤ……」といったうわ言が飛び出るたびに当のマヤはキョロキョロと周囲を目だけで見て顔をほんのり赤くしていたが。

 

「夢の中でも妹の心配とは、いい"お兄ちゃん"だな、マヤ?」

 

「うっさい、わざわざ口に出すなっ! 兄貴とイレブンのば〜か!」

 

 打てば響くマヤをからかうと、さらに赤くなったその顔をずいと寄せてガンを飛ばされる反撃にあう。そんなことしても可愛いだけだぞ。

 

 自分と俺とが同い年だとわかってからのマヤは、最初はあった俺に対しての遠慮もほとんどなくなっていた。

 

「わかった、降参するよ」

 

「いしし、思い知ったか!」

 

 俺の降参を承諾したマヤは一転、快活で愛らしい笑顔に戻る。わはは、素直で()いやつめ。

 

 まぁ、かわいらしいマヤの反応を見るためならバカと呼ばれようとやぶさかじゃないと実は内心思っていたが。

 こういった場合の沈黙はいつも金であることを俺はよく知っていたので、マヤにはそれを黙っておいた。

 

 こうして彼女の微笑ましい怒りを一身に受ける至福をひとしきり堪能した俺は、続いての看病を一旦神父さんに任せて教会を去る。

 

「マヤが起きたし、カミュも神父さんにかかりゃ助かるに違いねえ。これでひとまず安心ってわけだ! それじゃ、明日のオゴリを楽しみにしておくからな」

 

 残っていたバイキングたちも俺たちと同時に教会を去り、停滞していた船仕事に戻っていった。

 

 余談だが、バイキングたちは去り際にロウと固い握手を交わしており、いつのまにかロウと仲良くなっていたようだ。

 

 いつ彼らは仲良くなったのか、そもそもそんな時間はあったっけ。

 

 そう思わせるほどの打ち解けぶりこそ王の立場を隠しながらも各地に強力なコネを築いてきたコミュ力お化けの為せる業か。

 

 前世を含めても未だ貧弱なコミュニケーション能力しか有さない俺はロウの辣腕に感心するばかりだった。

 

 

 

 

 壇上に呼ばれたのは俺とロウとマルティナ、お馴染みとなったいつもの三人組だ。

 

 城内にある来客用の一室に入って個々人に今回限りで付いて下さった侍女の方にある程度の身だしなみを整えてもらい、城の外目に設けられた壇上に登る時がやってきた。

 

 今回の紹介はムンババとリーズレットのクレイモラン帰属の経緯に関するカバーストーリーの一環であり、俺はいわゆる「ムンババと心を通わせ、魔女リーズレットを改心させた天才少年」的な立ち位置となった。

 おい、どんな設定だ。

 

 ムンババについてはまぁいいとして、さらっとリーズレットの件まで盛られてしまった。

 しかし、王家であるシャールや王が危険な古代図書館にお忍びで出向いたとは言えないためその辺りは仕方がないと言える。

 

 とはいえこう言った名誉を得る機会はのちのユグノア復興に役立つし、デルカダールに届かない限りいくら有名になっても困ることはないだろうとも思う。

 

 クレイモラン王はその辺りに関して抜かることもないだろうという信頼も含めて、今回の登壇は成り立っていた。

 

 壇上でやや過剰ぎみな演説のもと紹介された俺は、わくわくと撫でられ待ちのおすわりをするムンババの大きな顎をひと撫でする。

 

 気持ちよさそうに撫でられる感触を楽しむムンババの姿に、国民たちはワッと大きな歓声を上げた。

 

 うう、こうして一挙一動を見られる機会なんてニマ大師とサンポくんにつけてもらう修行以外でなかったから、とてもむずがゆい。

 

 特に、もっと撫でてほしいと寄りかかってきたムンババとの距離が想定以上に近づいたことにより壇上でたたらを踏む粗相があっても「かわいい〜!」のひと声で済むところとか。

 

 ニマ大師なら「想定が甘いよ!」とお尻叩き棒が飛んでくるところだ。これでは調子が狂ってしまう。

 

 むしろ、一挙一動にお尻叩き棒という名の愛の鞭が飛び交うドゥルダの修行によって調子が狂った可能性も考える必要があるかもしれないが、それは鶏が先か卵が先かというヤツに違いない。*1

 

 ロウに関しては慣れたもので、この祭りの仕掛け人としてD.R.D商会の宣伝も嫌味なく盛り込んだスピーチを披露する。

 

 マルティナについても10歳の頃までのデルカダール王女としての英才教育の賜物か、改心する前の魔女と渡り合った気品ある武闘家として完璧に国民の期待に応えていた。

 

 こういうところで元王族であるという経歴は有利に働くのだなぁとしみじみ思う。

 国民と人心の何たるかを熟知してい期待に応えるその様子は、俺の目にもキラキラして格好良く映った。

 

 そうして二十分程度で俺たちの出番は終わった。

 後は更衣室に戻って着替え、カミュの様子を見に教会に戻るのみだ。

 

 しかし、元を正せば俺も肉体的には王族だが、中の魂はいいとこ中流階級の小市民だった。

 ユグノア復興に向けてこういう場にも慣れていかなければと頭ではわかっているのだけれど、やはり未だに慣れはしない。

 

 壇上のパフォーマンスが終わった段階になった途端、俺はなんだか海底での死闘よりも疲れた気がしていたのだった。

 

 

 

 

 壇上を降りて城に戻り衣装を返却してから教会に戻った時、カミュは既に意識を取り戻しているようだった。

 

「お前がイレブンか。マヤがずいぶん入れ込んでるからどんなツラしてるのかと思ったが……だいたい聞いてた通りの雰囲気だな」

 

「ちょ、兄貴! こいつなんかに入れ込んでねーよ! ヘンなこと言うなって!」

 

「ま、そういうことにしとくか。……ところで、オレはカミュだ。今回の件、マヤと俺を助けてくれてありがとな」

 

 妹をからかう兄の顔から一転し軽薄そうでいて実は生真面目な彼本来の表情に戻ったカミュ。

 彼はベッドから身体を起こした体勢からではあるが、できる限りの誠意で俺に頭を下げてくれた。

 

「頭を上げてくれ、カミュ。俺の方こそ君が生きていてくれて本当によかった」

 

 俺の言葉を受けて、頭を上げてくれたカミュは俺とマヤを交互に見てから、こちらに向かって小さく頷いた。

 

「オレは、お前に妹と自分の命を救ってもらったデカい借りがある。だから、オレに出来ることがあるなら何でも言ってくれ」

 

「ん? それって本当になんでもするってことなのか?」

 

「ああ、何でもやってやる」

 

 カミュとマヤは俺の言葉を静かに待つ。

 一度は冗談めかして返したものの、彼らは真剣そのものだ。

 何でもする、という言葉を軽く捉えている様子はなかった。

 

 ……彼らは命を助けられた借りには命より重い代償があると考えているらしい。

 それも過酷なバイキングの船で幼少期から下働きしてきた影響だろうか。

 

 いま、二人の想像の中での俺はどんな鬼畜となっているのだろう。

 彼らはまるで地獄の沙汰を下す閻魔を前にしたように縮こまってしまっていた。

 

 これから命の代金として1億Gの借金を負わされてたった0.1Gぶんの価値しかない紙切れが通貨となる地下労働施設にて不可逆の転落人生を送る、とか。

 

 そう思っていてもおかしくないような表情で、ときおり目を伏せながらこちらの様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

「何でも、ね」

 

 まぁ、もちろん俺はそんな上述したような帝愛グループめいたことを彼らに対して望んでいるわけもない。

 

 過去にどういう経験をしたらこうなるのか、原作における彼らを知る俺でも描写されていた以上のことは知りようもない。

 

 だが、これから知ることはできる。

 

 無意識に苦虫を潰したような表情をしてしまっていた彼らとは対照的に、俺は努めて明るくあっけらかんと言葉を返した。

 

「ならさ、俺と友達になろう」

 

「「……は?」」

 

 カミュとマヤの素っ頓狂な声が重なる。

 それはもう、俺の返事が心の底から理解の外であったかのように。

 

「俺さ、同年代の友達がホントに少ないんだ。幼馴染はいたけど、小さな村だから家族みたいなもんだったし。だからさ……まずは明日、俺とカミュとマヤの三人で一緒に祭りに行かないか?」

 

「……お前、マジで言ってるのか? 命を助けた借りの精算が、お前と友達になるだけでいいってのかよ?」

 

「ああ」

 

 良いに決まっている。

 俺の即答に、カミュは目を見開いてい驚きを強めていた。

 

 お礼で友達になるというのも妙な話だが、実はこれを彼らに願ったことは、俺としても意外だった。

 

 ただの勧誘としてなら「仲間になろう」でも「お前たちをスカウトしたい」でも良かっただろうに、するりと口をついて出たのは「友達になろう」という言葉だったのだ。

 

 俺が助けてあげられた人と笑いあえる機会があるならそれ以上のことはないと思っているし、実際にとても魅力的なことだ。

 

 綺麗事で始めた行動には、同じ綺麗事のハッピーエンドこそがふさわしいという俺の個人的なポリシーもそこには関わっている。

 

 しかし、なによりもこの言葉がつい口からこぼれ出てしまったのは。

 この世界に転生してからというもの、俺はどうにも寂しがりになっていたからだろうと自認する。

 

 理不尽な死は前世を奪った。

 親も友達も否応なくまるごとおさらばし、前世の彼らを覚えているのはこの世界でたった一人。

 

 人に忘れられることが真の死だというのはメキシコに伝わる死生観だ。

 

 それをもし今の俺に適用するならば、前世の地球まるごとの生死を一手に担ってしまったかのように当時の俺は感じていた。

 

 この世界に馴染んだ今も、それなりに幸せでそこそこに満たされた地球の生活がときおり恋しくなることだってある。

 

 ユグノアを復興したいと思った動機も、故郷を失ったのが他ならぬ自分自身でもあるからこそで。

 彼らの悲劇を他人事に思えず、せめて人々の記憶が故郷の風景を忘れないうちに復興を果たそうと思ったからであるほどだ。

 

 本当なら自分が死を迎えたことで前世のことなんて覚えていられるはずもなかったけれど、奇しくも転生したことで俺は形を変えて生きている。

 

 転生したての頃、俺の精神はもっと幼い肉体に引っ張られていた。

 そんな時期に前世とはいえ"繋がりを全て失った"経験が重なれば、元来よりも寂しがりな性格に育つのは当然の帰結というわけなのだった。

 

 ……冷静に自己分析しておいてなんだが、マジで恥ずかしくなってきた。こういうのは顔に出てないといいのだけれど。

 

「マジか、お前……」

 

「ばかだとは思ってたけど、ホントにばかなんだな……?」

 

 そうした俺の心情や由来も当然ながら出会ったばかりの彼ら兄妹は知る由もない。

 自身の背負った借りに対して等価とは思えない条件だと思っているのだろう二人はあんぐりと口を開けたまま固まっていた。

 

 後ろでそれを聞いていたロウとマルティナは、鍛冶作業をしている時でさえ常に誰かと同じ空間にいることを選ぶ俺のクセを知っている。

 実に俺らしいお願いだと、彼らは二人して苦笑していた。

 

「うーん……やっぱり変かな? 助けたお礼に友達になって貰おうってのも……」

 

「いや、そっちじゃねぇよ! だいたい友達ってのはきっかけよりその後の方が肝心だからな、って危ねぇ! もう乗せられかけてんな、お前のペースに……」

 

 カミュは驚きの表情を戻してビシッとこちらにツッコみ、すぐさま再度思案にふけっていった。

 恐ろしく素早い切り替えだ。さすが未来の大盗賊といったところだろうか。*2

 

「カミュ、マヤ。二人がいいって言ってくれるなら……俺と、友達になってくれないか?」

 

 俺は勇気を振り絞り、二人に改めて問いかける。

 

 そして、二人はそれなりの逡巡があるのだろうか、数秒だけ沈黙する。

 その後に兄妹揃って顔を見合わせ……ドッと二人から笑いが漏れた。

 

「っははは! ……お前はお人よしなんだろうとは思ってたが、ここまでのもんならもう降参だ! いいぜ、なってやろうじゃねえか! 友達ってやつに!」

 

 カミュは片腕をグッと体の前で握り込んで、気合の入った返事をくれる。

 

「いしし……! おまえ、そんなんじゃいつか大損するぜ! でも、そうか……いいよ。おれも兄貴も、イレブン、お前の友達になってやろーじゃん!」

 

 マヤはベッドの上で足を崩して座ったまま、こちらをからかうようでもある快活な笑みで承諾の意を示してくれた。

 

「笑ってくれて嬉しいよ。じゃあ、明日の祭りは……」

 

「「もちろん!」」

 

 二人の声が揃い、同時にニッと屈託のない笑顔を見せてくれる。

 

 こうして、海底の死闘を終えた俺には、二人の"友達"ができたのだった。

 

 

 

 

 それからしばらくはロウとマルティナも交えて俺たちは日が落ちるまで談笑して過ごした。

 

 神父さんのご厚意で隣合わせのベッドを三つ貸し出してくれたため、俺は二人と同じく教会で寝泊まりすることになり、宿に戻るロウとマルティナと別れ、三人で様々な話をして過ごす。

 

 明日の祭りについて、お互いの好きなもの、好きなこと。そして、これまでの自分たちについて。

 

 同世代の気安い友人。

 幼馴染のエマや同門の士のサンポくん、王女のシャールともまた違った関係性がそこには生まれていた。

 

 カミュとマヤは本来の俺と同じ、由来も知れない雑草の生まれだ。

 俺たちはすぐに打ち解け、途中から教会のベッドで横になりながら、年相応のくだらない話も沢山した。

 

 勇者で王族な悪魔の子、そして本当は転生者。

 他人との近しい共通点なんて実はほとんどないのが今の俺だ。

 

 そして、それはもちろんカミュやマヤたちにも未だ隠しているのは紛れもない事実だ。

 

 しかし、そんな俺の負い目があることに薄々勘づいているであろう彼らは、それを気にすることはしなかった。

 勇者で王族で悪魔の子で、寂しがり屋の10歳の少年。

 わりとしょうもないことを日々考えていたりするタダのイレブンとして接する彼らとの交流は、俺にとっては何かが救われるような心地だった。

 

 そうやってついつい長く話し込んでいるうちにいつしか目蓋も重くなってゆき、誰ともなく深い眠りについていく。

 

 夜が明け、窓から差し込む太陽の光で目が覚めて祭りへ向かう支度を整える頃。

 俺たちは互いに何の憂いもてらいもなく、素直に"友達"と呼び合えるほどに仲を深めることができたのだった。

 

*1
おそらくそういう話ではない。

*2
おそらくそういう話ではない。




 死闘のその後・マヤ編に続いて兄のカミュ編でした。
 そして二人の加入回と並行しつつ、実はけっこう寂しがり屋な本作の主人公イレブンの勇者として以外に持ち得ている本質的な心情部分について着目した回でもありました。



・余談(読み飛ばしてもらって構いません)

 三つ子の魂百までと言いますが、なんと二度に渡って子ども時代を過ごした転生者という特殊な立場で、故郷を離れて修行漬けの"離れ離れ"な生活を送っていた彼の選択は、彼自身が思っている以上に幼少の肉体に紐づく本当なら幼い状態から成長していくはずの精神に少なくない影響を与えていたりするのです。(カミュ・マヤ救出回の『人の死に対する忌避』の描写についてもその一環です。)

 だからといって彼自身は子供であると同時に大人でもあるため大それたトラウマとしては表出しませんし、ドゥルダでの滝行や自分を見つめるための瞑想などでそういった乖離についても俯瞰して理解し、ある程度の折り合いをつけて過ごしていますが、そんな彼の自制心が休眠している時間である、無意識に近い寝ぼけた状態で起床した時、二度寝を敢行する際にロウやマルティナの寝袋に誤って入ってしまったりするなどの恥ずかしい癖が残っており、イレブンはそのことを"もういい大人なのに!"と本当に恥ずかしがっていたりするようです。
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