サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラの22:新たなる旅への船出

 

 聖獣祭、最終日。演劇が千秋楽を迎えるのと同じように、この日の夜には盛大なパレードが行われる。

 いちおう国賓であり、クレイモランを取り巻いた一件の立役者である俺も初日に続いてもう一度その時に壇上に立たねばならない立場なのだが……。

 

「本当に行ってしまわれるのですか?」

 

「……ああ」

 

 その記念すべき聖獣祭の早朝。

 俺たちは正門を避けた裏口でシャールに、短いながらも濃い経験となった旅の仲間に別れを告げていた。

 

 事の発端は昨日の深夜、デルカダールの使者が祭りの開催を聞きつけてやってきたというものだった。

 なんでも彼らはこの周辺に一度だけ発生した謎の光柱についての調査に駆り出されたようで、クレイモラン地方の要衝としてまずは王国に話を通しに来たらしい。

 

 謎の光柱と聞いて俺が思い当たるものは、あの海底の一戦におけるゾーンのうちどこかで紋章が光ったのだろうということ。居合わせていたロウとマルティナに確認を取ると、やはり勇者の紋章は天を貫いて大きな光を放っていたそうだった。

 

 ……我ながら考えすぎではないかとは、思うのだけれど。

 

 デルカダールの調査団たる彼らも、同国の王に憑依した魔王ウルノーガが念のために送ったに過ぎない寡兵であることは明らかだ。

 しかし彼らの調査の果てに俺の、正確には勇者の所在に気付かれた瞬間、クレイモランを巻き込んだ戦争をウルノーガ率いるデルカダール王国は仕掛けかねない。

 

 彼は過去の勇者ローシュを背後から刺した男であり、その裏切りの果てに分離した元魔法使いウラノスの悪の側面だ。

 どれだけ犠牲を払おうと、どうせ後々滅ぼす種族。あらゆる人々を巻き込みながらも、彼から見れば過去の亡霊にして禍根たる俺をそのままにしておく道理はない。

 

 これは勇者という運命と魔王という覇道に関わる交わらない平行線の話であり、その続きを無関係の国の中で、さらに無辜の国民を巻き込んでおっぱじめるわけにはいかないのだ。

 

「俺たちは、まだやるべきことがあるから」

 

 だから、今は逃げる。

 

 魔王ウルノーガは俺の生存を確信しておらず、ユグノアを滅ぼしたことで絶やしたはずの勇者の血の痕跡を、念のために追っているに過ぎないのだから。

 

 俺がこの場にいなければ決定的な証拠にはならない。短絡的ではないウルノーガの慎重さに合わせて遁走するならば、今が絶好にして最後のタイミングなのだ。

 

「……あの、ロウ様はまだ二日酔いが残っているようですが……」

 

 ────そこは突っ込まないであげてくれシャール。いまシリアスなモノローグを流してるとこだから。

 

「うう、バイキングの奴ら、老体に飲ませすぎじゃわい……」

 

「いしし、ロウのじいさんも無理してんなよな」

 

 ロウに野次を飛ばしつつ後ろから俺の背中を軽く叩く小さな手、その下手人は目をわずかに細めて笑うマヤだった。

 続いて、話を静かに聞いていたカミュとマルティナが俺の後ろからアドバイスをくれる。

 

「辛気くさく話を進めたって仕方ねぇ。勝てないから逃げる、巻き込みたくないから逃げる。いいじゃねぇか、別にそれでよ」

 

「今はまだ、私たちは弱いわ。一緒に鍛えて、魔王に挑めるくらいに強くなりましょう?」

 

「え、おれたち魔王と戦うのかよ!?」

 

「マヤ、お前はまずちゃんと話を聞くところからだな……」

 

 額に手を当ててため息を吐くカミュの様子に、くすりと笑みがこぼれる。

 

 ────確かに、少し気負いすぎていたのかもしれない。

 

 確かに俺は勇者ではある。だけど、俺に手を貸してくれる心強い旅の仲間が、これほどついてきてくれているのだ。

 臥薪嘗胆を抱えてひとり歩くわけじゃなく、和衷協同の思いを共にする仲間と共に歩んでいけることがどれほど心強いことか。

 

 俺の胸の奥はいつの間にやら、明朝のクレイモランの雪を溶かせるであろうほどに暖かい気持ちで満たされていた。

 

 ……。

 

「お、またイレブンが感動してる」

 

「ホントに見てて飽きないな、こいつ」

 

 ……。

 

「あのー、イレブンさんってこういう方でしたっけ?」

 

「ふだんは結構涙もろい普通の男の子なのよ、シャール。いまは多分……うふふ、それを言うのは野暮かしら」

 

 ……よし。

 

「おお、戻ってきたか。それでは腹は決めたかのう? イレブンや」

 

 ロウの声が掛かり、皆の顔を見て俺は頷いた。

 最初から決まっていた意見が、彼らの言葉で更に決意が固まったという方が正しいが……旅の仲間の指揮を、俺はあえて任されている。

 

 だから……俺がここで宣言することで、新たな旅は始まりを告げる。

 

「俺たちは、ユグノア地方に向かう」

 

 俺の本当の故郷にして、いまは滅んだ王国跡と地下都市ゆえに被害をまぬがれたグロッタの町を残すのみのあの地方に。

 強くなるためのヒントを探すより先に、やっておかなければならないことがある。

 

 勇者の紋章が淡く輝いた。

 

「10年前に滅びたあの王国跡に……アーウィン王の魂が取り残されているはずだ」

 

「────な、」

 

「む、ムコどのがっ!?」

 

 とくに縁深いロウを筆頭に、シャールも含めた王族たちに衝撃が走る。

 カミュとマルティナも、亡国の王の所在を知る俺にそれなりの衝撃を受けているようだった。

 

 だが事実念じれば、紋章を通じて、世界に張り巡らされた根を通して命の大樹が教えてくれるのだ。

 

 国を護りきれなかったあの日の絶望を未だ魔物に貪り食われ続ける、あまりに救いのない父の姿を。

 

 

 

 

「そいじゃあ、出港でがす!」

 

「ヤイサホー!」

 

 操舵手のあらくれさんの威勢のいい声に、元気のいいマヤのかけ声が重なる。

 彼女とカミュの移籍に関するバイキングとの交渉はすでに済んでおり、ロウが酒の席のついでに彼らが俺たちの船に乗るためのお膳立てをしてくれていたらしい。これにはロウ曰く小説にしてざっと15巻分の冒険譚が付属しているらしいのだが……二日酔いでグロッキーなロウの寝台上でのうわ言なので、本当のあらましは神のみぞ知るところだろう。

 

 とにかく、カミュとマヤは正式に、俺たちの旅についてきてくれる事となったのだった。

 

 それから暫く船を転がすこと数時間ほど。

 マルティナはカミュの練度を知るための手合わせがてら甲板に出ており、俺は甲板の一角に掛けたハンモックに揺られながら二人の試合を観戦しつつ、一振りのナイフを白い布で磨いていた。

 

"これを、持っていてくださいませんか"

 

 旅立ちの際にシャールから貰ったのは、クレイモランに伝わる『王家のナイフ』だった。

 

"これが、私の気持ちです"

 

 潤んだ瞳で渡されたこの華美な装飾の施されたナイフの意味は、なんとなくどういうものなのかは理解できている。

 正しく外からやって来た同世代の、同じ身分の少年だ。王女といえど、熱に浮かされたって誰も文句はないだろう。

 

 しかし、彼女の気持ちに応えられるような器になりえていない今、俺なんかがこれを貰ってよかったのかと自問する。

 

「浮かない顔じゃねぇか、イレブン(色男)?」

 

 マルティナとの手合わせを散々な敗北に終えたカミュだが、へこたれず起き上がったその足で俺に話しかけてくる。

 

「いやぁ、シャールは俺のどこに魅力を感じたのかと思ってね。わりとしょうもない人間だぞ、俺は」

 

「……あのなぁ……」

 

 カミュは呆れたように後頭部をポリポリと掻いた。

 

「助けてって言葉に二つ返事で応えて。そのまま自分の治める国を救ったってのに、こっちから言わなきゃ見返りも求めないようなお人好しだ。そりゃあ捕まえとかなきゃソンだろうよ」

 

 軽口を叩いて屈託なく笑うカミュに、そういうものかとナイフをもう一度きれいに拭いてから、腰のポーチに新しくこしらえたピッタリの鞘にナイフを収めた。

 

 エマから貰った手作りのお守り、シャールから貰った王家のナイフ。

 

 なんだか、自分の今後における何かが決定し始めている気がしなくもない二点の思い出の品に思いを馳せた。

 

「それに、マヤもな」

 

「なんか言ったか、兄貴ー?」

 

「なんでもねぇよ。そのまま海の方を見張ってな」

 

「兄貴に言われなくてもやってるし!」

 

 いー、と年相応に反抗期気味なマヤの様子にカミュは嘆息し、俺は二人を微笑ましく見つめた。

 本当なら『黄金の首飾り』のせいでなくなっていたはずの仲睦まじい二人の姿を見るだけでも、クレイモランに来てよかったと思えるのだ。

 

「ユグノア地方に抜けるには北海からバンデルフォンへ渡るのが最も簡単じゃが……」

 

 ロウもやっとバイキングと飲み比べた昨日の二日酔いが抜けたようで、甲板に出てくる。

 船酔いの方には慣れたものらしく、二日酔いとの最悪なコンボだけは避けられたようだった。その調子で酒が進みすぎる癖を直せば完璧なのだが、それを直せない所もまたロウらしさなのだろう。

 

「イレブン、件のムコどの……おぬしの父、アーウィン王がユグノアに囚われているというのは本当なのか?」

 

 ロウは、至極真面目な表情で、俺に再度問いかける。

 

「……うん、本当だよ」

 

 勇者の紋章は遠い海から彼の地に近付く度に、ときおり淡く光っている。次の邪神の最も大きな反応は、間違いなくユグノア地方にある。

 

 新たな仲間を加えた旅は、同じく新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 ────同刻、イレブンたちが旅立ってから数時間後のクレイモラン王国にて。

 

「……は? ユーシャ? 左手に紋章がある少年だって?」

 

「そうよ、絶対にこの辺りにいたはずだわ!」

 

 物怖じしない勝ち気な瞳をしたひとりの少女が、妹らしき色違いの服を来た少女を連れて、通りすがりの衛兵に大胆な聞き込みを敢行していた。

 

「ユーシャ、ああ、勇者ねぇ……聖獣祭の立役者のあの子なら、勇者なんて呼ばれてたって腑に落ちちまうけどな」

 

「! お姉さま、おそらく……」

 

 後ろに控えていた少女が胸の前でぽんと手を合わせる。

 

「ええ、ソイツが勇者様かもしれないわね。聞き込みを続けてみましょう……ありがとう、おじさま!」

 

「お、おじさまって……」

 

「首を洗って待ってなさいよ、勇者様!」

 

「その調子ですわ、お姉さま!」

 

 ……オレ、まだ若いと思うんだけどな~……。

 

 肩をがっくり落とした衛兵は、エイエイオーと二人で片手を上げて颯爽と去ってゆく不思議な雰囲気をまとった二人の少女を眺めた。

 赤と緑のお揃いの服に、赤の少女はその体に不釣り合いなほど大きい杖。妹らしき緑の少女はあの歳ですでに弾けるのか、白い竪琴を携えていた。

 

「勇者と言えば聞こえはいいけど……それって、悪魔の子だろ? ……あの子が、本当に?」

 

 衛兵は首を傾げつつも、最終日となって混雑を極める聖獣祭の警備業務へと戻っていくのだった。

 





 羽休めの時間は終わり、次なる目的地に漕ぎ出すイレブン一行。
 そして、あまりに早い出発のおかげでニアピンとなった謎の双賢の姉妹(バレバレ)。

 新たにカミュとマヤを仲間に加えて、物語は出港する船とともに新たなフェーズへと移ります。
 あらすじに書いた大きな改変がそろそろ入る頃かと思われますが、妖魔軍王ブギーファンとアラクラトロファンの方々はどうぞご注意くださいね。

 次回、新章開幕です。
 お楽しみに〜。
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