サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラの21:聖地ラムダの衝撃/マヤの意外な才能

 

 前回から時を少し遡り、ある日の夕暮れ時のこと。

 

 ゼーランダ山の中に成立した神語りの里、聖地ラムダ。

 勇者の伝承を語り継ぎ命の大樹を護ってきた()の地にはいま、大きな転機が訪れていた。

 

「あ、ああ……あああアレは────!!!」

 

 聖地ラムダの長老ファナードは彼の人生において最大の衝撃を受けていた。

 普段の彼はたっぷりヒゲを蓄え高位を表す紫縁の僧衣を着込んだ柔和な老人といった風体で、大きな愛で里を包みながら微笑みを絶やさず暮らしていた。

 

 いまはそんな普段の彼の姿とはほど遠く、里の誰もが見たことのないほどの動揺を隠さないまま、ファナードはしきりに空を見上げていた。

 

「長老どの、今日もお散歩ですか? 先ほどまで少し雲もあったのに、いきなり吹き飛ん……で……」

 

 聖地ラムダに暮らす穏やかな夫妻が、驚きに目を見開くファナードを見つけ、気さくな挨拶を飛ばす。

 しかし、彼の様子はいつものような落ち着きが一切見られないようで、夫妻は訝しむ。

 

 試しに視線にファナードの見つめていた空を見てみることにした夫妻が上を同じく見上げ……ファナードと同様にその場へ縛り付けられてしまうのだった。

 

「あ、あなた……あれって、もしかすると……!」

 

「そんな、まさかっ!」

 

 夕暮れも近いこの時。

 彼らはまだ10を数えたばかりの双子の娘達を迎えに遊び場である静寂の森へと向かっている最中であったが、一時はそれも頭から抜け落ちるほどの衝撃が空に描かれた紋章によって走ったのだった。

 

「う────うーん……」

 

「あっ! ちょ、長老どのっ!」

 

 ファナードは空を見たまま気を失い、くらりと後ろ向きに卒倒する。

 

 空を見てはいたものの、出会った時から既に様子がおかしい長老を注視していたためにいち早く気付けた夫妻は、何とかファナードの老体を抱きとめ、彼を石造りの敷床に打ち付けてしまうのを避けることに成功する。

 

 抱きとめられたファナードは、どうやらそのまま気絶するように眠ってしまったようだった。

 

「長老どのはわたしが運ぼう。おまえはベロニカとセーニャを迎えに行ってあげなさい」

 

「ええ、あなた。……ついに、この時がやってきたのですね」

 

 ファナードをおぶって彼の住居に運ぶ準備をする夫に返事をしながら、妻は無意識に唇を引き締めて空を見上げる。

 

「勇者の象徴たる竜の紋章が空に現れたことの意味────それは、彼女たちにもよく分かっていることでしょうから」

 

 聖地ラムダの双賢の姉妹は、やがて現れる勇者を護り導くために生まれてきた。

 大いなる運命を持って生まれた我が子、幼くも利発で才気あふれる彼女たちの、あまりにも早い旅立ちを予感していた。

 

 

 

 

 ──同刻、ラムダの外れにある静寂の森にて。

 

「も~い~い? うまく隠れたかしら、セーニャ~?」

 

「も~い~ですわよ~、ベロニカお姉さま~」

 

 素朴で楽しげなかくれんぼの掛け声が、のどかな森の空き地に響く。

 木の幹に顔を寄せる姉のベロニカは、妹であるセーニャがかくれんぼに最適なスポットをマイペースに探しているのを、いつものように待っていた。

 

 せっかちなベロニカも妹を待つことにかけては慣れたもの。

 ここまで待たせていたのだからきっといい場所を見つけているでしょう、今回もえらくのんびり隠れた妹探しに意気込んで振り向いた。

 

「すぐに見つけて見せるわよ、セーニャ!」

 

 そんなベロニカの声を聞きながら、セーニャは声が漏れてしまわないように口元を抑え、いつ姉が自分を見つけてくれるのかと想いを馳せてはにかむ。

 険しい山間という地理上の理由からか、自然と道具のいらない遊びを好んでいたこの姉妹は、夕暮れ時となった本日最後のかくれんぼ対決を心から楽しもうとしていた。

 

(うふふ、今回はいい場所を見つくろったんです。いかにお姉さまと言えどいつものようには──)

 

 そう声を殺して暗中に息をひそめるセーニャだったが、

 

 ──ぐぅ、きゅるるるる。

 

 これはいまが夕暮れ時で、おやつを食べたのも数時間前になるからだろうか。

 

 本来ならばほんとうに見つけ難い場所であった、ベロニカが軽く見回してもなお死角にある草むらの陰で、不運にも大きな腹の虫が鳴く。

 ベロニカは小さな肩を竦め、やれやれと仕方なさそうに、少しだけ慈しむように嘆息した。

 

「すぐに見つけてあげるから、その後は夕食を食べに帰りましょ、セーニャ?」

 

「はぃ……」

 

 声を頼りに優しく草むらをかき分け、「今回こそは」の自信を打ち砕かれたせいでうなだれていたセーニャを、ベロニカは髪に付いた草葉を取り除きつつ励ました。

 気を持ち直したセーニャは、ベロニカの差し伸べた手を掴んでおしとやかに立ち上がった。

 

「それにしても、今日はお父さまとお母さまが遅いですね」

 

「そうかしら? ……ま、いいじゃない。今日は先に自分たちで帰って、ふたりを驚かせちゃいましょ!」

 

 ベロニカとセーニャ、双賢の姉妹は顔を見合わせて笑い合った。

 

 その時。

 姉妹を見下ろすように空へと巨大な紋章が表れていたことを────物心つく頃には受け入れていたその運命がついに自身らのもとにやって来たことを、彼女たちは後になって知ることになる。

 

 

 

 

 海底の死闘から一夜明け、聖獣祭も半ばに入った二日目の朝。

 

 ロウ、マルティナの献身的な看病や神父さんの祈りに適切な回復呪文、さらにはたっぷりと睡眠を取ったことによって海底に沈んだり潜ったりといった影響をすっかり快復させた俺とカミュとマヤの三人は、引率としてマルティナに連れ立ってもらいながら、全力で二日目の聖獣祭を楽しんでいた。

 

「遅れんなよ兄貴、イレブン!」

 

「お前は勝手に先へ行きすぎだっての……」

 

 後頭部をポリポリと掻きながら呆れたように駆けていくカミュ。

 今日の二人には資金の問題は考えずに楽しんでほしいと、俺から少し大きめの金貨袋を渡していた。

 カミュの方は遠慮がちだったが、マヤはこういう時に遠慮するタイプではないようで、袋に詰められた金貨以上に目を輝かせながら、カミュや俺を引っ張っては片っ端から屋台を攻略していった。

 

 昼時も近くなってきたものの屋台メシで常に小腹が満たされている現在。

 今回の祭りを楽しみにしていた筆頭たるマヤはというと、ムンババのお面を頭に装備し、バイキングのサーベルのような形の柄つき風船を片手に、もう一方の手に持つ俺がおすすめしたソーダ味のスライムわたあめを美味しそうに頬張りながら、次は射的で遊ぶつもりであるらしかった。

 

 ここまでしっかり遊んでくれると、軍資金を出したこちらとしても気分がいいことこの上ない。

 

 前世の俺は昔、親戚たちはなぜ俺にお年玉をくれるのか疑問に思ったことがある。

 祖父や祖母ならいざしらず、盆と正月くらいでしか出会わないはずのいとこ方の親戚までお金をくれる謎の行事。

 

 それは一体なぜなのかと首を傾げていたものだが、その疑問にいま終止符が打たれた心持ちだ。

 なるほど全てはこういうことだったのか、と。

 

「兄貴、これ持ってて!」

 

「おい、待て……って、おま、これ食べかけじゃねぇか!」

 

「あとで食べるから横取りすんなよー!」

 

「だれが食うか!」

 

 射的に挑戦するマヤに荷物をすべて持たされ、見た目はお祭りを一番楽しんでいる男に早変わりしたカミュ。

 

 妹の傍若無人ぶりに半ば呆れつつも、あらくれから弓を貰って真剣に引き絞るマヤの姿には慈しみを含んだ優しい笑みを浮かべていた。

 

 かくいう俺も、自分の救った子どもが元気に遊ぶ光景なんてなかなか見れるものじゃない。

 どうしても気分は後方で腕を組み、孫を見守る好々爺のものとなっていた。

 

「いやぁ子どもは元気だねー、マルティナさんや」

 

「なんでいきなり老けこんだ物言いをしているの、イレブン?」

 

 子どもが子どもらしく楽しんでいるのを見れるのが嬉しいからですよ、マルティナさんや。

 そうこうしているうちにマヤの残弾が切れたようで、カミュにせがんでもう一回のチャレンジをねだっていた。

 

「ふふ、イレブンだって子どもでしょう? 私は後ろで見てるから、あなたも一緒に楽しんできてね」

 

 ニヨニヨとカミュマヤ兄妹の戯れを観察していると、マルティナがぽんと俺の背中を押す。

 不意の軽い衝撃に前によろめくと、カミュがこちらに気付き、こっちへ来いよとハンドサインを送ってくれる。

 

 そういえば俺はまだ子ども、この場の真の後方腕組み勢はどうやらマルティナであったらしい。

 ならば、子どもなりに出来ることを、今、楽しんでおかねばなるまい。

 

「行ってくるよ」

 

「ええ、いってらっしゃい」

 

 俺はマルティナの優しい笑顔を心のスクリーンショットに収めつつ、ふたりの兄妹のもとへ駆け出した。

 

 

 

 

 聖獣祭も折り返しを越えて久しい時分。

 俺たちはレストラン側が祭りのために一時的に増設していたテラス席の一角で、午前中の最後に向かった射的の戦利品を数えつつの昼食を摂っていた。

 

「ひい、ふう、みい……本当にすごいな、俺の取った分はもう弾切れだよ」

 

「こっちもだぜ、イレブン。まぁ分かってたことだが、オレたち三人の射的対決の優勝は──」

 

「いしし──このおれ、マヤさまだっ!」

 

 マヤは机いっぱいに射的の景品を広げ、歯を見せてにかっと笑った。

 

 弓による射的縁日で行った射的対決。

 一回五発でワンセット、それをローテーションしつつ三回に分けて景品数で勝負する形式で、合計の弾数は十五発だ。

 

 俺の景品獲得数は合計6個。

 景品の内訳は主に菓子類で、高級菓子や甘すぎないお茶菓子もラインナップに含まれていた。シャールやロウへのお土産にと優先的に狙っていたので、危なげなく取れて少し嬉しい。

 

 菓子箱そのものがやや重いため景品数こそ伸ばせなかったが、3発に一個以上は取れている計算だ。

 ドゥルダでの厳しい修行や邪神に憑かれた邪モンスター狩りで鍛えた分のアドバンテージか、狙いも精度もまぁ悪くはない方ではないだろうか。

 

 ……だけれど、そんな自画自賛は慰めにもならないほどに、のちの大盗賊カミュの器用さの前には俺の結果は一枚も二枚も格落ちであった。

 

 そんなカミュの景品獲得数は10個。

 景品の内訳に統一感はなく、とりあえず落ちそうでそれなりに的がデカいものを手堅く狙うスタイルだ。

 

 はじめは二発ほど景品そのものに当たらず矢が素通りしていくミスもあったが、その後は何かコツを掴んだのか全て的に当てていた。

 

 そもそも扱いの難しいブーメランを両手で威力の遜色なく扱うことのできるような神業をのちに成し得る器用さの片鱗が垣間見えた瞬間だった。

 

 そして、今回のMVPとなったマヤ。

 

 その景品獲得数はなんと────21個だった。

 

 ……ん、弾は十五発だっただろうって?

 

 もちろんそうだし、景品も21個だった。何を言っているのかわからねーと思うが、俺もマヤが何をしていたのか全く分からなかった。

 

 "おれ、あの列はいっぺんにイケる気がする!"

 

 それまでも景気よく狙っては一発一個単位のハイペースで記録を重ねていたマヤはいきなりそう言うと、目を閉じてふうと息を吐き、大きく鼻から空気を吸い込んで肺を満たしてからギンと目を見開いた。

 

 その瞬間、彼女の宝石のような瞳に青い閃光が伴う。

 マヤから発せられる獲物を逃さぬ威圧感は、ゾーンに片足を突っ込んだような驚異的な集中力を発揮していた。

 

 そして、集中したその状態から引き絞って放たれた矢は、おもちゃの弓で撃ったとは思えない精度と速度でひとつ目の景品である左端にあったスライムサブレの菓子箱に命中した後、固い缶だったからなのか先を潰した射的用の矢がびょいんと弾かれて真横に軌道を曲げてしまい、その後は景品の上を跳ね回るようにして次々と一列6個に並べられていた景品たちを宣言したとおりにすべて落としてしまったのだ。

 

 "いしし、やった! すごいだろ兄貴、イレブン!"

 

 "うん、凄いぞマヤ!……うん、だけれど……凄すぎないか? 正直、俺の気持ちは感心を飛び越えてるよ"

 

 "いや、オレもたまげたぜ。確かに石切り遊びなんかはオレもマヤも得意だったが、まさかの才能の発見ってヤツだな"

 

 "へへん、そうだろそうだろー! もっと褒めてくれていいんだぜ!"

 

 屈託なく笑ってこちらを見るマヤに、俺とカミュは驚愕を禁じ得ないまま顔を見合わせていた。

 

 その後も百発百中で景品を落とし、途中でまた二個の景品を同時に落とし、最後には誰も当てられないに違いないとタカをくくって置いていたのだろうちいさなメダルすらしっかり命中させたのを見た瞬間に、屋台の前には店主のあらくれが「もってけドロボー!」とあらくれマスク越しにも分かるほどに男泣きしている光景だけが残っていた。

 

 ────と、ここまでが軽い回想シーンというヤツだったのだが……つまるところ、マヤにはなんと弓の才能があったらしい。

 

 原作内の旅の仲間たちに弓使いはいない。

 

 もちろん過去のドラゴンクエストシリーズにはちらほらと使い手はいるものの、このロトゼタシアを中心としたⅪにはいなかったはずなのだが……まさかこんなところに弓の才を持つ人物がいたとは盲点だった。

 

 確かに両利きのブーメラン使いや二刀流剣士になり得るカミュの妹であるためにその器用さについては納得する部分も多々あった。

 

 ……だが、才能の片鱗を見せた張本人はその事については至極どうでもいいらしく。

 

 当のマヤは払った金額以上の景品を大量獲得したことに気を良くしながら、ほくほく顔でその瞳を輝かせていたのだった。

 

 





 聖獣祭二日目、しっかり楽しむ子ども組、さらに双賢の姉妹の匂わせ風味の回でした。



余談:マヤの弓に関する描写について(読み飛ばしていただいて構いません)

 カミュの妹であることや、鉄鬼軍王キラゴルド時代の『くるい裂き』『ゴールドフィンガー』などのツメ特技の数々からマヤの適性は短剣・ツメ(+二刀流)だろとお思いの方、ご安心ください。
 私もそう思います。

 ですが、武器スキルは物理主体キャラ(例:カミュ・マルティナ)であれば三つまで存在する=彼女のスキルとしてイメージしやすいいツメや短剣に加えてもう一つ枠が空いていること。

 さらに前述の鉄鬼軍王時代に『ゾーン必中』が行えるという点を加味して、原作内に登場しなかった弓スキルを最後のスキル枠に入れれば面白く活かせるのではないかと思った次第です。

 なので彼女のスキルパネルは、

・短剣
・ツメ
・弓
・おたから(ドラクエ9,10などに登場の盗賊スキル)

 といった感じの、カミュに近くもありつつ、他と被りにくい構成を想定して描写していこうと思っています。

 要約すると、マヤとその変異であるキラゴルドに関する考証の結果、この小説内の彼女は短剣・ツメ・弓が得意+カミュに対比してより盗賊系に寄せた独自のスキル構成になっています、とだけお伝えさせて頂きます。

 追記:外伝作品であるドラゴンクエストトレジャーズにて、カミュ・マヤ姉妹に幼少期から短剣・スリングショット(パチンコ)を扱えている描写が増えました。カミュについてはブーメランにて言わずもがな、マヤについてもパチンコ→弓、そしておたからスキルと自然な流れでの採用が行えそうです。
 作者的にはでっけ~矛盾がなくて良かった~と思っていますが、トレジャーズ要素を積極的に取り入れることはありません。
 今後も原作であるドラゴンクエスト11本編内の情報さえあれば(もしくは無くても、ひとつまみのドラクエ知識さえあれば)楽しめる内容で描写していくつもりですので、ご理解の程よろしくお願い致します。

 それでは次回もお楽しみに~。
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